第104話 西導星は、今も輝く
少しずつ。
日が沈み始めていた。
遺跡の入口。
空は、
橙色へ染まり始めている。
リオラは、
入口付近へ腰掛けながら空を見ていた。
その時。
遠くに人影が見える。
ミヅキだった。
リオラが、
ぱっと手を振る。
「おーい!」
ミヅキは、
ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
静かな足取り。
やがて。
三人の元へ戻ってきた。
リオラが、
少し頬を膨らませる。
「暗くなる前に戻ってくるって、
言ってたのに」
じっとミヅキを見る。
「何してたのよ」
ミヅキは、
わずかに笑みを浮かべた。
「すみません」
その穏やかな反応に。
リオラは、
少し呆れたように肩を落とす。
「まあ――」
小さく息を吐く。
「いつものことだけど」
やがて。
辺りは、
少しずつ暗くなっていった。
空は群青へ変わる。
遺跡の上。
静かな夜風が吹いていた。
そして。
一つ。
また一つと。
星々が輝き始める。
三人は、
焚き火を囲んでいた。
静かな炎。
ぱちぱちと薪が鳴る。
レグルスが、
ふと空を見上げた。
西の空。
その中で。
一際強く輝く星。
西導星。
ミヅキは、
その視線に気づく。
そして。
静かに口を開いた。
「西導星は……」
ゆっくりと空を見る。
「太陽の王国の人々が」
「聖地へ巡礼する際の、
目印にしていた……」
焚き火の光が揺れる。
「そう、
記述されていました」
わずかな沈黙。
「夜明け前に……」
「……あの強く輝く星を目指して」
ミヅキは、
ゆっくりと視線を落とす。
焚き火を見つめた。
揺れる炎。
「でも……違った」
静かな声。
「剣士たちが」
「魔王の城を目指して……」
炎が揺れる。
「そして……」
わずかに目を伏せる。
「散っていった」
沈黙が落ちる。
夜風だけが吹いていた。
やがて。
ミヅキが、
再び口を開く。
「ここで……」
静かな声。
「思いを受け取りました」
焚き火の光が、
その横顔を照らす。
「絶対に、
無駄にはしたくない……」
リオラが、
静かに頷いた。
「そうね」
まっすぐ前を見る。
「必ず私たちが――」
焚き火の向こう。
暗い空を見上げる。
「終わらせる」
レグルスは、
静かにミヅキを見つめていた。
夜は、
さらに深くなっていた。
焚き火の炎も、
小さくなっている。
静かな遺跡。
風だけが、
ゆっくりと吹き抜けていた。
リオラは。
ドラゴンの尾へ背を預けたまま、
眠っている。
穏やかな寝息。
ドラゴンもまた、
静かに目を閉じていた。
一方。
ミヅキは横になっていたが。
眠ることができなかった。
静かに目を開く。
夜空を見る。
そして。
ふと気づいた。
――レグルス……?
周囲を見る。
姿がない。
ミヅキは、
ゆっくりと立ち上がった。
静かな夜。
魔力の気配を辿る。
そのまま歩き出した。
やがて。
かつて街道だった場所へ差しかかる。
そこで。
ミヅキの足が止まった。
レグルスが立っていた。
静かに。
夜空を見上げている。
ミヅキの気配に気づいたのか。
レグルスが口を開く。
「眠れないか……」
こちらを見ないまま。
静かな声だった。
ミヅキは、
一瞬だけ目を見開く。
だが。
そのままレグルスの隣へ歩み寄った。
「そう……ですね」
静かな返事。
沈黙が落ちる。
二人は、
同じ空を見上げていた。
西導星。
西の空で、
一際強く輝く星。
やがて。
ミヅキが、
静かに口を開く。
「西導星は――」
空を見る。
「連星なんです」
風が吹く。
「いくつかの星が連なり……」
「一つの強い光を放っている」
わずかな沈黙。
「あなたのように……」
レグルスの視線は、
空へ向けられたままだった。
「太陽と月の魔力」
「そして……」
静かな声。
「エクリシウスの魔力」
「それらが連なり――」
「今の強さがある……」
レグルスは、
静かに西導星を見つめていた。
その眼差しが、
少しだけ強くなる。
「千年前……」
低い声。
「エクリシウスを倒すため」
「……あの星の方角を目指した」
西導星が輝く。
「今も、
変わらず輝き続けている」
「不思議だな」
風が吹いた。
静寂に包まれた遺跡。
星々が瞬いている。
夜は、
静かに流れていった。
やがて。
東の空が、
少しずつ白み始めていた。
まだ薄暗い。
だが。
夜は確かに終わろうとしている。
遺跡の入口。
リオラが、
荷物を持ち上げた。
「さあ、出発よ」
明るい声。
「南の遺構に向けて」
その言葉を合図に。
三人は、
ドラゴンの背へ乗り込む。
ドラゴンが、
ゆっくりと翼を広げた。
次の瞬間。
巨大な身体が、
空へ舞い上がる。
風が吹く。
遺跡が遠ざかっていく。
レグルスは、
ふと西の空を見る。
西導星。
夜明けと共に、
その輝きは少しずつ淡くなっていた。
ドラゴンは、
その光を横目に空を進んでいく。
その時だった。
ふと。
地上から、
微かな気配を感じる。
三人が、
同時に下を見る。
アウレリアの遺跡。
その中で。
無数の光が、
静かに瞬いていた。
リオラが、
思わず声を上げる。
「あれ見て!」
淡い輝き。
一つ。
また一つ。
まるで。
星々のような光が、
遺跡の中で揺れている。
アウレリアへ残された、
人々の魔力。
長い年月を経てもなお、
消えずに残り続けていた。
それは。
まるで三人を送り出すように。
静かに輝いていた。
三人は、
その光を見つめる。
誰も言葉を発しない。
だが。
その眼差しだけが、
静かに変わっていた。
覚悟は、
より強くなっていた。




