16.覚醒者
ロイトナン達が先行して襲われている馬車の援護を行いに向かうと、ユタカの乗る馬車も繋いだ賊を走らせながら現場に急いでいた。
「今度は本物だといいんだがな。しかし、この森は賊が多いと感じるんだが、この世界ではこれが普通の頻度なのか」
「ユタカ殿、移動の合間を見て捕縛した賊を尋問したところ、この森には賊のいくつかのグループが存在するようです。なんでも、マクトルとそれより先の辺境の地域を結ぶ道の多くはこの森の中で分岐するようで、商人の数はそれほどでなくても実入りが大きいということです」
「なるほど、辺境の村々で集めた珍しいものや村々に売り払った商品の代金がこの道を通るのか」
「はい。無論、商人側も辺境を移動する際には自前で護衛を雇っているものが多いようですが、中にはその経費を削減したりする者もいるようで、そのような者を狙っていたようです」
ユタカとフェルトがこの森を縄張りとする賊の景気の具合を話していると、ロイトナンからの連絡を受け取ったゼクティアが報告を始めた。
「ユタカ、先行したロイトナン達によって賊は制圧されたようです。先ほど話に挙がっていましたが、その護衛の活躍もあって損害は0とのことです」
「ロイトナン達が無事なのは何よりだ。それで、ロイトナンはその馬車の者たちと接触出来たの?」
「はい。ただ、突如現れたことや不完全体の姿を見て警戒をしているようで、ロイトナンには少々荷が重いかもしれません」
まあ黒い軍服姿の男と複数の動くアブストラクトマネキンが突然現れれば、助けに来たと分かっていても警戒をして当然か。
「ゼクティア、ロイトナンには俺がそちらに向かっていることを相手に伝えるように言って。俺が直接話をするよ。相手と話をするときはゼクティアとフェルトも一緒に来てくれ」
「「了解」」
それからユタカを乗せた馬車は速度を上げて移動をし、馬車に繋いだ賊の何人かが倒れ引きずられ始めた頃には現場に到着した。
「・・・だから、俺たちは別にお前たちを攻撃しようなんて考えてねえよ。詳しくはもうすぐ来る俺たちのリーダーに聞いてくれ」
ユタカがゼクティアとフェルトを伴いロイトナンのもとに行くと、剣に手を掛けながら話をする複数の人影が見えてきた。
「こんにちは。いやー、皆さん危ないところでしたね。お怪我をされた方などはいませんか」
「なんだ? 坊主。悪いな、今取り込み中なんだ。この兄ちゃんと同じ服装をしたそっちの二人の内どちらかがリーダーか?」
緊迫した雰囲気を和らげようとのんびりとした風に話を始めたユタカを見て、馬車の護衛をしている集団のリーダーらしき大柄の男が反応した。
「いえいえ、そこのロイトナンやこの二人、マネキン達のリーダーみたいなものをやっているのは私です。何やら賊に襲われていたようなので、碌な挨拶もせず援護に入ってしまい混乱をさせてしまったようで」
「ん? 坊主がこの連中のリーダーなのか。そうは見えねえが」
護衛の男はユタカを見た後、ロイトナンへ視線を移した。
「そうだよ、ただの子供に見えるが間違いなく俺たちのリーダーだ。俺たちはみんなユタカの指示で動いている」
「本当なのか、これは失礼。私はこの商隊についている護衛のリーダー、ゲルトだ。ユタカ殿、我々の窮地を助けていただいたようで感謝する。何分、想定していた数を超える賊に襲われて、ぴりぴりしていたことや、その、動く人形を見て、助けに入っていただいたロイトナン殿に失礼な態度をとってしまった。申し訳ない」
ほう、外見は粗暴な性格の人物に見えるがその場の状況をすぐに把握して、適切な対応が出来る冷静な人だな。
「いえいえ、我々自身も珍妙な集団であることは自覚しておりますし、お気になさらず。もう名前を言われてしまってますが、私はユタカと申します。よろしくお願いいたします、ゲルト殿。あと普段の話し方で大丈夫構いませんよ、ゲルト殿はあまりこのような話し方は得意ではないようですので」
大人相手に子供に似つかわしくない話し方と気遣いをするユタカにゲルトは、違和感を抱きながらも、援護の感謝を示すために商隊の主である商人を呼んだ。
「そいつは助かるぜ、俺のことは呼び捨てでいい、だからユタカと呼ばせてもらうぜ。それで、ああ来た来た。この人がこの商隊の主であり、マクトルでも急成長中のバルリング商会の主人エルヴィンさんだ」
ゲルトの紹介を受けて現れた商人は40歳ほどで、細身の一見気弱そうに見えるが、目の奥に強い意志と自信を見せる人物だった。
「ゲルトには大げさに紹介されましたが、中の中から中の上に何とか成り上がろうともがいている商会ですよ。改めてお礼をさせてください。私はバルリング商会の会頭をしておりますエルヴィン・バルリングと申します。ユタカ様とお仲間のおかげで護衛の皆さんもかすり傷程度で済み、商材も無事でした」
「お気になさらないでください。我々もこの道を通る予定でしたので、エルヴィンさんが襲われなかったら我々が襲われていたでしょうから。それで、一つ提案なのですがどうでしょう、おそらくエルヴィンさんはこの後マクトルに向かう予定だと思いますが、我々と道中を共にしませんか」
エルヴィンは助けてもらった上この先も行動を共にしようというユタカの提案を訝しく思うも、ユタカの乗ってきた馬車の後ろに繋がれた賊の姿と、今現在ロイトナン達に縛り上げられている最中の賊の姿を見て納得した。
「私たちとしてはユタカ様たちのようなお強い方たちと行動を共にできるのはうれしい限りです。ですので、こちらからも一つ提案ですが、せめて新たな賊については私の馬車で移送させていただけないでしょうか」
ユタカは察しが良く、必要とすることに対してすぐに提案してくるエルヴィンに好感を持った。
「さすがやり手の商人ですね、私の意図するところを察していただけましたか。改めて、私はユタカと申します。道中の護衛に関してはゲルトの護衛で十分かもしれませんが、我々もそれなりの力を持っていると自負してますのでお役に立てるかと思います」
そう言いながらユタカは右手をエルヴィンに差し出し、握手を交わした手から伝わる感触に思わず一言つぶやいてしまった。
「よかった、エルヴィンさんは本物ですね」
「?」
生き残った賊をエルヴィンの馬車に繋いだあと、一行はマクトルに向けて動き出した。
エルヴィンの馬車とゲルトたち護衛はユタカの馬車を先頭にして移動を行い、ユタカの馬車の中にはエルヴィンとゲルトが乗っていた。
「おい、さっきは気づかなかったがユタカの部下には信じられないほど綺麗な嬢ちゃんがいるな。なんだかロイトナンやさっきから張り付けたような笑顔でこっちを見てる兄ちゃんに似てるな、兄弟か」
「まあ、なんというか。そうですね、兄弟のようなものと考えていただいて問題ないかと思いますよ。でも、いくら可愛くても手は出さないようにしてくださいよ? このゼクティアもロイトナンのように強いですから」
「ユタカ様のお仲間はすごいですね。こんなに美しい女性までもお強いとは、これは相当な実力を持つ傭兵団とお見受けしました。ユタカ様とご縁が出来たのは、商人としてうれしい限りです」
ここでも傭兵という言葉を聞き、ユタカはエルヴィンに傭兵と傭兵団について教えてもらった。傭兵とは傭兵ギルドに所属し、ギルドを通して護衛や探索など戦闘だけでなく、力仕事も行う何でも屋のような職業を指し、複数の傭兵がグループを結成したものを傭兵団と呼ぶらしい。
ファンタジーによく出てくる冒険者という理解でよさそうだな。もしかしたら職は意外にもすぐ決まるかもしれないな。
「なるほど、ではエルヴィンさんはギルドを通じてゲルトの傭兵団に護衛を依頼したということですか」
「いえ、私とゲルトは付き合いが古く、ギルドを通さずに直接護衛を依頼しているのですよ。傭兵と言うのはある程度の戦う力があれば登録できてしまうので、全体としての質はそれほど高くないのです。信用があったり実力のある傭兵には、直接依頼が入ったりするものなんです」
「エルヴィンさんの言う通り柄の悪い奴らがいるから、もしユタカが登録するときは俺の名前をだすといい。これでも多少はマクトルで名前が売れてる傭兵団のリーダーを張ってるんだ、少しは虫よけになるだろう。ただ、ユタカの姿がガキだから絡まれるのは避けられないかもな」
「その点はご心配なく。ユタカに迫る危機は私たちが完全に排除します」
意気込むゼクティアの姿を見ていたゲルトは、馬車の周りや御者をするマネキンに向けてをチラチラと目をやり、我慢はできない、といった風にユタカに問いかけた。
「最初からすげー気になっているんだが、あの白くてデカい人形みてーなものはなんだ。中に人でも入ってるのか?」
「表現の仕方が難しいのですが、あの人形は私が動かしているんですよ。私にはそのような力があるようで」
「なんと! 覚醒者ですか。しかも、力が異質すぎる。ユタカ様、あなたは一体何者なんですか」
「ん? 覚醒者? この力は珍しいんですか。前にいた辺境の村では学士なんだと言われましたが、そこまで驚かれませんでした」
「情報の少なすぎる辺境の村では稀にしか生まれない覚醒者の力が、一般的にどのようなものかは知られてないでしょうから、不思議な力の持ち主程度にしか思われなかったのかもません。普通、覚醒者の力は驚異的な記憶力や思考力、カリスマ性など内面的なものと飛びぬけた体力、速さなど外面的なものがあります。稀に、火などを操る者がいたりしますが、多くても国に2,3人いるかどうかといったものです。しかし、ユタカ様の力は異質すぎる。悪いことは言いません。人が来たら人形は隠したほうがよいでしょう、このことが広まるとユタカ様が不利益を被る可能性があります」
エルヴィンさんに助けられたな。グレンゼ村を基準に考えていたから、そのままマクトルに入ろうと思っていた。やはり、この力はチートの類なんだな。変な制限を受けながらマクトルで行動するのは本意じゃない。護衛戦力は減るがエルヴィンさんの言う通りマネキンは一時的に帰す必要があるか。ってそもそも帰すことって出来るのか。
ユタカがゼクティアの耳元に口を近づけ確認すると、ゼクティアは顔を赤く染めながらユタカの耳元で短く「できます」とだけ答えた。
「それは、とても良いことをお聞かせいただきました。この恩は忘れません、ただ、」
「分かってます。私を含めゲルト達は口の堅い者たちです。それに、命の危機を助けてもらった人のことを意味もなくしゃべるような不義理な者はいないと誓えます」
断固とした表情を見せたエルヴィンとゲルト達を確認したユタカは、笑みを浮かべた後にふっと冷たい目に変えながら連れている賊たちの方を見てフェルトに指示を出し始めた。
「フェルト、賊たちの全員の舌を切り取れ、両腕の腱も切断しろ」
突如、フェルトへ賊に対して酷い措置を指示しだしたユタカにぎょっとしながらゲルトが慌てて止めた。
「ちょっ、待て待て待て! ユタカ。どうして急にそんなエグイことを始めようとしてるんだ」
「機密保持のためにはこれが一番かと、このあとマクトルで行われるであろう尋問の際にしゃべったり、筆記をしたりしないようにするにはこれ以外に方法がないかと思いますが」
「先ほど私がお話しさせていただいた内容はそれなりに学を得たものでないと知らないことです。もし賊が話したところで与太話だと切って捨てられるだけです。それに連れている賊全員の舌と腱が切断されていたら、かえってそちらの方で問題が起きてしまうかと」
秘密の漏洩に不安は残ったが、ユタカはエルヴィン達の引きつった表情を見てフェルトに指示の取り消しを行った。
その後はトラブルもなく順調に進みエルヴィン達が加わってから初めての野営が行われた。
次回は11月18日午前0時の投稿となります。
誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。




