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1.お堂山の人々と協会の廃墟

第1話です。

1〜4話まで変更します

読んで頂いた方には申し訳ありませんが大きく変更しました。

あらすじは変わってないので読み飛ばすのも可能です。

 これは地球によく似た世界のよく似た時代の物語





 大手機械メーカーの仕事を辞めて、この町で設計事務所を始めて3年が過ぎた。

 この半年は仕事が忙しくなり、1人では間に合わなくなっている。

 顧客に迷惑はかけていないが、しくじるのは時間の問題だ。

 設計事務所を開いて3年、金も残るようになり、少ないが貯金が増えている。

 だが、人を雇う余裕は無い。

 市役所か商工会議所あたりに相談してみようか。



 神無月蒼(かんなづきそう)34歳、独身、彼女無し、辛うじて負債無し。





 学生時代にバイトして買った10年落ちのバイク。

 物干し場のたたきの上に、放置したまま青い塗装が埃が積もって曇っている。

 金欠旅行のために荷物が満載できそうな物を買った。特に好きで買った訳ではないが、いつの間にか17年、いろいろな所へ行った。


 行った……。

 行ったんだ。

 というか春から休んで無い!

 自営業とは言え、無理にでも休む必要を感じる。

 医者に脅されたと言い訳をして仕事を減らそう。

 稼ぎが減るから無理か。

 難しい事は後回し、ジャパンメソッド。


 今は心の平安!




「ブレンドと、今日は何?」

「あら蒼、いらっしゃい。今日はスイートポテトよ。家の畑で昨日収穫したの。シルクスイート」


 ニヤリと笑って答えるママ。

 スイートポテトなら紅茶にしたいが、今はブレンドの口だ。

 しかし、コーヒーだったら栗を使ったお菓子が食べたい。


「そうだ、アッサムが入ったよ」


 この時期収穫のアッサムティーが旨いことをママに教えられた。

 俺の上皿天秤は、紅茶セットに傾いてしまった。


「んー、じゃあ、それを」


 勝ち誇った笑顔でママはグーサイン。


 ママは喫茶リンデンのオーナー。

 堂元雪江(どうもとゆきえ)、少し恰幅の良い体に焦げ茶のコックコート姿で短く刈った赤い髪がかっこいいおばさんだ。

 父親がやっていた甘味所を15年くらい前に喫茶店に建て替えたそうだ。


 俺がこっちに転勤した頃から通っている店だった。


 俺が借りている事務所兼住居の大家さんとは幼なじみで、家を探していた俺を大家さんに紹介してくれたのが雪江さんだ。


 俺は朝刊を取って窓際のテーブルに着き、開くとチラシと一緒に市の広報が出てきた。


 見出しに、教会の前で撮影された白黒の古い集合写真があった。


 みんな嬉しそうだ。


 お堂山の教会を保存する工事が始まるようだ。

 地名の由来になっている教会だと説明が載っている。


 お堂って寺だと思っていた。


 足場が組まれると数ヵ月間は見られない。

 いつも仕事場から見上げるあの廃墟。3年住んでいて行った事が無かった。


 秋は廃墟の両脇にある大銀杏が、黄色く輝いて青空に映える。


「あら、お堂で工事するの?」


 紅茶セットを運んできたママが、広報を覗き込んで言った。


「調査の時から足場を組むって、どんな所?」


 聞いてみた。

 スイートポテトを舌の上に乗せ、紅茶を口に含む。


「行ったこと無いの?堂原(どうはら)と大沼原(おおぬまばら)が見渡せて気持ちいいわよ」


 そう言うと、ママが自分用の湯呑みを持って向かいの席に座った。


 ママが湯呑み茶碗でコーヒーを飲む光景も、この店の風物になっている。


「大沼原って下の畑?」

「そうよ、大昔は沼地だったのよ。地元の人なら小学校で習うの」


 そう教えてくれたママは、ふーっとため息をついて、テーブルに突っ伏した。そのまま湯呑みのコーヒーをすすり、俺を見上げる。


 なんか近いんですけど。


「そうそう、8月にやった花火大会ねえ、教会広場が特等席なのよ。今は役所寄りに打ち上げ場所が変わって少し見にくくなったけど。知ってる人は行くのよ」


 花火大会かあ。毎年忘れていて、破裂音で花火大会を思い出す。


 ママはそう言った後、悪戯っぽく見上げて俺の表情を窺っている。


「ん?何?」


 ママの視線に思わず挙動不審になってしまう。


「え?何でもないわよ。もうちょっとなんだけどなあ」


 ママはニヤニヤした後、真顔で呟いた。何がもうちょっと何だ?


 背筋を伸ばして「痛てててててっ」と背骨をポキポキ鳴らせて、ママはカウンターに戻って行った。


 仕事を減らしたことだし、久しぶりに散歩に出よう。





 お堂山前駅の西口から住民がお堂と呼ぶ教会跡までは、石畳の一本道が2キロほど続く。


 駅前広場から車が入れない石畳の道を上って、車道との交差点に喫茶リンデンがある。


 薄水色の鎧張りの壁に、白い木の窓枠と破風が綺麗な平屋建てだ。

 庭には季節の花が咲いて、交差点から芝生の中を5メートルほどの小道を進むと、ドアベルの付いた濃い緑色の格子にガラスが嵌まった扉がある。


 車道沿いに5分程度歩くと俺の事務所兼住居だ。


 朝10時頃、リンデンで遅いモーニングセットを食べた。

 保温ボトルにアメリカンを入れて貰い、スコーンを二つテイクアウトする。


「今朝は冷えるから暖かくしてね」

「ありがとう」


 カランとドアベルを鳴らして店を出る。

 故郷の北陸に比べてまだ暖かいが、歳をとったのか、寒く感じる。


 雛菊が飾られたリンデンの窓から、ママが手を振っている。


 俺も手を小さく振り返す。

 照れくさい。


 教会跡への道を歩き出す。

 この街は石造りの洋館が多い。県内に石材の産地があり、鉄道開通によって価格も運搬も手頃になったそうだ。明治初期の建造物が多いのか、駅付近にも石造りの倉庫が残っていて、意匠が似ている。


 歩道に面した家々の庭は、丁寧に手入れされ、秋の花々が咲いていた。


 庭先の花に目を止めていると、住人の老夫婦に話しかけられた。

「花は好きかい?」

「ええ、綺麗に手入れしてますね。夏の草むしりは大変だったでしょ?」

「暇だからねえ。今年は桔梗が上手く咲いたよ」

「奇麗ですね。あの音、聞きましたか?」

「我慢できずに、ついやってしまうよ。若いのによく知ってるねえ」


 悪戯な顔で爺さんが人差し指と親指で摘む仕草をする。

 あの音とは、桔梗の蕾がはじける音だ。パンパンに膨らんだ蕾を指で摘むと弾けてポンと音がする。ちょっとした快感なのだが、これをやると花が傷んでしまう。


「またやったの?花が可愛そうでしょ」


 家の中からやって来た婆さんに窘められてしまった。


「はは、子供の頃は母に叱られました」

「あんたも悪戯坊主だったのかい」


 隣の家から婆さんがひょっこり顔を出している。


「俺もガキの頃は拳骨もらったなあ。この花を見るとお袋を思い出すよ」


 いつの間にか後ろにいた向かいの爺さん。


「お宅の柿はどうだい?」

「家の早生はいい感じだね。昨日もいだのがあるよ。食べるなら持って来るぞ」


 そそくさと家に戻った爺さんが、3つの手提げポリ袋に入れて持ってきてくれた。


 この後、次々とキノコやら栗やらの話に移っていき、その度に誰かが家から何かしら入ったポリ袋を持って来た。


「こんなに貰っていいんですか?」

「「「「どうせ食べきれないんだから」」」」


 全員に言われてしまった。

 気の良い老人達に礼を告げて別れる。


 石畳をドン突きまで登り、石垣にたどり着く。ここまで2キロくらいなのだが、1時間かかった。





 石垣には石段が付けられ、永年多くの人が通ったのだろう、石段の殆どの角が丸く磨り減り、半分の高さまで凹んでいる段もあった。


 登り切ると一瞬で晴々した雰囲気に変わる。本当に堂原の街と大沼原の先まで見渡せた。


「おお!」


 そこは学校の校庭くらいの広場になっていて、誰も居ない。


 広場の縁には白い鉄柵が巡り、等間隔に外灯と桜が植えられ、その下に木製のベンチが置いてある。


 中央の外灯はパンザマストになっていて、学校で見るような大きなアナログ時計が付いていた。


 時計の針は11時半を過ぎている。


 広場の山側には石造りの廃墟がある。アーチ状の正面入口には扉も無く屋内が見通せる。


 屋根は無く、高い石壁だけが残っていた。


 奥は居住区なのだろう2階建てで、やはり窓などの建具は無く、石造りの壁だけが残っている。


 正面の壁の左右に巨大な銀杏が立っていて、鮮やかな黄色の円錐が美しい。


 これだけの巨木なのに建物を侵食してないのは、教会が建てられる前からここに存在したのだろう。元は神社でもあったのか?


 廃墟と銀杏は鉄柵で囲われて入れない。


 周囲は庭園になっていて、花壇や植え込みが綺麗に手入れされ、目を楽しませてくれる。


 鉄柵に沿って教会の裏手に回ると、奥に続く小路があった。


 小路の入口に立って先を見ると、また石段があり、上には石材建築物の屋根が見えた。





 2つ目の石段を登ると、小さなパルテノン神殿があった。広さは四畳半くらいで中に黒い石の直方体がすっぽりと収まっている。


 外国の墓にこんなのがあったような。

 まわりを調べるが、特に異常は無いというか違和感しかない。

 使われている石材は大理石か海泡石のように白い。中に置かれている石の塊は透明感があり黒曜石に見える。不気味な渦巻模様が全体に彫られていた。


 何となく彫刻が鈍く光ったように見えた。


 手前に観音開きの扉があり、鉄の閂に錠が掛けられている。金属部分は真っ赤に錆び付いていて動きそうもない。


「うっ!」


 ガシャン

 勝手に手が動き、錠を持ち上げた途端に閂を支えていた金具が落ちてしまった。


 これで扉が開けられる。

 開けない選択は無いと思う。

 震える手が勝手に扉にかかる。


 ホコリのような黴のような不快な匂いが漂う。


 中は枯れた花が敷き詰められ、丁重に葬られた様に感じる。

 中央に深緑のローブが広げられていた。ローブはフェルト製に見え、汚れや色落ち、劣化が見られない。新品のようだ。

 遺体は無いしそれ以外の何も無いが、墓であることは理解できた。


「やってしまった…」


 我に帰った俺はため息をついて…今さらながら遅い後悔をした。

 せめてもの償いに、手を合わせてから扉を閉じる。


 帰路、なぜあんな物が日本に存在するのか考える。

 教会より古く見えたが、宗教が違うような気がする。

 妻の部分に英雄か神の彫刻があったから古代ギリシアだと思うが。

 柱はエンタシスでは無く、植物のような彫刻があった。

 石棺にあった渦巻き模様はケルト文化の様な気がする。

 悪戯もされずに綺麗に残っているのは、ちょっと考えられない。


 誰も来ないのか?


「あ、スコーン食べるの忘れた」

読んでいただいてありがとうございます。

説明が長いので削除して書き換えています。

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