57.城からの出迎え
メルディにあるマクトル公爵家の別邸に到着して早々に始まったゼクティアとディアナの模擬戦は当然ながら一方的な展開で進んでいた。
「アルトナー先生が言っていたことが本当に分かったわ。前は食堂や戦場で見てるだけだったけど、実際に剣を合わせてみると納得ね。あなた達に勝つという考えを持つこと自体が間違ってることがよくわかるわ」
「ディアナがもう少し大きくなって身体が出来上がれば、学んできた技術を活かして生き残ることは出来るようになるんじゃないか。まあ、俺には出来ないけどな。剣術なんて習ったこともないし」
ユタカはゼクティアとディアナが稽古をしているのを庭に設置されていたベンチに座り、メイドが持ってきた紅茶を片手に優雅な時を過ごしていた。そんな姿を見たディアナはせっかく自分が楽しく稽古をしてるのにその姿を見もせず紅茶を飲みながら庭を眺め、時折側にいるメイドに質問しているユタカの姿に無性に苛立ちを覚えた。
「ユタカ!次はあなたとも戦ってみたいわ。ゼクティア達が戦ってる姿は見たことあるけどそれを率いるユタカが戦っている姿って見たことないからすごく気になるわ」
「はあ?俺は全く戦えないぞ。もしかしら体力もディアナよりもないぐらいだ」
「なに嘘言っているのよ。論功行賞の時に持ってた剣はすごい物だってお母様が言ってたわ。そんな剣を持っていて戦えないなんてはずないでしょ。さあ、木剣を持って!始めるわよ」
ユタカはディアナの勘違いを正す間もなく優雅に佇んでいたベンチから引き剥がされ、手に木剣を持たされたしまった。
参ったな、どうすりゃいいんだ。武術なんて高校の時に授業の剣道以外やったことないぞ。後はネットで見た合気道か。護身用にと思ったけど現実世界でそんなものを使う機会なんてなかったしな。いくら子供の力でもこんな固い木剣で叩かれるは勘弁だ。
どうにかして痛い思いをせずに終わらせようと考えていたユタカを前にしてディアナは木剣を構え、しばらく見合った後飛び込んだ。
何かしらあの構えは?それに足を妙に地面を擦って移動してる。何か意味があるのかしら。まあ、いいわ。まずは小手調べで一合!作戦を考えるのはその後!
「え?痛たたたた」
ユタカは授業でやった剣道の構えでとりあえず摺り足で意味もなく動いていた。そこにディアナが鋭く距離を詰め、上段から木剣を打ち付けてきた。ディアナが発すあまりの気迫と鋭さにユタカは思わず腰が引け木剣を合わせることもせず大きく後ずさったうえ、握りの甘かった木剣にディアナの力強い攻撃による衝撃が襲い、手放してしまった。よもやまともに木剣を合わせることもなく、無様に後ろへ下がることを予想していたなかったディアナは盛大に空振りをしてしまった。そして、ユタカはたまたま目の前で伸びきっていたディアナの右手首をひねり上げ、そのまま背中に回して地面に押し倒し、まるで警官が犯人を取り押さえるような形となってしまった。
「おお?ごめん。なんだか決まっちゃったな」
ディアナは母親であるアロイジアや先生であるアルトナーに剣で打ち負かされ地面に倒れたことは何度となく経験したことがあったが、同い年の男の子に手を掴まれ身動きがままならない体勢で押し倒されるという状況に顔を赤くし、スカートに付いた埃を叩きながら立ち上がった。
「・・・。べ、別にかまわないわ。?、掴まれたときはものすごく痛かった気がしたのだけど、今は何ともない」
「そうか。けどこれっきりにしてくれよな。これで分かったろうけど全く俺は戦うことが出来ないんだ。その辺の同い年の子供の中でも群を抜いて弱い自信はあるぞ」
「・・・そんなユタカに地面にその・・・お、お、押し倒されて私としては釈然としないところがあるけど、さっき見せた剣の避け方を見ればその通りなんでしょ」
「皆さま、夕食のご用意が出来ました。・・・ディアナ様、食堂に向かわれる前にお召し物を代えさせていただきます。ユタカ様は先に食堂にご案内させていただきます。そこのあなた、ユタカ様方をご案内して差し上げてください」
夕食後、ディアナは貴族学校の制服を作成するための採寸や持ち物の選定などで忙しそうにメイドたちと動いた。一方のユタカは会談まで特にやることもなく、用意された部屋でゼクティア達と共にのんびりと過ごした。
「さすがに大貴族の屋敷だね。夕食もうまかったし、浴場も大きくてよかったよ」
「はい、シャッツへの新たな料理という土産も出来てよかったと思います。ところで、話が変わりますがこれよりアルファとベータにヤンティヌム城や周辺の確認をさせるために行動させる許可を頂いてもよろしいでしょうか」
「もしもの時の脱出経路を確認するためかい。そんな事態は起きないと思うけど、フェルトとしては必須なんだよね。ん~、くれぐれも見つからないようにして。先方にマイナスの印象を与えたくは無いからね」
「わかりました。衛兵に見つからないことを絶対条件として可能な限りの偵察を行います」
ユタカの許可を得ると、フェルトは部屋の窓際に待機していたアルファとベータに目配せをした。それを受けた二人はすぐさま手に持っていた黒い大きなフード付きのマントを纏って、窓から夜のメルディの町へと消え去って行った。
翌朝、食堂で朝食をとっていると大公家から予定通り昼頃より会談を開催する旨の連絡が入った。それに昼前に別邸まで伴い迎えの馬車を出すとのことだった。
「ふ~ん。ところでディアナの姿がないようだけどどうしたか知っていますか」
「ディアナお嬢様は親しくされているご友人のお宅に向かわれました。帰りはお昼過ぎになるかと思われますが、何か言付けがございましたらお申し付けください」
食堂で配膳をしてくれているメイドに姿が見えないディアナのことについて聞くとすぐに答えが返って来た。
「別に気になさらないでください。姿が見えないので少し気になっただけですので。大公陛下との会談が終わったらそのままマクトルに帰ろうかと思っていましたので、挨拶する機会がないかも、と思っただけです」
食事後ユタカ達は部屋に戻り、大公との会談の準備を行っていた。
「ねえ、フェルト、どうだった」
「さすがに国主の住まう城といった所ですね。警備はかなり厳重です。ユタカ様を無事に脱出させられる見込みはありますが、その過程でこちらは破損し召喚が解除されてしまう者が何体もでるかと予想されます」
「そう、俺はゼクティアやみんなが怪我するとこなんて見たくないけど、もしもの時はお願いね。ところでさ、なんだかパーツ増えてない?これなに?」
ゼクティアがマクトルから持ってきたバックの中からいつもの正装一式を取り出し、せっせとユタカに飾り付けていたが、今までつけていなかったものが新たに取り出され装着されようとしていた。
「え、えーと。これは国の王に合うのでより格式を高くしようかと思いまして。マクトルの職人に作らせておりました」
そういうとユタカの立てた折襟の内側にリボンを通して金属製のメダルが首のすぐ下に出るようにして、襟を元に戻した。
「これは中綬と言いまして、メダルのデザインは桜をモデルにしました。この世界にはない花ですが、ユタカには馴染みのあるこの花に」
「ちょっと待って。なんで俺ばっかりゴテゴテしてるの?遊んでるでしょ、ゼクティア」
「そ、そんなことありませんよ。今回は私たちも飾緒を付けていきますしね。そうなるとユタカにはより章を付けたほうが良いかと思いまして。ユタカを飾り立てたいという思いはなくもなくないとい言いましょうか・・・」
いつも真面目に仕事をしてくれているゼクティアは、ユタカの服装のことで興奮するきらいがあった。
「はあ、まあゼクティアが楽しそうにしてるからいいけどね。世話になってるんだからゼクティアの楽しみのためなら我慢するよ。でも、ほどほどにしてもらえたらうれしいな」
ゼクティアはその言葉を聞いて嬉しそうにほほ笑んだ後、最後の飾りである帽子を被せて微調整をした。その後、ゼクティアを含めた完全体は黒い霧を纏わせ一瞬にして帽子や手袋、飾緒を付けて準備を終えた。
「その能力いいよね、一瞬で着替えられるんだもん。俺のなんてゼクティアが手伝ってくれなかったら何が何だか分からないよ」
「着替えと称してよろしいのか何とも言えないものです。本体の一部を変形させ服のようにしているだけですので。さあ、全員この鞘に換えて準備を終えてくれ」
フェルトがユタカのぼやきに応えながら大きなケースから金で装飾された剣の鞘を人数分取り出し、各人が通常使っている実用性を重視した武骨な鞘から剣を取り出して、渡された鞘に換えて剣を佩き直した。
「護衛の隊形ですが、基本的にはユタカの左右をゼクティアとベータが守り、その後ろに私とロイトナン、アルファが就きます。ゼクティア達の斜め前方に不完全体が一体ずつ就いて、残りの6体を私の後方に配置します。移動先の広さによっては配置を変更しますが、この形で警護をします。危険はなさそうとのことですが、なにが起こるか予想がつき辛い状況ですので窮屈ですが我慢していただければと思います」
「随分と厳重な感じになったね。みんなが守ってくれるんだ、窮屈だなんて思わないよ。お、迎えが来たみたいだね。行こうかみんな」
ユタカが話しているよメイドが大公の迎えが来たと伝えにやって来た。部屋の中を見たメイドは着飾ったユタカ達を見て一瞬だけ驚いた風にしていたが、すぐに落ち着き迎えの待つ屋敷のエントランスにユタカ達を案内した。
エントランスに待っていのは西洋風の金属の鎧にマントを着た10人ほどの騎士たちの姿だった。騎士たちは見たこともないような衣服で着飾った10人以上の者を従え、自身はその者たちとは位の違いを感じさせる装飾がされている子供の登場に驚き、自分たちの装備とユタカ達を見比べていた。
王侯貴族でも室内でこれほどの護衛を付けて移動することはないだろうと思うような状況で自分たちの前へと近づいてきた少年に向かって、中央に立っていた騎士の一人が一歩前に進み、右手に拳をつくり自身の左胸に打ち付ける動きをした。
次回は8月31日午前0時の投稿となります。
誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。




