18.傭兵ギルド登録
商都マクトルに足を踏み入れたユタカは、想像していた以上の賑わいに驚いていた。
「すごいな、この文明のレベルでここまで人口の集中が起きてるなんて。地理的な要因はあるにしても、商業とか産業が相当盛んなんだろうな。統治もうまく行われてるのかもしれない」
ユタカが馬車から身を乗り出して町の様子を観察しているとゼクティアに注意をされてしまった。
「やめてください。もし落ちたり狙撃を受けたりしたらどうするのですか」
「はは、ゼクティアさんはよほどユタカ様のことが大切だとお見受けいたします。しかし、マクトルの、それも昼間のメインストリートでそんなことは起きませんよ。まあ、夜間や路地裏では絶対とは言えませんが、マクトルに関してはこの国の中でも治安が良いことで有名ですから。ところで、ユタカ様はこのあとのご予定はお決まりでしょうか。お急ぎの用事がないようでしたら、ぜひ私の商会や家にご案内して、歓迎をさせていただければと思うのですが」
「ゼクティアはいささか私を子ども扱いが過ぎるところがありまして。それで、歓迎いただくとのことですが、後日にさせていただいてよろしいでしょうか。我々は今晩の泊まるところさえ決まっていない状況ですので、宿泊先の確保やゲルトに紹介してもらったギルドへの登録もしなければなりません。自分たちの足元が固まりましたら、お招きいただこうかと思っております」
「分かりました。せめて、命をお助けいただいたお礼の一部として私の知っている宿をご紹介させてください。マクトルでもそれなりの宿ですので、ユタカ様にご満足いただけるかと思います。もちろん、宿泊料については私の方で交渉させていただきます」
「すみません。大した事をしていないのに、ここまで良くしていただいてしまって、大変助かります」
エルヴィンから宿とエルヴィンの営む商会の場所を教えてもらったユタカは、ゲルトから聞いていた傭兵ギルドへ馬車を進めた。
「ユタカ様、この度は大変助かりました。お礼は改めてさせていただきます」
「ユタカ、登録の時は俺の名前を出すといい、じゃあまた会おう」
エルヴィンやゲルト達と別れてしばらく馬車を進めると防具に身を包み、剣などの武器を持つ人が周囲に集まる建物が見えてきた。
「ゲルトに聞いた場所はあそこだね。まあ、なんというかこれぞと言った感じの人たちがちらほら見えるね。やっぱり、何かしらが起きる予感がするよ。みんな、絡まれるかもしれないけど反撃は程々にしよう。俺も最近、敵意を受けると急に冷めた感じになって過剰な行動を指示するようになってるけど、自制するように努力をするから」
「「「了解」」」
ユタカ達はギルドの入り口付近に馬車を止め、ゼクティアとロイトナンがユタカの左右を、フェルトが後方を守るような配置で中に入っていった。
ギルド内は依頼の報告をする者、仲間を集める者、打ち合わせを行う者などかなりの人数の傭兵がおり、入り口から入ってきた黒い軍服で統一された三人の男女と、それを従えるように歩く子供の奇妙な客へ視線が集まった。
「なんだあいつら、見たことねえ顔だな」「あの黒い服の奴ら結構できるぞ」
「ひゅ~、なんだあのかわいい子ちゃんは。声かけようぜ」
「いい男じゃない、私の傭兵団に入ってくれないかしら」
「あのガキはなんだ?どっかの貴族のボンボンか」
ある意味予想はしてたから、驚きはないが意外なのはゼクティア達を見てすぐに強さを推し量れる人間がいることと、以外にも女性が傭兵ギルドに所属していることだな。
下品な声を掛けられているゼクティアは気にも留めず、ロイトナン達と常に通信を行いながら周辺の危険度の高い存在の発見やその後の予想される動きを考えており、鋭い眼光で周りを見渡していた。
「あそこが受付かな。すみません、ゲルトの紹介で傭兵ギルドに登録をしに来ました、ユタカと申します。登録手続きはこちらでよろしいでしょうか」
ユタカに話しかけられた受付に座る女性は、ユタカのしゃべり方とその口から出たゲルトという名前に驚きながらもよく教育された様子で登録について説明を始めた。
「ようこそ、わが傭兵ギルドマクトル支所へ。登録に関してはこちらの用紙に皆様、それぞれご記入ください。もし傭兵団を結成されるようでしたら同時にこちらの用紙にもご記入いただければと思います」
記入内容は名前と年齢程度か、確かにこれならどんな奴でも登録できてしまうな。
周囲からの侮る様子の声や視線を無視しながらユタカは初めに個人を登録するための用紙に記入を行い、提出をした。そして、傭兵団の結成に関する用紙に記入を開始したところで3人ほどの大柄な男たちが声を掛けてきた。
「よう、坊主。そこの嬢ちゃんは俺たちの傭兵団に入ること決まってるんだ。野郎2人と一緒に団を組みな」
「へへ、嬢ちゃん。俺たちはここいらでもトップを張るような傭兵団なんだぜ、毎日いい生活ができるぜ。そのかわり、な」
「受付の方、このような内容で大丈夫でしょうか」
ユタカはまるで男たちが存在しないかのように記入作業を進め、用紙の提出を済ました。ユタカの華麗なスルーっぷりに驚きと呆れを感じつつ受付の女性は用紙を受け取り確認を始めた。
ああ、なんでこの子はこんな平然としてるんだろ。暴力沙汰になるなら他でやってよ、目の前で血生臭いのは見たくないんだけど。
「ええ、傭兵団の名前がヴェルテンでよろしいでしょうか。では、こん」
3人の男たちは大勢の傭兵が見る中で子供に完全に無視された怒りと恥ずかしさに耐えかね、ついに顔を真っ赤にして怒鳴り始めた。
「おい!このガキふざやけやがって。ぶっ潰してやる」
「もう我慢の限界だ」
そう言って、3人の男は腰に装備していたそれぞれの得物へ手をやろうとした瞬間、ゼクティア達が目にも留まらぬ速さで剣を抜きそれぞれがその切っ先を3人の男たちの喉の皮膚に触れるところで止めた。
「「「ぐっ」」」
ユタカは見向きもせずに男たちに警告をしたあと、説明を続けるように受付の女性へ促した。
「瞬きと呼吸以外動くことを許可しない、これが守られないなら死んでもらう。すみません、なんだか邪魔が入ったようで、今後の流れの説明でしたね」
「え、ええ。本来ですとこのあと、最低限の実力を持っているか試験をするのですがその必要はないようなので、すぐに登録証を発行させていただきます。なお、依頼の受注方法、依頼受注後の失敗時のペナルティなどはこちらの冊子に書かれていますので目を通しておいてください。それでは、発行してまいります」
「なんだか、怖がられてしまったみたいだね、ゼクティア。それで、お前たちはどう処理するのが正解だ?お前たちが俺に行おうとしたことをそのまま返すのが正解か?」
3人の男達は自分たちと隔絶した力を持っていることをまさに肌身で感じてしまい、完全に血の気をなくし真っ青になり、しゃべることもできなくなっていた。
すると、長身の細身だが一分の隙もないた佇まいをした男が近づいてきた。
「すまないが、それぐらいで勘弁してもらえないだろうか。こんな奴らでも、それなりにギルドの依頼を処理できる人材なんだ。死なれると未達成の依頼が増え面倒になる」
「なるほど、このようなゴミでも使いようはあるのでしょう。ですが、私たちに害意を向けてお咎めなしでは虫が良すぎませんか。先ほどの状況はそのまま殺しても問題ない場面に見えましたが」
ユタカに話しかけた傭兵ケヴィンはユタカの男たちに向ける目とゼクティア達の様子を見て衝撃を受けていた。
なんだこいつは子供のしていい目じゃない、それに黒い服の奴らは個々人が強いというだけでなく、この子供をトップとした兵士のような動きだ。公国の精鋭部隊だってこんな雰囲気はしてなかった。
「ここは私に任せてもらえないだろうか、悪いようにはしない。俺は傭兵のケヴィンという、さっきキミが話してたゲルトの友人だ。あとで、ゲルトに確認してもらってもいい」
この人は嘘を言ってるようには見えないし、ゲルトに劣らない能力の高さを感じるな。初日からギルド内で流血騒ぎを起こすのは得策ではないか。
「私はユタカと申します。ゲルトにはお世話になっておりますので、そのご友人の顔を立てさせていただきます。全員、剣を収めろ」
ケヴィンはユタカが収めてくれることを了承したのを聞いて、大きく息を吐きながらも、剣を収めるように指示されたゼクティア達がそれぞれ寸分たがわぬ同じ動作をすることに不気味さを感じていた。
ゼクティア達の剣から解放された男たちはその場で腰を抜かし動けなくなっていた。そんな間抜けな姿を上から冷たい目で見ていたユタカに窓口から登録証の交付が行われた。
「お待たせしました、これが皆様の登録証と傭兵団としての登録証です。団員の変更などが発生した場合はその都度、窓口にこちらの登録証をお持ちください。皆様は初回登録ですので初等級となりますが、依頼を問題なくこなして行けば見合った等級へと順次昇級します。それでは、皆様が世の発展に寄与せんことを」
「寄与ねー。それではケヴィンさん、私たちはこのあたりで。私たちも傭兵になりましたので、またお会いできるかと思います。事の結末についてはその際にお教えいただければと思います。行くよ、みんな」
「「「了解」」」
3人を率いた子供はギルドにいる多くの傭兵からどこか殺気立った視線を受けながらも、散歩でもするかのように悠然と去っていった。
その姿を見つめていたケヴィンの弟子のように接しているレオがどかどかと音を立ててやって来た。
「ケヴィンさん、なんか生意気なガキでしたね。何を勘違いしてるのか登録したての初等級が2等級傭兵のケヴィンさんと対等に話すし、同じ2等級のゲルトさんの名前を呼び捨てにするし、礼儀を教えてきましょうか」
「やめておけ、そんな態度であの子供に近づいたらあの黒服たちに気付かぬ間に殺されるぞ。相手の実力を見極めろと日ごろから言ってるだろ。あれは、いや、あの傭兵団は俺たちより強いぞ」
「うそでしょ!ケヴィンさんより強いなんて、確かにあの黒服は強そうに見えたけど、トップがあんなひ弱そうなガキですよ」
「黒服の強さはまだよく分からないが、おそらく俺が余裕をもって相手できるとは思えない。それと、レオの言う通りあの子供に関してはほとんど戦うことが出来ないだろう。レオよりも遙かに弱いと見えるが、重要なのはそこではない」
「どういうことですか。やっぱ傭兵団のリーダーは強くなきゃいけないでしょ。だから団員が付いてくるんだ。ゲルトさんの大楯傭兵団だってそうじゃないですか」
「普通はそうだが、あの黒服はなんというか兵士のような雰囲気を感じた。指揮官があの子供になっている小さな軍隊みたいなもんだ。俺も、よく分かっていない。とにかく、下手にあいつらに関わるな」
疑問を多く残しながらもケヴィンとレオは腰を抜かした男たちの後処理を始めた。
「お約束通りというか、ゲルトの言う通りというか、トラブルが寄ってきちゃったね」
ユタカ達は馬車に乗ってエルヴィンに紹介された宿に向かって移動をしていた。
「ええ、悪い方の予想通りでした。しかし、あの程度でそこそこの傭兵とは落胆させられてしまいました。下品で弱いなんてどうしようもないですね」
「そう言ってあげないで、ゼクティア。もしかしたら雑務に関しては、すごい能力を持ってるかもしれないし。でも、あのケヴィンって人はできる感じの人だったよ、ロイトナンもそう思ったでしょう」
「ああ、あれはゲルトと同等か、上回る実力を持ってるぜ。あいつとやりあうなら、3人のうち誰かは損傷して、強制的に還されるかもしれないな」
「へー、それ程だったんだ。なら注意しないとね、みんなが怪我をしても治ると分かってても、そんなの見たくは無いからね。まあ、ケヴィンに関してはかなり常識人な感じがするから敵対することはないと思うけど」
ユタカが話してると御者をしていたフェルトが宿が見えてきたと伝えてきた。
「おお、想像以上に立派な宿だ」
次回は12月2日午前0時の投稿となります。
誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。




