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84.恐ろしい手紙

 朝一に行われるマインラートからの報告を聞いた後、渡された書類をフェルト達と総出で片づけていると突然ゼクティアが話しかけてきた。


「2号線沿いに賊の掃討を行っている第一班、ロイトナンより報告が来ました。シュトツェル子爵領の兵と思われる一団を視認したとのことです」


「ロイトナンがわざわざ知らせて来たってことは、定期的な支援物資の搬入とは異なることがあったってことだよね。どうしたの」


「報告によると、いつもよりも明らかに騎兵の数が多く、シュトツェル子爵のものと思われる紋章をあしらった旗を携行しているようです」


 定期の物資輸送では護衛の歩兵がいるぐらいで、旗掲げて移動してくることはなかったな。もしかしたら、子爵本人が乗り込んできたか?ありえそうだな、以前に会った感じを見ると現場を好みそうな人物だったし。


「ゼクティア、もしかしたらシュトツェル子爵本人かもしれないからロイトナンに慎重に接触して確かめるようにお願いして。本人と確認できれば行先も聞いて、もし、ここなら出来る限りの歓迎をしなくちゃいけないでしょ」


 いまだ混迷の中を彷徨うボイオス領にとって、公国、マクトルに次ぐ支援者であり貴重な存在であるシュトツェル子爵とあれば、その訪問を最大限の歓迎をしなければならない。そして、件の集団と無事に接触を果たしたロイトナンからシュトツェル子爵本人が率いており、ユタカを訪問するための一団であることが確認できた、と連絡が来た。そのことはすぐにマインラートに伝えられ、使われていなかった城の貴賓室を急遽清掃し、シュトツェル子爵を迎え入れる準備が行われた。


 はぁ~、このタイミングでシュトツェル子爵の訪問ってことはボイオス領の運営の監査でもしに来たのかな。まだ事業が動き出して間もないから、目に見えるような改善はもっと先になると思うけど支援者としては細かく確認したいのかな。ま、それも当然か。


 急遽訪れた採点者の登場は、発見した地点がかなりシュトツェル子爵領との境に近かったことでボイアテスに到着するまでに準備する時間は十分に確保することが出来た。

 ユタカはシュトツェル子爵がボイオス領の事情を良く知っている人物であるということから、用意する食事については食材の質よりも、その料理に掛けられている手間を重視したものにするようにシャッツに指示し準備を進めさせた。


 シュトツェル子爵の発見から2日後、ボイアテスの北門に支援物資を満載した荷馬車とシュトツェル子爵、その護衛の騎士たちが到着した。


 「シュトツェル子爵閣下、ようこそいらっしゃいました。長旅お疲れでしょうから、早速城の方へご案内いたします。このボイアテスでは前任者のおかげで騎乗したままメインストリートを疾走しても何の問題も起こらないような環境が整っていますが、ここはぜひ、シュトツェル子爵に徒にて町の様子をご覧に頂ければと思います」


 シュトツェル子爵の到着をボイアテスの北門で待っていたユタカが自ら出迎え、前ボイオス伯爵への強烈な皮肉を口にしながらシュトツェル子爵を歓迎の準備をしている城へと案内していた。そんなユタカの様子に苦笑いをしながらシュトツェル子爵は馬を降りて、ユタカに並びながら閑散としたメインストリートを歩いた。


「ユタカ総督の活躍は私の領地にも兵士や商人を通じて聞こえてきているぞ。最初に行っていた道路工事もまだまだ始まったばかりのようだが、途中で工事中の区間を通って来たがなかなかに快適な路面であったよ。それに目に見えて賊の数が減少していたぞ」


「当初と比べればましにはなりましたが、ひどい状況であることは変わっていないのが現状です。閣下を含め大公陛下などからの援助を最大限に使って、力技で何とか回復させようとしています」


 ユタカ達は城へ到着し、時間がすでに夕食の頃合いとなっていたので、早速食堂へと移動した。そこではすでにシャッツが作っていた料理の数々が用意されており、食欲を掻き立てる匂いで満たされていた。


「ちょうど夕食の時間でもありますのでご用意をいたしました。業務効率化のためこのような広い食堂しかないのですが、ご容赦ください」


 この城には大きさの違う食堂が複数存在していたが、それらの維持管理に掛かる費用を考え、ユタカはすぐに一番大きな食堂のみを残し、他は全て閉鎖していた。その為、職員や兵士、使用人など職種も身分も様々の者たちが同じ空間で食事をし、時には食事をしながらの商談さえも他の職員などがいる中で行われていた。

 そんな大きな食堂の中で一番端にあって、城に務める者たちの喧騒からできる限り離れた一角にシュトツェル子爵を含め、護衛の騎士たちを案内した。


「これは驚いた、私自身まったく望んでいる訳ではないが少人数での会食になるのかと思ってみれば、このような場所で食事を振舞われるとは。ユタカ総督らしいというか、非常に効率的で私は好きだな」


「正直、食料から資金、人材まであらゆるものが不足しているので形式に則った歓迎が難しいのです。ですので、このような形でお願いします。それと、食材に関しても子爵位である閣下にお出しするような質の物はご用意が出来ないので、せめて手間をかけた料理をご用意いたしました」


「いや、このような形で迎えられるのは初めてだが良いな。貴族らしくと変に形式ばった食事よりもよほど楽しめる。次回、私が来るようなことがあれば、再びこの場所で食事を共にしたいな。それで、私がここに突然来た理由はユタカ総督ならなんとなく分かっているだろうが、大公陛下から様子を見てくるようにとご指示を頂いたからだ」


「まあ、お金を出して雇っている者がしっかりと働いているのかを確認するのは当然でしょうね。しかし、まだ道路工事も動き始めたところでして、なにもご報告するような成果がお示しできないのが実情です」


「いや、想像以上の成果が出ていて私は驚いている。あの状態のボイオス領を見ていた身としては現状維持するだけで大変な困難を伴い、況してや復興の兆しさえ見ることは不可能だと思っていた。だが、ここまでの道のりで見てきたものは兆しではなく復興への歩みそのもだった」


 その後もシュトツェル子爵からの賛辞が続き、工事中の道路舗装の質の高さに感動したシュトツェル子爵が金を出すから自身の領内も含めて舗装を行って欲しいとまで言い出した。さすがに自分の頭の蠅を追うのに一杯であることから丁寧な断りを入れた。

 食事も一段落し、子爵を用意している貴賓室に案内しようとユタカが席を立ったところで、シュトツェル子爵が咳払いをしながら言いずらそうに口を開いた。


「ああ、ユタカ総督。知っているとは思うが私にはエミーリアという娘がいてな」


「?はい、勿論、存じております。学校などでもお会いしたことがありますから」


「・・・その、エミーリアはマクトル公爵令嬢でいらっしゃるディアナ様と仲良くさせていただいていてな。それで、ユタカ総督宛の手紙を預かって、少し前に我が家に戻って来たのだ。娘から聞かされた話ではディアナ様は最近、不機嫌な様子で過ごすことが多々あるそうで、まあ、手紙を読んでもらえれば分かると思う」


 シュトツェル子爵はそう言いながらグイッといくつかの手紙をユタカの胸に押し付けて、用意した部屋の場所は自ら探すと言って、そばにいた使用人の方へ足早に去って行った。

 取り残されたユタカは胸に抱えたままの手紙を持ちながら、ゼクティアのいる方に首を動かした。

 

「なんだったんだ?最後はあんなに急いで。うーんと、・・・おぅー。マクトル公爵夫妻とディアナからの手紙だ。後で読むか」


「おそらくですが、出来るだけ早く目を通しておいた方がよろしいかもしれません。子爵閣下があのように口を重くしていたのですから、早急に対処すべき事項が記載されている可能性があります」


「当然早めに読ませてもらうよ。おそらく公爵からは物資や人材の件に関してだろうし、アロイジアさんはマクトル領軍のボイオス領への進出の時期に関することだろうね。アルファとベータがうまくやってくれてるから西部の賊はかなり駆逐できたと思う。だから、そろそろマクトル領軍に来てもらう時期かもね」


「いえ、勿論お二人のお手紙は重要ですが、ディアナの手紙も早く確認していただいた方がよろしいかと思います」


 ゼクティアは人形の勘ではなく、女の勘的なものが働きユタカにディアナの手紙から確認するように伝えた。

 そして、その忠告を聞いたユタカは自分の執務室に戻り、ペーパーナイフで可愛らしい模様の入った高級な封筒を開封し、中身を読み始めた。しばらくするとユタカは頭を抱え、黙り込んだ後、マクトル公爵の手紙も確認した。そして、ユタカの身体に対して大きすぎる机に高さを合わせるため、クッションを積んで調整している椅子に埋もれる様に背もたれに身体を預け、天井を見つめた。


 ディアナの手紙には学校で起きたことが書かれており、学校生活を楽しんでいることが伝わる微笑ましいものであった。しかし、手紙の後半になるにつれていつボイオス領の旅行に連れて行ってもらえるのか、何故ユタカが手紙を出さないのか、主にこの二点については不満が延々と書き記してあった。

 続いて読んだ公爵の手紙には、辺境地域での早期の賊退治が功を奏し、例年にも増して作物の収量が多くなったことでボイオス領への援助物資がかなり確保できたことと、人材についても少数ながら補充が可能であるとうれしい情報から始まっていた。そして、手紙の3分の2以上を占める追伸にはディアナの機嫌が悪いこと、時折涙を見せていることが強い筆圧がかかっているかと思われる文字で表現され、ユタカに理由を問う文章が続いていた。


 ・・・なんだこれは。ディアナには夏の終わりまでは難しいと言っていたはずだ、今はまだ夏真っ盛りだ。忙しいだろうとも言ったから手紙を書く余裕がないことは伝わっただろう。しかも、公爵のこの手紙が恐ろしい。本文は非常に実務的な内容なのに、追伸部分があの温厚そうな公爵が書いているとは思えない程、感情的な文章。俺が何をしたというんだ。


 やはりか、という思いで隣でユタカの様子を見ていたゼクティアは静かにディアナへの手紙を書くことを勧めた。しかし、取り立てて手紙に書くようなこともないユタカは手紙を出すことを渋っていたが、ゼクティアが内容ではなく、手紙を出すということの意味する重要性を滔々と語り聞かせたことで、やっとユタカは筆を持った。

次回は3月8日午前0時の投稿となります。


誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 朴念仁はダメよw共感できないしつまらないもん。
2022/03/19 14:32 退会済み
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