47.襲撃部隊解散
「だぁー、疲れた。お前ら誰も死んでないよな!さっさと飯にするか」
「ゲルトさん、誰も死んじゃいないが死にそうなぐらい疲れてますよ」
「やっと休める」
森の各所に設置された物資集積の一つに夜間の襲撃を終えて帰ってきたシャッツが率いる傭兵たちが帰って来た。そして、その集積地に待機していたロイトナン隊の一部がシャッツ隊の到着時間があらかじめ分かっていたかのようなタイミングで準備を終え、出発して行った。
「ご苦労さん、あとは俺たちの番だな」
「気を付けろよ、なんだか敵の反応が鈍くなってる。何か狙ってくかもしれない」
「よし、休んだ分頑張ってくるぜ」
ここ数日の作戦で幾度となく戦闘を共にした領軍と傭兵は互いに健闘を祈りながらすれ違って行った。
「ふ~、やっぱり着いてすぐに飯が準備してあるのは最高だな」
ゲルトが戦闘に参加せずに集積地で炊事を担当している領軍が作っていた食事を受け取り、食べているとケヴィンとレオが近づいてきた。
「お互い今日も無事に生き残れたな。それにしても随分と活躍してるな大楯傭兵団は」
「お疲れ様です、ゲルトさん」
「おう、活躍って言ったらお前も一人で敵を何人斬って来たんだ。離れた所でも敵が狼狽してるのが分かるぜ。なあ、レオ」
「まあ、給料とこの状況にふさわしい仕事はしないといけないしな」
そう言いながら3人はユタカの提案で構築されたとされる集積地にある予備の武器や食料、寝床を見ながら考えていた。
「まあ、なんだ、ユタカは元々ただならぬ感じがしてたが、その部下たちもすげえってことだな」
「ああ、俺たちを率いている嬢ちゃんも大概だが、他の連中も休んでいるところを一度も見たことがないぞ。あいつらはマクトルを出発して、この森に入ってから寝たことがあるのかさえ、怪しい」
シャッツ達は自身が率いる部隊が集積地に到着すると、すぐに周辺の警戒のために姿を消していた。そのおかげでゲルト達は交代で見張りを立てる必要がなく、十分な休息をとることが出来ていた。
「それは、ユタカの部下だからとしか言えないな、ははは」
友人であるゲルトの下手なごまかした笑いを生ぬるい目で見ながらケヴィンは大きなため息を吐いた。
「前に賊のアジトを襲撃したときユタカ君にレオと共に同行させてもらったのだが、その時も感じたがおそらく遠くの仲間と情報をやり取りすることが出来るみたいな事があった。そんな力の発展形なのか、今は上から誰かに見られて盤上の駒を操るように動かされているような感じがする」
ケヴィンは指を空に向けながらゲルトに感じていることを話した。それを見たゲルトは笑いをやめ、少し真面目な表情をしていた。
「ああ、あの時ユタカに見せられたのか。だが、そんな力もあったのか。多分、ケヴィンが感じている通りなんじゃないか。俺たちは常にシャッツちゃんが先導した通りの道を、決められた速さで移動してる。すると、いつの間にか同じようにユタカの部下に率いられた部隊が釣って来た敵の側面に陣とっていて簡単に攻撃が出来る、その逆もな。こりゃー、全てユタカの思い通りに動かされているんだろうな俺たち」
ケヴィンとゲルトが自分達が置かれている状況の奇妙さに唸っていると、レオが常識的な意見を言い始めた。
「お二人を疑う訳ではないですが、そんなことがあり得るんですか。確かにユタカの部下の強さや只者ではないことは分かりましたが、今マクトルにいるはずの俺よりも小さいガキが戦場を動かしているなんて信じられないんですが」
「レオの言う通り、普通はありえないな。だが、私が感じた違和感と敵軍に対する容赦の無い対応の仕方がユタカ君のやりようにとても似ている」
「確かに森に誘い出された敵は誰一人として逃がしていないみたいだし、ずっと交代で昼とか夜とか関係なく敵軍を攻撃し続けるエグさはあのガキがやりそうなことですが」
少し考えていたゲルトがレオに向かってシャッツを見ているように言った。
「まだまだだな、レオ。一人前の傭兵なら自分が感じた違和感を信じて、生き残るんだよ。そんな俺の感じた違和感からすると、敵軍の動きが変わってきたからそろそろシャッツちゃんが誰とも話をしていないはずなのに急に今までとは違う指示を出してくるぞ。しばらくシャッツちゃんを見てな、レオ」
ゲルトに言われた通りレオがシャッツを見ていると一人でただ森を見ていたはずのシャッツが突然振り向き、集積地にいる者に向けて指示を出し始めた。
「作戦が次の段階に移行しました。これよりしばらく休憩をした後現在建築中の防衛陣地へと移動を開始します。それまで、十分に休憩をとり体力を回復しておいてください」
突如、後退指示を出したシャッツを見て、レオが信じられないもの見たかのように目を見開きながらゲルトを見た後、ふっと空を見た後ケヴィンの方を見た。
そんなレオの姿を見て、ゲルトとケヴィンは諦観したように首を横に振りながら笑っていた。
その後、ゲルト達は道中、森に設置されていた物資集積地の物資を撤収するために雇われたと思われる傭兵たちとすれ違いながら、事前にシャッツに伝えられていたように防衛陣地に一番近い集積地で先行していたロイトナン隊と合流、休憩を行った。そして、久しぶりに森から抜けマクトル領軍2,000が動きまわって整備を行っている最中にある防衛陣地の姿を見た。
「すごいな、これだけの備えがあればあの大軍を相手にしても勝つ目はあるぞ。あのユタカのことだ、多分、徹底的に敵を足止めして飢えさせる気でいるぞ。あんなに固めてしまったこちらが陣地から打って出るのさえ簡単ではないからな」
陣地を見たゲルトがケヴィンと話してながらロイトナン達の案内に従って陣地内を移動し、小高い丘の上までやってきた。そこには陣地の周辺にある兵士が寝泊まりするためのテントと比べて大きく、豪華な外装が施されたテントがあった。
そんなテントの前でしばらく待っているとアルトナー司令官を先頭に金色の飾緒を付けゼクティア達を従えたユタカが現れた。
ユタカの姿を確認したロイトナンは敬礼をした後、帰還の報告を行った。
「ロイトナン隊480名、シャッツ隊28名、任務より帰還いたしました」
事前に報告は受けていて知っていたものの領軍で構成されていたロイトナン隊の兵員が減っていることを実際に目にして一瞬顔をしかめたユタカがアルトナーに目をやった。
「皆、よくやってくれた。君たちの働きによってこの陣地の完成がなった。本来ならゆっくりと休むように言いたいところだが諸君が最も理解しているように敵は多い、今後は領軍は私、傭兵の諸君はユタカ君の指揮の下、本陣付きの予備部隊となる。戦いが始まるまでのわずかな時間、十分に休息をとるように。以上、解散」
アルトナーの挨拶後、ロイトナンは自身が率いていた部隊の隊員や副隊長と軽く話をし、ユタカの元にやってきた。領軍の兵士と傭兵もなにやら楽し気に話をした後、三々五々、与えられた自身のテントへと散っていった。そんな中、ゲルトとケヴィンが笑みを浮かべながらユタカの方へやってきた。
「おう、ユタカ。ずいぶんとキラキラした格好してるな、最初に出会った村人姿が懐かしいぜ。ずいぶんと働かしてくれたのに更に、働かなきゃならないのか?」
「ユタカ君、君のおかげで今までになく、いい環境で戦えたよ」
「お疲れ様です、ゲルト、ケヴィンさん。傭兵の皆さんに関しては予備部隊として俺の指揮下に入りますがよっぽどのことがない限り、ここで待機するだけだと思いますよ。皆さんのおかげでこんなに立派な陣地が出来ましたからね。それとこの格好は正装でみんなを迎えるべきだとゼクティアがやってくれたんですよ」
そう言ってゼクティアの方を見ると「よく似合っています」と言って笑みを浮かべていた。その後、雑談を短く交わしたところでゲルト達もテントに去って行った。2人を手を振りながら見送ったユタカは久しぶりに再会したロイトナン達の方を見た。
「みんな、お疲れ様。ゼクティアから常に連絡は受けてたけど怪我もなく、無事に帰って来てくれて本当に良かったよ」
「おうよ、だがもう少し敵を削っておきたがったが上手くいかなかった。それにかなり味方が損耗しちまった」
「それに関しては正直、領軍との調整時間の不足が原因だと思ってる。シャッツの率いた傭兵たちとは互いに知っていたこともあって今回の作戦にあった訓練を積んでもらってたからね。それとロイトナンの職能を超えるような兵数を任せてしまったことも悪かった。でも、そんな状況でも領軍の兵士たちが急にやってきた俺たちの指示に従って、これだけの戦果を挙げてる働きをしてくれたことは素晴らしかった。さすがに、アロイジア様が鍛えているだけあると思うよ」
ユタカ達は言葉を交わしながら本陣のテントに入り、アルファから常に送られてくる敵の現在位置と重要目標であるボイオス伯爵の位置を示した地図の前に移動した。
「さあ、確認だよ。この防衛陣地での戦闘は基本的にマクトル領軍に任せる。でも、この人数差では全ての箇所を守り切ることは不可能だと思う。だから、アルトナー司令官の指示に従って崩れそうな箇所に行って、前段の防衛線から後段の防衛線に味方が撤退する援護と崩壊箇所の左右を閉塞する時間を稼ぐ役割を担ってもらう。これはロイトナンとマネキン7人に任せるよ」
「任せておけ。この人数がいれば時間稼ぎと言わず、そのまま敵に切り込みだって出来るぜ」
「それは今回やめておこう。我々はこの防衛線で守ってるだけでいいんだから、そしたら勝手に敵軍が溶けていくよ。何よりロイトナン達をずっと防衛線に張り付けておくつもりはない。時期をみてボイオス伯爵の首を狙う、斬首作戦を行う。これは何よりも優先される、アロイジア様やアルトナー司令官に言質を取ってある」
ま、その代わりに俺が斬首作戦を始めたところで傭兵部隊の指揮権はアロイジア様に委譲されることになってるんだけど、その段になって傭兵部隊を投入しなきゃならなくなることもないだろう。
「予想では今日の夕方ごろ敵軍が現れ、明日の早朝より戦闘が始まる。それまで各自自身の装備の確認をしておいて、フェルトとシャッツは悪いけど馬車の状態の確認をしておいて。あの馬車で俺が戦場を移動することになるだろうからね」
「「「「了解」」」」
次回は6月22日午前0時の投稿となります。
誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。




