31.賊のアジトへ
辺境を進むユタカ一行は最初に寄った村以降、何の問題もなくいくつかの村々で取引を重ね、エルヴィンの考えていた行程の半分を消化することが出来ていた。しかし、進むほどに大森林に近づくこともあり賊の襲撃を警戒するだけではなく、大森林から出てきた変異体、現地人の言う怪物との遭遇にも警戒が必要になっていた。
「おい、ユタカ。お前たちは賊退治ばかりしてたから怪物の討伐はやったことがないかもしれないが、気をつけろよ。奴らは数が多いのと一匹一匹が強い。ま、お前たちなら問題ないだろうがな、念のためだ」
そんな忠告をユタカがゲルトから受けていると横からケヴィンの弟子であるレオが話しかけてきた。レオにとっては自身の師匠であるケヴィンが単独での強さを生かし、数々の怪物を討伐していることから、それを近くで見てきた自分の経験に自信があった。
「お前は見たことがないから分からないだろうけど、怪物は普通にその辺にいる動物を強力にして凶暴化させた感じのものなんだ。サルのを毛を無くして赤くしたようなアカザルってやつなんて、道具を持って攻撃してくるんだ。それに、奴らは集団戦が上手いんだぜ。アカザルの群れに襲われたらかなり厄介なことになる」
アカザルってサルもどきのことか、見たまんまのネーミングだな。なんだか久しぶりにレオに話しかけられた感じがするな。ちょっと避けられてるような雰囲気があったけど。
「分かったよ。レオの言う通りアカザルってのに警戒するよにするよ。忠告してくれてありがとね」
ユタカはレオが師匠から学んだことを自慢げに話す様子を見て、新しいおもちゃを自慢する子供を優しく見守るような目を向けていたが、そんな様子に若干の違和感を感じながらもレオは他に知っていることをユタカに教えていた。
そんなことがありながら順調に進んでいた一行に変化があったのは、次に訪れた村での取引後にエルヴィンが村長からもう一つ奥にある村が襲撃にあったとの情報がもたらされてからだった。
一行はその襲撃にあった村にその日のうちに到着し、状況の確認を開始した。
「ユタカ様、いま村長から話を伺ったのですが四日前の夕方に10人ほどの賊に襲撃されたようです。村人が10人ほど殺され、若い女性が数人攫われたそうです。それと、いくらかの食料も盗られたとのことです」
それを聞いたユタカはすぐに賊の装備についての情報を求めたが、何分突然の襲撃でひどく混乱が起きていたようで、細かいところまで確認する余裕はなかったとのことだった。
「エルヴィンさん、もしこれまでの工程が順調に進んでいて時間的な余裕があるなら、この村でゲルト達と共に一泊しませんか。このような状況ですから家で休むことは叶わないでしょうけど、村の中で野営をすることぐらいは認めてくれるでしょう。私たちは少しこの村の周囲を確認しようかと思います」
「今回の行商は皆様のおかげで順調に進んでいますので、時間的にはかなり余裕があります。村での野営も傭兵を連れていることもあるので、むしろ歓迎されるかと思いますよ。ですが突然どうしたのですか」
「難しいかもしれませんが、まだこの辺りに賊が集まってる可能性がありますので、そこを急襲してなんとか情報を集めようと思います。そのためには私と部下が全員、エルヴィンさん達から離れる必要があるので大楯傭兵団と共に村に滞在していただければと思いまして」
エルヴィンはユタカ達だけを危険な目に合わせることを嫌ったが、その強さを知っているので渋々了承した。その話を聞きつけたゲルトとケヴィン達が提案をしてきた。
「エルヴィンさん達のことは任せろ。この村には簡素だがちゃんと柵が張られてるし、元々ユタカ達がいなくても護衛だけなら十分に俺たちでもこなせるからな」
「それでユタカ君。一つ提案なのだが私とレオも同行させてもらえないだろうか。俺とレオが賊に後れを取るようなことはないと確信しているよ」
ケヴィンの提案を聞いたゲルトはやれやれといった風に首を振っていたが、そんなゲルトとケヴィンの様子をじっと見ていたユタカは少し考えた後、提案を認めることにした。
「そうですね、以前に一緒にも共に依頼を受けようと誘われていましたからね。いい機会です。では、早速ですが出発しましょう」
ユタカ達は馬車に乗り込み村長から聞き取った情報から、周辺の地形を活かして隠れている可能性のある場所に向かって移動を開始した。
村を出発したケヴィン達はすぐにその移動の光景の異常さに驚きを隠せずにいた。ケヴィン達が馬車に乗り込んだことで空間の余裕はそれほど残っていなかったが、黒マントの6人が乗れるだけのスペースあったのにも関わらず全員がケヴィン達が見える範囲でかなりの早さで走行する馬車に並走していた。
ここまでの移動でも疲れがあるはずなのに、さらにこのような運動ができるのか。そういえば、私はこの黒マントたちが休んでいる姿を一度も見た記憶がない。なんなんだこれは?
そんなケヴィン達の姿をちらっと見たユタカはフェルトに馬車の護衛としてマネキンを1人だけを残し、他は広範囲に展開して賊を捜索するように指示した。その指示を受けたフェルトはすぐにマネキンを適切な方向へと振り分け、展開を開始した。
「ケヴィンさん、レオ君。これより我々は索敵を開始します。この馬車ももう少し進んだところで一旦停車し、結果しだいで速やかに移動を開始します。それまでは自由行動ですがあまりこの馬車から離れた所に行かないでください」
少し雰囲気の変わったユタカを見なけがらケヴィン達は停車した馬車を降り、その近くで凝り固まった体をほぐしていた。
「ケヴィンさん、俺、なんだかあの黒マントが怖いです。それにユタカの周りにいる女の子とかが急に雰囲気が変わってるし。まるで」
「前にお前を公爵閣下の城まで連れって行ったことがあったが、その時に見た衛兵みたいか」
「そうです。あの時は公爵様とケヴィンが話すのを遠目で見ただけですが、その時にいた兵隊みたいな。いや、もっとなんだか、冷たい感じが」
「ゲルトが触れるなと言っていたことに関係するかもな。私もあの連中を見ていると精鋭部隊の兵を見ているような気がする。いや、人間の持つブレみたいなものが全く感じない。人間はどんなに訓練されていても、その時の体調、気候、感情などによって同じ動きに僅かなブレが出る。しかし、連中は今日まで行動を共にしているがそれが全く見られないってのは」
ケヴィンとレオの間にゼクティアを伴ったユタカがやってきた。
「お話し中、失礼します。現在、索敵中の部下が賊の移動した痕跡を発見し行方を追っています。もうしばらくすると所在を特定できるはずなので移動の準備を行ってください」
言い終わったユタカにゼクティアがスッと耳元に口を寄せ、何かを伝えた。
「いま、賊の拠点を発見しました。これより現場に向けて移動します。では、馬車に乗り込みましょうか」
ユタカ達を乗せた馬車は賊の拠点を発見した地点に向け急行し、他の方向に散らばっていたマネキン達も現地に向けて移動を行い先んじて地形や賊の人数を確認する作業を開始した。
ユタカ達が現地付近に到着し、馬車を隠すなどの襲撃のための準備を完了したころには大まかな賊の人数と拠点の構造の把握が出来ていた。
「ケヴィンさん、申し訳ないですが我々の人数が多いことから、この場での指揮は私が執らせていただきます。事前の調査で賊の数は約20人弱、拠点としている洞窟の出入り口は大きなものが一か所、大人二人が通れるかといった所がもう一か所の計二か所です。正面の大きな方は我々が、ここから少し行った所にある小さいほうはケヴィンさん達にお願いします。役割としては逃げてくるであろう賊を排除していただければと思います」
「分かった。もともと、私が無理やりユタカ君たちに付いてきたんだ。私たちはその出入口で賊を待つだけでいいのかい」
ユタカは頷いた後、マネキンの一人を呼びケヴィン達を件の出入り口に案内するように指示を出した。そして、その案内をさせたマネキンが戻ると同時に賊の拠点へと歩みを進め始めた。
「ゼクティアは俺の護衛。フェルトはマネキンを指揮して賊を排除、ただし、賊の指揮者、管理者らしき者を発見した場合は即座に捕縛し、戦闘終了後に尋問を開始する。一人も逃がすな」
「「了解」」
洞窟の入り口には監視のために賊が2人が配置されていたが、背後から音もなく接近したマネキンの2人により口を押えられるのと同時に、首を掴んだ手の驚異的な握力によって頸椎を握りつぶされた。息絶え崩れ落ちる賊の体はそっとマネキンが腕を添え、音もなく地面に横に寝かされた。一連の処理が行われている横を他のマネキンを先頭にフェルト、ユタカ、ゼクティアの順で進んでいった。
「ユタカ殿、これより先は道が枝分かれを繰り返すので不意の遭遇戦が予想されます。ですので、私達が先行し、制圧いたしますのでゼクティアとこちらでお待ちいただけないでしょうか」
「分かった。村では何人かが攫われたとの情報があるので、生存していれば救出するように」
フェルト達7人は枝分かれを繰り返す道を時には散開し、時には合流し、次々と制圧していった。
「ケヴィンさん、暇ですね。時々奥の方から叫び声が聞こえるんでユタカの方はもう始めているみたいですけど。どうします?俺たちも入りましょうか」
「よしておけ。こういう狭く道が入り組んでいるところでは仲間を出合い頭に誤って攻撃してしまう可能性がある。ユタカ君たちのように高度に連携がとれているなら別だが、そうでない限りは無意味に人数を投入する必要はない。それに、1人や2人はこちらに来るはずだ。ほら、言ってたら足音が聞こえてきたぞ」
ケヴィンの注意を聞いて、レオも自身の得物に手を掛け、いつでも切りかかれる準備をしていると真っ暗な洞窟から涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら走って来た賊が助けを求めた。
「あんた達お願いだ、助けてくれ、中で仲間が、あんな死に方したくなッ!グッガァ・・」
賊は言葉を言い切る前に洞窟に広がる暗闇の中から、ぬっと伸びてきた真っ黒な服に覆われたマネキンの手に首をつかまれ、くぐもった叫び声を上げながらズリズリと再び暗い洞窟の中に引きずり戻されていった。少しすると、賊が消えていった暗闇の中から今度は黒い軍服をきっちりと着こなす笑みを張り付けたフェルトが出てきた。
「お2人とも、失礼いたしました。先ほどの者が最後で制圧が完了いたしました。我々にはもう少し仕事が残されていますので、先に馬車の方へと戻っていただき休んでいただければと思います」
そう告げたフェルトは暗い洞窟の中に戻っていき、しばらくすると先ほどの賊の声と思われる悲鳴が洞窟内から反響を繰り返しながら聞こえてきた。
「あいつらは中で何をやってるんだ!ケヴィンさん、中に入りましょう。さっきの賊の表情は普通ではなかったですよ」
「・・・いや、やめておこう。彼らは俺たちがいては都合が悪いからあんなことをわざわざ伝えてきたんだ。これで、無視して中に入ればユタカ君たちと無用な諍いを起こすことになる。私たちは言われた通り馬車で待とう」
2人は時折賊の悲痛な声がこだます出口から離れ、馬車への方と向かってゆっくり歩いて行った。
次回は3月2日午前0時の投稿となります。
誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。




