第108話 影の記憶
レグルスの剣と。
影の剣が激しくぶつかり合う。
魔力が吹き荒れる。
『どうして戦うんだ』
再び。
声が精神へ響いた。
レグルスの瞳が揺れる。
――どうして戦う……?
鍔迫り合い。
剣が軋む。
そして。
レグルスは、
静かに目を細めた。
――これは……。
強く剣を押し込む。
――約束なんだ。
次の瞬間。
脳裏へ、
一人の姿が浮かぶ。
大賢者。
先生の最後の声。
『お前たちは行け』
剣がぶつかる。
『魔王を倒すんだ』
さらに。
別の声が重なる。
皇子。
最期の言葉。
『……魔王を、倒せ』
レグルスは、
真っ直ぐ影を見据えた。
――それに……。
魔力が揺らぐ。
――アウレリアの意志……。
脳裏へ、
再び声が響く。
団長。
『私は……』
静かな声。
『アウレリアの剣です』
そして。
王家の墓へ刻まれていた言葉を思い出す。
『アウレリアの陽は消えない』
レグルスの目が、
強く見開かれる。
――俺は……。
剣を握る力が強まる。
――その約束のために。
次の瞬間だった。
レグルスの剣が、
強く輝き始める。
溢れ出す魔力。
光が剣身を包み込んだ。
影の輪郭が揺らぐ。
レグルスが、
大きく踏み込む。
「うおおおおおおおおっ!!」
激しい雄叫び。
次の瞬間。
光を纏った剣が。
影の剣を斬り裂いた。
そのまま。
黒い影の身体を両断する。
影が大きく揺らいだ。
黒い輪郭が崩れていく。
人の形を、
保てなくなっていた。
その瞬間だった。
レグルスの意識へ。
何かが流れ込んでくる。
レグルスの目が見開かれた。
――これは……。
景色が揺らぐ。
次の瞬間。
夜の街並みが広がっていた。
上空。
暗い空。
その下には。
かつてのアウレリア王都が見える。
灯り。
石造りの街並み。
王都を見下ろしている感覚。
『アウレリアの……』
低い声。
『王家の魔力を、
手に入れたぞ……』
レグルスの瞳が揺れる。
――これは……。
静かな確信。
――エクリシウス……?
だが。
意識は止まらない。
景色が流れていく。
次に見えたのは。
果てしなく広がる砂の大地だった。
熱風。
乾いた空気。
砂嵐のような風景。
その時だった。
『なんだこれは……』
苦しげな声。
『熱い……』
景色が揺らぐ。
『身体が……』
苦悶。
荒い呼吸。
『この赤子の魔力か……』
レグルスの目が細まる。
だが。
次の瞬間。
その声は、
再び強くなる。
『だが――』
黒い魔力が揺らぐ。
『ここで、
諦めてなるものか……』
再び。
景色が流れていく。
だが。
流れ込んでくる意識が、
不安定に揺らぎ始めていた。
『駄目だ……』
苦しげな声。
『ここは……
どこだ……?』
景色が歪む。
『もう、
限界だ……』
その瞬間だった。
渦巻く影の中から。
何かが放り出される。
小さな身体。
赤い髪。
レグルスの目が、
静かに見開かれる。
――これが……。
呼吸が止まりそうになる。
――俺……?
『ぐっ……!』
エクリシウスが、
苦しげに息を乱す。
黒い魔力が揺らいでいた。
『手に入れた、
アウレリア王家の魔力を……』
荒い呼吸。
『しかし……』
わずかな沈黙。
『仕方あるまい……』
その瞬間。
意識の流入が、
唐突に途切れた。
レグルスの視界が戻る。
広場。
揺らいでいた黒い影は。
霧のように崩れ、
静かに消えていく。
レグルスは、
その場へ立ち尽くしていた。
――あの記憶……。
静かな思考。
――俺の魔力と、
エクリシウスの魔力が……
拳を握る。
――重なったからか……。
風が吹く。
広場に、
静寂が戻っていた。
レグルスは、
ただ静かに立ち尽くしていた。




