第105話 倒れていた少年
ドラゴンは。
三人を乗せたまま、
南の遺構を目指して飛び続けていた。
風が吹く。
眼下の景色が、
次々と流れていく。
砂に覆われた大地。
乾いた荒野。
そこから。
少しずつ景色が変わっていく。
草原。
そして。
水を多く含んだ沼地。
ところどころには。
崩れた石壁や柱が残されていた。
その多くは、
半ば水へ沈んでいる。
まるで。
かつて存在していた何かが、
大地ごと沈んでしまったかのようだった。
リオラが、
前方を見る。
岩肌が連なる巨大な山並み。
険しい岩壁。
その中腹には。
大きく裂けるような亀裂が見えていた。
かつて通った洞窟へ続く場所だった。
リオラが、
少し懐かしそうに口を開く。
「前に来た時は――」
前方を指差す。
「洞窟の中を進んだけど」
ドラゴンの背で、
小さく笑った。
「今度は、
空からいけそうね」
ドラゴンは、
そのまま飛び続ける。
やがて。
巨大な山並みを越えた。
その先。
一気に視界が開ける。
広大な湖。
静かな水面が、
朝の光を反射していた。
リオラが、
指を差す。
「あの湖!」
目を輝かせる。
「洞窟を抜けた先の!」
そして。
湖岸を見る。
「あそこに降りましょう」
ドラゴンは、
ゆっくりと高度を下げ始めた。
静かな湖へ向かって。
ドラゴンが、
ゆっくりと湖岸へ降り立つ。
大きな風が巻き起こる。
レグルスは、
着地と同時に飛び降りる。
湖岸へ足を着けた。
リオラも、
その後へ続く。
一方。
ミヅキは、
恐る恐るドラゴンの背から降りてくる。
湖面が揺れていた。
その時。
ミヅキの目が、
前方で止まる。
「ここは……」
木々の奥。
そこには。
木造の家々が並んでいた。
一軒。
また一軒。
湖岸沿いへ点在している。
生活の痕跡が残っていた。
リオラが、
ミヅキの反応を見る。
そして。
静かに口を開いた。
「ここには……」
少し視線を落とす。
「最近まで、
人が住んでいたの……」
わずかな沈黙。
「でも、
エクリシウスが……」
その言葉だけで。
ミヅキは理解した。
「なんてことを……」
静かな声。
その時だった。
レグルスが、
前方へ歩き出す。
湖岸から、
集落の方へ。
「少し――」
静かな声。
「妙な気配を感じる」
ミヅキは、
すぐに意識を集中させた。
周囲へ広がる魔力。
水。
大地。
そして。
どこか異質な感覚。
「たしかに……」
ミヅキが、
静かに目を細める。
「不思議な魔力……」
わずかな沈黙。
「ただ……」
その表情が曇る。
「エクリシウスの魔力も感じる……」
レグルスは、
前を見据えたまま歩く。
「慎重に進もう」
リオラとミヅキは頷く。
そして。
二人も、
レグルスの後へ続いた。
木造の家々が、
点々と並んでいる。
静かな集落だった。
だが。
人の気配はない。
三人は、
その間の道を進んでいく。
足音だけが響く。
レグルスの目が、
わずかに細まった。
――近い……。
静かな感覚。
――何かの魔力……。
その時だった。
リオラが、
前方を見て声を上げる。
「あそこ!」
指を差す。
「誰か倒れてる!」
三人は、
慌てて駆け寄った。
倒れていたのは。
一人の少年だった。
まだ幼い。
十歳にも満たないだろう。
レグルスは、
すぐに少年の身体を起こす。
顔色を見る。
呼吸を確かめる。
「息がない……」
低い声。
リオラの顔が青ざめた。
「どうにかならないの……!?」
ミヅキが、
すぐに少年へ触れる。
静かに状態を探った。
「この様子だと……」
目を細める。
「そんなに、
時間は経っていないように思います」
そのまま。
魔力を流し込む。
淡い光。
リオラが、
不安そうに少年を見る。
「あの時の……」
小さく息を呑む。
「エクリシウスが、
ここを襲った時の……
生き残りってこと?」
レグルスは、
少年を見つめていた。
その表情が、
わずかに険しくなる。
「しかし……」
静かな声。
「この少年から、
特別な魔力を感じる」
わずかな沈黙。
「エクリシウスが、
この魔力に気づかないはずがない」
レグルスの瞳が細まる。
――わずかに、
エクリシウスの魔力……。
少年を見る。
――一度、
呑まれたのか……?
その瞬間だった。
レグルスが、
背後へ視線を向ける。
強い魔力。
こちらへ近づいてくる。
レグルスが、
静かに口を開いた。
「リオラとミヅキは――」
少年を見る。
「この少年と、
一旦湖まで戻れ」
そして。
気配の先を見据える。
「俺は、
この気配の先へ行く」
リオラが、
すぐに頷いた。
「わかったわ」
ミヅキも、
静かに頷く。
リオラは、
少年を抱きかかえた。
そのまま、
元来た道へ走り出す。
ミヅキも続く。
レグルスだけが残った。
静かな集落。
レグルスは、
気配の先へ歩き出した。




