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56.メルディ到着

 首都に向けて順調に移動を続け、昼は変異体や賊の襲撃もなく、夜は途中の宿場町で過ごしユタカ達とって今までになく恵まれた環境で旅が行えていた。


「最近のユタカは楽しそうにディアナ様と過ごしていますね。はたから見れば同年の子供が楽しそうにおしゃべりをしている姿は微笑ましいものがありますね」


「なんだろうね、俺の人生の半分も生きていない子供相手と楽しく会話をするなんて。あの子が年齢以上に優秀だからと思いたいけど、俺の中身がこの体の年齢に引きずられてるってことはないだろうね」


 ゼクティアにディアナと過ごしている時のことを指摘されて改めて考えてみると、自分よりはるかに年下の女の子と楽しく話している状況の違和感を覚えた。ゼクティア達、自動人形を召喚する力を与えた謎の存在に感謝する気持ちはある一方、得体の知れない改造が自分に施されている事実に再度不安を感じていると、宿周辺の警備の引継ぎを終え、室内の警備のためにロイトナンがやって来た。


「ははは、良いじゃねえか、ユタカ。中身はどうであれ外から見りゃ今のほうが違和感がないし、自然な感じだ。今までの方が違和感しかねえ状況だった思うぜ」


「はあー。もしかしたらそうやって、子供ぽくないって周りに言われ続けて無意識に精神年齢が低くなってるんじゃないだろうね。俺はロイトナン達に命令を出す身だよ、見た目通りの子供相応の理性になってしまうなんてゾッとするよ。俺が急に駄々をこねだしてロイトナン達に変な命令したらとんでもないことになっちゃうよ」


「正直、駄々をこねるユタカを想像するのは難しいけどな。真面目な話、ユタカが気を許して付き合える相手が俺たち以外にいるってのは悪いことじゃあないと俺は思うぜ。俺たちは別の人格を持ってるがどこまで行ってもユタカの能力に由来する存在だ。ユタカとは別人だが、別物ではない。なら、ディアナみたいな子が必要なんだよ、日常にはな」


 ユタカはロイトナンのいつなく説得力のある話に耳を傾けていた。


「ロイトナン、偶には良いことを言いますね。そうです、私が最近感じていた安心感はロイトナンが言葉にしたようなことがあるからだと思います」


「何が偶には、だ。そもそもこの件に関してはゼクティアも悪いぜ。お前はユタカを甘やかせ過ぎだ、過保護は毒なんだぜ。だから・・・・」


 ゼクティアとロイトナンが始めた言い争いをよそにユタカは考えていた。


 なるほど、ロイトナンの言う通りゼクティア達はあくまでも俺の能力に由来する存在だ。ゼクティア達だけが居れば何とかなると思ってたけど、それって一種の引きこもりと変わらない状況になってしまうのか。ならこの世界の人間と深く関わっていくことも必要か。今はマクトルの一部の人たちとは付き合っているが、どうしても仕事関係の意味合いが強い。・・・ディアナみたいな存在か。


 最後の宿場での宿泊を終え、昼になる頃には首都の姿が見えるところまで一行は進んでいた。騎士に護衛されたマクトル公爵家の紋章付きの馬車を要する集団を襲撃するような賊はなく、途中仲間からはぐれたのか、群れから追放されたのか、一匹で彷徨う六足犬やアカザル(サルもどき)数匹を広く展開していたマネキン達が見つけ撃退する程度であった。


「やっと見えてきたみたいね。とても順調な旅になったわね。私としてはユタカ達の力を見る機会がなくてつまらなかったけどね」


「この国の商都と首都を結ぶ街道の警備を疎かにする様な方ではないだろう、ディアナの父君は。俺達だけでなくディアナの騎士たちの数はどう考えても過剰だったってことだな」


 ユタカとディアナが他愛のない話をしていても護衛の騎士たちはしっかりと仕事をしており、3人ほど選抜し首都の城門へと先行させディアナたちがスムーズに検問を通れるように抜かりなく手配を行っていた。


 見えてきたヤンティヌム公国の首都メルディは商都マクトルと同じく長大な城壁で守られた城塞であるが、違う点として四方に配された城門のうち北門に関しては大きな港に接続しており、海を利用した貿易都市としての機能も有していた。


「商業で見ればマクトルの方が大きいのだけど、海を使って外国との貿易を行っている首都もそれなりよ。ただ、公国の首都だから役所とか各地の貴族の別邸とかが多いからマクトルとは雰囲気が違うわ」


 ディアナやアデリナの説明を聞いていると首都メルディの南門の兵が道の両脇に整列し、ディアナたちの乗る馬車を迎えている姿が見えた。


 ディアナを押し付けられた感はあるが、城門の前に並んで行列を作ってる旅人や商人の姿を見れば待ち時間なしで検問を通過できるのは助かったな。ただでさえ目立つ服装をしてるのにこんな大勢人がいる中で待ってたらトラブルが起きてもおかしくなかった。


 マクトル公爵家の威光を利用し、多くの兵に迎えられながら門をくぐった先にはマクトルとは違い落ち着いた雰囲気がありながらも活気のある街並みであった。


「ねえ、これからユタカ達はどうするの?私たちはこのまま別邸に行くのだけど」


「会談は明日の予定だからこれから宿を」

「ユタカ様や皆様にはマクトル家の別邸にてお迎えするするように旦那様から仰せつかっております。そちらの方が先方から連絡も着きやすいとのことですので」


 ユタカが言い終わる前に無表情のままアデリナがインターセプトを決めてきた。別邸に滞在することの必要性しっかりと付け加えた上で。


「ほんと!やった。じゃあ、ゼクティアに稽古をつけてもらおうかしら」


 満面の笑みを浮かべたディアナとは対照的にユタカは微妙な顔をしていた。今回の大公との会談に関してはマクトル公爵の良い様に全てが進んでおり、ユタカはその敷かれたレールの上を歩かされている気分だった。


 宿の手配をする手間が省けて楽だけど、最近マクトル公爵の手の上を転がされてるみたいだな。悪意を全くないから断りにくいし。誰かと戦ってるわけでもないし、全てを自分でコントロールする必要もないか。


「いいけどゼクティアより戦闘力がある者もいるぞ。それと何か剣術が使えるとかじゃないから力と速さを押し出した戦い方しか出来ないけどいいのか」


「いいわ、アルトナー先生から言われたのだけど戦場で、もしユタカ達みたいな理不尽な存在に遭遇してしまったら、指揮を執る者としては勝つのではなくただ生き残るための戦い方を知る必要があるって」


「ははは、ゼクティアが理不尽な存在って、俺にすればいつも側にいてくれていろんなことを助けてくれる仲間だけど」


 ディアナがユタカ達という存在が如何に異常かということを説明していると、首都メルディの中でもヤンティヌム城の近い一等地に大きな敷地を占有する豪華な屋敷が見えた。


「あそこが別邸よ。別邸だからマクトルよりは小さいけどユタカ達が泊まる分はあると思うわよ」


 屋敷の前に先ぶれから連絡を受けて使用人たちが総出でディアナを迎える準備をしていた。ディアナがアデリナの補助を受けながら馬車のステップを踏み、玄関前に降り立つと一斉に頭を下げた。


「「「「「おかえりなさいませ、ディアナお嬢様」」」」」


「ええ、一年ぶりね。今日からよろしく」


 ディアナが大貴族の令嬢にふさわしい振舞いをしているのを横目で見ながらユタカはゼクティアの助けを受けながら馬車を降りた。ユタカの足が地に着くと音もなくフェルトと8人のマネキン達がユタカの左右や後を固めた。それを見た使用人たちは今まで見たこともないような服を一様に纏い、不気味さを感じさせる一団を従え、歩みを進めるディアナと同い年ぐらいの少年に不審の目を向けていた。

 そんな雰囲気を感じ取ったからなのかアデリナが別邸を取り仕切っているであろう一番年嵩な執事と思われる男性に向かって周りが聞こえる声で話し始めた。


「旦那様の御意向によりディアナ様のご友人であるユタカ様とそのお連れの方が明日の大公陛下との会談のためこちらに滞在していただくこととなりました。くれぐれもよろしくお願いいたします」


「ディアナ様の御友人であらせられましたか。ようこそいらっしゃいました。ここメルディの御滞在がよきものとなりますよう、微力ながら尽くさせていただきますので何かありましたら何なりとお申し付けください」


「ありがとうございます。突然にこの人数で押しかけてしまい申し訳ありません。メルディの滞在中は色々とご迷惑をおかけすることと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします」


 長年にわたり首都の別邸を任され貴族、平民と関係なく訪れる者たちを見続けた執事はユタカが貴族や商人の類ではないことを一見して理解していたが、何者なのかが良く分からないでいた。自分達の主人である公爵が大事な娘の友人として認めている存在なのだから、只者ではないと思っていたが、子供に似つかわしくない返答を受け一瞬戸惑ってしまった。


「・・・。いえ、ご丁寧なごあいさつ痛み入ります。早速のユタカ様方のお部屋にご案内させていただこうかと思いますが、お荷物はどちらでしょうか。お運びさせていただきます」


「ありがとうございます、ですが荷物は大丈夫です。重いものがありますのでこちらで運びますので、フェルト」


 ユタカがフェルトに合図すると、ユタカの護衛をゼクティアとマネキン達に任せ、馬車で待っているロイトナン達の元へと向かった。


「じゃあ私たちは夕昼まで時間があるから稽古をしましょ。この先にちょどいい庭があるの。行きましょ、ユタカ、ゼクティア」


 他の使用人からはアデリナがあえて皆に聞こえるように話した内容から、ユタカ達が自分たちの主人の認める存在と理解し、不審感を帯びた視線が活発過ぎる公爵家の令嬢を優しく見守るような視線へと変化した。

次回は8月24日午前0時の投稿となります。


誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。

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