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勇者、懲役1000年。 千年後、俺は勇者ではなく悪魔になっていた。  作者: 直助
第五章 再生の灯火

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112/123

第112話 束の間の帰還、そして月の王国の謎

 影が揺らぐ。


 深い闇。


 その奥で。


 エクリシウスが、

 静かに目を細めていた。


「魔力の流れが……」


 低い声。


 わずかな沈黙。


「止まった」


 黒い魔力が蠢く。


 ゆっくりと。


 渦を描くように。


「動いていたのは――」


 その瞳が揺れる。


「こういうことか……」


 静かな空間。


 だが。


 周囲の闇は、

 徐々に濃さを増していく。


 黒が渦巻く。


 影が蠢く。


 まるで。


 何かへ応えるように。


「しかし……」


 エクリシウスの声が響く。


「もう遅い」


 次の瞬間。


 闇が大きく波打った。


 影が揺れる。


 渦巻く。


 そして。


 さらに深くなっていく。


 底の見えない闇のように。




 湖のほとりへ。


 朝日が差し込み始めていた。


 静かな水面。


 昨夜の輝きは消え。


 湖は再び、

 穏やかな姿へ戻っている。


 リオラが、

 大きく背伸びをした。


「さあて」


 朝日に目を細める。


「一旦帰りましょうか」


 そして。


 笑みを浮かべた。


「月の王国へ」


 レグルスとミヅキは、

 静かに頷く。


 三人は、

 ドラゴンの背へ乗った。


 大きな翼が広がる。


 次の瞬間。


 ドラゴンは空へ舞い上がった。


 湖が遠ざかる。


 集落が小さくなる。


 やがて。


 巨大な山並みを越えた。


 眼下には、

 広大な湿地が広がっている。


 水を湛えた大地。


 その先には。


 少しずつ木々が増え始めていた。


 湿地は森へ変わる。


 緑が広がる。


 その時だった。


「あそこ」


 リオラが、

 ふいに指を差した。


 進行方向とは、

 別の方角。


 かつて。


 エクリシア王国があった場所。


 巨大な黒い柱が、

 天へ伸びていた方角だった。


 二人も視線を向ける。


 漆黒の影。


 今もなお、

 空へ向かって伸びている。


 だが。


 以前見た時よりも、

 明らかに小さくなっていた。


 ミヅキが、

 静かに目を細める。


「魔力の流れが……

 止まった……?」


 その視線は、

 黒い柱から離れない。


 ――間違ってはいなかった。


 静かな確信。


 ――魔力の流れは、

 確かに弱まっている。


 だが。


 その胸に浮かぶのは、

 安堵ではなかった。


 ――やはり、

 強い魔力……。


 黒い柱を見つめる。


 ――どうすれば……。


 ドラゴンは、

 その影を横目に見ながら。


 月の王国へ向かって飛び続けていた。



 やがて。


 眼下の森が、

 さらに深くなっていく。


 緑が広がる。


 木々の隙間には。


 人々の営みが見え始めていた。


 家々。


 畑。


 そして。


 空へ立ち昇る煙。


 何本もの細い煙が、

 森の中から伸びている。


 リオラの表情が、

 ぱっと明るくなった。


「もうすぐね」


 懐かしそうな声。


 ドラゴンは、

 ゆっくりと高度を下げていく。


 木々を越え。


 遺跡の入口へ向かう。


 そして。


 大きな風を巻き起こしながら、

 静かに降り立った。


 その時だった。


 一人の男が、

 こちらへ駆け寄ってくる。


 メルクリウスだった。


 気配に気づいていたのだろう。


 到着を待っていたかのようだった。


 リオラは、

 ドラゴンの背から飛び降りる。


「ただいま!」


 明るい声。


 メルクリウスは、

 安堵したように笑みを浮かべた。


「アウローラ様」


 深く頭を下げる。


「ご無事で何よりです」


 そして。


 視線を上げる。


 まだドラゴンの背へ乗る、

 二人へ向けて。


「レグルス殿も、

 ミヅキ様も」


 穏やかな声。


「よくぞご無事で」


 レグルスは、

 静かにメルクリウスを見つめた。


 そして。


 小さく頷くのだった。



 ドラゴンへ、

 一時の別れを告げる。


 リオラが、

 その首元を軽く撫でた。


「また後でね」


 ドラゴンは、

 静かに頭を上下させる。


 まるで返事をするように。


 そして。


 四人は、

 遺跡の中心部へ向かって歩き始めた。


 見慣れた石畳。


 崩れた建物。


 静かな空気。


 ミヅキは、

 歩きながら、わずかに目を細めた。


 ――月の王国の魔光石……。


 初めて見た時は。


 十分に大きいと思っていた。


 だが。


 今は違う。


 北の遺構。


 太陽の王国。


 南の遺構。


 それらを見た今では。


 明らかな違和感があった。


 ――他の場所と比べて、

 規模が小さい……。


 ――大賢者の書斎のような場所も……。


 ――あまりにも規模が違う……。


 天空の遺跡の光。


 アウレリアの王墓。


 月光の湖。


 脳裏へ、

 これまで見てきた光景が浮かぶ。


 ――規模が違い過ぎる……。


 ミヅキの瞳が細まる。


 ――まだ、

 何か秘密がある……。


 その視線は、

 真っ直ぐ前を向いていた。


第五章「再生の灯火」までお読みいただき、ありがとうございます。


ここで一区切りとなります。


ここまで読んで、少しでも面白いと感じていただけたら、

ブックマークや評価をいただけると励みになります。


引き続き、お付き合いいただければ嬉しいです。

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