異世界人類すら繋ぐ「ウェイ」でも俺の恋心は成就しない。
今の状況はこうだ。
現在地は町の中央広場。
今はギルドを中心に町全体が祝勝会の大宴会をしている。
夜の帳が下りてもその騒ぎは終わらず、皆がキャンプファイヤーを囲んで歌い踊っている。
その大賑わいの人波から少し離れた場所で、俺は多田と二人きりで向かい合っていた。
ギルドで喧嘩別れしてからは戦闘とその事後処理に追われていた。
だからこれがちゃん話す最初の機会で、まだ仲直りできていないのだ。
まずは何から言うべきか……
いや、俺が伝えたいのは謝罪とか仲直りとかそんな事じゃない。
俺は、この戦いにあたって沢山の事を考えた。
大切な仲間に怪我をしてほしくない、絶対に死んでほしくない、一緒に笑いあっていたい。
それが俺の一番の願いなんだけど、その根本には最初っから変わらない思いがあった。
それは、俺が何よりも多田のことを大好きだということだ。
この世界に来る直前……放課後の公園で、俺はその思いを多田に伝えようとした。
でも、俺の口から出た言葉は“ウェイ”なんていうマヌケな言葉だった。
自分の口癖が……いや、自分の根性の無さが嫌になるよ。
この世界に来てからは何もかも新鮮で忙しくて、楽しくて……。
正直、このままでもいいかな……なんて思ったりもしたよ。
でもさ、いつ死ぬかわからない世界なんだって気付いたら、言わずに終わるのが怖くなったんだ。
だから……思いを伝えるっていうのは勇気がいるけど、なんとか一回分だけ捻り出した。
俺は卑怯で臆病だから、どんなに頑張っても一回きりの勇気。
失敗なんてできないけど、失敗するはずなんてない。
だってさ、今の俺にはこの能力があるんだぜ。
多田がどんな返事をするのかは分からない。
でも、この能力なら俺の思いを全部、正確に伝えられるはずだ。
あの公園でしたように、拳を突き出しながらあの言葉を口にする。
「ウェーーーイ!」
今、俺はどんな顔をしてるかな?
自分では分からないけど結構いい笑顔してると思うよ。
「君が植井君だね?怪我はない……かい?」
俺とアネモネが空を飛んでから数時間が経った、魔獣が大量にうろつく平原のど真ん中。
半壊の馬車で籠城する俺たちを迎えに来たのは、魔王軍の軍人さんだった。
竜障壁の中で身を寄せ合う俺達を見て驚くのも無理はない。
なんせ糞まみれのゲロまみれだからな。
そんな事よりも驚いたのは、中隊長と名乗るその人がヒト族だったことだ。
人間と対立している魔王軍の隊長格が人間ってのはなかなかワクワクする。
後で色々話を聞かせてもらいたいね。
モブゴリラを軍に引き渡して町に戻ってからは、とにかく忙しくて目が回るほどだ。
今回の功労者として皆から囲まれたかと思えば臭え汚えと罵られ、風呂に入ろうと思ったら魔獣を追い払う作戦に強制参加となり、その後は避難していた住民の誘導まで休む時間がまるでない。
冒険者ってのはギルドに手厚く保護されている分、こうした非常時には動かないといけない決まりがあるのだ。
今からでも逃げ出したいよ。
ようやく開放されたかと思ったら、今度は事情聴取だ。
俺は今回の防衛作戦を事実上指揮していたとして特に念入りに事情聴取が行われ、終わる頃にはすっかり深夜になっていた。
普段は皆が寝静まって静寂に包まれているはずの時間だが、今日は皆が祝勝ムード。
きっとこの騒ぎは朝まで続くことだろう。
さっさと家に帰りたい所だけど、色々あって疲労困憊の俺は少し休むことにした。
中央広場では大きなキャンプファイヤーが焚かれており、浮かれた住民達が酒を飲み、歌い踊っている。
皆の笑顔も相まって、街灯のないこの町ではそれがやたら明るく感じた。
「おつかれさま、お腹すいてない?」
後ろから声をかけてきたのは多田だった。
どうやら事情聴取が終わるのを待っていてくれたらしい。
宴会で振る舞われた料理と飲物を持ってきてくれたようだ。
俺と多田は中央広場の明かりを眺めながら無言で料理を食べていた。
その、ちゃんと話すのはギルドでの喧嘩以来だから少し気まずいのだ。
でも、俺にはどうしても伝えたい事がある。
「「あのさ」」
二人の会話を切り出すタイミングが被ってしまった。
どうぞ、先に言えよ、なんてやり取りは一昔の前のラブコメみたいだ。
でもここは俺から言わせてもらうことにした。
「ギルドでの事だけど、俺の考え方は間違ってないからな」
「なっ……!私がどれだけ―――」
「いいから、まずは聞いてくれよ」
多田の言葉を遮って、俺は言葉を続けた。
俺にとっては仲間が何よりも大切で、あの時に逃げようと言った事自体は間違っていない。
それは今でも断言できる。
ただ、俺はあの時ミスを犯した。
そして、ムキになってあの場を去った事だ。
能力を失ったショックと無力感で心が折れていたとはいえ、我ながら本当にダサい。
ダリアさんやヒゲマッチョ、市場のオバちゃんに定食屋のマスター、それに町のロクでもない冒険者たち、マジハ集落の村人まで……
俺にとってはその全員が“仲間”になっていた事に気づくのが遅すぎたんだ。
そして、俺にとって一番大切なものは何なのかについて、もう一度考えることができた。
多田はここまでの長話を、何も言わずにじっと聞いてくれていた。
そして、俺は覚悟を決めて多田と向き合う。
一回きりの、ささやかな勇気を絞り出す。
寒空の公園でしたのと同じように、拳を掲げながら。
俺が胸に秘めた全ての思いを込めてあの言葉を伝える。
「ウェーーーイ!」
やっと伝えることができた安堵感と、期待と不安で頭の中はぐちゃぐちゃだ。
俺の精一杯の愛の告白を受けた多田はどんな顔をしてるかな……?
「ん?えーと……?」
おやおやおや?なんだこの困惑顔は!??
返答を迷っている顔ではなく、何で告白されたのか分からないという顔でもない。
明らかに告白された自覚がなく、ワケがわからないという顔だ。
え…何?このタイミングでまさかの能力不発!?
「うぇ……うぇーい?」
そうだよな、急にそんな事を言われたら多田も困るよな。
遠慮がちに近づいてくる拳は天使の右ストレートか?
その拳はゆっくりとこちらに伸びてきて俺の拳にコツンと触れた。
ラッパーとかパリピがよくやっているグータッチというやつである。
もしくはフィストパンプとも言う。
「えっと、これで仲直りって事でいいのかな?」
まあ、そういうことでいいか。
今の俺はよく考えてみたらまだ糞まみれでゲロ臭い。
そんな状態で愛の告白ってのも、冷静に考えたら最悪だもんな。
「私もギルドでは言いすぎたと思うけど……でも間違っていたとは思わない」
「お互い頑固だな……でもそれがいいのかもな、これからもよろしくってことで」
無事に仲直りをできて気が緩んだのかな。
視界がぐにゃりと歪んだと思ったら穴に落ちるような感覚がして、目の前が真っ暗になった。
この世界に来た時の感覚に似ているが、これはきっと違うな。
気力も体力も尽きて気絶しただけだ。
ゲーム的に言えばMP切れ。
この後、また多田に運ばれるのかな……
なんて考えているうちにどんどん意識が遠のいていく。
まったく、異世界人類すら繋ぐ「ウェイ」でも俺の恋心は成就しない。




