第10 話:仮面の襲撃者と三重結界
塔の夜が静寂を失った。
フォースター侯爵邸の応接間──その天井を破って出現したのは、
灰色の外套と仮面に身を包んだ、複数の人影だった。
「ターゲット確認。継ぎし者と封印された記憶保持者」
歪んだ魔力の風が、アステリアとカイの前に立ちはだかる。
「名前は?」
タカシが短剣を逆手に握りながら低く問う。
「コード名『影葬』。我らは記憶の外より現れ、記録の外に消える者」
「暗号詩か。メンドクサイ亡霊め」
カイが冷ややかに言い返すと、仮面の者たちが一斉に動き出した。
第一撃。
仮面の一人が放つのは、黒い針のような魔力弾。
「吸魔針か……! 接触すると魔力量が削がれる!」
カイが左手を前に突き出す
。
「障壁術式・第二層・偏向結界!」
青い楯のような障壁が、針をはじき返す。
(詠唱なしで二重結界を瞬時展開……やはり只者じゃないな)
タカシはそう思いながらも、一体の仮面に飛びかかる。
「アステリア様に触れるな!」
高速の間合い詰め、鋭い突き──それは暗器流の剣術。
仮面の一人が刀で受けるが、タカシの剣はその切っ先で刀を弾いた。
「くっ……」
「見切った」
タカシの動きはしなやかで鋭く、剣を縫うように流れる。
やがて敵の胸元に浅く突きが入り、仮面の者が膝をつく。
その間、アステリアは静かに術式を構築していた。
「三体同時召喚……あなた達には、これで十分かしら」
青白い魔方陣が彼女の足元に浮かぶ。
「擬精霊召喚:フロストワルツ」
風と氷をまとった小さな妖精のような存在が三体、空中に浮かぶ。
「対象座標:敵集団、偏在指定、極小氷結術、三連装──」
「了解、氷舞開始!」
精霊たちの可愛らしい声とともに、冷気が奔る。
仮面の者たちの足元に、薄く張り巡らされた氷。
足場を奪われ、立て続けに崩れる体勢。
「撤退開始。継ぎし者の対応は予定外と判断。記憶干渉は中止──」
仮面たちの中の一人が、空中に魔方陣を描く。
──座標跳躍術式
「逃がさない」
カイがすかさずその術式に詠唱を重ねた。
「干渉魔法、因果律崩し・逆位干渉」
敵の転移術式が、その構造ごと崩れる。
一人、仮面が慌てて叫ぶ。
「術式が……外部干渉により崩壊!」
「もう遅いわよ」
アステリアが指を鳴らす。
「氷結、拘束、展開──縛氷結界」
ガシャリ、と音を立てて敵の足元に氷鎖が絡みつく。
氷の枷が爆ぜ、三体の仮面がその場に凍結した。
「残り、二体……!」
タカシがもう一人に斬りかかるが──
「影回帰!」
一体が影へと崩れ、タカシの剣をすり抜けた。
そのまま空間の歪みを越え、残る者たちは消え去った。
……残されたのは、凍り付いた仮面の者が三体。
アステリアが前に出て、その顔を覗き込む。
「仮面、割るわよ。タカシ、頼める?」
「了解」
タカシがナイフの柄で仮面の一つを叩く。
パリン、と音を立てて、仮面が割れる。
──そこには、あったのは少年の顔。
金髪碧眼、王都の平民学生の制服を着ている。
「……学園の生徒? どういうこと?」
アステリアが顔を曇らせる。
(まさか、内部から操られている……?)
するとカイが一歩前に出る。
「記憶干渉魔法の痕跡がある。おそらく彼ら自身の意志ではない。記憶を書き換えられているんだ」
「……誰がこんなことを?」
「裏の魔導機関の仕業だろう。王国には表の魔導塔とは別に、記憶と精神を操る実験機関が存在するらしい」
「……まさか、第七魔導塔?」
アステリアのつぶやきに、カイはゆっくりと頷いた。
「塔の外部には存在を隠蔽された、非公開の第七……俺の前世の知識にも、それに近い組織があった。記憶の改変を研究する、極めて危険な場所だ」
三人の間に沈黙が落ちる。
やがてアステリアが呟く。
「本当に戦うべき相手は、王族でも貴族でもない……世界そのもの、なのかもしれないわね」
「俺は戦うよ」
カイがはっきりと告げる。
「そして──君が傍にいるなら、戦い続けられる」
アステリアは、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「その言葉、今は保留にしておくわ。評価は……実績で」
タカシが小さくため息をつく。
「まったく……次から次へと。やってられないぜ」
三人の間に、一瞬だけ柔らかい空気が流れた。
──だがそれも、束の間。
夜はまだ、終わらない。
Q:なんか流行りの漫画みたいな……。
A:すみません、想像力が枯渇してます(涙
お読みくださいまして、ありがとうございます!!




