異世界で手に入れた能力の秘密が明らかに……!ってもう気付いてた人もいるみたい
今の状況はこうだ。
無事に依頼を達成した私たちは町へ戻る馬車に揺られている。
往復の移動時間は野営を挟んで馬車で丸一日ほどだ。
最初は馬車での移動や野営に戸惑っていたけど、最近はすっかり慣れてきたと思う。
まさか、あんな大きな魔獣を倒しちゃうなんて私達も立派な冒険者よね。
討伐した魔獣は原則的に討伐者のものになるけど、あのサイズは持ち運べない。
だからあの後、グリフォンはギルドの専門スタッフに引き渡す事にした。
種族にもよるけど、爪や牙、毛皮、羽根、骨肉、鱗や固有の臓器など換金可能な部位はかなり多く、食用や日用品、薬用、研究用や呪術・魔術・錬金術の素材や触媒など魔獣の用途はとても幅広い。
でも、あのサイズは解体も輸送も簡単ではないよね。
だから、中型以上の魔獣討伐では解体から換金までをギルドに依頼し、手数料を差し引いた分を報酬と一緒に受け取るのが一般的だ。
手数料も安くはないけど、手間を考えればこれも必要経費だよね。
ゲームみたいにドロップアイテムが出たら楽なのになぁ。
そんな事を考えながら、私は空を見上げてみる。
空は黄色く澄み渡り、暖かな風と馬車の揺れが心地よい。
大きな事を成し遂げた満足感もあって、とても晴れやかな気分だ。
そして、隣りにいる師匠はというと……
「視線が煩いぞ雌牛、乳と目を潰してやろうか」
相変わらずのご機嫌ナナメ。
視線がうるさいって表現は初めて聞いたよ。
しかも出会った時の呼び方に戻ってるし……。
でも……まぁ仕方ないよね。
あの状況ではベストな選択だったとはいえ、嘔吐するほど振り回されたら機嫌も悪くなる。
私も全力でブン回してちょっと悪かったなーとは少し思っている。
正直に言ってあの瞬間が全く楽しくなかったと言えば嘘になるけどね……。
いや、むしろちょっとスッキリしたまである。
他愛のない会話をしたり、居眠りをしたりしているとほどなくして本日の野営地に着いた。
野営地でする事と言えば何か。
そう、寝床の用意と夕飯の調理だ。
本日のメニューはグリフォン肉がメインディッシュとなる。
新鮮なグリフォン肉が手に入るなんてものすごくレアな体験だ。
食肉販売店でも見たことのないこの貴重な肉で師匠に機嫌を直してもらわないとね。
「愚か者が、ワシがその程度でなびくわけなかろう」
まぁ師匠、見ていてくださいよ。
とびっきりのグリフォン料理を作りますから!
と、大見得を切ったのはいいけど……。
結論から言えばグリフォン肉はものすごく不味かった。
「ウェ……強い獣が美味いのはトリコの世界だけだな」
「お姉様、私にはちょっと……その、あまり合わないかなーって」
ゴザちゃん、無理しなくていいよ。
どの部位も筋っぽくて固くて大味で獣臭い。
肉食系獣肉の悪いところが全面に出た本当に不味いタイプの獣肉だ。
ガンテツさん直伝のハーブ塩でも全く歯が立たない。
キング・オブ・クセ肉。
脂肪を丁寧に取り除いて乳製品に漬け込み、ワインで煮て生姜とにんにくで味付けしたり香草パン粉でカツレツにすればあるいは……
とは思ったけど、野営地でそんな手間のかかる下ごしらえや調理をするのは無理だ。
まだまだ大量に肉はあるから後でチャレンジする……価値があるかなぁ?
「フン、これがあの小鳥の肉か……一口くらいは食うてやるかのう」
師匠、そのステーキはやめたほうがいいと思うけど……。
「ふむ……この肉を調理したのはおヌシか、オタコ?」
「そうなんだけどごめんね、すぐに他のを用意するかr」
「うむ……うむ!!最高に美味いではないか!!!」
どうやら師匠には大好評だったらしい。
ドラゴンって硬いだけで舌がバカなのかな?
「おいおいアネモネ、そんなに気に入ったのか?俺のも食っていいぞ」
「おねーさん、私のお肉もたべていいよーっ!」
「本当か!?こんなに美味い肉を譲るとはいい奴らじゃのう。
これまで誤解しておったわ!すまんかったな、カカカ!」
植井君もゴザちゃんも体よく押し付けてるね。
私もそうするけど。
「ねえ師匠、もし良かったら私の肉も食べませんか?」
「ふむ、そこまで言うなら食ってやらんこともないのう」
「でもその前に、一つ聞きたい事があるんです」
「なんじゃ、もったいぶらずはようよこさんか」
聞きたい事というのは、私が大盾ごとグリフォンに弾き飛ばされた時に言われたあの言葉だ。
「『盾を軽くするでない』っていうのはどういう意味なんです?」
『突っ込むな』とか『守りを固めろ』と伝えたい時に『盾を軽くするな』とは言わないよね?
「さて、そんな事を言ったかのう?それより肉をよこすがいい」
「それなら植井君に聞こうかな、グリフォンに最後の一撃を入れる時に私に言った言葉だけど……」
「ウェーーーーーーーーーーーイ!!」
――インパクトの瞬間を意識して“重く”打ち込め!
「アレってどういう意味だったのかなって」
ちゃんと理解はできてないけど、全部同じ所でつながっている気がする。
きっとそれは、私の怪力能力に関する事だ。
「ああ、それなら帰ってから話そうと思ったんだけどさ……」
「なんじゃ、おヌシは気付いておったのか?」
「いや、俺もアネモネの『盾を軽くする』の発言で気付いたんだよ」
ごちゃごちゃ言ってないで結論だけ教えてくれないかな?
「オタコの能力は怪力じゃないんだよ。
アネモネ、それで合ってる?」
「うむ、ヒュムにしてはなかなかの洞察力じゃの」
おっと、これはものすごく想定外。
「でも、重い物を簡単に持ち上げたり戦鎚も軽々振り回せるよ?」
「そう、だから俺たちは怪力能力だと勘違いしたんだ」
怪力能力ではない事はすぐに証明できるのだという。
「オタコはこれを千切ることができるか?」
手渡されたのは馬車の荷紐だ、太さは1cm弱。
こんなにロープを人の腕力で引きちぎるなんて、できるはずがない。
「そう、普通の人より“ちょっと力持ちなだけ”のオタコじゃ無理なんだ」
「でも、大岩をポイっと投げちゃうお姉様なら簡単に切れそうだよねっ?」
実はこの事にはかなり早い段階で気付いていた。
集落での土木作業の時にも杭を引き抜けなかったり瓶が開けにくい時もあった。
その時は能力に発動条件でもあるのかと思っていたけど……そうじゃなかった?
「それじゃ問題、大岩を簡単に持ち上げるにはどうしたらいいでしょうか?」
「持ち上げるってそんなの……カスカスの軽い大岩でもないと無理だよ」
「……あ!それだよお姉様!」
「「物を軽くする能力!!」」
見事にゴザちゃんとハモった。
ちょっとうれしい。
「ってことでアネモネ大先生、採点をお願いします」
「カカカ、面白い奴らじゃ。
まぁ半分正解ということで甘めに見て70点じゃな
しかしリュータはわかっておるのだろう?」
師匠、植井君への呼び名に心の距離の接近を感じます。
べつにかまいませんけど。
「そうだな……俺の予想だと質量変化能力って所かな」
しつりょう……?よく分からない言葉を使うのはやめてほしい。
こっちは全教科赤点ギリギリなんだからね……。
いや、見栄を張りました……地理と生物以外はほぼ赤点です。
「つまり、物の重さを変えられるって事だよ、軽くするだけじゃなくてな」
「うむ、100点満点をやろう」
植井君が言うには、私達の能力はこの世界の人の魔法と違って詠唱や明確なイメージが不要で、常に無意識で発動する。
意識することなく手足のように自在に扱えるからこそ、物の重さを変えているという実感がなく、怪力能力と錯覚してしまっていたのだ。
「でもそれって、片手でハンマーを止めた説明になるの?」
「えっと…そうだな、屈強なおっさんに発泡スチロールの棒で殴られたら痛いと思う?」
なにそれ、どんな状況か想像しただけでもちょっと面白い。
でもきっと痛くはないし、たぶん片手で止めることすら可能だと思う。
「そう、オタコは戦鎚を振り回す時にものすごく軽くしているんだよ」
「でもそれだと攻撃力がほとんどゼロだよね?」
「だから、インパクトの瞬間だけ元の重さに戻してるんだよ、それも無意識にな」
「たまーに元の重さより重くなっておったようだがのう」
振り回している時はカスカスで攻撃力がなく、ヒットの瞬間だけ重く破壊力がある。
師匠はヒットの瞬間を見切って攻撃力がほぼゼロのタイミングで戦鎚を止めたんだ……。
逆に、ヒットの瞬間に武器の重さを最大化できればその威力も爆発的に上がる。
グリフォンを仕留めた最後の一撃の時に植井君が“重く”と言ったのはそれが理由だったんだ。
「お姉様、これまで能力の自覚なしにそんな複雑な事をしてたの……っ!?」
まぁ、そのあたりはチート能力の恩恵ってやつかもね。
今思えば、以前ギルドで腕相撲した時も妙な感触だった。
力で圧倒したというよりは、相手が踏ん張れずにひっくり返ったような感じだった。
ある程度体重がないと両足でガッチリ踏ん張るのはきっとできない。
近接格闘で能力がほとんど発揮されなかったのも今なら納得できる。
格闘戦で拳を重くする感覚を想像するのはちょっと難しいよね。
でも、能力の正体が分かった今ならやってできないことではなさそうだ。
「で、その肉はもらってもいいのかのう?のう?」
「もう……私を今後雌牛とか呼ばないならいいですよ」
「わかったわかった、オタコでよいのであろう?
ついでにおヌシも師匠とかいう気味の悪い呼び方をやめるがいい」
「わかりまし……わかったよ、アネモネ……ちゃん」
「カカカ、それはそれで気味が悪いのう!」
出会った時の塩対応の理由はまだ分からずじまいだけど、雨振って地固まるというか……
一緒に死線をくぐった仲間だから憎めるはずもない。
さて、お肉は全部アネモネちゃんが食べちゃったから料理を作り直さないとね。
ちなみにこの後、アネモネちゃんは肉の食べ過ぎで吐いてたよ。




