異世界で仲間を作る一番の秘訣はただ美味い飯を食うだけなのかもしれないな
今の状況はこうだ。
俺たちは町へ向かう馬車に乗り、その横をモーフが並走している。
町へ向かう道中はいつも楽しいもので、気分はピクニックだ。
途中で野宿をするのもキャンプ感覚でけっこう楽しいんだよね。
夕飯時にモーフを集落に呼んだときは、そりゃ大騒ぎだった。
あらかじめ“来る”とは伝えていたけど、間近で見るとあのサイズは怖いよな。
マッチョ村長は仁王立ちのまま固まってたし、アビーは大泣きで多田にしがみついていた。
でも、モーフが無害だと分かると村人たちの順応はビックリするほど早かった。
皆でご馳走を囲めば言葉が通じなくても仲良くなれる。
俺たちを迎えてくれた時と全く同じだ。
「モーフよお前さんはデカいなぁ!オタコもデカかったがな!ガハハ」
「モーフちゃん、アンタ女の子なの?素敵な毛並みでうらやましいわぁ」
「おぅいモーフ、野菜や果物も肉に負けねー旨さだぞ、食え!」
「モーフさん、しっぽさわってもいーい?」
次々に話しかけるのはかまわないが、通訳を任される俺の身にもなってくれ。
しかし、モーフが言葉を理解するのにさほど時間はかからなかった。
元々知能が高く、村人たちが出す狩りの合図も聞き取っていたほどだ。
俺の通訳が要らなくなるのに二週間もかからなかったんじゃないか?
声帯が狼だからしゃべるのは苦手みたいだけどな。
あれ以来モーフは集落の近くで暮らすようになり、時折獲物を持ってくるようになった。
子供たちの相手をしてくれるし、たまに農地開拓も手伝ってくれる。
もしかして、以前から集落周辺で多く目撃されていたのは……
一緒に暮らしてみたかったのかもしれない。
炎狼は通常、群れで生活をするものらしい。
もしかしたら、仲間に比べて体が大きく知能が高すぎるせいで孤独だったとか……?
まぁ、それはあくまで俺の想像だけどな。
町へ向かう際、モーフにはまだ魔族証明タグがないので、代わりに村長の奥さんが首にスカーフを付けてくれた。
スカーフと言っても、モーフがデカいのでそのサイズはまるで大風呂敷だ。
何も付けていないと魔獣と勘違いして襲われかねないから本当に助かる。
とは言っても、獣人にはほぼ完全に獣化できるヤツもいるので町に入る際も騒ぎにはならなかった。
「わぁ……おっきな炎狼ですね」
ダリアさんもビックリだ。
「モーフさんの魔族登録の前に、皆さんにお話がありまして……」
差し出されたのは依頼書だ。
依頼主はマジハ集落にほど近い別の集落、対象は大型の炎狼だ。
討伐したら大金貨2枚、撃退したら大金貨1枚。
「えっと、これが?」
「今回、リュータさん達はこの炎狼に言語を学ばせて魔族登録に来たんですよね?」
「言葉を教えたのはほとんど私だけどねーっ」
でも通訳したのは俺だぞ。
「今回、それが狩猟対象を無害化したものとみなされました」
「つまり……どういうこと?」
「依頼報酬の大金貨1枚と、格上の依頼達成で冒険者ランクが上がります」
「ウェーーーイ!!」
冒険者ランクなんて正直どうでもいいが、大金貨1枚は大金だ。
この世界の価値基準で日本円換算すると…感覚的には20万円相当。
今夜は皆で美味いものをたらふく食べるとしよう。
もちろんモーフも一緒にな。
しかし、各地で討伐依頼が出てる頭の良い魔獣を説得・言語教育して魔族登録する……
これは新たなビジネスモデルとして一考の余地があるかもしれないな。
モーフが魔族登録に必要な講習と審査を受けている間、俺たちはヒゲマッチョの所に向かう事にした。
ナイフや戦槌は自分で手入れはしているが、たまにはプロに見てもらわないとな。
「ウェーイおっさん、元気してるー?」
「なんだニーチャン、相変わらずウェイウェイ言ってんなぁ、デカいネーチャンも一緒か」
「こんにちは、またお肉の美味しい調理法を聞きにきちゃいました」
「ネーチャンは相変わらず武器より食い気だな、いいこった!」
ヒゲマッチョは相変わらず良いオッサンだ。
「ネーチャンの戦槌は……いいな、使い込んじゃいるが手入れが丁寧だ」
「へへ、使ってるのはほとんど土木作業メインですけどね」
「ニーチャンのナイフは……ガシガシ使うのはいいがたまにゃ研いでやれ」
「ちょっと見ただけでそんなに分かんの?」
「長年やってりゃ普段の使い方から持ち主の人柄までバッチリ見えらぁ」
やっぱり職人てすっげーな。
ナイフを研ぐヒゲマッチョの手つきは流れるように美しく丁寧で早い。
熟練の匠の技が光ってるねぇ。
だからこそ、頼みたいことがある。
「ねえおじさま、こんなの作れたりするかなっ?」
ゴザが広げたのは、企画・設計・製図の全てを俺がした、ある“モノ”の設計図だ。
「何だこりゃ、鉄製の筒にステッキが……?」
ゴザの“ショットガン”の威力と速射性を向上させるべく考案した魔法の銃だ。
魔法のステッキを短くしてグリップに格納し、鉄の筒により爆発を収束しなくても発射できる。
さらに弾丸をカートリッジ式にして予め生成しておけば、一射毎に岩石生成しなくても連射できる。
そのビジュアルはほぼレミントンM870のソードオフ。
分からない人はググってみてくれ、ショットガンの定番とも言える傑作銃だ。
だが、こいつに撃鉄とトリガーは無い。
魔法の爆発で弾丸を飛ばすから必要ないんだ。
中世程度の科学力ではこれが何か分かるまいよ。
「ニーチャン、こりゃ…テッポウってやつじゃねーか?」
え……?ヒゲマッチョは鉄砲知ってるの!?
「実物は見たことねぇが、火薬で弾を飛ばす人間界の武器だろ?」
まさか銃が既に発明されているとは思わなかった。
元の世界だと銃の発明は…15世紀頃だっけ?
人間界の文明は想定よりも数世紀は先を行ってそうだ。
「まぁ、鉄砲とやることは一緒だが、これはゴザの魔法を補助する道具だ」
「それこそ聞いたことがない、魔法の補助と言えば杖や魔導書だろ?」
どうやら魔法と機械の融合はまだされていないらしい。
俺たちの知るファンタジー作品ではそこそこポピュラーだけどな。
「言わば魔導具ってやつだ、まだ世に無い物を作るのは腰が引けるかい?」
「言いよる、腕が鳴るってもんだ!ガハハ」
モノづくりに生きる漢ってのは、どの世界でもカッコいいもんだな。
「ここに弾丸を収納してグリップをスライドするとだな」
「なるほど、このバネが次弾を押し出すわけか」
「ここの密閉は多少ザルでも指向性魔力壁で何とかなると思うんだよな」
「バカ言うな、俺がそんな雑な仕事するかよ」
「うーん……、男の子の世界だね、ゴザちゃん」
「二人とも少年みたいな目してるねーっ」
ほったらかしでなんかゴメン。
銃についての打ち合わせが終わった後は、南方商会に顔を出す。
互いに進捗状況を共有しておかないとな。
あれ……まーたゴザの奴は単独行動か?勝手な奴だ。
「――とまあ、こちらの種苗農園計画はおかげさまで順調だよ」
「ええ、それは大変喜ばしい事です」
今日の三毛猫はえらく上機嫌に見えるな。
「分かりますか?実は大口契約が決まりそうでして……なんとゴルベーザ卿です」
「ゴルベーザっていうと……この町周辺の領主だっけ?」
「ええ、我々庶民からの支持も厚い、聡明で寛大なお方です。
芋料理をとても気に入っていただけましてね、これもオタコさんのレシピのおかげです」
「お役に立てて何よりです、まだありますから期待してくださいね」
多田の料理は絶品だからな、当然の結果だ。
領主に納品する種芋は少量でも構わないからすぐにでも用意しよう。
何せ栽培するる内にネズミ算式に増えていくのがジャガイモの良い所だ。
商会への報告が終わった頃にはもうモーフの魔族登録も終わっていた。
ゴザは先回りしてモーフの冒険者登録も済ませてくれたらしい。
勝手な奴と言ったが前言撤回、気の利く奴だ。
「三人とも……ずいぶん世話になったな、恩に着るぞ」
「気にすんな、俺たちにもメリットはあるんだ」
「そうだよっこれからもよろしくねモーフ―っ!」
「それよりさ……えっと、そろそろご飯にしない?」
グゥと鳴ったのは、どうやら俺の腹だけではなさそうだ。
多田が顔を赤くしているが気付かないフリが紳士ってもんだよな。
今日はあぶく銭がしっかりあるからたっぷり食うぞ!
モーフの歓迎会も兼ねてな。




