29.戦闘特化型
ユタカは自身の力の段階が進んだことをゼクティアから報告を受けていた。
これで完全体と不完全体を合わせて14人になるのか。時間的な制約を考えるとボイオス伯爵の計画が本格的に始まるまでに、もう一つ段階を進めるのは難しそうだ。なら、この人数で名を挙げていくことに注力すべきか。
「報告ありがとう、ロイトナンやフェルト達が戻り次第召喚を行おう。今度はどんな仲間が来てくれるか楽しみだね。シャッツはどんな子が来てほしい?」
そう聞かれたシャッツは少し考えた後、
「そうですね、私とキャラが被っていなければいいですね、それと、使える男性型なら、なお良いです」
「ふっ、あなたみたいなキャラが他にいるはずがないでしょ。落ち着いていて、あなたより高い戦闘力を持っていますよ」
「笑いましたね、ゼクティア先輩。そういえば、先輩は副官の職能で今回の完全体の情報を知っているんでしたね」
「また喧嘩して、2人ともじゃれあうのは程々にね。シャッツ、君たち自動人形に使えないのなんていないから誰が来てくれても俺は歓迎するよ。それとゼクティア、君みたいな可愛い子が自分より小さな子を馬鹿にするように鼻で笑っちゃいけないよ」
喧嘩を始めた2人に対してユタカが自分より小さな子を諭すかのように話し始め、2人の間には微妙な空気が流れていた。
「ユタカ殿、お借りしていた班員全員損耗なく、任務を完遂いたしました」
そこにスラム街での任務を終えたロイトナンとフェルト達が帰ってきた。
「ぷぷ、相変わらず2人はユタカにうまく伝わってないみたいだな。諭されてやんの。ゴぁ」
2人をからかったロイトナンは無言で近づてきたゼクティアに左の脛を、シャッツに右の脛をつま先で蹴られていた。
「ご苦労様、無事に帰って来てくれて何よりだよ。みんなのおかげで力の段階が進んだよ。これから新たな仲間を召喚しようと思う。いくよ」
すると、ユタカの部屋の扉の前を警備していたマネキンが部屋の中に入ってきて着ていた服を脱ぎ受肉を開始した。
受肉が完了し現れたのはゼクティア達と同じ髪の色をしているが、瞳の色が蒼い男と恒例のマネキン2体であった。
「水無殿!ただいま受肉が完了しました。『自動人形』戦闘特化型、1体の完全召喚及び2体の不完全体の召喚を報告します」
「今まではなにかの職能付与型だったのに、戦闘特化型ってのは初めてだ、よろしく」
ユタカに問いかけられた新たな完全召喚体は敬礼をしたのち、「ハッ」と返事したのみで動かなくなった。
「ユタカ、戦闘特化型は私達のように職能を付与された自動人形と違って、独立した自我が極めて希薄です。最低限の会話はできますが、それ以外のリソースをほとんど戦闘能力へ振ってあります。人間の姿をして、戦闘能力を強化された不完全体といった認識が近いかと思います」
「そうなんだ。でも、マネキン達と違って見た目が人間そのものだし、ちゃんと顔があるから名前を付けないとね」
「ユタカ、特化型に個を求めるのは難しいです。マネキンの時と同じく集合体としての意識で行動していますので名前にあまり意味がないかと思います。この肉体に対しての識別ができる程度のものがあれば運用に問題はないかと思います」
「そうなの。じゃあ、申し訳ないけどアルファと名をつけよう。いや、名前とは言えないけど、ただの記号として君を扱うことがない様に心がけるよ。前にゼクティアに言われてるから緊急時の時は分からないけど、せっかく仲間になってくれたからね」
「個体名称、アルファと認識。了解」
アルファはユタカに機械のように返事をし、それを見たユタカは頷き今後の方針について説明を始めた。
「みんなの頑張りによって、新たな仲間を加えられたのでボイオス伯爵の計画阻止と報復のために次の段階に行動を移そうかと思う。本当なら仲間の数がもう少しいた方が良いのだろうけど、力の段階を進めるために時間を消費しているとボイオス伯爵の計画が進行してしまい阻止が難しくなってしまう。その前にマクトル領主に危機を知らせ、対策を促せるだけの力を示す必要がある」
「そうですね。前回からの力の段階の進む時間を考えると、もう一つ上を目指してからでは動き出しの時期を逸してしまうかもしれません。では、本格的に我々が力を示していく段階へと移行するということですが、具体的にはギルドの依頼をこなしていくということでしょうか」
「ああ、ただし、今まではフェルト班の一班のみで賊退治のみを行っていたが、仲間が増えたことでもう一班実働部隊を増やし、行商人などの護衛依頼をこなしていこうかと思う。ロイトナンとアルファは二人一組で動き、ギルドから賊討伐の中でも特に要望の強いものから順に処理してくれ。賞金首以外は捕縛の必要はない」
「「了解」」
「それから、俺とゼクティア、フェルトに加えマネキン6人を第一班として護衛依頼を受ける。シャッツとマネキン3人は第二班としてこの町で屋敷の守備、必要な備品の管理と情報収集、もし可能なら有力者とのパイプを作ってくれ」
「「「了解」」」
しかし、事前にフェルトがマネキンを十全に動かせるようにって言ってくれて助かったな。他人にマネキンを見られないっていう制約を受けたままだったら、護衛依頼を受けられなかった。ゼクティアの考えてくれた黒ずくめの衣装は俺たちと統一感もあるし、役に立ちそうだ。
「あ、そうだ。シャッツ、新しいマネキンのための衣装を作成しないとね。明日、またあの服飾職人の所にいこうか」
「そのことでしたら、マネキンが増えることを見越してすでにいくつかの予備を作成してあります。同じものをある程度の量で発注したほうが値引きもありますし」
「おお、さすがは俺たちの主計官様だ。早速、服を新しいマネキンに着せてあげて、明日の朝から行動を開始しよう」
翌朝、シャッツの朝食を食べたユタカ達は第二班を屋敷に残し、ギルドへ目的の依頼を探すために向かった。
ギルドの建物の中に入ると同じ傭兵団の仲間たちと話していたゲルトが大きな声でユタカ達を呼んでいた。
「おーい、ユタカ。今日は大所帯でどうした、ユタカ様が直々に仕事でもするのか?いつもそこの兄ちゃんたちしか来なかったから、ユタカはどうしてるのかと思ってたんだ」
「おはよう、ゲルト。新しく買った家の整備とかが忙しくて、フェルト達に依頼をしてもらってたんだよ。それで、今日は新しく傭兵団に仲間を加えるのと賊退治と護衛依頼を探そうかと思って来たんだ」
家を買ったてのは知ってたが、ここに来てからさして時間が経っていないのにずいぶんうまくやってるみたいだな。しかし、この黒ずくめのマントの奴らはなんだ?目の前にいるのに気配をうまく感じられない。まさかあの人形か。
気になったゲルトは周りを確認した後、ユタカの耳元で声を潜めながら黒マントのことを聞いた。
「もしかして、新しい仲間ってのはあの黒マントか。だが、中身はあの人形だろ?登録するのはまずくないか」
「いえ、登録するのは彼一人ですよ。彼はこう見えてとても強いんですよ。だから、ロイトナンと二人で賊を殲滅させようかと思ってるんですよ。それで、俺たちは護衛の依頼をしていこうかなって」
ユタカの話を聞いたゲルトの大楯傭兵団の一員が心配そうにしていた。
「ユタカ君。君たちの強さは目の前で見てるから知ってるけど、2人だけで賊を退治させるのは危険じゃないかな。2人では、野営時にもろくに休憩できないし、大勢に襲われたら大変だ。それでなくても、大量の賊を捕縛する君たちの容姿についてはこのあたりの賊では知れ渡ってるっていうし」
「ご心配していただき、ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。正直、賊程度にあの2人を出すこと自体が過剰戦力な気がするほどです。それで、おすすめの護衛依頼ってありませんか」
ユタカはゲルト話しながらも手で合図を出して、ロイトナンとアルファに登録と依頼の受注をするよにゼクティアに伝えた。
「それならとっておきの依頼があるぜ。ユタカ、特にゼクティアちゃんがいるとそこらの商人が勘違いして粉を掛けようとするかもしれないが、今回の依頼主はそんなことは絶対にしない人だ」
「いいですね。それで、その依頼はどこに貼られていますか?早速、受けようかと思います」
「まあ、待て待て。実は俺たち大楯傭兵団がすでに受けてる依頼なんだ。でも、もう少し人手が欲しいと思って信頼できる奴を探しているところにお前達が来たってわけだ。まあ、元々誘うつもりだったんだがな。ちなみに、俺たちの他にはお前の知っているケヴィン達もいるぞ」
ゲルト達だけでは足りずにあのケヴィンまでも加えるとは、何か大掛かりな護衛依頼があるみたいだな。それに関われるのは名前をあげるのには好都合だな。それと護衛依頼を受けるのは初めてだし、先達からノウハウを得るには良い機会だ。
「喜んで受けるよ、相当に大きな依頼ですね。なら、依頼主もそれなりの人物ってこと?」
「ふふ、依頼主はあのエルヴィン・バルリングだ。依頼料も期待していいぜ。まあ、ユタカ達は大金を持ってるみたいだけどな」
その後、ロイトナンとアルファが戻ってきた際にヴェルテン傭兵団のランクが初等級から7等級に上がっていると報告を受け、そのまま2人は賊退治へと出かけていった。
ユタカ達はケヴィン達が来るのを待ってからバルリング商会へと向かった。
「これはユタカ様、もしかして我々の依頼を受けていただけるのですか。ありがとうございます、ケヴィン様もお久しぶりです。よろしくお願いいたします」
「こんにちは、エルヴィンさんにはお世話になってますからね。せめて商会の仕事を少しでもお手伝いしようかと思いまして。それに、ギルドからの護衛依頼を受けたことがまだないので、その知識をゲルト達から盗ませていただこうかと思いました」
「ご謙遜を。ユタカ様方のお力をお貸しいただけるのでしたら今回の商いは成功したようなものですよ。それでは、すでにこちらの準備は出来ていますので、早速出発しましょうか。行先はマクトルの南の道を行った先、辺境の村々を回って帰ってきます。そういえば、途中ユタカ様たちと初めて出会った森を通りますよ」
ということはグレンゼ村のそばに行くのか。
ユタカは少し心が冷えるのを感じながら今回の旅の行先に思いを巡らせた。
次回は2月17日午前0時の投稿となります。
誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。




