34.会談
マクトル領領主、エンゲルベルト・マクトル公爵との会談のためにマクトル城へ向かったユタカ達は自身の持つ馬車が登城するには武骨にすぎることもあり、一旦バルリング商会に立ち寄りエルヴィンの所有する馬車でエルヴィンと共に登城することにした。
「まずはエルヴィンさんに感謝申し上げます。この機会を設けて頂くために多大なご迷惑をおかけいたしました。必ずや何かの形でお返しできたらと思います」
「はは、今回ばかりは多少苦労しましたがユタカ様のご依頼ともあり頑張らさせていただきました。それにしても、今日の皆様はなんというか、いつにも増して凛々しい装いをしてらっしゃいますね」
ゼクティア達、完全体は帽子をかぶり白手袋をつけて、いかにも軍人というような装いをしていた。
「公爵閣下にお会いするので、多少なりともちゃんとした服装をと思いまして。エルヴィンさんの目にそう見えていただけるのなら少しは安心です」
エルヴィンは元の軍服からして未知のデザインであったが、装飾も見たことのないものでユタカ達がどこから来たのか疑問に思いながらユタカ達の軍服を見ていると城門の前に馬車が到着した。エルヴィンが公爵から発行された書類を門番の兵士に渡し、兵士が簡単な馬車のチェックを行い、合図をすると城門である大きな鉄扉が開いた。城内に馬車を進めるとまず大きな西洋風のシンメトリーの庭園が広がり、その庭を進んでいくと城の案内係の待つ城内入り口に馬車を止めた。
「お待ちしておりました、エルヴィン殿。これより公爵閣下との会談の場である部屋にご案内させていただきます。その前にそちらのお付きの方々のお持ちになっている武器に関してはこちらでお預かりさせていただきます」
武器を係りの者に渡したユタカ達は城の内部へと入った。内装は豪華ではあるが決して華美ではなく全体で上手く調和がとれており、センスの良さを感じさせる装飾が施されていた。要所要所は警備の兵が立ちユタカ達に厳しい目線を向ける中、長い廊下の先にある一室に通された。
「公爵閣下がいらっしゃるまでこちらでお待ちください」
大きな机と向かい合わせに配置された椅子のうち下座側に腰を下ろしたユタカ、ゼクティア、エルヴィンは話の進め方について最終確認を行った。
「ふ~、何度来ても緊張してしまいますね。あ、こう見えても私は公爵閣下への直接納品のために何度か訪れる機会があるんですよ。それで進め方ですが、まず私が公爵閣下から受けた依頼について行った結果をユタカ様より説明するとお伝えします。合わせてその理由もお伝えしますので、その後はユタカ様にお願いする形にいたします」
「ええ、ここまで準備していただきましたので後は我々の方で望む結果を掴み取って見せますよ」
「公爵閣下はとても温厚なお方です。今回の功績を考えればある程度のことも考慮していただけるとは思いますが、どうかご無理をなさらないようにお願いします」
「分かってます。もし、交渉が上手くいかなかった場合でもエルヴィンさんに一切のご迷惑が掛からないようにしますので、ご安心ください」
ユタカとエルヴィンが打ち合わせを終え、しばらくすると先ほど案内した人物が部屋に戻ってきて、公爵の入室を告げた。
「よく来てくれた、エルヴィン。今日は以前、私がエルヴィンにお願いした件についての話があることだが何か分かったか」
「これはエンゲルベルト・マクトル公爵閣下。お忙しい中ご貴重なお時間を頂きありがとうございます」
部屋に入ってきた公爵は柔和な表情をした男だった。ユタカ、ゼクティア、エルヴィンは座っていた椅子から立ち上がり公爵に向けて頭を下げた。
「うむ、何やら今回の件に関して重要な情報を持つ者たちがいると言っていたが、それが彼らか」
「はい。まず今回の行商で辺境の村をいくつか巡りましたが、やはり公爵閣下からお聞きしたとおり賊の襲撃が横行しているようです。特にグレンゼ村という大森林に近い村に至っては家も燃やされ、村人が全滅している様でした。その中でいくつかの賊の拠点を襲撃する機会がありまして、その際に情報を得たのがこちらにおります、ユタカという傭兵とその配下の方々になります。その情報の他にも以前訪れたところでの経験から今回の件に関してかなり有力な情報を持っているので、直接説明をさせていただきたく閣下との会談の場に同行させていただくようお願いをしておりました」
エルヴィンの話を聞いたエンゲルベルトはユタカと紹介された子供とその後ろに直立不動で立つ黒服の集団を見ていた。
「只今、エルヴィン様よりご紹介いただきましたがユタカと申します。我々はこのマクトルの傭兵ギルドに登録し、ヴェルテン傭兵団として行動しております。ランクとしては6等級と低いですが、こと賊退治に関しては多くの依頼をこなしてきている実績を持っております」
このような子供がよく緊張も見せず、堂々としている。この年齢でこのような場になれているのか。よく分からないが、服装も他の黒服と比べてなにやら装飾が多いようだ。本当にこの子供がリーダーなのだな。
「うむ、この町で登録した傭兵と言ったがその前はどこにおったのだ」
「はい。このマクトルに訪れる前は先ほど話に挙がりましたグレンゼ村におりました。そのような経緯から今回の件に関して核心的な情報を持っていることもあり、この場にお伺いさせていただいております」
「なるほど。それでは早速、私がエルヴィンに依頼した件について話を聞かせてもらおうか」
ユタカはエルヴィンとの行商の中で得た情報とグレンゼ村での事件の際に得た情報を伝え、今のマクトルの置かれている状況と今後の推移について公爵に伝えた。
「なるほど。にわかには信じられんが、ユタカから聞いたこととボイオス伯爵の領地の状況から矛盾する点は感じないな。少し待ってもらえないか、妻と話をしてくる」
ユタカが概要を話し終え、これからマクトル防衛に当たりユタカから依頼事項を切り出そうというところで公爵が席を立って自分の妻の所へ向かって去ってしまった。この状況に混乱しているユタカを見てエルヴィンが公爵の家族関係について簡単な説明を始めた。
「公爵閣下はヤンティヌム公国の国主であらせられるエドゥアルト・ヤンティヌム大公爵陛下の弟君でいらっしゃって、マクトル公爵家前当主の長子である奥方のアロイジア・マクトル様と結婚なさって、マクトル公爵家当主となっているんです。奥方であるアロイジア様はとても優秀な方で、平時の内政は公爵閣下が行っていますが、有事の際は軍事に長けるアロイジア様のご助言を受けて取り仕切ることになっているようです」
なるほどあの公爵は入り婿だったのか。話をした感じでは優秀な為政者であることは伝わってきたが性格が穏やかすぎて平時の際は名君になりえるが、戦時では暗愚になってしまうタイプに見えたけど奥さんが軍事に長けた女傑なら素晴らしくバランスの取れた夫婦だな。なにより、この男尊女卑の強そうな世界で外部からの評価を気にすることなく、自身の不得意な分野を得意とする奥さんに任せる判断を躊躇なく出来るあの公爵がすごいな。
ユタカが公爵夫妻の優秀さに感心していると、部屋の扉が開き公爵に加えと同年代の金髪碧眼の美女が部屋の中に入り、ユタカの向かいの椅子に座った。
「ユタカ、彼女は私の妻アロイジアだ。すまないが、もう一度先ほどの話を彼女にしてくれないか。現場で感じた雰囲気も教えてくれ」
「あなたがユタカね。驚いたわ、夫から話を聞いていたけれど本当に子どもなのね。私たちの娘とそう変わらない年齢に見えるけど、あなたとあなたたちから感じる雰囲気は本物ね」
ユタカから話を聞き終えたアロイジアはその細い指を頤に当てて、しばらく考えてをまとめている様子でいた。
「エンゲルベルト様、ユタカの話は十分に信用にたる情報です。ボイオス伯爵のものとされる計画の中で私たちがとるであろうと予想されている事柄もよく考えられています。もし、ユタカの話がなければボイオス伯爵の予想通り、領兵の多くを辺境地域へ賊討伐のため派遣しているでしょう」
「分かった、ではどうする。辺境地域に賊が跋扈していることは無視できない事実だ。なんの手当もしないわけにはいかんだろう」
公爵の問い頷いたアロイジアはジッとユタカの目を見ながら確認するように問いかけた。
「その前にユタカ、あなた、なにが狙い?あなたのその目はこの話をしてお金を貰って、終わりって目ではないわね。抑えているようだけどその殺気はなに」
アロイジアの問いかけを聞いた護衛の兵士たちは一斉に剣を抜き、ユタカ達へと向いた。しかし、そんな状況にユタカは慌てることなくアロイジアを見ていた。
「こんな子供の私がこう言うのはなんですが、アロイジア様は素晴らしい判断力をお持ちでいらっしゃいます。勿論、この話を聞いて真剣に検討を行う公爵閣下にも脱帽する思いです。本当に信頼するに足るお方であると感じております。それが故に私も変に隠すようなことなくお話しさせていただきます。まあ、エルヴィンさんはすでにご存じのことですが、私の能力も含めて」
公爵夫妻は複数の兵に剣向けられている状況の中でも慌てることもなく自然体に存在し、丁寧な言葉遣いではあるが公爵家である自分たちとあたかも対等かのように話始めたユタカから身の危険は感じないものの得体の知れなさを感じていた。
「あなたの能力?それは後ろに控えている方たちのことかしら」
「はい。ですがまず今回のボイオス伯爵の計画の阻止に当たって我々をある程度、戦いに関与することをお認め頂きたい。このことが狙いです。先ほどお話をさせていただきましたが、グレンゼ村で私は恩人を殺されております。仇には仇を、絶対にボイオス伯爵の首は我々がとらせていただきます。お認め頂けない場合にはここマクトルを囮に使ってでも目的を達成する所存です」
ユタカがボイオス伯爵のことに言及すると部屋に這うように殺気が広がっていった。それを感じた護衛の隊長らしき人物が跳ね除けるように気合を入れ、公爵夫妻とユタカの間に割って入るように移動した。
「貴様、公爵閣下に何と不遜なことを。それにその殺気、公爵閣下に害意ありと判断する。お前たちすぐにこの者たちを捕らえよ」
「やめなさい!」
護衛隊長がユタカ達の捕縛を指示しようとすると、アロイジアがすぐに止めた。アロイジアは先ほど護衛の兵士たちが剣を抜いた瞬間に、ユタカの後ろで控える黒服の者たちが瞬時に兵士たちを監視するかのように見つめ、それが誰も重複していないことに気づいていた。
あの者たちは一体何者なの。事前に打ち合わせていたとしてもこちら側の兵士の数や配置は予測できないはず。なのに瞬時に示し合わせたかのように一人一人が重複せずに自分の担当する兵士を決めていた。なんの合図もなかったはずなのに。
「彼らが我々へ危害を加えるように感じません。剣を収めなさい。それで、ユタカ、あなたはその条件を飲んだら私達に協力してくれるの」
「はい。この条件をお認め頂けるならば、マクトル防衛に全面的に協力させていただきます。ボイオス伯爵の計画阻止という面で完全に目的は一致しております。アロイジア様は何か感じておられるようですが、我々の正体についてもお二人には告げようとも思っております」
アロイジアは再び思案した後、隣に座っている夫である公爵の手を机の下で握って大きく頷いた。
「ユタカ、君が出した条件を認めよう。ただし、マクトル防衛が成功することが条件だ」
それを聞いたユタカは椅子から立ち上がり深々を頭を下げた。
次回は3月23日午前0時の投稿となります。
誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。




