第106話 揺らぐ影
レグルスは、
静かに歩を進めていた。
草を踏み締める音。
崩れかけた家々の間を抜けていく。
整えられた石畳。
朽ちかけてはいるが。
人々が暮らしていた痕跡は、
まだ色濃く残っていた。
やがて。
視界が開ける。
広場のような空間だった。
レグルスの足が止まる。
――ここは……。
静かな記憶。
――前に来た時。
――エクリシウスと対峙した場所。
風が吹く。
レグルスは、
ゆっくりと一歩踏み込んだ。
その瞬間だった。
空気が変わる。
見えない境界を、
越えたような感覚。
レグルスの目が細まる。
次の瞬間。
目の前へ、
黒い影が現れた。
渦巻く闇。
それが。
徐々に人の形を成していく。
レグルスの瞳が揺れる。
――エクリシウス……。
だが。
すぐに違和感へ気づく。
――いや……。
――分身か……。
姿は似ている。
だが。
何かが違った。
影が揺らめく。
レグルスは、
静かに剣を抜いた。
魔力を込める。
次の瞬間。
一気に間合いを詰めた。
鋭い踏み込み。
そのまま、
影を薙ぎ払う。
だが。
手応えがない。
影は、
一瞬だけ霧のように散った。
そして。
再び人の形を成していく。
レグルスは、
さらに魔力を高めた。
空気が震える。
そのまま。
再び斬りかかる。
今度は違った。
黒い影が。
剣を受け止める。
影の剣で。
激しい音。
鍔迫り合いになる。
レグルスの目が、
影を見据える。
――エクリシウス……。
だが。
違う。
レグルスの目が細まる。
――いや、これは……。
影の輪郭が揺らぐ。
その姿が。
少しずつ変わっていく。
レグルスの目が、
静かに見開かれた。
――俺……。
リオラは、
少年を抱えたまま走っていた。
湖へ向かって。
木々の間を駆け抜ける。
ミヅキも、
その後へ続いていた。
枝葉を抜ける。
そして。
視界が開けた。
湖。
静かな水面。
その岸辺には、
ドラゴンが待機している。
リオラは、
息を切らしながら駆け寄った。
そして。
抱いていた少年を、
ゆっくりと地面へ寝かせる。
「ミヅキ!」
焦った声。
「お願い!」
ミヅキは、
すぐに少年の側へ膝をついた。
静かに触れる。
そのまま。
魔力を流し込んだ。
淡い光。
ミヅキの表情が、
わずかに険しくなる。
――息を吹き返して……。




