異世界に来たのが俺たちだけのはずがないって思ってたけどこんなに早く会えるとはね。
今の状況はこうだ。
俺は昼間っから風呂に入っているわけだが……
そう広くはない湯船に男が二人。
あまり面識のない男と密着状態にある。
頼むからあまり動かないでくれ。
アンタの足が玉袋に触れているから
なんともムズムズして居心地が悪い。
しかしなんでこうなった?
昨晩、多田への告白が空振りに終わって気を失ったあと、
気がつくと俺は借家横の畜舎で寝転がっていた。
半笑いで鼻をつまみな柄話すゴザが言うには、
昨夜は多田が俺を家まで連れ帰ってくれたらしい。
汚物まみれの俺に直接触れるのには抵抗があったようで、
廃材のソリに乗せられて引きずられる形だったのだという。
道理で体中に擦り傷があるわけだ。
帰宅後も俺は一向に目を覚ます気配がなく、
汚物まみれの俺を家に上げるのにはゴザとアネモネが断固拒否。
さすがに野ざらしは不憫だという多田の主張もあって、
妥協案として畜舎に寝かされたというのが昨晩の顛末だ。
俺が目を覚ましたら風呂に入れるよう、
多田は朝から水を運んで湯を沸かしてくれていたらしい。
俺への扱いを可愛そうだと思ってくれるのは多田だけのようだ。
風呂に入るにしても、このままではあまりに汚い。
そこでいったん川で水浴びをし、汚物と泥を落とした俺は
フルチンのまま風呂へと向かったわけだ。
そして、その十数メートルほどの道中でこの男と遭遇した。
王都から派遣されて来た魔王軍の中隊長さんだ。
平原で籠城する俺を助けてくれた人物であり、
昨晩は深夜まで俺に事情聴取をした張本人でもある。
「突然訪問してすまないね、町の人からここを聞たんだが……
後にした方がよさそうだね」
「これから風呂に入る所ですが一向にかまいませんよ、
なんなら一緒に入ります?」
もちろん本心は言葉通りではない。
風呂に入るところだから邪魔するな。
事情聴取以上の話すことなんてないから帰れ。
そんなニュアンスが伝わるように嫌味たっぷりで言っている。
しかし、男は躊躇なく風呂に入ってきたのだ。
俺の意図が伝わってないはずはないんだけどな……。
「古い日本風の風呂か……これは大したもんだ」
狭い湯船で向かい合うように浸かっていると
中隊長さんは気になりすぎる発言をした。
「日本って……隊長さん、あんた!」
「そう、俺も君と同じ場所から来たんだよ」
アライグマの婆さんが持っていた双眼鏡の持ち主のように、
過去にも同様の来訪者がいたというのは疑いようのない事実だ。
俺がこの世界にいるのだから、俺以外も来ててもおかしくない。
そう思ってはいたが、実際に会えるとは驚いたもんだ。
「俺は景、鳴尾景ってんだ、
魔王軍陸戦歩兵部隊で中隊長をしている」
全裸で湯に浸かりながら自己紹介とは変な気分だな。
今気がついたが、俺の足の甲に当たる感触は中隊長さんの玉袋に相違ない。
湯に漂うフニフニとした感触がとても不快だ。
鳴尾さんはこの世界に来て既に数年が経っているらしい。
トラックに轢かれた瞬間に異世界転移するという、
もはやベタすぎて誰もネタにしない経緯でこの世界に来たのだという。
しかし我慢も限界だ。
湯の温度はジリジリと上がっていてとんでもなく熱いし、
何よりも男同士が密着しているこの状況が不快すぎる。
「待ちなさい植井くん」
たのむからこんな状況で引き止めないでくださいよ。
「十まで数えてから上がれと親に教えられなかったかい?」
見たところ、30代前半だろうか。
真顔でこんなことを言うのだから、
ギャグで言っているのか本心なのか全くもって計り知れない。




