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39.敵、侵攻開始

 ユタカはロイトナン達がいる部隊がマクトルを離れてから数日が経ち、朝はゲルトたち傭兵団の走り込みの見送りをし、その後はマクトル城に行き状況の報告・確認をし、夜は傭兵たちに食事を振舞う日々を送っていた。


「じゃあ、今日も皆さん頑張ってください。かなり走れる距離が伸びていると聞いていますので今回の作戦でも活躍できることは間違いありません」


「おうよ、ユタカ。これまでの人生でこんなに走ったことはないが、成長している感じはかなりあるな。それに、走った後にシャッツちゃんの飯がたらふく食えるし、金も出てるし最高の仕事だぜこれは。なあ、みんな!」


 ゲルトがつらい走り込みが始まる前に傭兵たちを鼓舞していた。それに応える傭兵たちの野太い声が轟くのが最近の南門での風景になっていた。


「それにしても、シャッツちゃんは何者なんだ?団長のゲルトさんやケヴィンさんと走っていても息一つ上がったところを見たことがねえ。それに、夜は俺たちの料理を作ってくれるし」


 ゲルトの大楯傭兵団の中からはシャッツの異常さに疑問を持っている者のいたが、一部の勘の良い者は以前に見たマネキンの姿から予想が出来ていたが口を閉ざしていた。


「今日も帰ってきたら屋敷でいっぱいの肉料理と風呂を用意してますので、限界まで追い込んできてください」


 まさに飴と鞭と、そして栄養管理で傭兵たちの基礎体力の大幅な向上を行っていた。走っていく傭兵を見送るとすぐに、城へと移動したユタカは今回の作戦で本部となる部屋へと赴き、大きな地図と複数の兵駒を使ってアロイジアやアルトナーと今後の動きの確認を行っていた。


「このような動きを基本として敵の動きに合わせて臨機応変に変えていきましょう。それと、辺境地域に向かった部隊の状況ですが、順調に治安の回復を行っているようです。やはり、逃げることを前提にしているようで賊自体の討伐数は多くはありませんが、拠点の破壊は問題ないようです。それと、森の中での・・・」


 ユタカが報告を行っていると後ろからゼクティアが近づきしばらく耳打ちを行った。


「偵察より報告がありました。現在、ボイオス領の領都より軍がマクトル方面に向かい移動を開始したそうです。以前から人員等の動きも確認しているのですが、そのことから考えると他の町からも同様に軍が出発し合流した後、マクトル領への侵攻を開始するようです。敵軍の総数については合流完了後に分かりますが、領都からの軍の数から想定するに9,000から10,000の間になるかと思います」


「10,000!どこにそんな兵力があったんだ。ボイオス伯爵領は今経済の停滞と不作で飢饉が起きる可能性さえあるような状況に」


「落ち着きなさい、アルトナー。最悪の想定では考えていた数字です。それよりも敵が出陣した日に、いや、その時に報告が入ってくるこの状況がとてつもなく有利になるということを認識しましょう。ユタカ、敵の編制については何か分かっていることはありますか」


「そうですね、やはりそう予想通り兵のほとんどが農民のようで不揃いな武器や、中には農具を持っている者もいるそうです。ですが、想像以上に騎兵が多く配置されています。おそらく1,500ほどではないかと思います」


「ボイオス伯爵のどこにそのような余裕があるのか、ますます分からなくなりましたね。軍馬を1,500も揃えるなんて到底今のボイオス伯爵領では不可能なようにも思えますが、理由の解明は後でいいですね。多分その騎兵たちは戦闘に参加するよりも、徴兵した農民の監視、督戦を行うために動くでしょうね。」


 なるほど、経済状況が悪化している地域の農民を無理やり徴兵して、碌な武器も持たせていないとなれば逃亡や士気の低下は免れないか。


 ユタカはアロイジアの考えを聞きながら机上の地図のボイオス伯爵領のある所に20個ほどの黒い兵駒を置いていた。


「アルトナーさん、これで野戦築城を開始しても大丈夫でしょう。これほどの動きを始めてしまえばそう簡単に止まることも出来ませんし、このような大軍を差し向けてマクトル攻略を露呈させてしまっている以上延期は出来ないでしょうから」


「分かった。すぐに予定位置で作業を開始できるように手配をしよう。ユタカ君は辺境地域の村で待機している部隊に移動を開始するように連絡をしてくれ」


「分かりました。ゼクティア、ロイトナンに当初の計画に沿って移動を開始するように指示をしてくれ。」


「了解」


「いよいよ、始まるのね」


 動き出した周りの状況を見ていたアロイジアは少しだけの緊張と昂りを抱いた様子でいた。


「はい。敵軍が数的優位であると予想してはいましたが、少々多すぎるので森の中で待機している部隊と私の用意した別動隊に頑張ってもらう必要がありますね。別動隊には明日の朝、森へ向けて移動してもらいます。その後敵軍の移動に合わせて夜襲、急襲、兵站破壊などの任務に待機している部隊と協力して当たってもらいます。作戦開始後、私はこの本部に詰めさせてもらい全体の連絡を統括させてもらいます」


「分かってるわ、今回の作戦の要はユタカだもの。じゃあ、これからの準備もあるだろうから今日はこのあたりで解散しましょう」


 城を後にしたユタカ達は拠点である屋敷に戻り、トレーニングから帰ってくるゲルト達を待っていた。


「おう、ユタカ。今日も風呂と夕飯をもらうぜ」


「お疲れさまでした。ゲルト、ケヴィンさん、風呂から上がった後、上の執務室に来て頂けますか。今後のことでお話があります」


ゲルトとケヴィンはついに戦闘が始まることを察知し、重々しく頷いた後浴室へと移動していった。


「みなさん、お疲れ様です。今日もお風呂と夕食を用意していますので楽しんでください。少量ですがお酒もお出ししますよ。ゆっくり体を休めてください。シャッツ、帰ってきて早々悪いけど今日もお願い」


「分かりました。特に疲れるようなことをしてないんで大丈夫ですよ。」


 それを聞いた傭兵たちは慣れてはいるものの自分達とは違って休みなく朝から走り続け、それが”疲れるようなこと”でないという認識をする小さな女の子の姿を見て少しへこんだように浴室へと歩いていった。

 シャッツはそんな様子も気にするでもなく2人ほどのマネキンを引き連れ厨房へと移動し、生き生きとした声を出しながら大量の料理を作り始めた。


 一方のユタカはゼクティアを引き連れ執務室へと行き、風呂からあがって来たゲルトとケヴィンに弱めの酒を出しながら話をしていた。


「本当は運動後にお酒を飲むのはよくないかもしれませんが、まあ、息抜きとして少量なら問題ないでしょうから召し上がってください。それで、明日からのことですが本格的に行動を開始します」


「それで、ユタカ君。具体的に我々どのように動くんだい。最初の話からするに夜襲とかを行うような感じかな」


「はい。明日皆さんにはマクトルの南門から出ていただき、そこから道なりに進んでしばらくのところにある森へ行ってもらいます。その森には先に出ていった領軍の部隊の一部が待機しておりますので、その部隊と共同して敵軍に対して夜襲や挟撃、妨害などを行ってもらいます。先に言っておきますが第一の目的は敵兵の漸減ではなく士気の低下、補給物資の破壊にあります。危なくなれば躊躇なく撤退を行います。襲撃が難しそうな場合には無理せず時を待つ。そんな戦い方を会戦が始まるまで行っていただきます」


「なるほどな。戦果よりも俺たちから死人やけが人が出て、戦力が低下して行動できなくなることを避けるのが重要なんだな。それで、敵軍の動きや領軍との連絡はどうする。森の中をうろうろしてたら伝令もなんもないだろ」


「そのあたりの問題を解消するためにこの部隊の名目上の隊長としてシャッツを配置します。申し訳ないですが、私は本部に詰めて全体の指揮を補佐しなければならないので、同行することが出来ないんですよ。それとシャッツは部隊の指揮は取れませんから実際の部隊の動きに関してはゲルトやケヴィンさんにお任せします」


 名目上であっても自分達よりはるかに幼い女の子が隊長になってもゲルトはユタカの能力を知っているためか何も言わず頷き、ケヴィンは以前ユタカと行動を共にしたときに感じた違和感から何かを察しているのか何も言わなかった。


「シャッツは敵や味方の動きが分かりますので適切な情報の伝達が可能であると保証します。それと作戦中の物資については森の要所要所に配置してありますので、適宜補給して戦闘を継続していただきます。それでは何か質問はありますか」


 打ち合わせを終えたユタカ達は共に一階の食堂へと向かい、他の傭兵たちと夕食を共にした。その場で明日から移動を開始して本格的な行動を起こすことを告げ、隊長にシャッツをつけることも発表した。シャッツが隊長になることに全体的に肯定的な反応で、むしろ士気が上がっているようであった。


「シャッツちゃんが隊長か。ゲルトさんみたいなのが隊長よりも癒しがあって最高の仕事じゃねえか。なあ」


「ああ、でも俺はゼクティアちゃんが隊長ならさらによかったんだがな。ロリコンのお前は違うか」


「おい、俺が隊長じゃあ嫌だって言ったやつ表に出ろ」

「おい、俺をロリコンって言ったやつ出てこい」


 歴戦の傭兵たちは実際の戦闘が始まる前の緊張を冗談を言い合い、上手く紛らわせていた。


「シャッツ悪いな。君が戦闘に不向きなことは知ってるけど、通信でやり取りをする関係でどうしてもマネキンだけでは出来なかった。護衛にマネキンを1人つける、それに主たる攻撃はロイトナンの部隊が担う。あくまでもシャッツ達にはハラスメント攻撃を中心にするから無事に帰ってきてね」


「分かりました、ユタカさん。まあ、主計官の私がやることではないように思えますが、頑張ってみます。ゼクティア先輩、フェルト先輩、ユタカさんをちゃんと守ってくださいよ」


「勿論よ。シャッツも歩測がずれて自分の居場所が分からなくなるなんてこと言わないように気をつけなさい。そんなことになっては私が通信しても意味がなくなてしまうから。」


「ゼクティア先輩、何のために今日まで傭兵と一緒になって走ってたと思うんですか。歩測の誤差は極小で抑えられる自信があります」


 自信満々の様子で胸を張るシャッツの姿を見て、ユタカ達は笑みを浮かべシャッツの作った料理を食べながら味のさらなる改良のために意見を出し合った。

次回は4月27日午前0時の投稿となります。


誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。

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