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30.来た道を

次回は2月24日午前0時の投稿となります。


誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。

 エルヴィンや商会の従業員数名と馬車6台分に及ぶ、大量の商材を護衛しながらの旅が始まった。

 ユタカからの申し出でユタカの所有する馬車にも商材を乗せることになり、エルヴィンは当初の予定より大きな取引が出来ると喜んでいた。


「まさかこの道をまた通ることになるとはね。でもゲルト、いくらエルヴィンさんが帯同していて馬車の台数も多いにしても、護衛の戦力が過剰な気がするんだけど。ゲルトの大楯傭兵団だけでも十分な様に見えるけどそれに加えてケヴィンさんも加えるとは、それだけの戦力を集める理由があったの」


 ユタカ一行は防御能力の高いユタカの馬車にエルヴィンやゲルト、ケヴィンなどが同乗していた。ユタカの馬車を先頭にバルリング商会の馬車が続き、その背後や側面を大楯傭兵団が、前方を森の中も含めてマネキン達が守る形で進んでいた。


「それについては私から説明いたします、ユタカ様。実は先日、マクトル領主であるエンゲルベルト・マクトル公爵閣下の元へ、お品物を収めに謁見した際にご相談を受けたのです。なんでも、近頃マクトル領内の辺境の村々が襲われる事件が確認され、中には全滅した村もあったとのことです」


 その話を聞いて、不意にグレンゼ村で起こった事件の光景を思い出してしまったユタカから冷たい殺気が馬車の床を這うように広がった。それを感じたゼクティアがすかさず声をかけた。


「ユタカ殿!落ち着いてください」


「すみません、ユタカ様。何かお気に障るなことを申し上げてしまったでしょうか。でしたら大変申し訳ございません」


 突然襲ってきた冷たい殺気に顔を青くしながらも、そこは大きな商会の会頭としての胆力ですかさず詫びを入れフォローした。

 一方、傭兵であるゲルトやケヴィンは瞬時に自分の得物に手を掛け、どのような状況にも対応が出来るようにしていた。


「すみません、エルヴィンさん、皆さん。ちょっと嫌なことを思い出してしまって、取り乱してしまいました。話の腰を折ってしまいすみません。その公爵閣下からの情報が今回の過剰な護衛戦力の理由ですか」


「はい、その際に公爵閣下より今回の行商の際に合わせて、現地の状況確認と賊の仕業なら情報を集めて欲しいと依頼がございまして、皆様にお願いしている次第です」


「そういうことでしたか。護衛をしながら情報の収集をしなければならないのなら納得できますね。ケヴィンさんなど単独行動でもその強さを発揮する傭兵がいれば、より広範囲で作戦が可能ですからね。そんなところが狙いだったの、ゲルト」


 ユタカの殺気に当てられ咄嗟に得物を握った手をゆっくりと剥がすように離したゲルトがユタカを見ていた。


「今、その話を聞いてすぐにそこまで分かっちまうか。その通りだよ、ただしケヴィン達に関しては護衛としての能力も並ではないからな、当然そこも当て込んで誘った。当然お前らもだぜ」


「私も今初めて誘われた理由を聞いたがな。まあ、私の場合はユタカ君の力に興味を持っていてね、それを近くで見ていたいと思ってたこともあってゲルトの誘いを受けたんだよ」


 一行は稀に現れる商隊の様子を覗う賊を先行するマネキン達が全て排除しながら順調に移動を続け、森を抜けたところで最初の野営を行うこととなった。

 バルリング商会の馬車を中心にしてユタカ達と大楯傭兵団がそれぞれ半円の警戒線を設定し、円形で守るようにしていた。


 夕食後、翌日の予定の確認も終了した一同はそれぞれの持ち場や寝場所へと移動していった。


「ゲルト、ちょっといいか」


 大楯傭兵団が集まり、ゲルトが指揮を執っているテントにケヴィンとレオがやってきた。


「なんだお前たち、エルヴィンさん達を守らなくていいのか?」


「周囲をお前たち大楯傭兵団が守っている場所で襲われる状況が想像できないな。それに、周囲には俺たち以外の気配も感じられないしな」


「おうよ、俺たちが守ってるんだ。襲撃なんてさせやしないぜ。それに、反対側にはユタカ達が陣とってるんだ。なんも起きねえだろうな」


 ユタカの話が出るとケヴィンが真剣な表情でゲルトの顔を見て、何一つ聞き逃さないように集中した様子でそばにあった椅子に座った。


「そのユタカ君のことだ、いや、ユタカ君とその一行か。あれは何者だ。ゲルトは私より先に出会っていると聞いたが、何か知ってるか」


「それは昼の馬車でのことが気になっているのか。あれには俺もビビった。思わず切りかかりそうになっちまった。それでユタカについてなんだが俺もよく分からないんだ。一番最初に会ったのはあいつの部下のロイトナンってやつだが、俺たちが前の護衛中に賊の集団に襲われて危ない時があったって話をしたよな」


「ああ、前回のバルリング商会の護衛中に油断して、大量の賊に包囲されけが人を出したってやつか。その時からなのか」


「あの時はやばかった。俺たちだけなら問題なかったんだが、奴らがエルヴィンさん達を的確に狙ってきやがって、満足に動けないところを少しずつ攻撃されてたんだ。で、そこにロイトナンがやってきて賊を次々に動けなくしていったんだ、まあ、何人かは殺しちまったみたいだが、強かった。まあ、なんだ、詳しくは言えないがとにかく強い連中だ。それで、ユタカと出会って一緒にマクトルに来たんだよ」


 ケヴィンはゲルトが言いよどんだ部分に興味を惹かれたが余程の理由があると思い、あえてそこを聞かずにその先を促した。


「その後なんだが道中でユタカの連れてた賊がユタカ達の秘密を知ってしまったってことで、話させないために部下に命じて全員の舌を切り落とすように命令を出したんだ。文字もかけないように両腕の腱も切断させようとする徹底ぶりだ。さすがに俺たちが止めたがそんな命令を躊躇なく、表情を変えるでもなく、日常の必要な作業やるだけって感じで出しやがった。お前の所の弟子と大して変わらない年のガキがだよ。正直、気味が悪い。でもな、奴は悪い奴じゃあないのは確かだ、こちらが誠実に対応すればそれを返してくれる。それは確かだよ」


「そうか、あの殺気はとてもあの年齢の子供が纏っていいものではないが、なにか余程の経験がそうしたのだろうな。ゼクティアって子も底知れない雰囲気があるが、一番気になるのはあの黒マントの連中だな。私は彼らの気配とかを感じ取ることが出来ないんだ。相手の細かい動きを見て次の動きを予測するように鍛錬しているが、彼らは呼吸の動きさえ捉えさせることがない。所作に揺らぎが全くないんだ、まるで生きていないかのように」


 ケヴィンは少し考えるそぶりをしながら、静かに自身のユタカへの感じ方を語った。


「ケヴィン!そこに触れちゃあいけねえ。いいか、絶対に探るようとするな!」


 突然血相を変えたゲルトにケヴィンは驚きながらも、その表情を見て素直に頷いた。


「分かった。無用な検索はしない、誓おう。ゲルトがユタカ君の人となりを評価していることが分かったし、それだけでも十分な収穫だ」


「すまねえな、こればかしはユタカとの約束があるんだ。もしかしたら、あまり時間をおかずにお前も知ることになるかもしれねえけどな、最近のユタカの動き方を見ると」


 レオは自分の師匠であるケヴィンと同格のゲルトが自分より小さな子供の話を真剣に行っている様を横から見ていて、嫉妬心が芽生えたが昼間に浴びた殺気を思い出し、すぐに萎えてしまう自分に腹を立てながら2人の会話に耳を傾けていた。


 一方、バルリング商会の野営地を挟んで反対側に布陣するユタカ達は馬車の中でユタカとゼクティアが休んでいた。


「昼間は止めてくれてありがとう。エルヴィンさんの話を聞いたら思わずアリーセばあちゃんのことが目の前に広がっちゃって。ゲルト達には悪いことをしちゃったね」


「いいえ、ユタカを補佐するのが私の役割でもありますし、気にしないでください。でも、あの3人はさすがですね。ユタカの発した殺気の中でも咄嗟に落ち着いて必要な行動ができるんですから。ケヴィンさん達も得物に手をかけても決して抜こうとはしませんでした」


「殺気を放ってるなんて自分ではよく分からないから、どれほどのものかは分からないけど、みんなそれぞれの分野で一角の人物であるってことだろうね。それで、警備は問題ない?」


「ええ、フェルトの指揮の下、バルリング商会の野営地を中心とした半円の円周上に等間隔でマネキン6人を配置しました。この馬車の守りは私とフェルトが行いますが、外で何かあれば、フェルトが駆けつける体制が構築されています」


 警備状況を確認したユタカはゼクティアに見守れながら馬車に設置されたユタカ専用のベットに潜り、快適な野営の夜を過ごした。


 翌朝、一行は以前に通ったグレンゼ村に続く道から逸れ、エルヴィンの計画したルートで辺境の村を順に回る道へ入った。道中は目立った問題もなく目的地である最初の村が視界に入ってきた。


「今回は公爵閣下からのご依頼の件と、ユタカ様が馬車に商材を積載していただきましたので主だった村は全て回ろうかと思います。最初はあの村です。ここから徐々に大森林に近い村へと移動していく予定です」


 ユタカは見慣れないデザインの黒い服で統一されてる自分達が村に来れば無用な警戒を招くとして、村の周辺の賊の調査を行うことにした。

 バルリング商会は冬支度のために必要となる保存食や生活質需品を販売し、村からは秋に収穫したばかりの農産物や近くの森から豊富にとれる薪を大量に買い付けた。


 村での最初の取引を終えたエルヴィン達が外で待つユタカ達と合流し、一行は次の村へと出発した。


「すみません、ユタカ様。皆さんが村の中で少しでも休めたらと思ったのですが、私の受けた依頼のお手伝いをしてもらいまして」


 エルヴィンが取引中も休むことなく襲撃関係の情報集めをユタカにやらせる形になったことに恐縮していたが、ユタカにも事情があるので気にしないようにと言い聞かせていた。


「それはそうと、随分小麦などが買えましたね。今年は豊作ですか」


「辺境地域は地力が高いので毎年このぐらいの収穫はあるんですよ。何でも、大森林に近ければ近いほど地力が高いらしいです。確かに、耕作面積を考えると多くの収穫を得ていますからね。その分怪物に襲われる確率が高くなりますが。そうそう、先ほどの村の村長から最近の状況を聞いたのですが、この辺では襲撃は起きていないそうですよ」


 確かにグレンゼ村では村人がケチだったが、特段食料について苦労しているようではなかったな。怪物とは変異体のことだろうが、そのことよりもこのあたりでは襲撃を行っていないということはまだ奴の計画が本格的に動き始めてから間もないのか、わざと襲撃のペースを抑えているのか。とにかく、少しでも情報を持っている者を捕らえ聞き出したいところだな。


 そんなことをユタカが考えながらも一行は秋が深まり、それぞれに色づいた草原を進んでいった。


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