17.マクトル到着
エルヴィン達が加わってから初めての野営では、森での襲撃によってゲルト達護衛の一部に軽いが負傷した者がいることを考慮して、周辺の見張りはロイトナン班が行うことになった。それ以外の者は親睦を深めるための食事会を行った。その食事会も明日の移動を考えて程々の時間で切り上げ、各々が自分の馬車やその周辺で休息をとっていた。
「ゲルト、ユタカ様はどのような人物なんでしょうか。常識的なことを知らない面のみを見れば、そこらの傭兵と同じ類かと思えますが、話し方や口にする単語を聞くに、高度な教育が行われているように思えます」
「ロイトナンを始め、あれだけの力を持つ奴らを指揮してるだけでも只者じゃねえ、ってのは確かでしょうね。しかも、賊の舌を切るように指示したときのユタカの目と雰囲気は、実戦経験と命の危機を乗り越えて来た人間のものだった。エルヴィンさん、俺たちは間違ってもユタカ達と敵対しようとは思わないぜ」
「分かっていますよ。私だってユタカ様を騙して利用するなんて、馬鹿なことはしませんよ。それに、ユタカ様は簡単に騙せる人ではないでしょうね。何より、私たちはユタカ様たちに命を助けられた事実は簡単に忘れて良いことではないはずです」
「ユタカにしても義理堅そうな奴だから、俺たちが誠実に対応していれば敵対することはなさそうだしな」
エルヴィンやゲルトがユタカの人となりについて悩んでいるとき、ユタカとゼクティア、ロイトナン、フェルトの4人は馬車の中で今後のことについて打ち合わせていた。
「まずは、今夜日が昇る前にマネキン達を帰そうと思う。その後の体制については御者がフェルト、ロイトナンは適宜馬車の周りを警戒して、ゼクティアは俺の護衛という形でいく。ゲルト達の護衛としての能力をロイトナンはどう見る」
「あいつらはそれなりの力を持ってるぜ、それと基本に忠実な動きをしてる。明日になれば負傷した奴らも復帰できるだろうから、不完全体が帰っても問題はないと思うぜ」
「それはよかったよ。それで、フェルト、エルヴィンさんたちはどうだった」
「はい、彼らに関しては無害であると判断します。目の動きや仕草を見ても虚偽の内容をユタカ殿に吹き込んでいるようには見えませんでした」
「ありがとう。憲兵のフェルトがそう言うんだったら問題なさそうだね、俺も直接話をしていても悪意を感じることはなかったよ。じゃあ、明日も頑張って移動しよう。お休み、みんな」
「おやすみなさい、ユタカ」
東雲の空の下、野営地の周辺で歩哨をしていたマネキン達はその輪郭を徐々に曖昧にさせ、黒い霧となって姿を消していった。
そして、完全に日が昇るとユタカたちは出発の準備を進めていた。
「あれ? ユタカ様、あの大きな人形はいかがされたのですか。姿が見えないようですが」
「おはようございます、エルヴィンさん。エルヴィンさんからご助言をいただきましたので、人形たちは騒ぎにならないように片しました」
「片すってどこに。いや、恩人の詮索はよしましょう」
「お気遣いありがとうございます。護衛戦力についてはロイトナン達がいますので、お役に立てることは保証いたします」
「ユタカ、エルヴィンさん。そろそろ出発しようぜ」
マネキンを抜いた状態での移動となったがロイトナンの見立て通り、ゲルト達の護衛としての動きに無駄はなく、もはや森を抜け田畑がちらほらと見え始める見通しの良い道では馬車に繋いだ賊に関すること以外に問題は起きなかった。
「ユタカ様、この速度で移動してもマクトルに着くのは門が閉じた後になってしまうかと思います。それに、連れている賊の消耗が激しいようですし、このあたりで最後の野営を行いましょう」
「すみません、エルヴィンさん。賊を連れているせいで途中の村に滞在することもできず野営を強いるような形になってしまって。それに、予定より遅れてしまうようで」
「いえいえ、何の問題もありません。もともと野営の準備はしてますし、ユタカ様に助けていただかなければ一日遅れるどころでは済みませんでしたから。しかし、これだけの賊を生け捕りにしたとなれば報酬はかなり多くなりそうですね」
「ん? 賊を生け捕りにするとお金が多く入るのですか」
「おいおい、ユタカ。知らないでこの数の賊を生け捕りにしたのか」
ユタカがエルヴィンと話していると仕事の合間を見てやって来たゲルトが傭兵としての基礎知識を教えてくれた。
「いいか、賊退治は傭兵にとっちゃ一般的な仕事の一つだ。護衛中の遭遇や討伐依頼なんてのもある。ただし、護衛中にいくら賊を退治しても報酬は変わらないし、討伐にしても賞金首がいない限りはあまりおいしい仕事とは言えない。腐ってもこいつらにも脳みそがあるから、やばいと感じれば逃げちまうし、罠にかけようとしてくることもある」
「なるほど、傭兵ギルドへの需要はあっても進んで討伐しようとするにはリターンよりリスクの方が大きいのか。ありがとうございます、ゲルト。でも、先ほどエルヴィンさんは儲かるような話しぶりでしたが」
「それは、ユタカがほとんどを生け捕りにしているからだよ。賊の持ち物を売っても二束三文にしかならないが、こいつらは強盗するために走り回ってるから体がそれなりに頑丈で犯罪奴隷としては需要があって、そこそこの値段で買い取られる。そこに、賞金首がいればさらにボーナスが入る」
「なるほど。ならば、なぜ傭兵は賊を生け捕りにしないのですか? 対価としては十分なものがあるように思えて、先ほどのゲルトの言とは矛盾するように思えるのですが」
「そりゃ、生け捕りにするのが簡単なら全員喜んで賊退治をするが、現実では難度が高い。ユタカたちは簡単に捕縛したが普通はそんな余裕があるわけではないし、馬車を持っている傭兵なんてほとんどいないから移送の問題で普通はその場で殺して、身ぐるみを剥ぐのが精一杯だ」
ほう、いい話を聞いたな。技術と戦闘力、輸送力を持っている俺たちにとっては賊討伐という市場は魅力的なのに、競合相手である他の傭兵にとっては必ずしも同じように見えていないらしい。マクトルで生活の基盤を固める上でかなり有益な要素になるな。
「生け捕りにしたのは正解だったようですね。ゲルトの情報は大変助かりました。それで、エルヴィンさんの言う通り、この辺りで野営をしましょう」
その後ユタカたちは野営の準備を行い、周辺の警戒はロイトナンとフェルト、ゲルト達の交代で行った。
「さてみんな、今日はゲルトから良い情報を得たよ。賊を捕まえると儲かるらしい。とりあえず、マクトルを拠点として動こうと考えていた俺たちにとっては収入源の確保が出来そうな感じだよ。捕縛の技術を持つフェルトのおかげで、マクトルではいい生活をみんなで送れそうだよ」
「ありがとうございます。しかし、不完全体を公に利用できないのはいささか厳しいところがあります」
「そうだね。これまでのように、マネキンを戦力として考えることが難しい状況なのは確かだから傭兵ギルドで登録したあとは、誰か現地人を俺たちの仲間として迎える必要があるかもしれないけど。ん~」
「やはり我々の中に加えることは信用面で不安要素がありますか」
「ゼクティアの言う通り、そこがネックなんだよ。どうしてもマネキンを使わざるをえない状況になることはあると思う。俺たちと行動を共にするなら口の堅さが必要だ。エルヴィンさん達のように恩を着せるような形で口を閉ざさせるにしても、そうそう都合のいい状況に遭遇できるはずもないし。ま、この件については継続課題ということにしよう。明日にはマクトルに着く、俺たちにとっては初めての都市だ、気を引き締めていこう」
「「「了解」」」
翌朝、ユタカたちは最後の野営地から出発し昼前には、マクトルが見えるところまで進んでいた。
「おお、見たことはないけど中世ヨーロッパの城塞都市って感じだな」
「? あれがマクトル第一城壁です。その内側には第二城壁があって、平民と騎士や領主一族をはじめとする貴族の居住地を分けています。このマクトルには東西南北より街道が繋がっており交通の要衝となっているんです」
「ああ、気にしないで下さい。町が急成長して外側に城壁を作ったパターンですね。しかし、かなり周りの人の数が多くなりましたね」
マクトルの城門に近づくと道を行き交う旅人や商人などといった人の数が多くなり、ユタカの乗る馬車の脇を行くたびにユタカたちに視線を向けていた。
「こんなに賊を引き連れている奴なんて珍しいからみんな気になってるんだよ。それに、お前たちはなんだか揃いの服がやけに上等に見えるし、嬢ちゃんに関しては美人だし、気になってしょうがないって具合じゃねえか。こりゃ、マクトルに着いてすぐにトラブルに巻き込まれるかもしれないな」
ここまで来ると護衛としての仕事がほとんどなくなり暇になったのか、ゲルトはユタカたちをからかっていた。
はあ、ゲルトに言われずともひしひしとトラブルが降ってくる予感はしているさ。虎穴に入らずんば虎子を得ず、か。マクトルを避けるという選択肢はもはやないしな、気張っていきますか。
ユタカがトラブルの予感がしながらも不可避であると覚悟を決めると、マクトルへ入るための検問の順番が回ってきた。
「お、お疲れ様です、ゲルトさん。見慣れない人たちと一緒ですね」
検問の兵士はゲルトと顔見知りのようで、戸惑いつつゲルトに話しかけていた。
「おう、今日もご苦労さん。いま、エルヴィンさんと帰ってきたぜ。それで、こいつらは移動中に助けてもらったユタカとその部下3人だ」
「初めまして、門番さん。私はユタカと申します。この3人の部下とともに旅をしてまして、その途中で賊に襲われていたエルヴィンさんたちと知り合ったという経緯です。後ろの賊はそのときに捕まえたものなのですが」
兵士は子供が急にらしくない話し方で説明を始めたことに驚き、馬車の後ろに繋がれている30人ほどの賊の姿を見て疑いの目をユタカに向けていた。
それを見たゲルトは小さな声ですぐに釘を刺した。
「おい、奴の言ってることは本当だ。奴の部下は俺たちより強い。あと、この後賊を売ることになるがピンハネするのはよせと、あのがめつい隊長に言っとけ。ユタカと笑みを張り付けたその兄ちゃんは敏い、バレたらどうなるか分からねえぞ」
忠告を聞いた検問の兵士は首を縦に振った。すると、小声で話す二人の間にスッとユタカが満面の笑みで入ってきた。
「ゲルトは顔が広いんですね。門番さん、私は向けられた悪意にはそれ相応の対価を支払わせるとだけ申し上げます。これからよろしく」
子供が一瞬だけ見せた冷たい殺気に動きを止めた隙に、ユタカは元の位置に戻り何事もなかった風に今後の手続きについて聞いていた。
「え、えー、ユタカさんたちに関しては初めてマクトルにいらっしゃるようなので一人当たり小金貨二枚と大型の馬車をお持ちですので小金貨一枚、計小金貨7枚を税として徴収いたします」
ユタカはグレンゼ村を襲った者たちから回収した金から税を払い、続いて賊の売却について話を進めた。
「賊の状態が良いことと数が多いのことでそれなりの代金になるかと思われます。それと賞金首の有無の確認があるので少しお時間が掛かるので、2、3日後にここまで来ていただき直接代金をお渡しさせていただければと思います」
そして、荷物検査などを受けてユタカたちはついに商都マクトルに足を踏み入れた。
次回は11月25日午前0時の投稿となります。
誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。




