第110話 月光の導き
満月が。
静かな湖へ映り込んでいた。
揺れる月光。
そして。
湖そのものが、
淡く輝いている。
幻想的な光景だった。
ミヅキは、
水面を見つめる。
静かな瞳。
――魔力を感じる……。
湖の奥。
水面の下。
そこから確かに、
魔力が流れていた。
ミヅキが、
ゆっくりと口を開く。
「もしかすると……」
二人も湖を見る。
「ここが、
魔力を刻む場所なのかもしれません」
わずかな沈黙。
ミヅキは、
輝く湖を見つめた。
「湖全体が――」
静かな声。
「魔光石の役割を、
しているのかも……?」
その瞬間だった。
湖の輝きが、
さらに強くなる。
水面が揺れる。
月光が広がる。
幻想的な光が、
辺りを包み込んでいった。
その時。
「ねえ、ちょっと」
リオラの声。
ミヅキとレグルスが振り返る。
横たわる少年。
その身体から。
淡い光が漏れ始めていた。
三人の目が見開かれる。
次の瞬間。
少年の身体が、
光の粒子へ変わり始める。
腕。
足。
そして、身体。
少しずつ、
光へ溶けていく。
「なっ――」
リオラが息を呑む。
だが。
誰も動けない。
光の粒子は。
静かに宙へ舞い上がる。
そして。
湖へ向かって流れていった。
吸い込まれるように。
輝く水面の中へ。
三人は、
ただ立ち尽くしていた。
驚きながら。
その光景を見つめることしかできなかった。
ミヅキは、
静かに湖を見つめていた。
揺れる水面。
淡く輝く月光。
そして。
湖の奥から流れてくる魔力。
静かな確信。
「魔力を刻みましょう」
ミヅキは、
そう告げる。
そして。
ゆっくりと湖岸へ歩み寄った。
水面へ手を伸ばす。
静かに触れる。
冷たい感触。
そのまま。
魔力を流し込んだ。
次の瞬間だった。
湖全体が、
一気に輝きを増す。
水面が光る。
湖底が光る。
まるで。
巨大な魔光石が目覚めたかのようだった。
さらに。
湖の中心から。
眩い光が立ち昇る。
巨大な光の柱。
一直線に。
夜空へ向かって伸びていく。
満月を目指すように。
白い光が天へ駆け上がった。
リオラは、
思わずその光景を見上げる。
「綺麗……」
小さな声。
だが。
その瞳は、
光の柱へ釘付けになっていた。
ミヅキもまた。
静かにその光を見つめる。
――空気が変わった……。
風が吹く。
何かが広がっていくような感覚。
――魔力が刻まれた……。
やがて。
光の柱は、
少しずつ細くなっていく。
夜空へ溶けるように。
静かに収束していった。
そして。
湖は再び、
淡い輝きへ戻る。
満月だけが。
静かな水面を照らしていた。




