異世界でもう一人仲間が増えるって話だけど、まさかこの人じゃないよね?
今の状況はこうだ。
現在地はギルドの酒場。
私はこれまで感じたことないほどの殺意を向けられている。
もしも殺意に質量があったのなら、私はとっくに潰れているだろう。
手に汗がにじむ。
本能が逃げろと叫び、まるで心臓が悲鳴を上げているようだ。
冒険者登録が終わって食事をした後、モーフは一人で集落に帰ってしまった。
本当はパーティに加わってほしかったんだけど……
「私が森を留守にしたら誰が守れないだろう?」
おっしゃるとおり。
きっと、モーフの脚なら半日もあれば集落に戻るだろう。
手元に残った最後のブローチを眺めながら考える。
モーフは“4人目”ではなかったみたいだ。
アライグマのおばあちゃんは4人パーティになるって言ってたけど、
本当にもう一人、パーティに加わったりするんだろうか?
モーフを見送った後、私たちはしばらく町を拠点にすることにした。
種芋の件はモーフが村長に伝えてくれるので、用意ができるまでは暇になる。
その間に少しでもお金を稼いでおこうという話になったのだ。
ガンテツさんとの武器開発にはゴザちゃんの試射と意見が必要だし、
何よりオーダーメイド武器はお金がかかるからね……。
「それが……あまり良い依頼がなくって」
いつも笑顔のダリアさんが今日はちょっと困っている様子だ。
私たちが狙っている小型魔獣の討伐依頼は現在0件。
中型の魔獣が各地に出没したせいで小型魔獣が減り、依頼も激減しているんだとか。
小型魔獣討伐は他の冒険者からも人気が高く、取り合うような状況らしい。
土木や農作業系の依頼は危険がなく、日雇い労働者には人気だけど賃金も多くはない。
あまり効率が良いとは言えないのでこれもできれば避けたい。
ということで、私たちの選択肢は中型魔獣の討伐依頼を受けるか否かだ。
難易度的にはモーフと同程度なのでかなり強い。
これは報酬も多いけど……嫌だなぁ。
「ウェイくん、他のパーティと協力するってのはどう?」
「うーん……腕利きの冒険者の知り合いとかいる?」
「いないけどっ!」
「わたしも……」
こういう時は、ダリアさんに紹介してもらうに限る。
「そうですねぇ、すごい人がいるにはいるんですが……」
「何か問題でもあるんですか?」
「ちょっと……その、人を選ぶ感じの方でして」
基本的に人の事を悪く言わないダリアさんがこの言い淀み方。
よほどの荒くれものか変わり者か……一筋縄ではいかない人なんだろうな。
「ものは試しだ、話だけでも聞いてみようぜ」
「ダリアさんっ!その人って今どこにいるのーっ?」
「酒場の奥にいるあの方です……」
ダリアさんが少し申し訳なさそうに視線を送ったその先には……
ローブを纏った小柄な人物。
顔は見えないけど、かなりお酒を飲んでいるみたいだ。
とりあえず話を聞いてみない事には何も分からないよね。
「ウェーイここは任せとけって」
うわ、なんかこっち向いてウィンクした……キモ。
植井君はカウンターでお酒とミルクを注文してローブの人物へと近づいていく。
流れるような所作がなんだか気取ってて少しイラっとする。
なんていうか……うまく言えないけどナルシストっぽい動きだ。
「よう、腕利きの冒険者ってーのはアンタかい?」
歯が光った気がした。
普通に話しかけられないのかな……?
「なんじゃキサマは……」
「俺はウェイ、この一杯は俺の奢りだ飲んでくれ」
「失せるがいい、ヒュムがいては臭くて酒がマズくなる」
「酒一杯くらいの時間は」
「くどいぞヒューマン」
「はい……」
ずいぶんしょぼくれて帰って来たね……。
大見得切ってはしゃいだ結果がアレだと恥ずかしいだろうな。
「それじゃ……私が行くね」
声の感じからして女の人かな、ナンパだと思われちゃったのかもしれない。
それなら私なら話を聞いてもらえるかもしれない。
私はカウンターでチーズの盛り合わせを注文してローブの人へ向かった。
自慢じゃないけど、私は初対面の人と話すのは得意じゃない。
できるだけ自然に、自然に…
「ここはお酒が美味しいと評判ですが、おつまみも美味しいですよ
お酒だけでは体に障りますし……ご一緒にどうですか?」
精一杯のスマイル。
少し唐突な切り口だっただろうか?
「……ス」
え?今何か言った?
「コロス」
緑色の鋭い瞳がこっちを睨んでいた。
明確な殺意を持っているのを一瞬で理解した。
視線に圧力があったなら、私はぺちゃんこになっていただろう。
「シツレイシマシター……」
私には、そう言い残して逃げることしかできなかった。
なんで?
植井君の時はそっけないながらも会話はしてたのに……
絶対植井君の方がイラつかせる要素たくさんあったのに!
「ゴザちゃ~ん……ごわがっだよぉぉぉ~」
「よしよしお姉さま、大丈夫だよーっ」
これはもう諦めるしかないんじゃない?
「さーて、次は私の番だねーっ」
「あの感じならやるだけ無駄じゃないか?」
「まぁお姉さんに任せときなさいって」
ゴザちゃん、無理だけはしないでね。
ゴザちゃんはトテトテとローブの人に近づくと、無防備にその横へと座った。
「おねーさん、おさけっておいしい?」
幼い見た目を活かしたロリっ子戦法!?
話し方もいつもより舌足らずな感じにしている。
「フン……こんな安酒が美味いものかよ」
「ふーん、そうなんだ」
あえて踏み込まない絶妙な距離感。
ゴザちゃんって実はコミュ強なのよね。
「このミルクは飲まないの?」
「おぬしにくれてやる、そこのツマミも食らうがいい」
そして、無言でミルクを飲みながらチーズを食べる。
でも不思議と気まずい雰囲気ではなく温かな沈黙だ。
あえて会話しないという選択肢は私なら選べない。
「童は何をしておる、迷子か?」
「わたし?このぎるどでぼーけんしゃしてるんだよっ!」
「カカッ面白い事を言う童じゃ」
「ほんとうだもん!どっぐたぐもってるもん」
「ほう、本物じゃな……幼いのに大したもんじゃ」
上手い。
相手に会話を切り出させて冒険者の話に持って行った。
「ゴザのやつ、あざと過ぎて笑えるな」
植井君はちょっと黙っててほしいな。
「でもね、いまはむずかしいやつしかなくて……」
「童なら小間使いをすればよかろう?」
「でもそんなのじゃぜんぜんたりなくて……っ」
「それで、ワシに話しかけたわけか」
「おねーさん、すごくつよいってひょうばんだったから」
本題への誘導とヨイショの絶妙なバランス!
ゴザちゃん、恐ろしい子っ!!
「カカッそんなに評判か?そうかそうか、ワシは強いからのう」
「おねーさん、まじゅうたおせるの?」
「倒せるとも!本気を出せば魔獣ごときひと撫でよ!」
「おねーさん、まじゅうとーばつてつだってくれる?」
「ワシに任せておけい!カカカッ」
ゴザちゃんの話術、勉強になるわ……
ロリっ子戦法恐るべし、今度コツを教えてもらおう。
「それじゃ、わたしのなかまをしょうかいするねっ」
「カカッ全員まとめて面倒見てや……る?」
「ウェーイ、シクヨロー」
「あの……よろしくおねがいします」
あ、固まってる。
「いいよね、おねーさん?」
ゴザちゃん、ナイス追い打ち。
うーわ、あの人露骨に嫌そうな顔してる……。
私、何か嫌われるような事したかなぁ?




