22.賊討伐
初めての依頼をこなすため、マクトルの西門から出て、移動を続け件の峠が見え始めるとユタカは今後の体制について話し始めた。
「今までは俺の護衛が主な目的で体制を組んでいたけど、やはりこれからは賊の索敵、排除ないし捕縛を主な目的として体制を組みたいと思う。そこで、ロイトナン、君にマネキン5人を全て指揮下に入れようと思う。俺とゼクティア、フェルトは基本的に馬車にいるようにする。2人にはロイトナンの指揮のもと馬車の操縦を行ってもらうのと、引き続き俺の護衛をお願いする」
「それではユタカの護衛戦力が低下しますが、それは改造したこの馬車なら戦力を減らしても問題ないということですか」
「うん、フェルトが改造してくれたこの馬車なら多くの敵から襲撃を受けた時でも、主戦力であるロイトナン班が戻ってくるだけの時間は稼げると思う。それと、今までは賊に対して受動的に対応してたけど、今回からはギルドの依頼で動いているのなら能動的に行動しなきゃいけない。そうしたら、どうしても戦闘担当のロイトナン班の戦力を増やすことは不可避だと思うんだ」
ユタカの話にゼクティアは若干の不満を持ちながらも、フェルトの改造した馬車を見て不承不承ながら頷いた。
「ゼクティア、俺もユタカの位置を常に気にして班員を動かすようにする。数が減るといっても完全体が二人もユタカに付いていることは確かだし、簡単に敵を近付けさせる気もないぜ」
「分かりました。ロイトナン、確実に敵を殲滅し絶対に馬車に近付けないようにしてください。フェルト、何があっても私たちが全損して戻されてユタカを危険に曝すことはあってはならないですよ」
「落ち着け、ゼクティア。私が設計した馬車の防御力はそれなりのものだ。それと、ユタカ殿が言っていたように依頼で来ている。賊は殲滅ではなく、基本的には捕縛だ」
ゼクティア達が引き続き、様々な状況に対してどのように動くか検討している間、ユタカはその内容を聞きつつ周辺の地形を見ていた。
もう少し進むと峠道になって細く曲がりくねった道になっていくのか。それならあの辺は商人たちが休憩する地点になりやすいか。ならば俺たちは、
「みんな、方針は決まった?よし、依頼を受けるまでに時間が少々かかってしまったせいで、もう日の入りが近い。だから峠の手前のあの辺りで野営を行おうと思う」
ゼクティア達は周辺の地形とその場所を見ると予想通りの反応をしてくれた。
「ユタカ殿、あの辺りは賊の餌場のような。なるほど、待ち伏せですか。」
「さすが、フェルト。確かに、急に体制を変えたから新しい指揮系統で慣らす意味も含めて行動量が少なく、突発的な出来事も少ないであろう待ち伏せをしてみようと思う。まあ、こんな見え見えの待ち伏せに引っかかる賊がいるかは疑わしいけど、慣らしとしては実地で緊張感を持ってやったほうが効率的だと思うからダメもとでしてみよう」
結果としてはユタカの予想が外れ賊の襲撃が夜明け前にあった。そして、その襲撃はロイトナンが敷いた警戒網に早々に引っかかり、40人ほどの襲撃を難なく撃退し半数以上を歩行可能な状態で捕縛することが出来た。
ユタカが起きたころにはすでに、前回のような形で賊が馬車に繋がれていた。
「ユタカ、なんだか見え見えの待ち伏せに引っかかる馬鹿がこんなにいたぜ」
「えー。せっかく昨日の寝る前に峠道での行動についてみんなと話あってたのに。これじゃあ一旦戻って賊を町に渡さないと満足に動けないよ。フェルト、悪いけどもう歩けなくなってそうな賊を適当に見繕ってアジトを聞き出しといて」
「聞き出すことは可能かもしれませんが、襲撃に失敗し生け捕りにされたと知ればアジトの場所を聞き出されたと思って、移動するのではないでしょうか。いくら賊といってもそれぐらいの知恵が回る者もいるかと思います」
「多分ね。でも、その空いたアジトに他の賊の集団が住み着くかもしれない。このあたりの環境を知る意味でも尋問は今後の仕事に役立つと思うんだ。汚れ仕事を押し付けるみたいで悪いけど、お願いされてくれるかな」
「ユタカ殿、私の職能はこのようなことをするためのものでもあります。遠慮なさらず適材適所の指示を頂ければと思います」
フェルトは近くにいた歩行が困難なほどに負傷していた数人の賊を、道から外れて人目に付かない場所まで運び仕事を始めた。
ユタカは時折聞こえて来る叫び声のもと、冷たい目をしながら捕縛された賊たちに向けこれらマクトルに連れていくことと、馬車についてこれないものはそのまま引きずる旨を伝え、賊たちの顔を青くさせていた。
ユタカが遅めの朝食をとり終えたころには尋問を終えたフェルトが戻り、そのままマクトルに向けて出発した。
「へー、あのへんでは中規模の賊の集団なのか。でも、ほかにも多くの賊がいるってのに国は治安維持のために軍を派遣したりしないのか」
ユタカはマクトルへ戻る途中、ゼクティアと共にフェルトの聞き出した情報の報告を受けていた。今回襲ってきた賊はあの辺りでは中規模の集団で、その他に多くの小規模の集団といくつかの大規模な集団があるとのことだった。そして、対処のためにこのあたりを収める領主は騎士を派遣するも、賊を発見することが出来なく、賊の跳梁を許す形となっているようだった。
「賊は領主の騎士を見ると襲撃をやめ、普段は敵対している賊同士でも連絡を入れて見つからないように奥地へと避難するようです。そのせいでいくら軍を出しても思うような成果が出せずにいるようです」
「なるほど、喧嘩を売る相手はちゃんと選んでいるという訳か。俺たちは馬車一台のみの少人数の集団だから容易いと見て襲ったということか」
情報をみんなで共有し、しばらくするとマクトルに着き門番の兵士に賊の受け渡しと代金の支払い方法について話をした後、その足でギルドに向かった。
「こんにちは。昨日受けた依頼についてですが、よろしいですか。賊を26人捕縛、15人を殺害しました」
「これは、ユタカさん。いえ、ヴェルテン傭兵団の皆さん。もう戻られたのですね。依頼対象地区の賊の目撃数からすると全滅できた数ではないので、討伐数に応じた報奨金が出ます」
「捕縛者数については西門の兵士の方へ確認をしてください。それに関してお願いですが、賊の売却代金についてギルドを通して私に渡すようにしてますので、そのようにお願いします。前にごたごたがあったのでその対策です。殺害数については、これが証明になると思います。ロイトナン、フェルト」
ユタカがそういうとロイトナン達が受付のカウンターの上に大きなずだ袋を二つ置いた。そしてその中にあるものを見た受付の女性は目を剥いてそのまま床に倒れた。
それを少し離れていたところから見ていたゲルトとその友人ケヴィンが近寄ってきた。そして、ずだ袋の中を見て驚愕した。
「おい、ユタカ。お前なんてものを持ってくるんだ。賊の討伐数は耳を持ってくれば済むだろう。なんで生首を持ってくる必要がある」
「え?でも、ギルドの冊子では特に賊の討伐の証明として持ってくるものの記載がなかったから、首級を持ってくれば大丈夫かと思ったんですが」
「ユタカ君、依頼を受けるときに職員から説明はなかったのかい。いつもならその辺の説明をすると思うんだが」
ケヴィンは十数個の首を前に平然としている子供にひどい違和感を感じつつも、ユタカに確認をした。
「こんにちは、ケヴィンさん。昨日聞いたのですが、特にそのような説明がありませんでした」
倒れた職員の代わりに上役と思う割れる代わりの職員がやってきて手続きを進め始めた。
「うっ、うっぷ、えー、確かに賊の15人の討伐を確認しました。捕縛数についてもまずはユタカさんの報告数で計算を行います。依頼に関する報酬は金貨2枚と小金貨5枚になります。それと、討伐の証明についてはこちらのミスで伝え忘れていました、すみません」
それを聞いたユタカはドヤ顔でゲルドのほうを見た。
「それでもだ、どこに大量に生首を持って来る子供がいる。どんな教育を受けてたんだよ」
「でも、昔は敵の首を取るのが戦働きの証明になったんじゃないの。ここは違うのかな」
ギルドの初仕事をこなし、ある意味で鮮烈なデビューを飾ったユタカ達はラクスホテルへと戻っていった。
「おかえりなさいませ、皆様。もうしばらくしますとご夕食のお時間となりますので、いつもの席へお越しいただければと思います」
「こんばんは、ヴェンツェル支配人。今、戻りました。昨日もらった食事も相変わらず素晴らしい味でした。冷めておいしい様に味付けされていて私たちの状況を考えてくれたメニューに感謝します、と料理人の方にお伝えください」
ヴェンツェルのお出迎えを受けたユタカ達は夕食をとり、用意されている部屋に戻ってきた。すると、すぐにゼクティアがユタカの前に移動をして、いつもの表情で報告が始まった。
「水無殿、『自動人形召喚・指示』の段階が進行したことをご報告申し上げます。現在行使可能な力は、完全体4体の召喚、不完全体8体の召喚となります」
次回は12月30日午前0時の投稿となります。
誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。




