35.実演
公爵夫妻と話をつけたユタカ達は部屋を移動して、マクトル防衛に関しての詳しい打ち合わせを行うことになったが、商人であるエルヴィンとは会談を行った部屋で別れることになった。
「ユタカ様、今日は本当に肝が冷えました。公爵閣下や奥様を前にしてあのようにふるまえるあなたが何者なのかとても気になりましたが、・・・。いえ、それでは私はこちらで」
「すみません、心労をお掛けさせてしまい。この埋め合わせは必ずさせていただきます。それでは」
エルヴィンと別れたユタカ達は城の食堂へと案内された。そこには、公爵夫妻とアロイジアによく似たユタカと同年代の少女と公爵に似た面影を持つ少年が座っていた。
「今後の打ち合わせをすぐにでも行いたいけど、もうすっかり日も暮れて夕食の時間だ。どうだろう、君たちも一緒に」
「これは恐縮でございます。ご家族の団欒の場にお邪魔することをお許しいただけるならば、ぜびお相伴にお預かりさせていただければと思います」
ユタカとゼクティア達完全体5人が席に座り、残りのマネキン7人がユタカの背後や窓際などを守るように展開し警護の体制を築いた。
「はは、さっきから気になっていたけど本当に君の話し方と傭兵っていう職業が一致しないね。それで、彼らは食事はいらないのかい。我々がいることは気にせず共に食事をしてもかまわないのだが」
「お心遣い、誠に感謝いたします。しかし、彼らは私を警護するという任務がありますので、申し訳ございませんが食堂の各所に立たさせていただけくことをお許しいただければと思います」
ユタカの言葉に頷いた公爵はともに食堂にいる2人の子供を紹介した。嫡男であるカミルと長女のディアナがそれぞれユタカに挨拶をした。
「ユタカ様はどうして傭兵になったのですか。それにそちらの皆様はとても精強な兵士のように見えます。どのような訓練をされていらっしゃるのですか」
長女のディアナは最初はお淑やかに食事を共にしていたが、夕食のコース料理がメインの肉料理に進んだころには生来の好奇心を隠しきれずにいた。そんな様子を公爵は笑みを浮かべて見ていたが、アロイジアは眉を顰め窘めていた。
「ディアナ、食事の最中にそのようにお客様を質問攻めするものではありません。ユタカが困っているでしょう」
「でも、お母さまも感じてらっしゃるでしょ。あの黒い服の方たちの雰囲気はどこか違う感じがします」
「確かに私も気になっていることですが、今この場で聞くことではないでしょう」
「はは、そちらのお嬢様の疑問については食事が終わりましたらお教えしましょう。先ほど能力についてお教えすると言いましたので、それが答えになるはずです」
それを聞いたディアナは念押しをするようにユタカに確かめ、アロイジアはユタカの能力について好奇心を隠しきれずにいた。
コース料理の最後、各々コーヒーや紅茶を飲みながら一服したユタカは使用人が退室したことを確かめ能力について切り出した。
「では、私の能力についてお話をさせていただこうかと思います。その前に使用人の方々を退室させるご配慮を頂きありがとうございます」
「いいのよ、それにあなた達からは得体のしれないものを感じるけど敵意は全く感じていないから、信用しているという証だと思ってくれてかまわないわ」
「過分なご評価いただきありがとうございます。それで、防衛に関して協力するうえで皆様が気になるであろう我々の戦闘能力について実演するために、誰かお二人が信用を置いている武官の方をお呼びいただけないでしょうか」
「それならアルトナーを呼ぼう。彼は我が領軍の司令官を任せている。それに剣の腕前も素晴らしい」
公爵が鈴を鳴らし、出てきたメイドにアルトナーを呼ぶように告げると件の人物はすぐに食堂に現れ、公爵の前に跪いた。
「お呼びでしょうか、公爵閣下」
「アルトナー、彼がさっき話したことについて今回協力を申し出てた傭兵のユタカだ。配下の者の力を示すためのデモンストレーションをするために君を呼んだ」
それを聞いたアルトナーはユタカへ軽く目礼をし、それを見たユタカは頭を下げた。
「では私の力についてお話をさせていただきます。実際に見ていただいた後の方が分かりやすいかと思います」
そういってユタカは公爵家の一番そばに立っていたマネキンの1人に服を脱ぐように指示を出した。それを聞いた公爵たちは一様に戸惑っていたが、現れたマネキンの姿を見て動きを止めた。
「これがアロイジア様やディアナ嬢が感じていた違和感の正体です。彼らは人間ではありません。人形に近いものですが非常に高い戦闘能力があり、私の指示あるいは私が指揮権を与えた者の指示にのみ従います。そして、補給や休憩なしに永続的に行動が可能です」
マネキンの姿を見て驚愕し動きを止めていた一同の中で、最も早く回復したアロイジアはすぐさまゼクティア達へと視線を向け、マネキンと見比べていた。
「このような存在を私は聞いたことがありません。それに、この人形のようなものと同じ雰囲気をそちらの方々からも感じるのですが、どういうことでしょう」
「彼らもその人形と同じ存在であって形態が少し違うということです。これが私の能力ということになります」
「すごいな、君は覚醒者か。私は立場上何人かの覚醒者に会ったことがあるが、そのどのタイプにも当てはまらない力だ」
「確かにとても強力な戦力になります。補給なしに動き続けられるというのはこの上なく素晴らしい。物資の制限から解放されるということです。それに、絶対に裏切りが発生しない部隊か」
「続いて、その戦闘力についてはアルトナーさんにご協力いただき、少しだけお示しさせていただければと思います。アルトナーさん、そのお持ちの剣で彼と戦ってください。遠慮はまったく不要です、本気でお願いします」
「そちらは武器ももっていないようだが、良いのか」
その問いにユタカが大きく頷いたのを見てアルトナーは躊躇することなく自身の剣技の中で最速のものを繰り出しマネキンの首を断ち切ろうとした。しかし、その剣は空を斬りマネキンは剣を振り切っていたアルトナーの背後に移動していた。アルトナーはマネキンの想像以上の動きに驚きつつもすぐさま対応し、振り切った剣を勢いそのままに体を回転させながら自分の背後にいたマネキンへと叩きつけた。
アルトナーの視界にマネキンが入る前に自身の剣からマネキンへ攻撃が当たった感触を得て、効果を確かめるように視界を動かすとマネキンが片手で剣を握っている光景が見えた。
「ぐっ、~~動かない!」
押せども引けどもビクともしない剣をマネキンの手から何とかして取り戻そうとしていると、剣が握られているところから押し潰されるように変形を始め、金属が耐えきれなくなったところでひび割れを起こし砕けてしまった。
「ありがとうございます、アルトナーさん。簡単ではありましたが戦闘能力をご確認いただけたかと思います」
一同は到底人間には出来ない動きと怪力を見の前にし、言葉を失っていた。
なるほど、これほどの戦闘能力を持っているものを完全に支配下に置いていれば、衛兵に剣を向けられたところでなんてことはないはず。それに私達に条件を出す強気の姿勢も納得だわ。
一連の戦闘を冷や汗をかきながら見ていたアロイジアは、マクトル防衛の成功に確信を抱きながらもユタカとの関係維持について注意を払うことを決めた。
「アルトナー先生、本気でお相手をしていたのですか。手を抜いていらしたりとか」
ディアナは自分の剣の先生であるアルトナーが、素手の相手に手も足も出ずに負けてしまったことに困惑していた。
「いいえ、お嬢様。私は全力で切り込み、相手が背後に回った後の対応も最適なものだったと思っています。しかし、力と速さが違いすぎる。体勢が不十分ではありましたが私の剣が手に当たっても何の傷も与えられないとは」
「ふむ、戦闘のことに関しては分からないが、私にもとてつもない存在であることは分かる。ユタカを敵に回したことがボイオス伯爵にとって最大の失敗だな」
その後マクトル防衛に関する方針の決定のためユタカ達と公爵夫妻、領軍司令官のアルトナーが別室へと移動を行った。その際、ディアナも参加したいと駄々をこねていたが公爵に説得され渋々と自室へと向かった。
「いや、すまないね。ディアナは女だてらに武術や軍事関係の知識を学んでいてね。そのほか政治関係も知っていて、優秀過ぎて将来嫁ぎ先に困らないか心配してるんだよ。そこらの貴族の子弟ではディアナに劣ってしまうからね」
「優秀であることに越したことはないかと。問題は将来ディアナ嬢の伴侶にその能力を尊重し、活かすことを積極的に行うことが出来る度量を持つ人物を選べるかということでしょう。そういう意味では公爵閣下御夫妻は理想的なものとかと思います。互いに尊重しあって遺憾なくご自身の能力を発揮し合う姿はこの世界の思想下にあってとても素晴らしきものであると感じております」
「・・君は一体何歳なんだい。ディアナと大して違わないように見えるがその落ち着き、世間を評価し、我々を評価する様は君の見た目とは合致しないほどの経験と知識が必要になると思うが」
「私は14歳ですよ。まあ、今まで色々なところ旅していましたのでそれまで見てきたものの影響で普通とは違ってるのかもしれませんが」
「ディアナと同い年か。まあ、あまり納得は出来ないがこれからマクトルを守るのに必要な戦力である君を無用な詮索はしないほうがいいだろうな」
公爵とユタカの話が終わったのを確認したアルトナーがマクトル防衛の計画について話を始めた。具体的な案が出始める前にユタカがアルトナーにボイオス伯爵の計画を知らなかったと仮定して対処方法を考えることを求めた。
「そうですね。辺境地域での賊の跋扈が確認されればそれはマクトル領としては損害を防ぐために領軍の派遣を行うでしょう。辺境地域の大きさも考えて常備軍2,000ほどを派遣し、春の農作業をむかえる前に処理をして来年以降への影響を無くそうとします」
「確かマクトル領軍の常備軍は8,000でしたね。国境の守りや各町に派遣されている分を考えればマクトルに残されるのは2,000ほどですか」
ユタカがアルトナーに本来とったであろう対応の確認を行っているところを見ていたアロイジアは、ユタカに何か案があるのか問いかけた。
その問いかけを受けたユタカは大きく頷き、自身の考えていた案の内容を語り始めた。
次回は3月30日午前0時の投稿となります。
誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。




