第33話:北はずれのボロ教会。
誤字報告ありがとうございます。
投稿前に見直しをしてるのに、どうしても誤字が出てしまいます…。
さて、明日と明後日はもしかすると投稿が無いor遅くなるやもしれません。
ですので、今日は少し長めとなっております。
前書きも長くなってしまいました。
ぜひ読んでいただけると嬉しいです( *¯ ꒳¯*)
Side:ルウ・ブラン
石畳の道が幾重にも広がり、白い石で作られた建造物が立ち並ぶ。
聖ゴーフレット王国という輝かしい名前にふさわしい、見るも荘厳な街並みが広がっていた。
広場では果物や布地を売る露天商が声を張り上げ、そこかしこで行き交う人々が笑い声を響かせる。
「…すごいですね」
そう、まさにこれだよ! 俺が異国の地に求めていたものは!
日本では絶対に味わうことのできないこの雰囲気…たまらんねえ。
その賑わいは一見すれば繁栄の象徴にも思えるがーー。
少し視線を細い路地裏の奥にやれば、物乞いの子供が旅人たちを虚げに見つめる様や、薄汚れた布を被った老人達が身を寄せ合い、かろうじて生き伸びている様子が見てとれた。
華やかな街の表情とは裏腹に、この国の格差の大きさが痛いほど感じられる。
…まあ、それも含めて異世界だわな!ガッハッハ!
そんな街の様子を見ているのは俺だけではない。
俺の横を歩くソテー村の人々も、その格差を感じ取っては『自分たちも路地裏にいる人のような末路を迎えるのではないか』と不安になっている様子だった。
「……この街で、僕たちは新しい暮らしでやっていけるのかな」
そんな時、ふと街の喧騒に紛れて溢れた小さな泣き言を、レベル233の脅威的な地獄耳が聞き逃すはずもなかった。
俺は呟いた人物の元に駆け寄って、フードの隙間から少しだけ顔を覗かせる。
「…大丈夫ですか、ホークさん。ルウさんでよければ、お話聞きますよ…?」
「――ひゃぅあ、ぶ、ブランさん!? もしかして今の聞いて……」
がはは、俺の顔見て焦ってて草生える。
ビビるくらい可愛いってのも困ったもんだ。
アリちゃんと付き合ってるんだからそろそろ女耐性つけろな!
「…はは、ブランさん、ごめんなさい」
「…? 謝る必要なんてないと思いますけども…」
「…ブランさん、見えますよね? この国の黒いところが」
「…はい」
「…僕、あの人たちを見てちょっと怖くなってしまって…。さっきだって、アリが先陣を切ってくれなかったらこの街に入れてすらいなかったかもしれない…。僕には人をまとめるのが向いていないんじゃないかって…」
んだよ、そんなこと心配してんじゃねーよ。
そもそもてめーは1人で責任を感じすぎだ。もっと俺たちを頼れ。
それに、そもそも失敗した後のことばかり考えるからダメになるんだぞ。
「…ホークさん。歩いていたら、転んだ時怪我しそうだから転ばないように寝そべって動かない。そんなことしますか…?」
俺の話にホークはキョトンとした様子だ。
「…しないですよね? 怪我しそうな場所を守るなどの対策はすれど、歩くことはやめません。…ホークさんが今思っているのは、責任が怖いからまとめ役をやめて責任から逃れたい。それって、歩くことをやめるのとどう違うのでしょうか?」
「……」
「…む、すいません。ちょっと言い過ぎました。…ですけど、ルウさん含め村の人々はホークさんという足がなければ歩くこともできないんですよ」
「ならやっぱり、僕がもっと頑張らないと…」
「…んー、それもちょっと違います。あいにくルウさん達は一蓮托生。同じ境遇にある身です」
俺はカッコつけて人差し指を立ててホークに言う。
「…もし転んだ時、膝のみをぶつければ、大きな怪我になるかもしれません。ですけど、手をつけば手のひらは少し傷ついても、膝にも大きな怪我はできませんよね?」
「…そう、ですね」
「……むう、これだけいってわかりませんか? ルウさん達が手の役割を買って出ようって話なんですけども…。ホークさんが転べばルウさん達も傷を追いますけど、分散されるだけ治りも早いわけです」
「…ふむふむ」
「…それに転ぶ原因は足だけではないですしね。責任は胴体や手であるみんなに押し付けちゃっていいんですよ」
うん。俺の説明が悪いわ。
頭悪くてごめんなホーク。
「…つまり、責任を1人で抱え込まないで良いというのと、後のことばかり考えていてはもっとダメになってしまうということを言いたかったんです…」
俺がそう言い終えるとホークは俺の方に顔を向ける。
「…確かに、その通りかもしれません。みんなのために何かしなくっちゃという思いばかりが前に出て…これじゃ、とんだ出しゃばりじゃないか…」
そうそう。おまえはすでに十分頑張ってるんだから。
なんなら俺はレベル233だぞ?
簡単な悩みくらいこのルウ・ブラン様の力でなんとかしてやるよ。
「ブランさん、ありがとうございます。これからは皆さんにも向き直って、良い方向へ進む道を考えます」
おう!
その調子だ、ホーク少年。
――って、ホーク、前を見ろ前!
「ぶべし!」
俺の方ばかり見ていたホークが顔面から壁にめり込んでいったその様子を見て、こっちを見ること以前に前を向いて歩けと思うと同時に、心の中で爆笑の嵐が吹き荒れたのはいうまでもない。
▶︎▷▶︎▷▶︎▷▶︎▷
門衛隊長の紹介状に記された場所は、人だかりある大通りからそれた街のさらに北外れに位置する小さな教会だった。
見るからに粗末な作りの、くすんだ白い石造の教会で、囲う生垣は剪定されていないのか伸びきったり枯れていたりしている。
そして生垣の隙間からは草が伸び放題の庭と、手入れのされていない小さな畑が見えた。
まず、ソテー村の面々を受け入れてもらえないかという旨の紹介状を教会の祭司に渡しに行くために、村の代表であるホークとルウの2人が話をつけにいく運びとなった。
村人達は教会の外で居残りである。
「…これは、酷いですね」
想像の10倍は荒れ果てた姿に、俺は思ったことを口にした。
「…とりあえず、あてもないので今日はここに頼る他なさそうですね」
俺とホークの中に『果たしてこの小さな教会に10名以上が入るのだろうか』という疑念が渦巻いていた。
ホークが教会のさびれた扉をノックすると、出迎えに出てきたのは年老いた男性――祭司だった。
痩せた身体に薄汚れた白い祭服を纏った、深いしわの掘られた優しげな風貌の祭司。
彼はホークと俺を視界に入れると、微笑んだ。
「…ようこそ、旅の方。わたしはハトホボ。聖ゴーフレット王国北はずれの治癒院を任されております、しがない老祭司です」
ホークが慌てて挨拶をする。
つられるように俺も挨拶をしておく。
「僕…じゃなくて、私はホークと申します。村の村長をしています」
「…ルウ・ブランです」
「ほっほ、ホークさまに、ルウ・ブランさまですな。覚えました。…して、村の村長さまがなぜこのようなはずれの教会へ…?」
「…祭司様。門衛隊長、ガルデン・クラウス様はご存知でしょうか。私は、彼からの紹介でここにやってきました。どうかお話だけでも聞いていただけないでしょうか…」
そういってホークは紹介状である羊皮紙を取り出し、老祭司ハトホボに差し出した。
すると一瞬どこか険しい表情をしたかと思うと、気がついた時には微笑みに戻っており、その安堵感を覚える表情のままに口を開いた。
「…わかりました。ところで、お疲れでしょう。どうぞ中へ」
俺とホークは祭司の言葉に誘われるがままに教会の中へ案内された。
中に入ると、壁際には簡素なベッドが所狭しと並べられ、その中にはポツポツとーー大体目視で7人程度――痩せ細った子供が座るなり寝そべるなりをしていた。その表情はどれも虚で、本来子供が持つ雰囲気とはかけ離れているものだった。
「…どうかおどろかないでやってください。ここにいるのは、戦争や飢餓…色々な理由で家族を失った子供たちばかりなのです」
俺とホークが祭司の後ろを黙ってついていくと、祭司は徐に説明を始めた。
「…この場所は、もともと戦争で傷ついた人々を癒す治癒院として建てられました。しかし……いつしかここには戦争で家族を失った子供達が預けられる場所になっていったと、私の前の祭司より、そう聞き及んでおります」
不意に、ベットに力無く横たわる、男か女顔わからないほど痩せ細った小人と目が合う。
しかし、何を訴えるわけでもなくただ俺の目を虚げに見るだけだ。
「子供達には申し訳ないことをしています。…私一人の力では、満足な生活をさせてやることができません。…子供達は皆、腹を空かせて動けないものもおります……というのも、ここには国からの支援も寄付も何もないのですから。…ああ、本当に申し訳ない……」
祭司の声は次第に弱まり、悲しげに視線を落とすと、ドアノブに手をかけて教会の最奥の扉を開けるとーー地下へと続く階段が現れた。
「…さあ、暗い話はこの辺りにして、奥の地下室でおくつろぎください。少々お茶を入れてまいりますので」
俺とホークが階段を降りていくと、奥には小さな個室と、雑なもてなしの場が設けられていた。
もとは貯蔵庫でもあったのだろうか。壁に並んだ空段の棚がそう思わせる。
部屋に入り椅子に腰かけるや否や、祭司は部屋から出ていった。
…いや、空気重すぎね?
あんなにいろんなものを見て話された後に、生活大変だから住む場所提供して〜なんて言えないだろ…。
「…辛いのは、どこも一緒なんだ…」
「…ですね。しかし、こんなに大変そうな環境だったとは…」
身寄りがない子供達がキャッキャしてる場所ってのが俺の中の孤児院の勝手なイメージだったから、正直ギャップがえぐい。
まるでこれじゃ、病気の子供を閉じ込めてる隔離病棟じゃねえか。
俺のそんな思いはホークも同じだったようで。
「…祭司様に言っちゃ悪いですが、ここで暮らすとなると、僕たちも滅入っちゃう気がします…」
というか、こんな状態にまでなって頑張ってる教会への支援が一切ないって、この国はどうなってるんだ?
さっきの子供、助けを訴えることすらできないって、どれだけ絶望に打ちひしがれたらあんなふうになるんだよ。
「…ちょっと、国が許せないですね」
「…ブランさん。僕も同じ気持ちです。こんなにやるせ無い気持ちになるなんて、思っても見ませんでした…」
神様や大英雄は一体何をしているんだ?
こういうところこそ最も救いが必要な場面じゃ無いのか。
どうしようもない状態を圧倒的で超常的な力で塗り替えるからかっこいいんだぞ。食って寝て、転がり込んできたトラブルを解決するだけが英雄じゃないって、田舎のおばあちゃんが口酸っぱく言っていたからな。
どこかにいないものかね。
常人とはかけ離れた存在で、なんでもできて人情に溢れる大英雄。
困っている人には手を差し伸べて、どんなに辛くとも笑顔を絶やさない太陽のような存在。
困難をいとも容易く解決し、それでいて奢らない神様。
そう、まさにーールウ・ブランみたいな完璧美少女なら、こんな時どうしていただろうか。
「…おょ?」
あれ、待って。俺って今、ルウ・ブランなんだよな?
完璧美少女で、強く優しく正義感にあふれ、決して奢らない。
――もしかして俺なら、こんな問題ちょちょいのちょいで解決できるんじゃないか?
「…ホークさん!」
「わっ、ブランさん。ど、どうしたんですか? いきなり椅子から立ち上がってーー」
俺はフードを取っ払いつつホークを鋭く見据える。
「――ルウさん、ここの人たちを助けたいです」
「…え? え?」
「…ルウさん、以前ホークさんのお父さんーーバケットさんの足を治療したこと、ありましたよね」
それはソテー村がデーモンからの襲撃を受けた際、バケットが負った右足の欠損を治した時のことだ。
「…あの時使用した手法。多分、あれを使えばこの院内で預かる子供達を、元気にすることができるんです」
「えっと…でも、その手法っていうのは、ルウさんが隠しておきたいものなんじゃ…」
確かに、あの時は〈レストアエッセンス〉はオーバーパワーで変な目で見られるかもしれないと思って意図的に隠していたが、今はそんなこと考えているような状況じゃないだろ!
「…手段を選べる状況でしたら、もちろん表立ってしたい方法ではないですが、今は手段を選んでいられる余裕もないですからね」
だってここはルウ・ブランが活躍する良いチャンスなんだぞ。
もし他に治せるやつが出てきてみろ。
せっかくのルウ・ブランのロールプレイが活かせなくなるだろ!
俺はさっさと感謝されて持ち上げられてゲヘゲヘしたいの!
なんかホークが「ブランさん…まるで物語の聖女様だ…」とか言ってるけど無視。
こうなりゃ徹底的にこの教会を救い散らかしてやるか。ソテー村の面々もいればこんな教会の更生なんざ屁でもないわい!
「…とりあえず、ホークさんは祭司さまと話を進めていただけませんか? その間にルウさん、できることをしようと思っていますので」
「ちょっと待って、ブランさん、何をしようとしてーー」
ホークがそう言いかけた時、階段を降りる音と共に扉が開いてヒビの入ったティーカップを2つ持った老祭司が地下室に戻ってきた。
「…お待たせいたしました。おっとーー」
俺は強引に祭司が左手に持っていたティーカップをぶん取るとーー。
「…んぐ、んぐ」
っと一気に飲み干した。
ふぃ〜、よくわからん味のお茶、あんがとさん。
「祭司さま、ルウさんは一度失礼しますね。お茶、ご馳走様でした」
そう言って俺は部屋を勢いよく飛び出し、階段を駆け上がる。
背後からは祭司の「…元気そうな子です。微笑ましい」という言葉と「ブランさん、変なことはしないでくださいよ!」というホークの嘆きが重なって聞こえたという。
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・アイテム/【ムゲンコガネ】
〈説明〉
夢の世界の樹で、時折見かける玉色のコガネムシ。
なんの変哲もない綺麗な虫なのだが、そのなりに見合った、装飾品や観賞用といった用途しか無い。
虫博士に渡すことで、アイテムと交換ができる。
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ルウ「…観賞用しか、用途がないと言いつつ、アイテム交換用の収集アイテムという重要なものなんですよね。虫博士からもらえるアイテムや武器はなかなか使い勝手がいいので、強化すれば高レベルでも使えたりしましたっけ」




