異世界でも自分磨きはしっかりやっていかないとね!だって女の子なんだもの。
「いくわよオタコさぁぁああん!!」
「はい、お願いします!!」
今の状況はこうだ。
現在地は町はずれに借りた民家の裏手。
私は今、ゴリサンにお願いして戦闘訓練をしている。
グリフォンの一件の後で自分の能力の正体を知って、なんだか胸のつかえが取れた感じがする。
今となってみれば、なんで怪力能力だと勘違いしていたのか不思議なくらいだ。
武器を軽くして素早く振り回し、最高速度の時に武器を重くする。
取り回しの良さを考えるなら、インパクトの瞬間だけ武器を重くするのが理想的だ。
これまでは無意識でやっていたせいで、武器を持たない格闘戦ではあまり活かせなかった。
でも、今ならできるはずだ。
拳とナックルガードを武器と見立てて重量操作を厳密に意識する。
インパクトの瞬間、重くするのは拳だけではなく自身の体重全てだ。
細かい説明は省くけど、パンチ力は体重が重い方が強くなる。
年頃の女の子としては自分の体重をあえて重くするなんてすごく嫌なんだけどね……
「んん~!いいわ!いいパンチよオタコさぁあん!」
「ありがとうございます!」
ゴリサンにオネエ言葉を教えたのは……きっと植井くんだな?
ゴリサンは見た目が怖いからこの方が親しみやすいんだけど、緊張感がなくなるなぁ。
「ま~だまだけるわよ、さぁいらっしゃい!」
「おねがいします!」
これまで一人で試行錯誤した結論は、拳や脚での打突には限界があるということだ。
以前に比べれば格段に攻撃力が上がったとはいえ、中型以上の魔獣相手では決定打としては心もとない。
現に今、ゴリサンを相手に“いい勝負”ができる程度なのがその証拠だ。
おそらく、近接格闘において質量操作が真に本領を発揮するのは、受け流しと投げになる。
相手の力を利用し、体重移動で受け流しつつ投げるのは柔道の本分。
私にとって空手よりも得意とする分野だ。
まずは自身の体重を重くして重心を低く保てば体重移動が安定する。
体重を軽くされた相手は体勢を崩すのも容易だ。
フラついた相手を巻き込むように背負って投げる。
そして地面に叩きつける瞬間、相手の体重を最大まで重くする。
そうすれば、相手は自重で地面に叩きつけられて大きなダメージを負うはずだ。
ズシン……と地鳴りのような音を立てて巨体が地面に転がる。
「イタタタ……オタコちゃんすごいわ、ワタシこんなの初めて!」
「一本背負いって言うんですよ、すごいでしょ?」
今回はスパーリングなので、地面に叩きつける時に体重を重くさせるのは無しだ。
ずっと柔道をメインでやってきた私だけど、じつは一本背負いはあまり得意ではない。
というのも、一本背負いは自分より大きい相手に使うのに向いた技だからだ。
女子柔道の大会はもちろん、男子との合同練習でも私より大きい選手はいなかった。
必然的に体格を活かした腰技や足技がメインになるわけだけど……
こんなことなら手技も練習しとけばよかったなぁ。
「んふふ、楽しくなってきたわ、まだまだイケるわよ!」
「はい!次は打ってきてください!」
たぶんだけど、私の質量操作は守りにも応用できると思う。
大盾を使う場合は、盾の質量を重くすればするほど衝撃に耐えやすくなるだろう。
また、攻撃を受ける際に相手の質量を軽くできれば攻撃力も大きく減衰するはずだ。
私の能力は接触している必要があるので、相手を予め軽くしておくことはできない。
だから、攻撃を受ける一瞬の間でどれだけ相手を軽くできるかが一番の課題だ。
「そおーれジャブ!ジャブ!」
「はっ!やぁっ!!!」
相手に接触する瞬間に相手を軽くするなんて無理ゲー!
というか、体格差がありすぎて多少軽くした所で焼け石に水だ。
合気は専門外だからどれだけ集中しても受け流しきれない。
なら、逆転の発想だ!
相手を軽くするのではなく、自分自身を限界まで軽くする。
「重めの一発いくわよー!!」
唸りを上げて迫る拳を、私はあえて正面から受け止めた。
大きな拳をガードする前腕以外の力を抜き、後方へ跳躍。
ゴリサンはきっと、手応えのなさに驚いているだろう。
それはきっと、レースのカーテンを殴るよりも軽い感覚。
軽くしなやかに衝撃を逃がせばダメージも軽くなる……。
はずだと思ったんだけど、やっぱりものすごく痛い!
でも、完全な失敗というわけではない。
きっと普通にガードしていたとしたら“痛い”で済んではいないだろう。
「あらら、オタコさん大丈夫?」
「ケホ……ええ、なんとか大丈夫です、ありがとうゴリサン」
型やイメトレも大事だけど、やっぱり実戦形式が一番ためになる。
木人を相手にするよりもずっと学びの多い一戦だったし課題も見えてきた。
「ンフフ、卒業前に少しでも役に立ててよかったわ」
「そっか……もう出会ってから2週間になるんですね、早いなぁ」
社会適応のために共同生活をしたこの2週間はとても濃い時間だったと思う。
私の能力はその気になればすごい破壊力を発揮してしまうので、能力をフルに発揮した戦闘訓練をしたくても相手が見つからないのが困りものだ。
その点、ゴリサンは近接格闘において完全に格上なので安心して打ち込める。
タフなだけじゃなくてフットワークも軽く、腕が4本あるので手数も多い。
純粋な格闘戦においてはゴリサンを上回る相手はそういないだろう。
なによりも聡明で心優しいっていうのが素敵よね。
定期的に訓練相手になってほしいけど、そうも言ってはいられない。
ゴリサンも明日には適応訓練を終え、集落での新生活が始まるのだ。
「ゴリサンとの訓練が最後だと思うと少し残念です」
「もう……寂しいこと言わないの、また一緒に訓練しましょ!」
ここに芽生えたのは、世界も種族も超えた強い絆だ。
ゴザちゃんやアネモネちゃんも大切な仲間だけど、それとはちょっと種類が違う。
拳を交えた相手とは信頼関係が生まれるのだ。
「ええ、またきっと!」
差し出された大きな拳に、わたしはそっと拳を重ねる。
グータッチなんて今どき少年誌でも見ないよね。
ちょっと照れくさいけど、なんだかとっても満たされた気持ちになれた。




