異世界でチート能力に目覚めたのはいいけどなんか使いづらいしチェンジできませんかね?
今の状況はこうだ。
ものすごい衝撃で目を覚ますとそこは草のベッドの上で、横では多田が目を白黒させていた。
まあ、こんな時に言うべきセリフを俺はバッチリ心得ている。
「知らない天井だ……」
吹き出す様子を見るに、どうやら多田は元ネタをご存知のようだ。
君は笑っている顔が一番可愛いぜマイスイートエンジェル、その瞳を見ていると俺のラヴエンジンが火を吹き頭脳が高速回転して一つの答えを導き出した。
おそらく、身を危険にさらして少年を救った俺を見て、多田には恋心が芽生えたに違いない。
倒れた俺を集落に運んでベッドに寝かしたはいいが、目を覚まさないのを心配して覗き込んでいるうちにトキメキが暴走し、ラブドッキュンモードに突入してしまったわけだ。
周囲に誰もない事を確認した多田はゆっくりと顔を近づけ、二人の唇がまさに触れ合おうというその瞬間に謎の地震が発生。キスの寸前に俺が目を覚ましてしまった。
だからこそあそこまで驚いていたのだろう。
少ない思考材料での予想だから細部は違うかもしれないが、状況から見てきっとそうだ。
もちろん俺は紳士だからな、そんな事には一切気づかないふりをするさ。
しかし先程の揺れで外からは少し慌ただしさを感じる。
ノックもなしに部屋に入ってきた女性はどうやら俺たちを心配してくれているらしい。
「そんぬーづまんでぃ?」
えっと……今この人なんて言った?
明らかに知らない言語が耳に入ってきたのに、俺にはその意味が理解できた。
いや、厳密に言えばその人が伝えたいと思っている意図をダイレクトに受け取った感覚だ。
おやおやおやおや、これは本格的に異世界モノっぽくなってきましたよ?
これはどう考えても異世界モノでありがちな言語問題を手軽に解消できる便利スキルに違いない。
こうなると付与されるチート能力にも期待できるってもんだ。
通訳スキルの細かな検証はさておき今は原住民との交流が先決だ。
「ありがとう、どこにも怪我はありませんよ」
精一杯の爽やかスマイルはどうやら空振り。
女性はなんだか申し訳なさそうにしている
「あらやだ言葉が通じないんだっけ、でも怪我はなさそうでよかったわ」
あれれ……これはどういうことだ?
相変わらず耳に入る言語は分からないが意味は頭に入ってくる。
でも俺の話す言葉は全く通じてない……?
またあとで呼びに来るわと言い残して女性は去っていったが、
その言葉の意味もしっかり理解できた。
「なあオタ子、あの人が何言ってたか分かる?」
「えっと……わかんない」
この通訳スキル(仮)は俺しか持ってないのか、それとも何か発動条件があるのか……。
「俺には意味が分かった……んだと思う」
「ずるい!私なにもわかんなくてすっごい苦労したのに!」
そこに関しては本当に申し訳なく思っている。
俺が気を失っていた間の苦労と不安は計り知れない。
多田からここまでの苦労話を聞き、なんとなく事情を把握。
お互いに異世界モノをそこそこ見ているから共通認識があるおかげで話が早かった。
最近かなり流行ってるもんな、異世界モノ。
別に多田との共通の話題が欲しかったから見ていたわけではないぞ。
多田との異世界トークでスイートな時間を過ごしていると、ほどなくしてケモミミ少年が部屋に飛び込んできた。
「旅人さーん!ごはんの用意できたよー!」
「ありがとう、すぐ行くよ」
「……?」
日本語で返答しても、少年は理解していない様子だ。
多田も少年の言葉を理解してはいないらしい。
ケモミミ少年に案内された先には20人ほどの獣人たちがいて既に宴会を始めているようだ。
ここはもしかしたら集会所のような場所なんだろうか。
草で編まれた厚手の敷物は畳によく似ていて日本の大広間みたいだ。
高温多湿な環境で建物の構造が偶然似たんだろう。
座敷に座るタイプの低いテーブルも日本的で親近感がある。
所々に洋風の意匠が見て取れるのは、きっと異なる文化圏との交流があるからだろう。
「今日は何の宴会だ?」
「ダンの倅がよそ者に助けれられたってよ」
「炎狼を追い払ったてマジかよ」
「牙ナシにも骨のあるやつがいるもんだ」
やっぱり話していることは全て理解できる。
テーブルに並ぶ料理は豪勢で、元の世界の食材とさほど変わらないように見える。
きっとジャングルのような森に囲まれているお陰で食料が豊富なんだろう。
ふと隣の多田を見ると、これまで見たことがないほど目を輝かせていた。
よほど腹が減っていたんだろうな。
大きな腹の音が鳴って赤面しているが、そこは聞かなかったことにするのが人情というものだ。
程なくしてマッチョ獣人が出てきて場を仕切り、俺たちを英雄だなんだと称えて乾杯の音頭を取った。
村人に勧められるままに食ったが、食事はかなりウマい。
フルーツは甘い、肉は固いがウマい。焼き魚は薄味でウマい。団子はクセがなくてウマい。
すまんな、俺に食レポは無理だ。
食事をしながら少しでも情報収集をしようと思ったが、宴会中の会話はどの世界でも聞くに堪えない。
しかも酔っ払ったマッチョ獣人が大声で語る英雄譚で他の会話がロクに聞こえたもんじゃない。
俺の視線にマッチョが気付いちゃったか?
お誕生日席を離れて笑いながらこっちに近づいてくるが……
酔っ払いの相手なんてあまりしたくないなぁ。
「オレぁダンってんだ、お前が倅を助けてくれたんだろ?
礼を言わせてくれ……って言葉わかんねぇのか、面倒くせぇ」
本当は通じているが面倒だから分からないフリをしたい。
っていうか声がでかいし顔が近いし酒臭い。
「まぁいいや、カミさんが漬けてくれた果実酒だ、オメェも飲め!」
未成年だから飲めません!ってのは通用しないよな、そもそも言葉が通じないし。
しかし俺が邪険にすると多田に矛先が向きそうだからそれだけは避けたい。
「上等な酒だが遠慮するこたーねぇ、ほーれ飲め飲め!」
待ってくれ、俺には美人のカミさんが漬けた酒なんてもったいなくて飲むことなんてできない。
その鋼のように鍛え上げられた美しい筋肉にこそ似合う最高の酒じゃないか!
アンタがコレを飲み干す姿を見る方が俺にとっては最高の喜びだぜ!
言葉が通じるならそれくらいの事を言えるのだが……っ!!
「ウェーーーーーイ!!!」
気づけば俺はいつもの奇声を上げながら差し出された酒を奪い取り、マッチョ獣人の太い首に腕を回して勢い良くマッチョの口に流し込んでいた。
もちろん次の瞬間には反省の嵐だ、これは完全にやらかしている。
俺は学生の身分なので飲み会のマナーなどは全く知らない。
差し出された酒を逆に相手の口に流し込む行為とは果たしてどれほど失礼なことなんだろう。
息子さんの命を救ったという事実を差し引いたら土下座程度で許してもらえるかな?
そもそもこの世界において土下座が謝罪の意味を持っているといいのだが……。
「オメェ……オメェよぉ……」
マッチョの肩が震えている。おこなの?
でも心配することはない、俺の土下座四拾八手でどんな怒りも沈めてやるぜ。
自慢じゃないが俺はこの土下座スタイルであらゆる危機を乗り越えてきた。
俺はこれまでの人生で7度カツアゲされたが被害額は奇跡のゼロだ。
芸術的な俺の土下座に笑い、そして感動しやがれ……っ!
「やっぱ最高の筋肉にはカミさんの酒だよなぁ!オメェ見る目があるぜ!!」
たすかったー!!
その後も土下座を披露することもなく宴会は進行し、俺たちは部屋に戻ることになる。
宴会中に仕入れることができた情報は以下の通りだ。
森で助けた少年の名前はアビー、マッチョはその父親でありこの集落の長のようだ。
炎狼は頭の良い魔獣で仕掛けた罠はことごとく破壊されているらしい。
以上。
たったそれだけかって?
酔っ払いに絡まれながらでも成果があることをむしろ褒めてほしいくらいだ。
夜が来れば人は眠くなる。
今日は色々あったからなおさらだよな。
多田とは相部屋で、ついたて一枚隔てた向こうからは既に寝息が聞こえる。
こっちは同じ部屋で寝てるってドキドキで一向に眠れないっていうのに……。
そういや家族ってどうしてるかな……風呂に入りてぇな……。
どうやらこの不完全な翻訳スキル(仮)が俺のチート能力らしいんだけど、どうにも使いづらい。
もっと万能感のあるスキルにしてくれたら良かったのになぁ……。
神様ってのがもしいるなら、今からでも違う能力に変更してもらいたいもんだ。
自分のことで必死だったが、多田にも何か能力があるんだろうか。
そろそろ明らかになっていい頃合いだが、お察しの通りこの物語は展開がやたら遅い。
あまり期待しないでじっくり付き合ってくれると助かる。




