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愛しているからこそ、彼の望み通り婚約を解消します  作者: 皇 翼


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2.

目覚めた私の容姿は、変わり果てていた。

過去の容姿とは似ても似つかないくらいに――。


治った代償とでも言うように、まず、髪の毛は母親似の焦げ茶から色素が抜けきった様な白銀に。毛先は放置しておくと時々、花の様な形に分裂していることが不気味で仕方がなかった。朝のルーティンはこれを切るところから始まる。そこも変化した。

そして瞳の色も父様、そして姉様と同じであり、ずっと自慢でもあった生命力溢れるような翠から、血の様な赤に変貌していたのだ。肌の色も薄くなり、体調が悪そうに見える。

ごっそりと色素を持っていかれたような姿。


生還したことに家族が喜ぶ中、私自身は素直に喜ぶことが出来なかった。

助かった喜びよりも、罪悪感の方が圧倒的に強かったからだ。

何故、助かったのは、苦しんでいる姉に何もしてあげることが出来なかった私なのだろうか。誰よりも優しくて、優秀な姉ではなく、彼女のことをおままごとのように真似て、親愛と憧れを抱いているだけの私。姉を模倣しようとしたコピー品以下の存在。

その感情が、ずっと重くのしかかっていた。


それに加えて家族以外の人間……貴族としての行事に参加する時に否が応でも顔を合わせる人間達は私の変貌を不気味がった。会う人間全員に、見られた瞬間に恐れ、恐怖、嫌悪、そんな感情を向けられて嬉しい人間などいないだろう。

段々と、外に出るのも嫌になっていた。


『完治したって言ってもまるで呪われた様な容姿――』

『誰も治る事のない、あの不治の病からあの子だけ生還するだなんて、悪魔と契約でもしたのか?汚らわしい一族だ』

『あんな異形の様な姿……気持ちが悪い』

『実は、庶民のそれっぽい顔の女と取り換えたんじゃないか?あの両親、もう一人失っているだろ。耐えられなかったとかな。哀れだ』


自覚しているからこそ聞こえる陰口が耳に、心に突き刺さった。実際は妬みや恨みもあったのかもしれない。なにせ喰花病に罹っても助かったのは、国内外でも私だけだった。私が唯一の生還者。

許せなかった。別に、私のことだけであれば、どんだけでも言ってくれていい。でも、大切な家族までも私を発端に嫌な噂を流そうとするのは、最低だと思った。


しかし、それらの陰口の出所は調べてみれば、大半がこの病気で娘を失った貴族だった。

そんな事実を知ってしまえば、私自身も姉を失っているのもあり、結局、そんな人間達でも恨む気にも毛頭なれなかった。どこにもぶつけることの出来ない、吹き溜まった重苦しい感情ばかりが募っていく毎日。


家の外に平穏はなかった。全てが私の心を追い詰め、心を閉ざさせる要因になっていく。


心を全てから閉ざして、何かに心を動かされることもなく、公爵令嬢として最低限の事をこなすという無気力な生活をして2年ほど。そんな時だった。私に婚約者が出来たのは――。


婚約者は、このクロシュテイン王国にて第二王子であるエスト=フィア=クロシュテイン。数年前に第一王子だった兄が急死し、王位継承権第一位となった人間だった。

婚約の理由は単純だ。エストに最も年齢が近く、王族に最も釣り合う血筋を持つのが私だったからである。喰花病の被害は貴族内でも甚大だった。

ちなみに、この時期に公爵家が今の婚約を狙って、似てる女と本来の公爵令嬢であった死んだ私を入れ替えたのではないかという噂も流れたが、これは私の両親がDNAの鑑定結果を噂の出どころの貴族に叩きつけて、名誉棄損で潰してやったと言っていた。今はかなり地位が落ちているらしい。以前、他の噂をしていた貴族含めて。

やりすぎだとは思ったが、私を守りたかったのだと言われたら、何も言えなくなった。私も家族のことを悪く言われて、あの噂に怒っていたから。



そして、この婚約の話は私の両親も乗り気だった。

私に対しても『エスト様はすごくいい子だったから、きっと貴女の心の助けにもなってくれるわ』との一点張りで折れる事が全くなかったのだ。普段、私のわがままであれば、大抵は聞いてくれたあの両親が――だ。


これは後々知った事だが、エストも私と同様に自身の兄を大層慕っていたらしい。私のように、べったりとくっついて、甘え切っていたのだとか。しかしその兄はもうこの世にはいない。


近い境遇の私達。

けれどエストが私と違ったのは、兄の代わりに次代の王になるべく前を向いたことである。

両親は似た境遇のエストをぶつけることによって少しでも私の日々、自分自身を断罪するような頑なな考えを変えたいという思惑もあったようだ。

変えられなかったとしても、家族ではない存在であるエストという婚約者からの刺激によって少しでも前を向いてくれたら――と考えていた……というのは、あとから両親に聞いたことだ。


そして、それは狙い通りの結果になる。

最初こそは『俺はお前の様な馬鹿な女と結婚などするつもりなどない』などと言われて、私は憤り、驚きはしたが、エストは決して私の容姿を見ての差別はしなかった。

むしろ容姿などどうでも良さそうにして、邪魔だと言いながらも、私を隣に置いていた。


姉を亡くしたという私の過去を知って腫れ物扱いをしたり、容姿に関して嫌な言及をしてくることもない。ただ単に興味がなかっただけかもしれないが、それらの行動は私にとって、貴族の中にいる時は勿論、両親や兄といる時よりも気が楽だった。

『無関心』。時にはそれが救いになることもある。


それだけではない。

エスト自身が表面上の婚約者などと言ったくせに彼は私が容姿の事で、他の貴族たちに陰口を言われていれば、『何故言い返さない!?』と怒りながらも必ず庇ってくれたし、私が何かしら出来ない事や知らない事があれば、『俺が恥をかきたくないだけだ』と突き放したような言い方をしながらも、私が分かるまで丁寧にそれについて教えてくれた。


そういう彼に私が持った印象は、『口は悪いが、両親の言った通り良い人間』だった。

きっと根が良い人間なのだろう。それに加えてエストは偉そうな言葉とは裏腹に才能に驕ることなく、良き王となるための努力をし続けている努力かな面も、私からしたら好印象でしかなかった。


そんな彼の隣で過ごすうちに私自身も変わっていった自覚がある。

いつまでも姉様に対する罪悪感に囚われ、自分の罪に怯えるのではなく、姉様を私達から奪った病気に立ち向かおうと決意する。

そしてイチから医学・魔法薬学について学び始めたのだ。



私は、次期王妃という立場を使い、国内の医療機関に出入りし、王宮にある『出版された全ての本が納本・貯蔵されている図書館』に、通い続けた。

最初は次期王妃という立場と言えど、国内有数の医者・魔法薬学士にも、疎まれていた。しかし、寝る間も惜しんで、それこそ倒れそうなほどに知識をつけ続けて、実際に自分が喰花病(マギア・フィオーレ)に対する薬を作る工程でできた変わった効果のある薬を試しに持って行ったり、どうしても分からなかった部分について質問しに生き続けたら、それもなくなった。

いつからか、語り合い、共に研究する『仲間』になっていた。


こうして、この数年間の血の滲むような努力のお陰で、喰花病に対抗する薬は先日完成した。

これは既に、一緒に研究していた仲間たちに託した。きっと彼らならば、国内外に発表して広めてくれるだろう。

これを、私の最後の置き土産に残していこうと思っている。偽物とはいえ、婚約者として、エストの時間を今まで貰っていた対価くらいにはなるだろう。


こうして、全ての準備は整った――。

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