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55.首都への同行者

 拠点の屋敷では早めの朝食を終えたユタカ達が玄関前の庭に止めた馬車に必要なものを詰め込む作業を行っていた。


「大体、積み込みは終わったかな。しばらく戻れないから忘れ物がない様に確認しておいて。それと、今回同行してもらうみんなにはテヒニクの研究の成果、その一つを配ろうかと思う」


 テヒニクが自身の工房から持ってきた合金製の剣を配って回った。それを受け取ったロイトナンは早速鞘から刀身を抜き、素振りを行っていた。


「以前から賊の持っていた物を使ってたせいでよく壊していたとユタカから聞いていてな、それで急ごしらえだが剣を造った。ステンレス鋼の類だからメンテナンスは楽になるだろうが、剣自体の構造上の工夫が無い単一材料での製造だから、どうしても曲げの強度はユタカの刀に劣るから刀身の横からの力には気を付けてくれ。それと切れ味も大したことないぞ」


「ステンレスか、なら錆びにくいのか。今までのやつはすぐに錆びちまって大変だったから助かるぜ。だがテヒニクがわざわざ作ったもんなら今までみたいに壊れても構わないような使い方は出来ねえな」


「ロイトナン先輩、壊さないでくださいね。それ造るのに掛かった費用はかなりのものです。それだけでも大変なのに他にも色々な金属や原料を買ってくるから家計が火の車です。道中お金になりそうなことがあったら積極的にお願いします」


「お、おう」


 ユタカ達の財布を握る主計官シャッツの鬼気迫る表情に押されロイトナンはのけぞりながら返事をした。一方、昨今の散財の大きな比率を占めているテヒニクは我関せずとでも言うかのように今後の研究や作業の予定をユタカと確認していた。


「まあまあそんな怖い顔をしないでくれ、シャッツ。今回のマクトル防衛戦でエルビィンさんの所のバルリング商会はかなり利益が出るように俺が計画に組み入れたし、そのことはエルヴィンさんも認識しているところだから俺達にいくらかの優遇をしてくれるはずだ。それで少しは出費を抑えられるんじゃないかな。当然、首都に行く途中も到着しても何かしらの成果を得られるようにするつもりだよ。マクトル公爵からは互いの契約があるから報酬を受け取るのを拒否したけど、大公に関しては特に何かをしてもらったことはないから今回の件で報酬が出るのなら遠慮なく貰ってくるつもりだから期待してて」


 シャッツはユタカの話を聞き若干額に寄せていたしわの谷の深さを浅くした。その姿を見てユタカが思わずシャッツの頭を撫でそうなったところで準備作業が完了したゼクティアとフェルトがそばにやってきた。


「ユタカ殿、すべての準備が整いました。先方との待ち合わせ場所に移動するお時間です」


「わかった、また俺の警護をよろしくね。じゃあ、シャッツ、テヒニク、留守中は3人のマネキンと一緒に委細を任したよ。何かあったらすぐにゼクティアに連絡を入れてね。行ってくるよ」


 ユタカ達は屋敷に残る5人の見送りを受けながら屋敷を出発し、マクトルの北門に向かって馬車と隊列を進めた。

 集合場所である北門が見えてくるとそこにはマクトル公爵家の紋章が刻まれた豪華な馬車とその前後を挟むように荷馬車と領軍の騎士たちが馬から降りた状態で待機していた。


「ユタカ!遅かったわね。私は昨晩から楽しみで早く来すぎちゃってずっと待ってたわ」


 約束していた時間には余裕を持ってやって来たユタカ達を待っていたのは早朝の時間には不釣り合いなハイテンションの公爵令嬢ディアナの文句であった。


「??申し訳ございません。私にはなにが楽しみなのか全くわからないのですが、私達はこの国の首都まで案内をしていただける方と待ち合わせをしておりまして。公爵閣下がご手配していただいたのことですが、どなたかご存じないでしょうか」


「??お父様からユタカ達が首都に向かうのでご一緒させてもらいなさいと伺って待ち合わせとなっている北門に来たのよ」


 まだ朝霧の残る北門で二人の子供が全く噛み合わない会話をしているとディアナの横に控えていたメイドが静々と懐に大事そうにしまっている公爵家の紋章付きの手紙をユタカに手渡してきた。


 それを読んでいたユタカのこめかみヒクヒクと動いていた。そんな姿をじっと見ていたメイドは読み終わったころ合いを図り、事情を簡潔に話し始めた。


「初めまして、ユタカ様。わたくしはディアナ様付きメイドのアデリナと申します。昨晩公爵閣下より本日ユタカ様にお会いした際に渡すよう命じられた手紙にございます。よろしくお願い申し上げます」


 内容としては娘を持つ父親が心配して首都にある学校に就学するために旅をする娘に付いていってほしい、という内容だった。何でも首都までの道は北門から延びる道を脇道に逸れずに進めば問題ないようで、護衛の騎士たちも何度もこの道を移動している経験者で固めているようだった。


 動きが止まっているユタカの耳元に腰をかがめて口を近づけたアデリナは手で覆いながら小さな声で話した。


「これは護衛のお仕事をお願いしていると考えておりまして、公爵閣下から明日にでもユタカ様のお屋敷に謝礼金が送られる手はずとなっております」


 ッチ、上手く物事を進めてくれる。あの公爵、戦争に関して凡庸であっても内政に関してはやり手だったな。大公からの急な指示までも娘を守るための戦力として俺たちを利用するために、首都へ行かせる用事として利用してくるなんて。文句を言おうにも札束で殴られては何も言えんな、今朝のシャッツのこともあるし偶然だろうが最高のタイミングで金を出してきた。まあ、荷物が増えるのは確かだろうが騎士たちの実力も保証されているのなら、むしろ俺が守られているぐらいに考えておくか。


「何をアデリナとコソコソ話してるのよ。私にも聞かせなさい。ずるいじゃない」


「いえ、ディアナ様のお父様の”賢さ”を改めて認識させていただいたと言うことを話していたのですよ。いつまでもこんな人数で門の前にいるわけにも行きませんので出発しましょうか」


 ユタカが少しの嫌味を含めて笑顔で答えていると、登場してから表情を変えなかったアデリナがにっこりと笑みを浮かべた。


 若干の意図された行き違いがあったものの一行は無事にに首都に向けて出発をした。隊列としてはディアナの馬車の前後を領軍の荷馬車が挟み、その前後と左右を騎士が護衛し、その後ろをユタカの馬車が付いていく形となっていた。ロイトナン達はロイトナンとフェルトを馬車に残し、アルファやベータ、マネキン達は進行方向と側面に大きく展開して護衛を行っていた。

 そしてユタカの姿は何故かゼクティアとともにディアナの馬車の中にあった。


「このアデリナはね、私が小さい頃からずっと一緒にいるメイドなの。首都にある別邸にも使用人はいるのだけど、どうしてもアデリナだけは一緒に来てほしくてね」


「はい、メイド見習いの頃にまだ一人で立ち上がれない頃のディアナ様にお会いしてからお側にいさせていただいております。わたくしにとってはあのディアナ様が貴族学校に就学されるまでに成長されたのは大変感慨深いものがございます」


 本当に感慨深いのか分からないほど特に表情が変化していなかったがディアナには通じているようだった。


「貴族学校というものは何を学ぶところなのですか。ディアナ様は十分にマナーや知識を学んでいるように感じておりまして、このまま公爵家の方で学習をなさった方が身に付くものが多い様に感じましたので」


「そういえばユタカはあんまりこの国のことを知っていなかったわね。ヤンティヌム公国立貴族学校は14歳になった貴族の子女と国中から特に優秀と認められた平民が通うところよ。普通、貴族の子女はユタカの言う通り14歳までにそれぞれの家で基本的なことを学んでいるわ。だから、公国が集めているより高度な知識の習得や将来のための人脈を作る機会になるわね。一方で平民にとっては高級官僚となるために互いに競い合うことになるわ。卒業時の成績次第である程度昇進の具合が決まってしまうからね」


「付け加えますと、以前はその名の通り貴族の子女のみに門が開かれておりましたがエドゥアルト・ヤンティヌム陛下の御代になり平民にも開かれ、国中から優秀な人材が身分を問わず役人として登用されるようになりました」


 身分に関係なく優秀な者を集めて教育をするのは先進的な考え方だが聞く分には貴族と平民との学習意欲の差がありすぎて、同じ学び舎にある必要性を感じないな。まあ、官僚になるつもりがない俺には関係のないことだが。


「なるほど、ではディアナ様は今まで学んできたことの再確認と不足があれば補足を行いつつ、主としては貴族同士のつながりを作っていくことになるんですね。大公陛下と会談をさせていただいた後はマクトルに戻る予定ですが、ディアナ様のご活躍をお祈りしております」


「ええ、お父様やお母様から教えて頂いたことを存分に活かして見せるわ。それといい加減に”様”を外してちょうだい。同い年なのにいつまでも他人行儀はよして、それに色々あったけどあなたが私よりもマクトルのために活躍し、功績を残したことを知っているのにそんな人から様を受けられるなんてなんだか馬鹿にされてるみたいに感じる。お父様も言っていたわ、ユタカから様を付けられるに値する人物かを考えなさい、って」


 あの公爵もなかなか厳しい面もあるんだな。ディアナぐらいの頃の俺と比べればはるかに優秀で、自覚のある人物と言えるのに。中身が30代の男と比べては酷が過ぎるようにも思えるが、娘のさらなる成長を期待してのことか。俺がそのための超えるべき壁ってとこか。


「分かりました。いや、分かったよ、ディアナ。これでいいか。まあ、俺としても仕事用のしゃべり方を続けるのは気疲れするからちょうどいいか。ディアナがマクトルに帰ってきたころには様を付けるに値する人物になっているだろうから、こんな風にしゃべる機会も多くないだろうがな」


 ディアナの希望どおりに様付けを無くしてしゃべりだしたユタカの口調の変わりように少し驚いていたようだが、あからさまなよそよそしさが全くない雰囲気に嬉しさを隠しきれなかった。


「ええ!私が帰って来た時はユタカが心から様を付けらるようになっているわ!」


 そんな二人の会話を聞いていたアデリナは相変わらず表情を変えずにいたが、慈しむ様な目をディアナに向けていた。そんなアデリナの姿を見ていたユタカに気づいたアデリナは今度は出発時に見せた笑顔を再び見せた。

次回は8月17日午前0時の投稿となります。


誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。

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― 新着の感想 ―
びっくりするくらいに、アデリナかナデリナか名前がはっきりしなくて笑いました。
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