異世界でドラゴンとお話したっていうのにずっと人型だから全くその実感がないのよね。
今の状況はこうだ。
現在地は引き続きギルド併設の酒場。
一通りの自己紹介を済ませた私たちは、
料理を囲みながら魔獣討伐に向けて打ち合わせを進めている。
アネモネちゃん……いや、あえてこう呼ばせてもらおう。
「師匠……私に稽古をつけてください」
「頭が湧いておるのか?態度を改めるとは言ったがキサマと馴れ合うつもりはない」
私の拳を止めた見えない壁はきっと魔法の類だと思う。
魔法なら私に真似のできる事ではないので諦められる。
でも、最後の一撃は違った。
見えない壁が消え去った後の全身全霊の力を込めた一撃。
相手が自称ドラゴンとはいえ、あんな細腕で止められるものだろうか?
私はこの世界に来て、どんなに重い物でも軽々と持ち上げられる怪力を手に入れた。
なぜか拳撃の威力はほとんど変わらないけど、戦鎚と合わせればその威力はとんでもない。
大岩を軽々と砕き、大盾を持つ屈強な戦士も圧倒するほどだ。
もし、仮にこの能力を無効化されたとしても威力はかなりのものだと思う。
戦鎚の質量を全身の筋肉で加速させ、私の全体重を乗せて振り下ろされた渾身の一撃。
能力を抜きにしたとしても致命傷は避けられないはずだ。
それを眉一つ動かさずに片手で受け止められるなんておかしい。
きっと、種族差だけではない何か秘密があるはずだ。
この世界で生き抜くためにも絶対に知っておきたい。
……のだけど、こうも毛嫌いされていてはそれも叶いそうにないなぁ。
「師匠はなんで私をそんなに嫌うんですか?」
「強いて言うならその生意気な乳かのう、あとその呼び方はやめい」
完全に梨の礫である。
時間を置いてまた後で聞くしかないかも。
でもこれだけは聞いておかないといけないよね。
「で、師匠は他に何ができるんですか?」
「他に……とはどういう意味じゃ?」
「以前俺たちは戦力確認を怠って酷い目にあってな、
攻撃手段や得意な事を事前にしっかり共有することにしているんだ」
ランドボアの時にゴザちゃんの爆裂魔法で全滅しかけたもんね……。
戦力確認は生存率に直結するって身をもって学んだから二度は繰り返したくない。
「人間にしては殊勝な心がけよのう……
ワシが本来の姿に戻ればその爪は鋼鉄すら容易に切り裂こう。
その翼は空を自由に舞い、頑強な鱗はあらゆる物理的・魔術的攻撃を無効化する。
魔法は水気を主軸として木気と火気の3属性、いずれもそこらの魔術師には負けぬぞ。
他に何か質問はあるかのう?」
つまり……よくわかんないけど攻守共に完璧って事かな?
でも実際にその強さを身をもって感じた私には分かる。
師匠は一つも嘘をついていないし、誇張もしていない。
「それは……ウェイ、言葉通りってことでいいのか?」
植井君は依然として半信半疑と言った感じだ。
私の猛攻を防ぎきったとはいえ、あの可愛い見た目では信じがたいのも分かる。
そしてさっきから黙っているご意見番は……。
「ゴザちゃんはどう思う?」
「そうだね……もしおねーさんが真竜ならそれくらいは簡単だろうなーって」
むしろ、ドラゴンにしては強さの表現が控えめすぎるんだとか。
なんだか珍しくゴザちゃんが緊張しているようにも見える。
「ウェイ……まずは認識を共有するのが先決じゃないか?そもそもドラゴンってなんだ?」
「ウェイ君そんな常識も知らないの?大丈夫ーっ?」
「ゴザちゃん、私からもお願いしたいかな」
お姉さまがそこまで言うなら、とゴザちゃんは先生モードになった。
ゴザちゃんの授業内容を要約するとこうだ。
・この世界では一般にドラゴンと呼ばれるものには2種類ある
・ひとつは現代魔法学における最高・最強の存在である真竜
・もう一つは姿形が真竜に似た亜竜(ワイバーンや竜人など)
・真竜は魔王を含む3体のみが存在すると言われている
「えっと……つまりアネモネは世界最強の3体のうちの1体ってことでいいのか?」
「真竜は魔王様と聳孤様、覇竜王様だけだから違うと思うかなーって」
「それなら、師匠は亜竜ってこと……?」
「ワシを紛い物と一緒にするでないと言うたはずじゃが?」
つまりどういうことなの?
ますますわかんなくなってきちゃったよ。
「これは私の推測なんだけどね、
亜竜ではなくて、“まだ”真竜じゃないドラゴンとすると……
もしかしたらおねーさんって真竜である覇竜王様のご息女なのかなーって」
「さぁて、どうだったかのう」
カカカと笑っているけど、その様子を見るにゴザちゃんの予想は大当たりらしい。
そうだと名言しないのは何か理由があるんだろうか。
ゴザちゃんが補足するには、覇竜王とはかつて魔界四天王の一角だったらしい。
魔界において最も古い歴史を持つと言われる一族であり、南部全域を治める絶対的な王だったのだとか。
現在は魔王による統一統治と四天王制の廃止により南部都市の首長として南部エリアを治めているけど、その権力と広大な領土、軍事力を考えると今でも一国の王と呼べるほどの存在なんだとか。
そして、その覇竜王には見目麗しいご令嬢がいると噂されている。
「つまり、師匠は竜のお姫様……ってコト?」
「フン、無駄話はそろそろよかろう。
魔獣討伐とやらにいくのではないのか?」
お姫様がなんで冒険者なんか……とは思ったけど、冒険者に詮索はご法度だ。
冒険者ギルドにはワケアリな人も多いけど、それを受け入れる懐の広さのお陰で私達も生活できているわけだからね。
何にせよ、師匠のような強い冒険者が仲間になるのは本当に心強い。
びっくりするくらい強い戦力のお陰で今後の戦闘は安心安全!
どんな魔物でも一瞬で片付くだろうからお金に困ることもなくなりそうだね。
――と思っていたんだけど……
私たちはこの時、ドラゴンという胸躍る存在との遭遇にときめくあまり、とても重要な事に気付くことができないでいたのだ。
多少気難しいとはいえ、なぜこんなに強力な人材がどのパーティにも所属していなかったのか。
一人で全てが片付く強さなのに、なぜ一人で魔物討伐に行かないのか。
この後、嫌というほど思い知ることになるのよね。




