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異世界で空を飛ぶって経験ってのは、もっと気分爽快なもんだと思ってたけどなんか気持ち悪かったよ

1つ目の策は糞煙で魔獣を混乱させること。

2つ目増水した川で足止めをすること。


そして、3つ目の策とは……


「名付けて“ウェイ砲作戦”だ!」


説明しよう、“ウェイ砲作戦”とは“ウェイ砲”を用いた作戦である。

基本的にはゴザの発破によって石弾を発射する“ショットガン”がベースとなる。


だが、今回の弾丸として使うのは豆粒大の小石ではなくソフトボール大の石球。

これは、そこらの石ころをベースに土属性の魔法使い達が生成したものだ。

弾の数は20個ほどあり、形状、大きさ、重さがほぼ同じになるようにしてくれている。


しかし、この大きさの石弾を複数同時発射するにはゴザの発破では威力が足りない。

そこで多田の質量操作が必要になる。

石弾の重量を限界まで軽くして爆発で加速させ、トップスピードで能力を解除。

加速した物体は質量を戻しても速度が変わらないのは既に承知の通りだ。


更に、石弾の加速と正確な砲撃に必要なのは、精密かつ耐久性の高い砲身だ。

これはアネモネの竜障壁(ドラゴンスケイル)で形成する。

緻密な操作が可能で猛攻を防げる鉄壁の強度があるので精密射撃も可能だろう。


そして、俺が砲身の角度や爆発の威力・射撃精度・タイミングの全てを能力(ウェイ)でサポートする。


パーティメンバー全員の能力を最大限発揮した連携攻撃。

それこそが“ウェイ砲”なのである。


ちなみに“ウェイ砲”を使う時のフォーメーションはちょっと間抜けだ。

耳栓をして地面に座り、頭上に2つの石弾を掲げる多田。

その多田におぶさるようにくっつくアネモネ。

さらにその後方で膝立ちになり、石弾に向けて杖をかかげるゴザ。

横で立ってるだけの俺。

挿絵(By みてみん)

「ウェイくん、臭いからもう少し離れてほしいなーって!」


とてもじゃないが、大技を放とうとしているようには見えない。

でもさ、勝つためにはカッコ悪いのなんて気にしてられないだろ?


「第一射いくぞ……()()()

――仰角45度、方位そのまま、発破は最大火力でいく


「石弾、めいっぱい軽くしたよ!」

「竜障壁のバレル展開は既にできておるぞ、はようせい」

「熱量超収束……もうちょっと、もうちょっと……よし、最大火力いけるよーっ!!」


狙うのは、魔獣の群れの奥に見えたクソデカ馬車だ。

何者かは不明だが、群れの最後尾にいる時点で黒幕確定だろう。

そこを叩けば俺たちの勝ちが決まるに違いない。

根拠はないけどな!


「ウェイ!!」

「ぶっとべー!!全力全開最大発破ぁっ!!」


皆は本物の大砲の音を聞いたことがあるだろうか?

俺は自衛隊が富士山近くでやってる総合火力演習ってので見たことがあるが、アレは凄いぞ。

耳ではなく腹の底に響いて肌で音圧を感じる事ができる数少ない機会だと思う。


今の爆発音はまさにそんな感じだ。

何の確証もないが、俺はその音を聞いただけで発射の成功を確信した。


ウェ~イ(第二射用意)


第2・第3ウェーブの魔獣の群れを飛び越えた先にある着弾地点は遠く、起伏のある地形なので俺たちからは見えない。

だけど今の俺には歴戦の“鷹の目”がついている。


ウェイ(着弾観測)!」


俺が双眼鏡で見るのは、魔獣の群れではなくその逆方向。

領主館へ続く丘に立つ片翼の退役軍人だ。

年老いて戦線は退いても、その目と勘は死んじゃいない。

ジェスチャーで着弾地点からの角度修正の指示を伝えてくれている。


ウェイ(仰角50度)ウェ~イ(右に5度)ウェイ(発破出力そのまま)!」

「2発目、準備おっけーだよーっ!」


「ウェイ!!」

「うおりゃー!!!全力全開最大発破ぁっ!!」


第二射、第三射、第四射……


「ひぃ……ウェイくん、あと何発うつのーっ!」

「当たるまでだよ、もうちょっと頑張ってくれ」


何度も全力で魔法を使っているゴザの疲労は大きいようだ。

でも、修正幅が小さくなったから命中も遠くはない。


第3ウェーブが到達する前に当たってくれよ……。


「第八射……ウェイ!!」

「んなぁー!!全力全開最大発破ぁっ!!」


後で聞いた話だと、大型トラック大のものを大砲で狙撃するのはかなり無茶な事らしい。

質の良い石弾と精密な砲身、正確な爆発力の調整があったとしてもだ。

風向きとか諸々の条件もあるだろうし、普通に考えればこんな物は当たらない。


ウェイ(着弾観測)!……命中だ!!」


それでも当たったのは、きっと運が良かったんだろうな。

何にせよ、結果オーライってやつだ。


糞煙の向こうの群れに目をやると、魔獣は完全に統率を失っていた。

どうやって魔獣を操っていたかはわからないけど、読みは当たった。

でも、これでは終わらない。


「真・ウェイ砲、射撃準備!」


「……植井君、なにそれ?」


事前説明はしていなかったので全員がポカンとしている。

それもそうだろうな、俺も今思いついたばかりなんだし。


説明しよう、“真・ウェイ砲”とは人間大砲である。

ウェイ砲と基本的には同じだが、弾丸が特殊仕様なのだ!

弾丸は俺とアネモネが入ったカプセル状の竜障壁(ドラゴンスケイル)弾だ。


「またんか!なぜワシまで飛ばねばならん!?」


だって、そうしないと俺がミンチになるだけだし。


「飛ばすのはいいけどさ、なんでそんな事……もう町は守りきったも同然だよっ?」


ゴザの言う事もわかるが、まだ根本が解決していない。

黒幕がいるなら捕まえて締め上げて動機と手段を吐かせなければ、きっとまた同じことが起きる。

犯人のもとへ向かうには大量の魔獣が闊歩する平原を突っ切らなければならないが……

そんな事は上級冒険者でも容易ではないだろう。

それなら、上空を飛んでいけばいいという理屈だ。


多田は困惑しつつも、ゴザはニヤニヤしながら作戦に賛同してくれた。

俺が吹っ飛んでいくのを想像するとすごく面白そうだとさ、いい性格してやがる。


アネモネは最後まで抵抗を続けたが、作戦後のグリフォンジャーキーで嫌々ながらも承諾。

「うぇ……おのれリュータめ、何という悪臭じゃ覚えておれよ」


竜障壁弾は可能な限り小さくしたいので、俺とアネモネは密着する事になる。

狭い密閉空間では糞の匂いがダイレクトアタックで非常に辛い。

俺はともかく、高貴な身分のアネモネには耐え難いだろうな。


「二人分の重量はバッチリ軽くできたよー」

「っははは、こっちも準備OK!死んでも恨まないでよねウェイくんっ!」


「ウェップ、気持ち悪いのう……」

「おい待て待て吐くな、アネモネが吐く前に発射するぞ!ウェイ!」


「はいよーっ!特大全力全開発破ぁ!!!」


一際大きい爆発音で射出された瞬間、ものすごいGで意識が飛びかけた。

特別な訓練を受けていない俺が意識を保てたのは、きっと竜障壁とベルトで下半身を締め付けているのと、質量操作で体が軽くなってるおかげだろう。


高度が上がりきった所で竜障壁をグライダー状に展開。

これで十分な飛距離を出せて正確に目的地へと飛行できる。

ドラゴンにとって空を翔けるのは容易なことらしく、空中での操舵は完璧だった。


「オエ……もう無理じゃぁ……」

「やややめろ!こんな密着した密室で嘔吐されたら全身がゲロまみれになるッ!!」

「何を言うとるかたわけ、お前のせいでワシは既にクソまみれなんじゃぞ」

「わー!!やめろ!着地まで耐えろっておまえ!」


クソデカ馬車の側に着地した俺は素早く馬車まで距離を詰めて中の様子を伺う。

そこにいたのは……さほど意外でもない人物だった。


「なんだまたテメェかクソ野郎が……」


以前、ゴザに絡んで腕相撲で圧倒され、多田のおっぱいをディスり、裏路地で襲ってきた“かませゴリマッチョ”。

いや、“モブゴリマッチョ”だっけ?そんな事はどうでもいいや。


命に別状はなさそうだがかなりの怪我をしているらしい。

ウェイ砲の当たり所が良かったんだな。


「久しぶりだなおっさん、悪いがこれで積みだ、諦めてくれ」


かませモブの奥にあるのは……機械でいいのか?

ドラム式洗濯機に見えなくもないが、どうやらかなり精密な物のようだ。

明らかにこの世界の技術レベルとは不釣り合いって感じがする。

さては、これが魔獣を操っていた“何か”だな?


石弾がこれに命中して派手にぶっ壊れ、飛び散った破片でおっさんが怪我したって感じだろう。


「往生際が悪いおっさんだな、自警団に捕まったはずじゃなかったか?」

「ケッ……あんなクセー所にいつまでもいられっかよ」


本当に懲りないやつだ。

今回の黒幕がこいつって事は、動機は俺たちへの復讐とか?


「今度こそ完敗だろ、応急手当してやるから全部吐けよな?」

「寝言は寝て言え、この怪我でもお前一人くらいは始末できらぁ」


どうやらまだ戦うつもりらしい。

俺はナイフを出してゆっくりと戦闘態勢に移った。


「知ってるぞ……お前弱いだろ、ナイフなんて使えんのか?」

「ウェイ……よく知ってんな、でも勝算がないとここには来ねーよ」


モブゴリの得物は湾曲した蛮刀……いわゆるマチェットナイフってやつだ。

リーチの短いこちらは、普通に考えれば圧倒的に不利だろう。


モブゴリが距離を詰めようと踏み出そうとしたその時―――

()()()

俺はある物語をヤツの頭にブチ込んでやった。


モブゴリの足は止まり、そのまま前かがみになる。

誰がどう見ても隙だらけの状態だ。


「今だアネモネ!」


俺が合図をすると同時に、上空からの飛来物がモブゴリに襲いかかる。

まぁ、竜障壁カプセルに入ったアネモネが落ちてきただけなんだけどな。

技名を付けるなら、竜落し(ドラゴンプレス)ってのはどうだろう?


子供の体重とはいえ、上空からの落下物をモロにくらえばそのダメージは大きい。

ノビたおっさんをロープで縛ったらこれで完全ゲームセットだ。

言ったろ?勝算がないと来ないってな。


「オッサン、今度こそ諦める気になったか?」

「チッ……こうなりゃ全部吐くよ……っておめぇクッサ!お前が吐いてんじゃねーか!?」

「これは俺のゲロじゃねぇ!アネモネのだ!」

「知るか!っつーか糞まみれの手で触るんじゃじゃねー!クサっ!きったねー!」


ここまで騒げるってことは、見た目ほど重傷でもないらしい。

一応、応急手当くらいはしてやるか。


「ウェイウェイおっさん、この機械はなんだ?どこで手に入れた?」

「チッ……わかったよ、こいつは――」


ウェイ(おっさんを守れ)


その瞬間、おっさんの眼前で何かが弾けた。

おっさんの命を狙った飛来物を竜障壁が防いだのだ。


「おやおやぁ~?気配は消していたんですがおかしいですねぇ……」


振り返るとそこには奇妙な仮面の男がいた。

全身黒ずくめで輪郭がボケて見えるのは隠蔽魔法か……?


「ウェイ……アンタが本当の黒幕かい?」


敵の襲撃を見抜いて防いだ最高にカッコいいシーンだ。

いや、全身糞&ゲロまみれでカッコいいってのは無理があるか……。


「い~え、私めの上司が黒幕……と言えるかもしれませんねぇ

 ふむ、そちらのお嬢さんの守りは硬そうですし、始末は無理そうですねぇ」


「ウェイ、そんな事言わずにかかってこいよ、相手になってやるぜ?」


「私の初撃を見切ったお方と戦うのは分が悪そうです……

 申し訳ございませんが、今回は退かせていただきましょう」


「おれはウェイだ、あんたも名前くらい教えてくれよ」


「わたしは……スミス名乗っておきましょう、以後お見知りおきを」


そう言うと、スミスと名乗る男は影に溶けるように姿を消した。

退いてくれてよかった……相手になるなんてハッタリかましたけど

あんな強そうなのと戦うのなんて絶対無理だって。


「のうリュータよ、お主はなぜ襲撃に気付けた?ワシは気付かんかったが……」


「しいていうなら勘って事になるのかな」


これは謙遜ではなく、スカしているわけでもない。

小悪党を追い詰めて捕獲して情報を吐かせようって時……多くの物語ではどうなる?

情報を引き出す前に自殺するか殺されるってのがよくあるパターンだよな。

むしろありすぎて、そのシチュになると「どうせ死ぬんだろ?」って思う。


毒や狙撃、護送中の襲撃もだし、脳を焼き切る呪印みたいなパターンもあるけど……

俺はアレが嫌いなんだよ。


だから半分冗談のつもりでアネモネに竜障壁を張らせたらまさかのビンゴ。

正直に言って空振りする前提だったから、本当に暗殺者が来てめちゃくちゃ驚いたよ。


「それともう一つ、この下賤な男が動きを止めた理由についてじゃが……」

「コイツに最高に幸せな夢をプレゼントしたんだよ」


それは、文庫本一冊分の情報量で綴られた濃厚な官能小説だ。

思春期の童貞特有の妄想力にコイツの性癖をミックスした、フランス書院もビックリの大傑作。

なんで性癖を知ってるかって?

かつてコイツはこう叫んだ、「乳はデカくて多けりゃそれが正義よ!」と。

それだけ分かれば多乳・巨乳マニア向けにストーリーを構築するだけでいい。

この世界には存在しない奇抜で過激なプレイの前に、ヤツは無防備に前かがみになるしかない。


もちろんアネモネにはそんな事は言えないので、内容は伏せておく。


「まったく面白い男よのう……」


謎の男はともかく、犯人は捕獲したし事態はじきに収拾するだろう。

近くをうろつく大量の魔獣も、もうじき王都からの魔王軍が到着してなんとかしてくれる。

今はとりあえず、一刻も早く風呂に入りたい気分だ。

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