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69.メルディ出発

「それじゃあ、打ち合わせを始めようか。ゼクティア、報告をお願い」


 集まった13体の自動人形たちを前にユタカが打ち合わせを始めた。自動人形同士では情報のやり取りができるため改めての報告を必要としていなかったが、ユタカや各々が考えていることまでを互いに共有できるわけではないのでこうした打ち合わせを節目節目で行うことが習慣となっていた。


「はい、初めに我々に関してですがマクトルにて待機しているシャッツ、テヒニクから拠点移動のための準備が概ね完了したとの連絡がありました。私達がマクトル到着後、最終的な荷物の搬出を行えば出発できる状態で待機しているとのことです。そして、ボイオス領に追加で派遣される国軍及び官僚については準備があるとのことで現地到着は我々より後になる予定と連絡がありました」


「ありがとう、ゼクティア。俺が城やら学校やらに行っている間にゼクティアが留守番組との調整をしてくれたおかげでスムーズに事が進むよ。さすが俺の秘書だね。それでもうみんな知っての通り厄介な仕事が舞い込んでしまった。だけど今の俺達なら何とかなるだろうと思ってる。もし何とかならなかったら雇い主に謝って逃げる。貴族なら領地と共に死ぬぐらいの覚悟が必要かもしれないけど、俺は所詮大公に雇われたにすぎないから文句は言わせない。今まで通りみんなの安全第一でいこう」


「そうだな、気を張らずに行こうぜユタカ。傭兵稼業もなかなか楽しかったし、無理にこの仕事にしがみつく必要もないぜ。じゃあ前から考えてたここからの移動についてなんだがゼクティアやフェルトと相談した結果、馬の体力が許す限り移動をして少しでも早くマクトル、そしてボイオス領に行くのがいいということになった。伝わる話を聞く分には時間が経てば経つほど面倒が増えていきそうな状態らしい。だからユタカには辛いかもしれないが夜中もできるだけ移動し、休憩は野営で済まそうと思う。そんなんでいいか?」


 そんな状況なのか?城ではただ漠然と酷いとしか聞いていなかったからな。ロイトナン達が市中で聞いてくれたんだろうか。


「知らなった。そんな感じになってるんだ。助かったよ、もう行くところまで行ってしまってるのかと思ってたから急いで行動したところでさした違いはないかと思ってたけど、ほんと良かった。ロイトナンの言う通りにしよう」


「い、いやーそんなに褒められるよなことじゃねえよ。それにあくまでも噂だから信ぴょう性については勘弁してくれ」


 妙に感謝されロイトナンは後ろ頭を手で掻きながらユタカから目を背けていた。ユタカの護衛にはベータやフェルトが同行するのみでロイトナンのすることがここ最近少なくなっていた事を良いことに、町へ出て遊んでいる途中にロイトナンの持つ自動人形特有の端正な顔立ちに寄って来た町娘たちと話してた中で拾った情報であったので多少の後ろめたさがあったからだ。

 当然互いの行動を把握しているゼクティア達がそんな様子のロイトナンに向けてジト目を向けていた。


「?」


 何やらゼクティア達の間で訳アリのようであったが個々人のことで重要なこと以外の細かなことまで干渉するつもりは全くなかったのでユタカは特に追求せずに様子を眺めていた。その後は細かな準備をすでに皆で整えていたようでユタカは早めに就寝し明日からの移動に備えた。


 夜が明け、出発の日の朝は風もなく温度も寒すぎない程度で絶好の移動日和ともいえる天候であった。マクトル公爵家別邸の玄関先の庭にはユタカ達の馬車とそれを守るように周囲に立つマネキンの姿があった。そして、屋敷の大きな玄関が開くとユタカ達やマクトル公爵夫妻とディアナが話しながら外に出てきた。


「そういえば、ユタカ。あなたシャッツちゃんにお土産も無しに戻るつもりね。だめよ、シャッツちゃんも女の子なんだからそういう気遣いをしてあげなきゃ。あの子、料理が好きって言ってたから私がメルディに集まる香辛料を用意したから持って行ってあげなさい」


 玄関を出てすぐにアロイジアのお説教を受けてしまったユタカはたじたじになりながら香辛料の入った袋を受け取り、ペコペコと頭を下げていた。

 そんな姿を見て笑みを浮かべてエンゲルベルトはディアナに両肩に手を乗せていた。


「ユタカ君、女性には常に気を配らなきゃだめだよ。失念すると痛い目を見るよ。なあ、ディアナも気配りができる男の方が良いだろう」


 問われたディアナは下を向きながらコクコクと頷いていた。同年代でディアナが勝ると思えないほどの能力を持ち、それを買われ大公から直々に大きな仕事を任せれるのはユタカは唯一無二の存在であった。そんな友人以上の親しみを覚えているユタカが今度は簡単には会うことのできない場所に行ってしまうとあって、感じたことのない喪失感、寂しさを昨晩から覚えていた。


「ねえ、ユタカ。今度はいつ会えるかしら。学校が夏休みの間はマクトルに戻ってるつもりだからユタカもマクトルに来たりできない?隣の領地なんだし」


「ん~無理なんじゃないかな。現地を見てない状況だから何とも言えないけど、今まで聞き及んだ情報ではかなり厳しい状態らしいから夏どころか季節が変わっても離れることが出来ないかもしれないな。大公陛下との約束もあるし簡単にはボイオスを離れることはできないと思うよ」


 先日のヤンティヌム城での話し合いでもユタカが厳しい判断をせざるを得なく、あれだけの面子が集まっても良案の出ないほどの状況であることは話を聞いていたディアナには十分理解できていたが、難しいと分かっていても淡い期待を抱いていた。

 しかし、ユタカの「無理なんじゃないかな」で希望は露と消え去った。理解していても少しの希望を抱いていたせいかディアナの視界は滲んできてしまった。そんな娘の姿を見ていたエンゲルベルトはユタカが大公から依頼された事について真剣に取り組もうとする姿勢に公爵の立場では心強さと安心感を感じた一方、父親としては大切な娘を泣かした言い方に少しの怒りを覚えていた。


 14歳の女の子に涙を浮かべさせてしまったこととその後ろに少し怒っている雰囲気を纏い始めた親御さんの存在にユタカはタジタジになり必死に頭を動かした。


「そ、そうだ、ディアナ。夏はどうなるか分からないけどボイオスの治安が回復したら遊びにおいでよ。それで一緒にボイオス領内を旅行しようか。どうだろう」


 妙に手ぶりを多くして話しているユタカの様子からディアナは必死さを感じれたのか、裾で目元を拭いていつもの少し勝気な表情に戻った。


「約束よ。そし破ったらお父様にお願いしてユタカの所に押しかけるわ」


「約束は必ず守るよ。その時は俺から手紙を出そう、これで機嫌を直してくれるかい」


 何とかディアナとエンゲルベルトの機嫌を回復させ一仕事終えたように大きく息を吐いた。


「それじゃね、ユタカ君。決してディアナと同い年の子にさせる仕事ではないと理解しつつも君にしか任せることが出来ない。だから君は遠慮なく私に必要なことがあれば言ってくれたまえ。できる限りの支援を約束しよう。これは隣のシュトツェル子爵も同様だ、困ったときは大人を使うことも大切だと知っておいてくれ」

「それじゃ、気を付けるのよ。あなたの力なら問題ないかもしれないけど統治は力だけではままならないことがあるから何かあったら言いなさい」

「またね」


 公爵夫妻の心遣いや本当に自分を案じていることが分かる言葉とディアナの短い別れの挨拶を受けながら真っ黒な服に身を包んだマネキン達に厳重に護衛された馬車に乗り込み、メルディの町へ、そして町の外へと駆け出していった。


「行ったわね。あの子なら大丈夫よ、必ずまた会えるのだからいつまでもそうしていないの。ディアナも知ってるでしょ、あの子はとても優秀よ」


 姿を小さくしていく馬車をアロイジアのドレスをぎゅっと掴みながら見ていたディアナにアロイジアが優しく話しかけた。


「うん」


 ディアナは握っていたスカート手を放し、代わりにアロイジアの手を握って屋敷へと戻っていった。



「それではユタカ殿、昨晩お話しさせていただいた通り移動速度を重視して宿場には寄らず街道を移動します」


 御者台で手綱を握るフェルトが馬の体調を見ながら適切な速度を計算し、過度な負担がかからないようにしながら移動を続けた。休憩のタイミングも馬の状態に合わせたものでそれが夜であったり朝であったりとしたがメルディに向かう時間よりはるかに短い期間でマクトルの城壁が見えるようになった。


 事前にマクトル公爵からの連絡があったのかユタカ達の馬車はマクトルの北門をなんの検査もなく通過することができ、拠点へと向かい馬車を進めていった。その道中は拠点にしている場所なだけあり町の住民や訪れている行商人などから声をかけられることが多かった。ユタカ達が傭兵ギルドに寄せられる依頼の中でも要請はあれど、受注する傭兵の少なかった賊退治を積極的に行いマクトル周辺の賊に壊滅的な被害を与えた事は商売を生業にする者たちの知るところであり、住民には先のマクトル防衛の際の成功の立役者ではないかとのうわさまで流布されていた。


「ここに来た頃は向けられる目と言えば不審なよそ者に向ける者とゼクティアへの下卑たものばかりだったけど、変わったものだ。こうなってくるとマクトルを離れるのが惜しくなってしまうけど、このまま居心地の良いところに留まってはこの世界に来て最初の目的も成せなくってしまうな」


 ユタカは自分たちに向けられる視線を受けながら誰に話すのでもなくしゃべり、今一度自分の返すべき仇の存在を考えていた。

次回は11月23日午前0時の投稿となります。


誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。

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