異世界で出会った奴の正体がまさか伝説級のアレだなんて、普通は想像もしないよな
今の状況はこうだ。
場所は冒険者ギルドの受付前ホール。
その中心には赤髪の幼女が立っている。
幼女と対峙する多田は大きく振り上げ、全身全霊の力を込めて戦鎚を振り降ろす。
おいやめろって、そんな事をしたら怪我じゃ済まないってば!!
ダリアさんが紹介してくれたローブの人物は、ゴザの策略によって対話の席についた。
ヒト……なのか?小柄なようだがそれすら曖昧に見える。
何か魔法的なもので隠しているんだろうか。
「フン……で、キサマらは何ができるんじゃ?」
「って事は、手伝ってくれるのか?」
「質問を質問で返すな、気に食わんが一度言ったからには協力してやる。
で、キサマは何ができるんじゃ」
「ウェイ」
口頭で説明するよりもこの方が断然早い。
俺、多田、ゴザの能力説明と簡単な紹介はこれで済ませる。
「ほう、その短い発音でこれだけの情報量を……
相変わらず異界の民は奇妙な力を使うな」
「異界の民って、どういう意味ですか?」
「黙れヒューマン」
「おいおい、一時的とはいえ仲間になるんだから邪険にするなよ」
なんで多田にだけあたりが強いんだ?
ヒト嫌いって言っても俺とは会話してくれるわけだし……。
だが涙目でゴザによしよしされてる姿も可愛いな。
「おねーさん……?」
「チッ……以前、キサマらと同じ匂いのヒュムと王都で会った
だが……フン、今は思い出したくもない、聞くな」
異世界転移してきた人間が他にもいる?
確かに可能性としてはあってもおかしくない話だが……。
あの調子ではこれ以上教えてくれそうにもないな。
「なら質問を変えよう、アンタの事を教えてくれ
まずは名前と……顔も見せてくれると嬉しいんだが」
「顔……?ああ、相貌隠しを解いてなかったか、これでどうじゃ?
名前はアネモネと呼ぶがいい、ギルドにもその名で登録しておる」
今まで靄がかかったように見えなかった顔がフードを取ると同時に露になる。
燃えるようにあ真っ赤な髪に緑の瞳が印象的だが、何よりも……
「ちっさ……」
「何か言うたかヒューマン?」
「いや何も」
これは、ともすればゴザよりも小さい。
以前多田が言っていた“4人目”がこいつなのかと思っていたが、これは違うな。
メタ的に見れば4人パーティでロリキャラが2名というのはバランスが悪すぎる。
“身長以外も随所がデカいJK”“小動物系ケモ合法ロリ”ときたら次は“ツンデレスレンダー美人”あたりが無難な所だろう。
“尊大系のじゃロリ”も悪くはないが、ゴザという先客がいる以上はモブ止まりだ。
「で、アネモネは何ができるんだ?」
「ワシの特技は……破壊、殴殺、蹂躙、殺戮じゃ」
「ダリアさんのお墨付きもあるしアンタが腕利きなのを疑うわけじゃないが……」
「そうは見えぬと?まぁこの姿では無理もあるまいて」
「おねーさんのすごいところみてみたいなーっ!」
カカッと短く笑うと受付ホールの真ん中に立った。
「乳牛のごときヒューマンよ、ワシに攻撃してみせろ
一撃でも当たれば態度を改めてやってもよいぞ」
「にゅ……乳牛!?」
顔を赤くして乳を隠す仕草も最高に可愛いがやめてやれよ、コンプレックスみたいだし。
安い挑発だな、多田がその程度で無益な暴力を振るうはずがない。
武道を修めるといういう事は肉体と精神の高みを目指すということだ。
「えっと、やってもいいの?でも……ケガしちゃうよ?」
おいおいおい、言い方は遠慮がちだけどやる気満々だな!?
「遠慮は要らぬ、非力な鈍牛の攻撃などそよ風にも劣るわい」
たのむからそれ以上多田を煽らないでくれよ……!
「ちょ、ちょっとアネモネさん、ギルドで私闘はご法度ですよ!」
「すまんな受付嬢、だが心配など無用じゃ」
ダリアさんがこっちを睨んでくる。
俺のせいじゃないからその視線やめてよ……。
「ケガしても恨まないでくださいね」
そう言うと多田は腰を落として深く構えた。
普段は猫背気味な多田だが、戦闘態勢に入るとスッと背筋が伸びる。
体に鉄骨が通ったかのような安定した構えから流れるような重心移動と深い踏み込み――
渾身の力を込めた正拳突きがアネモネの整った顔面へ一直線に迫る。
「ヤ゛ァーーーーッ!!!」
アスリートは掛け声を上げることで、より高いパフォーマンスを発揮するという。
足腰と腕力の強靭なバネによって繰り出された拳がアネモネの顔面を粉砕して……いなかった。
その小さな躯体は身じろぎの一つもせず、その拳は届いてすらいない。
ヒゲマッチョお手製のナックルガードはアネモネの鼻先数センチで静止している。
これが寸止めではない事は、多田の気迫と表情を見ていれば分かる。
拳を止めたのではなく、止められたのだ。
「何かしたか?殴ってみよと言っておる」
「上等です」
ここから始まったのは拳の連打、連打、連打。
ベタ足でインファイトを仕掛けるボクサーのようでもあるが、
もはや格闘技などという上等なものではなく力任せの暴力に見えた。
だが暴風雨のような拳撃は見えない壁によって全て阻まれていた。
拳が弾かれる度に激しい金属音が鳴り響き、その衝撃の大きさを物語る。
「ヒュムの力はその程度か?なんならその戦槌を使ってもかまわんぞ?」
「お言葉に……甘えさせて、もらいましょう」
多田の息が上がっているのはとても珍しい事だ。
幼少期から格闘技をしてきた多田は“体力オバケ”としても学内で有名だ。
元の世界はもちろん、集落での土木作業でもあんな姿は見たことがない。
「怪力能力とやらは使わぬのか?」
「さっきから……使ってるつもり、なんですけどね」
そう、多田の怪力能力はなぜか格闘戦においてはほとんど作用しないのだ。
だが戦鎚を使用する際にはその能力が最大限発揮される。
戦鎚を手にした多田は腰を落として深く構えて体を捻る。
膝から腿、腰、背中、腕に至る全ての筋肉を一つの動力として加速する戦鎚。
その衝撃は大岩すら簡単に粉砕するものだが、それでも見えない壁を突破することは出来なかった。
「うそ……だろ?」
思わず声が漏れた。
音も衝撃も拳撃の比ではない。
頑強なタワーシールドを構えていても怪我では済まないあの衝撃。
指一つ動かさずに防いでみせるなんて、“凄腕の冒険者”なんてレベルじゃない。
俺の贔屓目を抜きにしたって多田の単純な攻撃力はこの町でもダントツだ。
それが通らないんじゃアネモネに勝てる冒険者はこの町にはいないだろう。
「ほう、雌牛にしてはこれはなかなか……」
2発、3発、4発……
いずれも必殺の威力を誇る
「まだまだぁ!!!」
渾身の5発目。
これまでの中でも一際大きい衝撃音と同時に光が弾けた。
傍から見ても分かる。
あれは見えない壁が破壊された音なのだろう。
戦鎚は衝撃で大きく跳ね上げられたが、それは次の一撃への予備動作につながる。
「カカッ、これを割るとは驚いたものじゃ」
「もらったぁあああ!!!!」
全体重を乗せて上段から振り下ろされる、最大級の一撃。
待てよ多田、見えない壁は消えたんだぞ?
そんな状態で全力の戦鎚を食らったらここが血の海になる……ッ!!
「じゃが力の使い方がなっとらん」
コツン……と、小さな木の枝が瓦に当たるような軽い音だった。
アネモネが腕に付けている小さな籠手で、それも片腕で戦鎚が止められてしまった。
「ふむ、流石に素手では玉の肌に傷が付いてしまうよってな
とはいえこれも一撃には違いないのう……」
俺たちは驚きのあまり声も出ない。
そんな俺たちを尻目にカカカと笑うと機嫌良さそうに多田へと一歩近づく。
「言ったからには仕方あるまい、態度を改めるぞオタコとやら」
「参り……ました」
「オタコ、そう気落ちするでないぞ
ワシの竜障壁を突破するものなどそうはおらぬ
なにせワシは竜であるからして一撃入れただけでも大したものぞ」
竜……ドラゴン!?
どのファンタジー作品においても最強クラスと言われるあの!?
しかし、どう見ても俺たちと同じヒトにしか見えない。
尻尾や翼どころか鱗の一枚も見当たらないが……。
「おねーさん、ドラゴニュートなの?」
「あのような半端者と同じにするな、ワシは生粋の竜……じゃ オロロロロロ」
なんだ急にゲロしたぞこいつ……っ!
多田の猛攻が効いてたのか?
いや……こりゃただの酒の飲み過ぎだな。
ちなみにドラゴニュートってのはドラゴンの特徴を持つ人型の亜人だな。
この世界での分類上は獣人にカテゴライズされているはずだ。
もちろんドラゴニュートもあらゆる作品でだいたい強キャラだ。
竜ってのはどの作品でも酒に強いはずだが、こいつはそうでもないらしい。
「ワケあって……ウェップ、この姿でな、力もかなり制限されておるが……
人と共にあるにはちょうどよいハンデというやつじゃのう……オェ」
ドラゴンさん、嘔吐しながらカッコつけられても全く格好良くないですよ。
しかしドラゴンとはおそれいったよ、そんな伝説級が来たら魔獣なんてイチコロじゃないか。
酒さえ与えなければ味方としてこれ以上心強い存在もいない。
もしかして、異世界生活イージーモード始まったんじゃないのか?




