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短歌集:蛇行気分 Ⅱ
□蛇行気分 承前
南蠻よりきたる波濤のとどかざる
砂の城には母の爪あと
庭園にむかし埋めにし稚さを
ほりおこしつつ老婆は泣けり
雙生兒おなじ胎からうまれこず
さだめの河を流れゆくかな
* * *
どくだみの花ひろがれる廢園の
夜に宿命をささやきし母
緑陰の道のびてあり
なつかしきひとの聲するむかう側まで
白雲の疾くきては去る高原に
家族そろひし夏かつてあり
* * *
奥山の社たづねて往く道の
樹樹凛として我を清ましむ
山際に細き月あり
新盆に家族つどひて
墓地へゆくとき
きのふ見し夢おもひつつ渡りゆく
橋のしたにてゆらぐ星影
* * *
木叢には夜の蝉なく
まなざしをおもひだしつつ
葉書よむとき
夕立が打ちとほりたる大湖の
奥にひそみて明日をおもふ鯉
ささかはのころころくだる谷の夜に
父母の名をよび経石をおく
* * *
千歳の夜 星を映してきし海は
いま鎌倉の濱によせたり
たまさりし母の躯をはこびゆく
緑もえくるふるさとの野を
夕暮れの星のさみしさ知るまでは
笑み駆けてあれ少女らの群
--蛇行気分 了




