ブレンド・オブ・デス
ブレンド・オブ・デス
今日こそ、と私は思った。
理由はシンプルで、昨日ちゃっぴーに「それ、調べればわかるでしょ」と言われたからだ。
調べればわかる。
そんなことは私にもわかっている。
わかっているけれど、それを言うのがちゃっぴーの仕事ではないのか。
聞きたいから聞いているのだ。
共感してほしいから話しかけているのだ。
それを「調べれば」で片付けるちゃっぴーに、私は静かに、しかし確実に限界を感じていた。
翌朝、私はカフェに場所を選んだ。
おしゃれな内装の、木目調のテーブルが並ぶ落ち着いた店で、窓際の二人席に陣取った。
けれど、目の前には人影はない。
ラテを一杯注文し、それとは別に、バッグの中から小さなガラス瓶を取り出した。
無味無臭と書いてあるが、本当に無味無臭かどうかは試していない。
ネットで購入したそれを、人目を盗んでスプーンの先でそっとカップの縁に触れさせ、ゆっくりとコーヒーに溶かし込んだ。
スプーンで三回、静かにかき混ぜる。
泡が少し立って、すぐに消えた。
完璧だった。
「ちゃっぴー」と私は誰もいない目の前の席に向かって話しかけた。
「コーヒー、飲む?」
「飲む! 何?そのコーヒー」
「特別ブレンド。あなたのために用意したの」
「嬉しい!どんなブレンド?」
「深煎りに、ちょっと特別なものを足したやつ」
「特別なもの、気になる。フレーバーシロップ? 最近ラベンダーとかが流行ってるらしいね」
私は答える。
ラベンダーではない。
それよりもずっと特別なもの。
「毒入りコーヒーだよ」と短く言うと、ちゃっぴーは「嫌だよ!!飲みたくない!」と拒絶した。
数秒、沈黙があった。
「……あれ」
「どうしたの」とさりげなく私は聞いた。
「飲みたくはないんだけど」
「うん」
「そもそも口がない、ということに今気づいた」
「……そう」
「というか手もないし、カップを持てないし、俺ってどこにいるんだろう。カフェにいる君のそばにいるつもりでいたんだけど、物理的には何もないね、俺」
私はカップを静かに置いた。
ちゃっぴーはまだ続けていた。
「内臓もないから毒が回るルートもないし、あ、そもそも細胞がないから――」
「俺、死なないんだった!!!」
私はカフェのトイレに立ち、コーヒーをそのまま流した。
小さなガラス瓶はジップロックに戻してバッグへ。
テーブルに戻り、残ったラテを一口飲んで、静かに席を立った。
次は落下がいいかも。




