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33.会談のために

 マクトルに戻ったユタカ達はエルヴィン達と別れ、護衛依頼の完了を傭兵ギルドに伝え、報酬を受け取っていた。その際、ギルドで別行動をとっていたロイトナン達が引き続き多くの賊討伐依頼の達成が出来ていることを聞き、その功績と初の護衛任務の達成の功績を持って、ユタカが結成したヴェルテン傭兵団のランクが6等級に昇級した。


 拠点の屋敷に戻ったユタカ達を待っていたのは、ゼクティアからマクトル到着予定日時を聞き、それに合わせるように賊退治から帰ってきたロイトナンとアルファ、そして夕食の支度を終え屋敷の食堂から出てきたシャッツだった。


「おかえりなさい、ユタカさん。屋敷は何度か襲撃を試みた人がいたみたいですけどちゃんと捕まえて地下の牢に監禁してあります。あとのことはフェルト先輩にお願いしてあります。それと、図書館でやっていた知識の習得に関しては常識をカバーする程度は得られたかと思います。有力者との繋がりはやはり何か目に見えた実績などを得ていないと取っ掛かりを見つけるのも難しいかもしれません」


「留守をありがとう。得られた知識については俺が必要になったら適宜教えてもらえると助かる。今はゆっくりお勉強をしている時間がないからね。有力者の件は無理難題をお願いした俺が悪かった。今現在持っている人間関係から攻めていこう。幸いエルヴィンさんは領主ともコネクションがあるようだからここから、接触の機会を探るために早速、明日会いに行くつもりだよ」


 屋敷の玄関先で行っていた近況の報告を手早く終え、みんな揃ってシャッツの用意した夕食を食べるために食堂へと移動した。その日の夕食はラクスホテルで食べた夕食を再現することを目的にフルコースが振舞われ、みんなで意見を出し合いシャッツはそれを真剣な表情で書きとめ、次回の再現への参考とすると意気込んでいた。

 翌日からのことを考え、ユタカは久しぶりの入浴を楽しんだ後、早めに自室にあるゼクティアが厳選した寝具で構成された高級なベットに潜り込んだ。


 翌朝、ユタカはロイトナンにエルヴィンの店へと行かせ事前に行く旨を伝えておき、お昼前にエルヴィンの所から戻ってきたロイトナンを含め、屋敷の警備に残したマネキン2人を除く12人の自動人形を引き連れエルヴィンの待つバルリング商会へと歩きで向かった。


 道中、普段は馬車で移動しているため屋敷の周辺やよく訪れるバルリング商会でも10人を超える揃いの黒服の軍服に身を包むユタカ達を見たことのない住人たちは何事かと様子を窺っていた。


「ユタカ、今日はなぜ馬車での移動ではなく徒歩で移動されているのですか。それにこの人数ですとかなり目立っておりますが。ユタカを護衛できる人数が多いというのはよいことですが」


「昨日までのエルヴィンさんの護衛任務でボイオス伯爵の計画が本格的に動き出したことは確実になった。相手がすでに動き出しているこの状況で、対する俺たちはまだマクトルの領主に会ってボイオス伯爵の計画を伝える場を設けることすら出来ていない。最初はギルドでの等級や実績でもって力を示して、と思ってたけど、どうやらそれをしていては間に合わなそうだからこうやって町でみんなの精強ぶりを民衆に見せてそこからの情報の拡散も狙おうかなって思ってる。露骨だけどね」


 ユタカの狙い通りであったかは別にして、民衆には一様の黒い軍服と一切肌が見えない黒い服を着る者たちがユタカを守るために常に目を光らせている様は、十分に威圧感と不気味な印象を与えていた。

 一方、この黒い服を纏う集団が最近マクトル周辺の賊を撃退していることを知って、その恩恵に与っている商人たちはユタカ達の威容を目にし、心強さを感じていた。


 そんな様々な目線を受けながらバルリング商会に到着したユタカ達はすぐに奥の応接間に通され、設置されているソファーにユタカとゼクティアのみが座りその背後を10人が立ち、会頭であるエルヴィンを待っていた。


「昨日の今日ですみません。まだ、行商の後片付け作業があったかとも思いますが早めにお話ししたほうが良いと思い、大人数で押しかけてしまいました」


「いいえ、細かい作業は他の者がやってくれますから特に問題はありませんでしたよ。それで、ユタカ様方のそのご様子を拝見するに何か重要なことのようですね」


「ええ、結論から申し上げますと、今回エルヴィンさんが公爵閣下から受けた依頼に関して核心的な情報を私は把握しています」


「なんと!ですが先の護衛をして頂いた際には襲撃したどの賊も同じような情報しか聞き出せなく、推測は難しいとおっしゃっていた気がしましたが。何か理由があるのでしょうか」


「ええ、そのあたりをお話しするにあったて一点、叶えて欲しいことがあります。お世話になっているエルヴィンさんを脅すようなことを言って大変申し訳ないのですが、我々にはあまり時間的余裕がないので言わさせていただきます。今回の件はここマクトルに脅威となるものでして、この脅威を防ぐために私を領主、エンゲルベルト・マクトル公爵閣下と直接お話をさせていただく機会をエルヴィンさんに設けて頂きたい」


「!!それは・・・私がユタカ様のお話を公爵閣下にお伝えするのでも良いのではないでしょうか。当然、ユタカ様の功績によるものだということを伝えたうえでです。こう申しては大変失礼ですが、ユタカ様は最近町の外から来た方です。そういう方が公爵閣下にお会いするには何か有力な方であったりなど難しい条件があります」


「難しいことは理解しております。時間があればギルドの等級を上げたり、賊退治を大々的に行って町に貢献していることを示すことも考えていました。が、今回エルヴィンさんの行商に帯同した時に見た状況から、もうそのようなことをしている時間がないことが分かりました。どうかこの部分を確約していただきたい。なにか不都合が起きれば全て私に脅されたと先方に伝えても構いません」


「・・・命を救っていただいた恩がユタカ様にはあります。それに日頃より我が商会を贔屓にしてもらっています。直接の会談まで持っていけるか分かりませんが、何とかやってみましょう。ですが、結果は公爵閣下しだいですので確約できないことはご了承ください」


 ユタカのいつにない真剣な様子と、強引な様子を見てただ事ではないと感じたエルヴィンは難しい条件を了承した。領主と会う条件が了承されたことでユタカはグレンゼ村に到着した経緯を伏したものの、そこで起きた事件とその犯人を捕らえ拷問をして得た情報をエルヴィンに開示した。


「なるほど、そのことから今回の行商の中で得た賊の情報が繋がるわけですか。確かにボイオス領では経済が低迷していることは私にも伝わっています。そんなところの領主からすればマクトルは喉から手が出るほど欲しいでしょう。しかし、そんなことをすれば公国が、大公陛下が動かないはずがない。そんなことは分かり切っていると思うんですが」


「正直、私もそこが分からないのですが奴の計画が動き出していることは確かです。このままに状況が推移してしまえばマクトルは危機に陥ります。それは阻止したい。そしてその先に私の目的がある。そのために何としてもマクトル防衛に関して、その中心で一枚噛ませていただく」


 エルヴィンは公爵に依頼のあった情報を伝える際にユタカが同席できるように根回しを始めた。成果が出るには数日を有することからユタカ達は比較的マクトルに近いところで賊退治をロイトナン、フェルト、アルファにそれぞれ2人ずつのマネキンをつけ、3班に分けて別々に行動させた。賊の討伐数を増やし、ギルドのランクを上げることで少しでもエルヴィンへ依頼していることへの助けとなることを狙ったことだったが、昇級するより前にエルヴィンの方で結果が出た。


「エルヴィンさんから明日の夕方に公爵と会談する場を設定できたと連絡があったよ。その場で俺はボイオス伯爵の計画についての情報を伝え、その功績をもってマクトル防衛に関しての計画の立案に一定の関与が出来るようにお願いする予定だ。そうしないと俺が直接奴に手を掛けられなくなるからね。そのためにもエンゲルベルト・マクトル公爵に関することを少しでも知っておきたい。シャッツ、図書館で調べられた範囲で分かったことを教えてくれる」


「分かりました。まず、名前はエンゲルベルト・マクトル公爵、38歳。ここヤンティヌム公国、現国家元首エドゥアルト・ヤンティヌム大公爵の弟にあたる人物で温厚な性格らしいです。過去の領地運営を見ても凡庸ではありますが、平時において最も望まれる領主かと。妻はアロイジア・マクトル、前マクトル公爵の長子ですが当主の座は夫エドゥアルトに譲っております。この人物はかなり優秀で夫であるエンゲルベルトの領地運営を支えているとのことです。この夫婦の子は長男、長女の2人です。嫡子である長男は父親に似て温厚な性格。長女は目立たないようにしているようですが、母親に似てかなり優秀なようですね」


「ありがとうシャッツ、なんだかテレビドラマの容疑者を紹介する刑事みたいだったよ。我の強いタイプではないみたいだね。温厚なら論理的に話していけば目はあるかな。そのためにも我々もマクトル防衛に関して戦力になることを示さないといけないね。また、みんなで一緒に行こうか。町の人の反応もまあまあだったみたいだから少しは、効果があるはずだ」


「そうして頂けると助かります。もし、交渉が決裂し不穏な状況になった場合にユタカ殿を城の中でお守りするにはどうしても数が必要になりますから」


 フェルトは最悪の事態を想定して、警備の2人を残した12人での登城を支持したが、高位の人物との面会であることからユタカに飾緒を付けるように迫った。


「飾緒ってあのゼクティアが色々服飾職人に指示して作ってたらった金色の紐でしょ。つけ方もよくわかんないし大丈夫じゃない。面倒くさそうだしさ」


 前の世界でも服装に関心が少なく、仕事着としてスーツという万能の服を着ていればどのような場面でも大抵問題ない服を着ていたユタカとしては、今身に着けている黒い軍服もスーツのようにも見えることからわざわざ飾緒を付ける意義を感じていなかった。


「この世界では肩の階級章を理解してくれる人がいません。今のままですとユタカが我々を指揮する者だと理解はされにくいので、一見して違いが分かるようにあえて我々は付けずに、ユタカ殿だけが飾緒をつけておいたほうが良いかと思います。それに公爵に会うのならある程度は正装に近づけたほうが無難かと」


 翌日、フェルトやゼクティアの意見を受け入れたユタカは、マクトル城へ向かう準備をしている中で、ゼクティアから飾緒をつける際に腕を通す場所を何度聞いても全く分からず、幾度か繰り返した結果、ゼクティアの全面的な補助のもとで何とかつけることが出来た。飾緒というオプションの追加に面倒さを隠しきれなくなっていたユタカにゼクティアはさらなるオプションを提示してきた。


「では次はこの刀剣を腰に佩きましょう」

「・・・はい」

次回は3月16日午前0時の投稿となります。


誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。

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