異世界で手に入れた最強の武器、それはドラゴン(鈍器)なのかもしれない。
今の状況はこうだ。
巨大な魔獣に立ち向かう俺たちはついに最強の武器を手に入れた。
その武器は怨嗟の声を上げながら魔獣へと振り下ろされ、息の根を止める。
後世の者たちよ見るがいい、これこそ伝説の始まりである。
早速だが、俺たちは魔物討伐に来ている。
討伐対象はグリフォンと呼ばれる中型の魔獣だ。
グリフォンってのはファンタジー作品でもお馴染みのアレだ。
頭と前足が鷹で翼があり、下半身が獅子のやつ。
依頼のランクとしては俺たち程度でこなせるものではないが、今回は心強い仲間がいる。
この世界で最強クラスと言われる覇竜王のご令嬢、アネモネである。
依頼内容によると、集落にグリフォンが住み着いて住民が避難しているのだとか。
討伐で満額、撃退で半額の成功報酬がもらえる。
まずは、風下の方角から草影に身を隠しつつ集落に近づいていく。
「この匂い……この先の広場あたりにいるよ」
魔法はへっぽこだがゴザの索敵能力は本当に心強いよな。
「鷹の頭の魔獣ならきっと目がいいはずだから物陰から行ったほうがいいとおもう」
この世界に来てから知ったけど、多田の動物に関する知識量はすごいと思う。
“美”と“武”だけじゃなく“知”も兼ね備えるなんてマイプリティエンジェルの魅力はとどまる事を知らないな。
多田が言うには、コンドルのような例外もあるが猛禽類は総じて鼻があまり良くはない。
鷹の目なら視力は人間のおよそ10倍、聴覚も人間以上と考えていいらしい。
魔獣に俺たちの常識がどこまで通じるかは分からないが、戦略の参考にはなる。
徐々に距離を詰めていき、いよいよ襲撃のタイミングを待つばかりだ。
多田の手鏡を使って物陰から見たけど、グリフォンってやつは本当にデカいな。
分類上は中型の魔獣ということになっているが、中型トラックくらいある。
モーフよりもかなりでかいぞ……
アネモネ大先生、戦闘になったら頼みますよ!
フォーメーションはこうだ。
最前線にアネモネと大盾を構えた多田が並び、その後ろにゴザ。
俺は全体を把握できるよう、更に数歩引いた位置で控えている。
作戦は単純なもので、まずは俺が“能力”で交渉を持ちかける。
交渉に応じるようであれば炎狼の一件のように対話し、魔族登録できれば依頼達成だ。
「ウェイ!ウェーイ!ウェイウェ~イ」
ふざけてるんじゃないぞ、命がけの大真面目だ。
交渉に応じる知性があるのか、交渉に応じる気があるのか……。
グリフォンはじっとこっちを見ている。
敵意があるのか?交渉する知性はあるのか?どっちだ……ッ!?
「キェーーーーーーーー!!!!!!!!」
「ウェイ!ウェーイ!」
――鳥頭め……交渉不可だ!ゴザは即座に閃光爆発を!
――皆は目を閉じて耳をふさげ!敵が怯んだら全力総攻撃だ!
これまで攻撃は多田頼みだったけど、今回は最強のドラゴン様がいるから心強い。
「熱量収束、ピカっといくよー……『ウェイ!』閃光爆破!!」
「ギュィィィィィイイイ!!!!」
これまで何度も練習してきたおかげでタイミングもバッチリだ。
人間の10倍の視力を持つ鷹の目にはさぞ効果も抜群だろう!
「ギュィ!ギュィィオオオ!!!!」
視覚と聴覚を奪われたグリフォンは地面を転げてのたうち回る。
しかしああも暴れられたら下手に手を出すのも危ないな。
「それなら私が体当たりでいく!」
多田がもつ大盾は怪力能力を前提とした超重量級の特別制だ。
タワーシールド下部のアンカーを地面に突き立てればその防御力は絶大。
最大級の重量を活かした体当たりなら有効打になるだろう。
と思ったのだが、実際にはそう上手くはいかなかった。
グリフォンの後ろ足に弾かれた多田と大盾はボールのように宙を舞い、地面に叩きつけられ……る寸前でふわりと地面に降ろされた。
「竜障壁にはこういう使い方もあるが……盾を軽くするでない、愚か者め」
器用な奴で本当に助かった。
「グリフォンといったか?魔獣と聞いたが可愛い小鳥よのう」
暴れ狂う強靭な前足がアネモネに襲いかかっているが、いずれも見えない壁で阻まれている。
むしろ強固な障壁によってグリフォン自身が傷ついてすらいる。
「そうじゃれるでない、爪が割れておるぞ?」
尊大な態度が今はすごく頼もしい。
武器も盾も失った多田では戦力としては心もとない。
こうなったらアネモネに……いや、アネモネ姐さんに期待するしかない。
「アネモネ姐さん、やっちゃってくだせぇ!」
我ながら小物臭い口調になってしまったが、これが今の俺の本心だ。
無敵のドラゴンクローでなんとかしてくださいよォーーーーッ!
「フン……無理じゃな」
なんだって?
「無理じゃと言ったんじゃ」
「いや……冗談とかいいからささーっとやっつけて」
「無理じゃと言っとろうが」
「いやいや、本来の姿になれば鋼鉄を切り裂いて魔法もドッカンドッカンなんでしょ?」
「じゃからそれが無理だと言っておる」
こんな呑気な会話をしている間も、グリフォンはアネモネに猛攻を仕掛けている。
なんだかちょっとグリフォンに申し訳ない気がするな。
「ワケあってこの姿で力も制限されておると言ったはずじゃが?」
「じゃあ“本来の姿”ってのには……?」
「それが無理じゃとさっきから言っておろうが」
完全に詐欺じゃねーか!
いや、アネモネは嘘は一つも言っていない。
思い返してみれば、鋼鉄を切り裂く爪も3属性の魔法も空を翔ける翼も“本来の姿に戻れば”という前置きあっての会話だった。
こちらが一方的に勘違いしただけの話だ。
うん、ネコ商会で似たようなことをやってるだけに責めることはできない。
たぶんアネモネは勘違いさせる意図すらなかっただろう。
意図的にやってる分、俺のほうがよっぽどタチが悪い。
「ウェイ!じゃあ今の状態で何ができるんだ!?」
――ゴザ!再度閃光爆破後に岩石生成でき次第、顔面に石弾発破で物理的に目潰しを狙ってくれ!
「なんじゃ、竜障壁だけでは不満か?他には何もできぬぞ」
「ウェイ!まさかの攻撃手段なし!?」
――オタコ!近接攻撃は避けて投石で牽制してくれ、手頃な岩石や瓦礫が4時の方向にある!
「ちなみに竜障壁の展開中は歩くことすら難しいのう」
「ウェイ!それってただの超固いだけだろお前……!」
――アネモネを壁にして距離を取りつつ攻撃を継続!アネモネに当たってもかまわん!
「熱量収束、ピカっといくよー……『ウェイ!』閃光爆発!!」
「ギュィィィィィイイイ!!!!」
効いてはいるが咄嗟に目を逸されたか?
今回はあまり時間を稼げそうにないぞ……!
多田の投石も効いてはいるが決定だにはなりそうにない。
会話しながら全体把握して指揮を執りつつ魔法をサポートってものすごく忙しいな!!
多田への愛を綴る超高速長文妄想ポエムで脳を鍛えててよかったぜ!
牽制は効いてるし相手は前後不覚な状態だから戦況は優勢だ。
でも長引けばいずれこっちにも被害が出る可能性が高くなる。
なんとかここで大きな決定打が欲しい。
ゴザの魔法は決定力に欠けるし、俺のナイフは問題外だ。
戦鎚や大盾のようにそれなりの大きさと重量があって、振り回せる硬い物は……っ!
あった!
「オタコ!ウェーーイ!!遠慮なんかするなよ!」
「植井君、了解!もっちろん!」
一際大きい岩石をグリフォンに放り投げると、多田はそれを追うように大きく距離を詰める。
コレを確実に決めるためにもう一手あれば……
「ウェイくん、岩石生成おっけーだよっ!」
「ナイスタイミングだ!今すぐ撃つぞ!」
「熱量収束……とんでけー!『ウェイ!』石弾発破!!」
高速の石弾がグリフォンの顔面へに襲いかかり怯んだタイミングで先の岩石が追い打ちをかける。
石弾が目を潰せたかは確かではないが、十分な隙ができた。
「おいアネモネ、何があっても壁を消すなよ?」
「うん……?どういう意味じゃ?」
「ごめんね師匠、こういう意味だよ!!」
アネモネの足首あたりの障壁をむんずと掴んだ多田はその手を大きく振り上げる。
「ウェイウェ~イ!オタコ、思いっきりブチかませ!!」
「まてまてまて、待たんかヒューマン!何をするか無礼者が!!」
「何って……師匠が武器になるんだよ?」
片手でアネモネを軽々と振り上げた多田は、何の遠慮をすることもなくそれをグリフォンへと叩きつける。
「「ギョヴェーーーーーー!!」」
今のはグリフォンとアネモネどっちの悲鳴だろうなぁ?
竜障壁とやらが無敵の強度を誇るのならば、それは最強の硬さを誇る鈍器にもなるということだ。
「おいおいオタコー、まだグリフォンは元気みたいだぞー?」
「そうだねー、ちゃんと仕留めないと危ないよねー」
「待たんかお前ら、目が回っ……ウップ」
「おねーさん、がんばってねー」
2発、3発、4発……
いずれも必殺の威力を誇る。
「まだまだぁ!!!」
「のじゃーーーーーーーーーー!!!」
「ウェーーーーーーーーーーーイ!!」
渾身の5発目。
執拗なまでに頭部を狙う殴打の嵐にはさすがのグリフォンもノックアウト。
そして、鈍器として振り回されて怨嗟の声を上げ続けたアネモネも既にグロッキーだ。
「キサマ…ら……ワシにウップ、こんなことしてタダですむと……オロロロロロ」
うーんデジャヴ。
見た目だけは可愛らしい少女が嘔吐する姿を最近見たばかりな気がする。
ともあれ、当初の計画からはかなりズレたが依頼は達成だ。
しかし天下無敵のドラゴン様がただの壁要員だったとは想定外に過ぎる。
今考えればそうだよな、最強クラスの冒険者様だとしたら、どこのパーティにも入れてもらえず一人寂しく飲んだくれてるはずないよな。
しかしながら今回もなんとか結果オーライ。
どうやらこのパーティは運だけはあるらしいぞ。




