32.再びのグレンゼ村
ケヴィン達が馬車に戻ろうとしている頃、ユタカはフェルトから制圧完了の報告を受け、賊のアジトのメインとなる区画に向かっていた。
「ゼクティア、今回の作戦で怪我した人はいない」
「はい、全員無傷で作戦が終了しました。しかし、マネキンの一人の持つ剣が折れてしまったようです」
「みんなの武器は賊からの鹵獲品がメインだったからね。マクトルに帰ったら武器を良いものに更新しないといけないね。シャッツは渋るかもしれないけどね」
武器の問題を話しながら歩いているとフェルト達が待つメインの区画に到着した。そこでは、すでに数人の賊が洞窟の壁面に両手を剣で打ち付けられており、尋問が始まっていた。
「ユタカ殿、現在、情報収集のための拷問を行っております。残りは全て死亡を確認しております。残念な報告ですが、囚われていた村の住人についてですが、すでにひどく凌辱を受けていたようです。肉体的な回復は可能かと思いますが、精神的な損傷がひどいようで会話がままならない状況です」
前の世界では被害者を手厚く治療する体制もあったろうし、支援の手を差し伸べてくれる人がいただろうが。この世界ではどうだろうな。よほど余力があるような村でない限り労働が不可能になり、日常生活に手厚い支援が必要な存在を受け入れるだろうか。しかし、俺にそんな余力があるわけでもない。なら・・・
「ゼクティア、マネキンを2人連れて行って攫われた村人の元に行き、・・・楽にしてやってくれ。その後、洞窟の外で丁重に埋葬をしてあげて。フェルト、マネキン1人を俺の護衛に回してくれ」
「了解」
「悪いね、嫌な仕事させて」
「いえ、その役目は同じ女である私の方が適任ですので良い判断かと」
「ありがとう」
ゼクティア達は村人の元へ去っていったあとユタカ達は尋問を続け、有力な情報を得た後は張り付けた賊をそのままにして洞窟内に火を放った。
馬車に戻ると埋葬を終えたゼクティア達とケヴィン達が待っていた。
「お待たせしました、ケヴィンさん。尋問の結果はエルヴィンさん達と合流した後お話しします。とりあえず、この辺りの賊はあれが全てだったようです。それでは、戻りましょうか」
賊の拠点襲撃の作戦が終わったことでいつもの様子に戻ったユタカを見て、少しほっとしたレオはユタカ達に抱いた不信感を隠すかのようにケヴィンとの修行の日々の話をしていた。
しばらくしエルヴィン達の待つ村に帰ってきたユタカ達は賊の討伐を完了したこと、攫われた村人は間に合わなかったことを伝えた。そして、夜明けと共に次の村へと一行は出発した。
「皆さん、賊の拠点で収集した情報を共有させてもらえればと思います。まず、賊の数は23人でした。何でも、元からこのあたりを縄張りにしている集団ではなかったようです」
朝食を終え、ひと段落したところでユタカは自分の馬車にエルヴィン達主だったものを呼び、昨日の作戦で得たことの情報共有を行っていた。
ユタカ達が複数の賊を個別に尋問を行ったところ同じような供述が得られ、一定の信ぴょう性のあるものだった。
供述によると、賊たちが元々の縄張りとしていたところに突然の複数の男が訪れ、この辺境地域の村々を襲えば報酬を与えると言われた。当然不審に思うも、事前に手付金と拠点の移動手当として資金が与えられたことから、賊たちはある程度信用した。ただ、村々の襲撃に当たっては妙な条件が与えられ、村を全滅させないこと、討伐の軍あるいは傭兵が派遣された場合はすぐに撤退し身を隠すことだった。
「妙ですね。ユタカ様の情報からは突然訪れた男たちが黒幕もしくは黒幕に繋がるものと考えてよいでしょうけど、わざわざ金を使ってまで賊を集める理由と課した条件の意味が分かりません」
「エルヴィンさん、こうは考えられねえか。その賊が元々いたところにいられては困るからわざわざ引っ越し代まで出してここにこさせたとか」
「ゲルト、それでは賊に与えた条件が理解できない。いなくなってほしい奴に討伐のための軍が来たら逃げろなんて条件を付けるか。村を全滅させるな、というのは奪う量を程々にして長くそこから収奪が続けられるという意味では理解できるが」
そんなエルヴィン達の話を聞きながらユタカは、ボイオス伯爵の計画が本格的に動き出していることを確信していた。
賊を広範囲に辺境地域で長い時間活動させることで軍を誘引し、短期間で討伐が完了しないように賊たちには殺される前に身を隠させることで、辺境地域に軍を長期に渡って展開させることが出来る寸法か。ライマー達が行っていた計画の前段階での襲撃で、村を全滅させることの非効率さを学び計画を修正してきたな。
「すみません。やはりこれだけの情報では推測が困難かと思いますし、誤った結論に収まってしまう危険もあります。今は得た情報を頭に入れつつ、行商を続けながら賊に関する情報を集めてみるしかないかと思います。今回のように賊の拠点の襲撃ができる機会があれば積極的に我々が行いますので、もう少し情報がまとまってから再度検討してはどうでしょうか」
「そうですね、ユタカ様の言う通りです。いまある情報だけで何かを推定するのは難しいですし、変に考えてしまい先入観を持ってしまうのも問題ですから」
一行はいったん賊に関することは継続課題として、本来の目的であるエルヴィンの行商を行うことで一致した。
行商の旅自体は順調に進んみ、襲撃を受けた村を発見してはユタカ達が周辺の捜索を行った。拠点が発見できれば襲撃し、情報を集めていたが得られるものはどれも同じようなものばかりであり、どれも核心を突くものはなかった。
そして、エルヴィンの計画していた行商の最後の目的地に一行は近づいてきていた。エルヴィンは予想していた利益を大きく上回りホクホク顔で馬車に揺られていた。
「ユタカ様、意外に思われるかもしれませんが大森林に近くなるほど薪の価値が高くなるんですよ。だから、最初の村で大量に仕入れたんです。考えてみれば簡単なのですが、薪を得るために大森林に入るなんて危険なことやる人がいないってことですけどね。それで、最後の村はその大森林にとても近い村ですが牧歌的な風景が広がる良い村なんですよ。グレンゼ村と呼ばれています。そこで、商材として今積んでいる薪を全て売れるはずですよ」
この道はしっかりと覚えている。アリーセばあちゃんの墓を作った後、暗い中を走り抜けた道だ。なんの因果か思ってた以上に早く帰ってきてしまったな。
見えてきたグレンゼ村の惨状にユタカ達を除く皆が口を閉ざしていた。
「そんな、村が」
「私が昨年訪れたときはここに10ほどの家があったんです。多くの村人もいました。なんてことだここが賊にやられるなんて。確かあそこに村長の家があったはずですが」
ゲルトやケヴィンが村長の家のそばに近づくと複数の人骨が散らばる中に奇妙なものを見つけた。
「なんだこの焦げた柱はなんで家でもなんでもないところに突っ立てるんだ?」
「おい、その柱の周りの骨は手足の骨がきれいに切られてやがる。賊がやったのか」
そんな2人の元にゼクティア達を従えたユタカが凍えるような目をしながら近づき、その手足の部分に切断面のある人骨を睨みつけていた。
「ゲルト、一時間ほど我々は別行動をします。申し訳ないがエルヴィンさんに伝えてくれ。ゼクティア、行こう」
ユタカはアリーセの墓の場所に向かいながら、マネキン3人に大森林から花を取ってくるように指示を出し、自身は墓の周囲に茂った草の除去や掃除を行った。
「アリーセ様のお宅もだいぶ痛んでしまいましたね。人が住まなくなるとすぐに家はだめになってしまうんですね」
「そうだね。この村はあの日に死んでしまったんだよ。周りがこれだけ自然豊かな場所に一軒だけ建ってればすぐに自然に還ってしまうよ。なんとか形を残せればいいんだけどさすがのゼクティア達でも大工の真似事は出来ないでしょ。残念だけど朽ちるに任せるしかないね。アリーセばあちゃんには謝っておこう」
大森林から帰ってきたマネキン達から花を受け取り、アリーセの墓に供えた後ユタカ達はエルヴィン達の元へ戻った。
「すみません、お待たせしました。聞きたいことがあるかとは思いますが、それはマクトルに帰った後お話しさせていただく機会もあろうかと思います。それで、この後は一路マクトルに戻る予定ですか」
「分かりました、ユタカ様が話したくないことを無理に聞くような真似はしません。この後はこの道をまっすぐ行ってマクトルに帰ります。ここで売る予定だった商材が無駄になってしまいましたが、このような状況では仕方がありませんね」
そして、一行は一路マクトルを目指し、移動を続けた。道中はこれだけの護衛を抱える商隊を襲うような賊も怪物も現れることなく、幾度かの野営をへてマクトルへ無事に戻った。
次回は3月9日午前0時の投稿となります。
誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。




