異世界でも最近流行りのスローライフ的な?魔獣との共同生活も悪くはないよ
「ウェーーーーイ」
今の状況はこうだ。
現在地は町の北東にある集落近くの農場。
俺たちは今、全速力でアホみたいにデカいトナカイから逃げている。
草食動物だからって穏やかだとは限らないんだな!
しかしこれも想定内。
今回は、俺の声がギリギリ届く遠距離から交渉を持ち掛ける作戦だった。
そして、交渉に応じる気が無いようなら一目散に撤退する。
端っから戦う気なんてカケラもないのだ。
グリフォンの一件で俺たちはまた一つ賢くなった。
ゲーム的に言えばレベルアップというやつだろう。
一番の違いは、事前の調査に時間をかけるようになったことだ。
まずはダリアさんの協力のもと、魔獣討伐の依頼内容を詳細まで調べ上げる。
目撃証言や被害状況から、危険度が低く知能の高そうな討伐対象が俺たちの獲物だ。
必要に応じて情報屋に小銭を握らせたり、現地に訪問して現地人に話を聞いたりもした。
多田はゴザとアネモネを担いで全速力で逃げ、その背中はアネモネの竜障壁が守る。
近づかれたら閃光爆破で目潰しをして更に逃げる。
俺はどうするかって?逃げ足だけは自信があるから任せてくれよ。
獣の鼻を麻痺させる匂い袋やマキビシも用意している。
徒競走の速さと逃げ足ってのは別物なんだぜ。
事前調査、対話特化、対話が無理なら逃げる、可能な限り戦わない。
これが俺たちが構築した必勝パターンだ。
姑息だと笑ってくれてかまわない、どうせ俺は物語の主人公になれないタイプだ。
安いプライドなんかより自分と仲間の命が大切なんだよ。
この作戦で現在の戦績は二勝一敗。
今回は交渉決裂して敵前逃亡となったが、既に2件は交渉成立してるんだから戦果としては悪くないはずだ。
ということで、炎狼同様、ここからは2体の魔獣に言葉と社会のルールを教えて社会適応させる期間に入るわけだ。
腕が4本のゴリラがゴリサン。
直立すると身長は2.5mほどで、なかなかデカい。
全身モジャモジャの毛深いカバはボブ。
我々の知るカバと同程度のサイズだが十分にデカい。
どちらも人の済む領域で生活を始めたせいで討伐依頼が出されていた。
幸いなことに被害は作物や建物だけで犠牲者は未だゼロ。
2匹とも言葉や社会のルールを学ぶ機会がなかっただけで、知能はとても高い。
どちらも一般的な個体より一回り大きいようだ。
魔界では瘴気の影響で特殊な個体が生まれやすいらしい。
俺の提案に全面的に同意してくれたとはいえ、このサイズの獣が間近にいるとかなり怖いぞ。
魔獣の社会適応にかける期間はおよそ2週間。
町はずれに借りたボロ屋で共同生活を送りながら、みっちりと社会適応させていく。
まずは基本的な社会のルールを教え込んでいくが、これは簡単だった。
ウェイの一言で文庫本一冊相当の情報量を伝えられる能力の本領発揮だ。
時間を空けて同じ内容を何度も繰り返し伝えることで理解度を高めていく。
まぁ、送る情報量に比例して疲労感も半端ないんだけどな。
言語については能力と並行して皆が交代で教えていく。
知識だけでなく、実際に色々な人と会話するのが会話上達のコツだ。
これには町の知人にも協力してもらい、話し相手になってもらっている。
勉強があまり好きじゃなかった俺からすると信じられないが、何かを学ぶというのはかなり楽しいようで、ゴリサンもボブも熱心に取り組んでくれた。
魔族登録すれば冒険者に命を狙われなくなるっていうのもあるだろうな。
ちなみに二人の進路は既に決まっている。
今後は近隣集落の一員として用心棒をしながら土木・建築・農作業を手伝う事になる。
集落の住民は生活が楽になるし、野盗や魔獣に怯える事もなくなる。
ゴリサンやボブは安全快適な寝床と食料を手に入れられてwin-winの関係だ。
ボロ小屋での共同生活に慣れてきた頃になると、俺はゴリサンやボブと雑談する事が多くなっていた。
最初は言葉の上達のためにと思っていたんだけど、これがなかなか興味深い。
文明圏を離れた野生の世界での生活や恋の話。
舌がとろけるほど美味だけど全身が麻痺する木の実の話。
他の個体よりも知能が高い事で感じる違和感や孤独感。
魔獣として冒険者から命を狙われる不安と恐怖……。
中でも気になったのは、人の生活領域に出てきてしまった理由についてだ。
高度な知性を持たない魔獣達が東の山岳地帯に集まっているらしい。
それも10や20ではなく、数百、あるいは数千にも及ぶ規模だとか。
それで危機感を感じたゴリサンやボブは山を離れて人里に降りてきたらしい。
図体のデカいつよつよ魔獣でも、数には勝てないって事だな。
最近は小型魔獣の討伐依頼が極端に少なく、逆に中型魔獣の討伐依頼が多いってダリアさんが言ってたけど、これが原因みたいだな。
後でギルドに報告しておこう。
俺は数々のラノベやアニメ、ゲームで見てきたから分かるぞ。
これは近々大型のタワーディフェンスイベントかボス戦が発生するやつだ。
どんなクソ作品でも、こんなに分かりやすいフラグが発生しといて“何もありませんでした”なんて事は絶対にありえない。
もしくは、何もなかったと思わせて裏で致命的な事態になってるパターンだ。
今のうちに逃げる準備を進めておこう。
「うわ……ウェイくん、なにしてんのそれ?」
「何ってゴリサンとボブのうんこを固めて乾かしてんだよ」
ちなみに、以前来た炎狼のうんこもある。
「なにそれ、ウェイくんの趣味とかっ?」
「ちげーよ、肥料とか狼煙とか色々使えんの」
「クサ……ちゃんと体を洗ってから中にはいってよねー」
全く余計なお世話だ。
うんこに命を救われる事だって世の中にはあるんだぞ。
魔獣達と勉強や雑談をしたり、一緒に飯を食って笑い合ったり。
合間を見てゴザの新武器開発やネコ商会と打ち合わせを進めたり……。
楽しい時間というのは過ぎるのも早いもので、あっという間に2週間が経った。
案外俺も、魔獣の社会適応支援ににやりがいを感じていたらしい。
卒業証書代わりにスカーフをプレゼントし、ギルドで魔族登録を済ませれば俺たちもお役御免。
炎狼の時と同様、撃退扱いの成功報酬を受け取って一件落着だ。
短い期間だったけど、教え子が巣立っていくってのは嬉しいもんだね。
「グリフォン討伐に続いてコンガスとドレヒポスの魔族登録まで……この短期間に凄いですね!」
ダリアさんは真正面から褒めてくれるからなおさら嬉しくなる。
いつも明るく誠実な素晴らしい人だなっていつも思うよ。
「これもダリアさんのおかげだよ、いつもありがとう」
実際、ダリアさんにはかなり助けられている。
依頼内容の事前調査はもちろんだし、町はずれに借りた空き家もダリアさんの紹介だ。
オフの日にはわざわざ足を運んでゴリサンたちの話し相手にもなってくれた。
本当に感謝してもし足りないよ。
「いえいえ、これも仕事ですから」
「今度また食事でも奢らせてもらうよ」
ダリアさんにはまた別の形でもお礼をしないとな。
ちなみに、山岳地帯の魔獣集結については本部の対応待ちとの事だ。
そんな悠長な事でいいのか?
俺は今のうちに逃げ出す準備をしっかり進めておくとしよう。




