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異世界でのライフを綴る貴重な一節が食レポと料理だけで終わる無茶をやってみた

今の状況はこうだ。

私は村の人に料理を振る舞うべく、調理場に立っている。


来ている服は村の人達が用意してくれたものだ。

サイズが合わなかったので寸足らずなのは仕方ない。

獣人の平均身長は男性でも160センチに満たず、182センチの私に合う服はない。

だから一番大柄な村長の上着を借りて羽織り、スカート代わりに薄手の敷布を巻いている。

上着は作務衣に似ていて、麻布のように風通しが良いので着心地がとても良い。


これから私は、元の世界から持ってきたルーでカレーを作る。

料理のアシスタントをしてくれるのはアビー君だ。


スーパーで買った食材や調味料はほとんど植井君が持って行ったので、具材は全てこの世界の物で代用するしかない。

ほとんど私が買ったやつなのになぁ……

まぁ、ルーを守り抜けただけでも良しとしよう。

なにせ昨日の昼から私の口はずっとカレーなのだ。


別に昨晩の宴会の料理に不満があったわけではない。

フルーツはとても個性的で、甘みがあってとろけるものや酸味が強くジューシーな物など種類も豊富だ。

総じて実が小さく可食部位が少ないのは品種改良されていないからだろうか。

蒸されたバナナっぽいやつは甘さがほとんどなく、芋のような食感で少し驚いた。


こんがり焼かれた大型のネズミは肉質が硬く脂身を殆ど感じなかったが、これが噛めば噛むほど旨味が出てきて絶品。

肉の臭みがあまりなかったので草食性の強いネズミなんだろう。

表面がパリっとしていたのは、おそらく焼く際に植物油を塗ったからだ。

そうすることで香ばしくなり、同時に旨味を肉に閉じ込めることができる。


焼き魚はたんぱくな味わいでフワっとしており、果汁のソースがとても良く合う。

川魚にありがちな独特の匂いはソースの酸味で消されており、砕いたナッツが食感にアクセントを演出していてシンプルながらも技有りなメニューだった。


団子は私達の知るもので例えるならナンが一番近い。

ほんのり甘みがありもっちりとした食感で腹持ちもよさそうだ。

どの食べ物と一緒に食べてもマッチするので、まさしく主食のお手本のような存在だと思う。


ここで食べた調理はどれもシンプルだけど素材の味を最大限活かすための工夫がされており、ここで暮らす人々が長い年月をかけて築き上げてきた食文化の息吹を感じられて感動すら覚える。

感動すら覚える……のだが、食後のデザートが問題だった。


アビー君が笑顔で頬張っている、白く透明感のある丸いもの。

その時、私にはそれが剥かれたライチのように見えた。


しかし、目の前に差し出された皿の上にあったのは何かの幼虫。

なるほど、丸まった幼虫は遠目で見ればライチにそっくりだ。

どうしよう……こわい。

絶対食べたくない。


私は食への好奇心が強い方で、これまで蛇やカエルも食べてきた。

だけど虫だけは本当に無理。

助けを求めようにも植井君はおじさんたちの相手で手一杯のようだ。

なるほど、私がここまで心穏やかに食を堪能できたのは彼が防波堤になってくれたからか……。

ちょっとだけ感謝。


アビー君が丁寧に食べ方をレクチャーしてくれている。

幼虫の頭部を軽くかんで引っ張り、体から消化管を引き抜いて捨てる。

あとは細い6本の足をちぎって捨て、残った胴体部分を口に放り込んだ。


さあやってみろと言わんばかりの笑顔でアビー君がグイグイ迫ってくる。

あぁ~本当に可愛いなこの子は……。

それでも食べたくない、虫は嫌だ。

お腹いっぱいなフリで逃げたいけど、それだとこれ以上のおかわりができなくなる。

何よりアビー君の輝くような笑顔を私のせいで曇らせていいのか?

それだけはできない、絶対にだ。


覚悟を決めて幼虫を手に取る。

頭部を軽く噛んで引っ張ると、プツッとした感覚の後でずるりと消化管が出てくる。

そして、6本の足を丁寧に処理して準備は万端。

この世界の昆虫も足は6本なんだなぁ……。


私は今からライチを食べる。

ライチにしてはブニブニしているがこれはまぎれもなくライチだ。

これはライチ、これはライチ、これはライチ……


全くライチではなかった。

口に入れた瞬間のぶんにょりとした食感、噛んだ瞬間に溢れ出る内容物が口の中に一気に広がる。

虫を口に入れたという実感が強すぎて、口に入れた瞬間はリバース寸前。


だが、悔しいことにその味は絶品だった。

ドロリとした食感の中に感じられる小さな粒の食感は、例えるならアロエヨーグルト。

そして味は煮詰めて濃縮したココナッツミルクそのものだ。

甘みが強いのにしつこさはなく、デザートとしては満点。

キンキンに冷やしてシャーベット状にして売り出せば、タピオカやマリトッツォに続く女子高生の定番スイーツとして人気になるだろう。


ああ、しかし致命的な問題が一つだけある。

これって虫なんだよね……。


そんなこんなで人生初の昆虫食が涙と喚起に包まれたのが昨晩の事。

この時はただお腹が満たされただけはなく、いくつか収穫もあった。


一つはアビー君との距離感がかなり近くなったこと。

今も積極的に料理を手伝ってくれている。

もう一つは食材の味や種類を把握できたこと。

何がどんな味なのかわかれば調理法はいくらでもある。

“おいしい”“たべる”“ごはん”などの簡単な言葉を覚えられたのも、異文化交流の第一歩としては上々だろう。


さて、現在の話に戻るがカレーの具材についてはすでに目星がついている。

旨味の強いネズミ肉は朝からじっくりトロトロになるまで煮込んでほぐし、牛スジの代用にする。

ジャガイモの代わりになるのはバナナっぽい果物だ。

甘みが少なく蒸すとホクホクで、種を取り除けば食感もよく似ている。


ニンジンやタマネギの代用は見つからなかったけど、アビー君が調達してきてくれた野草や根菜を入れたらそれらしい感じになった。

昨日の団子の材料だという粉をこねて薄く伸ばして焼けばもちもち食感のナンの出来上がりだ。

本当は米が食べたかったけど、異世界でそれを言うのは贅沢というものだ。


そして、多田家のカレーには絶対に欠かせないアレを忘れてはいけない。

ココナッツミルクだ。


もちろんここにそんなものはないのだが、何で代用したかはお察しの通り。

誠に遺憾な事だけど……心の底から嫌だけど……

これが本当に美味しいのよ。


日が傾いてくると、狩りや採集から戻ってきた村人が少しずつ集まってくる。

どうやら個々の住民は朝食と昼食はそれぞれ勝手に済ませるが、夕食はそれぞれ食材を持ち寄って皆で食べるのが習慣らしい。

その様子から察するに、その日の出来事を話したり狩りの成果を自慢しているんだろう。

小さな集落の結束を強くして助け合うための素晴らしい文化だ。


さて、特製カレーの反応がどうだったかと言うと……

私が幼虫を食べた時とほぼ同じだったと言えば分かってもらえるだろうか。

挿絵(By みてみん)

嗅いだことのない強い香りには興味をそそられているようだが、カレーを知らない彼らにとってそのルックスは()()にしか見えないらしい。

言葉は分からないが、顔とリアクションを見ていれば分かる。

村人たちが口々に言っているせいで()()を意味する言葉を覚えてしまった。

一緒に料理を手伝ってくれたアビー君ですら及び腰だ。


本音を言えば村の人に最初に食べてほしかったが、ここはカレーを食べ慣れている私達が自らの身をもって安全と美味を証明するべきだろう。

いや、少しカッコつけすぎました。

昨日の昼からカレー欲に支配され続けてきた私も既に限界なんです。


あーがりぅーすと(いただきます)


ちなみに今のはアビー君に習った言葉だ。

植井君が言うには“空と大地の恵みに感謝”というニュアンスらしい。


ああ……口の中いっぱいに広がるのはそう、“幸せ”だ。

ジャワとバーモントをミックスした多田家流カレーではあるが、いつもの我が家の味ではない。

あちらには存在しない未知の食材を入れたからこそ生まれる新しい味。


野性味のあるネズミ肉が持つ旨味が最大限引き出されて最高の形でルーと調和している。

ジャワの辛さはライチ虫の甘みでマイルドになっており、コクと深みが増しているのでお子様やカレー初心者でも食べやすく、カレー通にも満足していただける逸品に仕上がっている。

本来の味から変化したことで図らずもナンにベストマッチなのも嬉しい誤算だ。

この素晴らしさを獣人の皆さんにどうしたら伝えられるだろうか……。


ウェーーーーーーーイ(ウんマぁぁああーーい)!!!!」


なに……今の?

恍惚としていたら植井君の絶叫で現実に引き戻されてしまった。

耳から入ってきたのは“ウェイ”という音だけなのに、脳に直接“ウマい”という感想が流れ込んできた。


しかもそれは伝わってきた情報を3文字に要約すると“ウマい”になるだけで、実際に流れ込んできた情報量は文庫本一冊分に相当する。

味に対する評価や手料理を食べられたことへの喜びだけでなく、人間讃歌や世界の美しさ、製造メーカーや空と大地の恵みへの感謝、更にはカレーが世界を救うなどといったちょっとアレな内容まで、普段の生活ではまず使う事のないような多彩な語彙と言い回しで表現されている。

植井君は一口カレーを食べただけで瞬時にここまでの事を考えてるの?

正直引く。


どうやら周囲にいる獣人の皆さんも私と同じモノを受信しているようだった。

突然の情報量に混乱する女性、驚いて泣き出す子供、困惑しつつもカレーに手を伸ばす若者、即座にカレーにがっつく村長。

長老さんはまだ食べてもいないのに感動で涙を流している。

せめて食べてから感動してほしいな……。


謎のハプニングはあったものの夕食は大盛況に終わり、私たちは親睦を深めることができた。

私の知る限り、カレーを嫌いな人類などこの世に存在しない。してはいけない。

それがたとえ異世界の獣人だったとしてもだ。


“要約”と言えば、この一節って要約すれば“カレーを作ってみんなで食べた”で済むのよね。

こんなに無駄ばかりの文章で読む人は疲れたりしないのかしら?

次回はもうちょっとお話に動きがあればいいんだけど……あんまり期待はできなさそう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 前回がほぼ勢いの文章に対して今回は丁寧に状況を説明しているのが、キャラの対比になっていた。 [一言] サラッと主人公の能力が発現してた。 今後の使いどころが気になるけど、取りあえずウェーイ…
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