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64.パーティへの招待

 公爵夫妻がメルディの別邸に到着してから数日、初めの日こそテヒニクの研究の助けになるかと思い薬屋や金属の卸売業の元を巡り変わった薬品や金属を探していたが目立ったものはなく、再び別邸の部屋と庭と食堂の間を移動する日々を繰り返していた。


「ディアナに聞いた通りまったく外に出ないのねユタカは。マクトル防衛の時は城に用意した本部に出ずっぱりだったかと思えばそのまま戦場に向かったりと、とても活動的だった印象があるのだけど」


「あの時はそうしなければ目的が達成できなかったから頑張っていたんです。今は何かをせずとも大公爵陛下からそれなりの給与が出ていますので、なにもしなくてもよいのならこうして居たいです」


「ふふ、それでちょっと前にディアナに引っ張られてデートしてた訳ね。ディアナも随分積極的になったわね」


 アロイジアはここ数日のユタカの出無精な様子とマクトル防衛戦時の鬼気迫る様子とのギャップに興味を示しつつ、夕食に出ているスープを上品にスプーンですくって飲んでいるディアナをからかい始めた。


「なに!!」


「お、お母様!で、デートではなく案内です。ユタカが全然メルディの町に興味を持っていなかったようなので案内をしていたのです。ね!ユタカ」


 アロイジアが話題をユタカの怠惰な生活からまさかの話へと飛躍させると、娘を持つ平均的な世のお父さんの反応するエンゲルベルトと自身の心の内では当たらずとも遠からずといった感じであったディアナが声を上げた。

 当のユタカとしてはディアナが懐いていることは理解していたが、元の世界を含めても恋愛経験が壊滅的な人生を送っていては、そちらの方面では精神的な成熟を伴わない疎さを持っていた。


「ディアナ様とは仲良くしていただいております。先日の案内ではいくつもの飲食店を紹介していただいたので部下に良い土産話が出来ました。そのほかにもいつも気にかけてもらってるので本当に助かっています」


 エンゲルベルトとしてはユタカとの関係を確かなものにしたいがため、ディアナがメルディに向かう際に同行させたり別邸の部屋を貸して、2人でいる時間を確保できるようにしていた。思惑通りに仲を深めている様子に安堵する一方、娘が想いを寄せ始めたユタカに敵愾心を抱いてしまう複雑な状態になっていた。

 アロイジアは娘が予想通りの反応を示し、面白がっていたがユタカの何とも外れた回答に微妙な表情をせざるをえなかった。


「ユタカ、あなたはもう少し人の心の動きに注意をした方が良いわ。そうすればより上手く戦が出来るわよ、勿論それ以外のことでも上手に出来るようになるわ」


「?敵の情報を集め、そのうえで敵の立場になって思考することで敵の行動や狙いを推測しようしているつもりですが、アロイジア様にご指摘いただいた通りまだ敵の思考のトレースが甘い部分があります。今後はよりその部分に重きを置いて行動するようにします」


「「は~~」」


 政治的、軍事的な問答では打てば響く会話が成り立つにも関わらず、こと恋愛関係では土の塊を打っているかのような反応のなさに母娘でため息をついてしまった。


「・・・っほん、ユタカ君。明日、ヤンティヌム城で兄上主催のパーティが催されることになっていてね。先ほど我が公爵家宛の招待状ともう一通、ボイオス総督宛の招待状が来ていた。主要貴族へ通知はすでに回っているがユタカ君の正式なお披露目の意味も兼ねるようだ」


 変な間が出来てしまったところでエンゲルベルトが明日のパーティについて切り出した。


「ありがとうございます。明日のパーティは貴族の集まりと聞いていたので行かなくて済むかと思っていましたが私のことが次第に挙がっていては欠席はできないようですね。男爵相当であって、貴族ではないのですが。仕方ありません」


 ほんと、最近仕方なくで動いていることが多いな。もう気ままな傭兵業が懐かしく感じてきたな。


「服装は以前私たちが見たような豪華な物を着て行くのよね。あれなら明日のパーティに着て行っても何の問題はないと思うわ」


「あの服か。なんだか男心をくすぐられるような感じがしたな。だが、あれなら確かに問題はないだろう。珍しいものではあるが、奇抜という訳ではなくどこか洗練された雰囲気を醸すものだったしな」


「お父様、お母様。大公爵陛下にお会いになった時にユタカ達が来ていた服は以前見たものより飾りが多くて豪華になっていたわ。ゼクティアが考えているらしいの。とってもかっこよかったわ」


 ユタカの後ろで控えていたゼクティアは自身が発注し、用意を進めていたユタカの正装が褒められているとあって満足そうに首を縦に振っていた。


「それはよかったです。あれは私たちの傭兵団の仕事着あるいは制服みたいなものでして、あれ以外では部屋着ぐらいしか持っていないもので。ゼクティアには感謝しなくてはいけませんね」


 パーティに着ていく服の問題が解決できたところで毎年参加しているエンゲルベルトから同伴者などについていくつか注意事項があった。招待客は同伴者として一名を伴って参加することができるとのことであった。


「我が家に関しては私とアロイジア、ディアナが招待されているが、特に同伴者を選ぶ予定はない。だが、他の家では当主のみが招待を受けることが多いから貴重な大公陛下とお会いする機会を利用し自身の子供を連れたり、金銭を受け取って商人を同伴させるような者もいるな。当然、事前の身元の確認が行われるが商人としては国を治める兄上に直接話せる機会があるかもしれないと言うだけで、大金を払うに値するのだろう。貴族側も現金が入るし、上手く地元の商人が取引に成功すれば税収が結果的に上がることになる」


 なるほどね、貴族同士の情報交換の場と言うだけではなく商談の場でもあるのか。確かに遠く離れた所に領地を構えていたら地元の特産品を展示しようにも機会がないだろうしな。だとすれば各地から貴族の集まる明日のパーティは絶好の場となるだろうな。俺の想像していたパーティとはだいぶ違う印象だけど。


「それで、ユタカ君。君は誰か同伴者を決めているのかい。別に必ず連れていく決まりは無いのだから君だけの参加でも当然問題ないけど」


 特に考えていたなかったユタカはゼクティアを連れて行こうかと思い後ろに控えているゼクティアに視線を向けると何やら隣のフェルトと通信を行っている様子であった。


「ユタカ、その同伴者についてはベータにさせていただければと思います。ベータならば違和感も少ないでしょうし、護衛が一名と限定されているのなら最善かと思います」


「確かにそうだね。パーティの場では当然武器は持って入れなそうだし、そうなれば戦闘能力で優れるアルファかベータか。ちょっと無表情だけど美少女なのは間違いないからメイドさんの格好でもしてもらえれば使用人ってことで通せそうだ」


 そんなユタカとゼクティアの話を聞いていたアロイジアがふと疑問に思った。彼女としては以前にアルトナー相手に圧倒的な戦闘能力を見せたマネキンが来るものだと思っていたからだ。


「ユタカ、そこのフードを着たの護衛よりパーティの場に相応しくはあるけど本当にいいの?その子がとてもあの人形のように戦えるとは思えないのだけど。ゼクティアちゃんが推すのだから問題は無いのだろうけど」


「アロイジア様、ベータの見た目はこのようですが今ここにいる者の中で同等の戦闘能力を持つのはそこのアルファのみです。以前アルトナー様と戦わせた人形、私やロイトナンなどより優れています。一名しか護衛をつけることのできないのなら最善の選択と考えています」


「そうなの、あの人形よりも強いのね。メイド服がと言っていたけどこちらで用意させましょうか。何着か予備があるでしょうから貸すくらいできるわよ」


 ユタカが厚意に甘えようとしたところ後ろからゼクティアが耳に口を寄せてきてた。


「・・・なるほど。すみません、せっかくのご厚意ですがこちらで用意があるようなのでそれを使おうと思います」


 その後の話題も明日パーティに関することで、立ち振る舞い、会場での位置取り、挨拶へ来る者への対応法などのレクチャーが続いた。


「ふ~、明日は面倒な一日になりそうだね。大公に特別手当を出して欲しくなるよ。それで、ベータの服は大丈夫みたいだけど本当にそんなことができるの」


 食事を終え、部屋に戻って来たユタカは自身の目の前で直立不動となっているベータ見ながらゼクティアに聞いていた。


「はい、問題ありません。以前に少し説明した通り、私達の衣服を着ていますがそれは本体から派生させたようなものなのです。なので、複雑なものは難しいですがメイド服程度でしたらマクトル公爵家のメイド服を参考に生成することは可能です。ベータ、お願いします」


「はい」


 ベータは短く返事をすると、目を閉じた。

 少しするとベータの着ていた軍服の輪郭がぼやけ始め、黒い霧に変わった後ベータの全身に纏わりつくと再び軍服とは異なる輪郭を形作った。


「換装終了」


「・・・おお。似合っているよ、完璧だね」


 服装を変えるときにほんのわずかな時間見えてしまったベータの裸を目にしてしまったことで動揺しながらもユタカはメイド服の出来を確認した。


「ははは、なんだか懐かしいんじゃないか?ユタカ。自動人形の裸なんて一番初めにやらかしちまったゼクティア以来じゃねえか。くくく」


 ロイトナンがゼクティアの初めて受肉が完了したときのことでからかっていると、ゼクティアが恐ろしい形相でロイトナンを睨んでいたのでユタカはなんの返事もすることが出来なかった。

次回は10月19日午前0時の投稿となります。


誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。

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