第36話 怪獣大作戦
ゴゴゴゴゴゴ…
「つまりあれか、俺は運搬係か」
「め、メイドさん達もいるよ! 移動までの間、お世話をしてくれるよ!」
「御主人様、ミリアナ様のおっしゃる通りです。私達に何なりとお申し付け下さい」
「ほらほら! あ、私、ジンジャーエールおかわり!」
「かしこまりました」
「戦闘メイドが本当の意味でメイドやってもなあ…」
拓也くん…ヘラルド率いるギルド『神々の黄昏』のギルドホームにもなっている、天空城ミストライブラ。他のギルメンには『ミリアナとの単独模擬戦』とごまかして撤退してもらいつつ、ユーザアバターとしては、ヘラルドとユーマ、ライナ、そして私の4人が中央司令室に乗り込んでいる。
「それにしても、本当に現実世界に『怪獣』が現れるとは…」
「しかも、美奈子さんが大きく関係しているなんて…」
「もー、私もびっくりだよー」
「姉さん、ミリアナの姿でそんな言い方するとシュールだな」
いやもう、開き直っちゃいますよ。ははは。
以前、緊急クエストとは別に、フォークロア・コーポレーション経由で受けた『依頼』。化石として発見された古代生物の分析だったのだけれど、試しに『回復』スキルを適用してみたら、あら不思議。細胞分裂を始めたじゃないですか! 進化過程の解明→遺伝子操作の改善→新薬開発への布石と、そっち方面の業界に激震が走ったらしい。新薬開発については、ニュースで流れてたな。
そこで終わっていたら良かったのだが、細胞分裂を始めた古代生物が脱走。パンデミック防止を避けるため、住民のいない密林地帯に研究所を作っていたのが逆にまずかった。その生物にとってのエサとなる動植物が豊富だった。乱獲というわけではないが、古代にはなかったものとの食べ合わせの結果。
「で、もとは恐竜の一種だったのが、現代のエサを食いまくって、おかしな方向に成長したと」
「最終的にはどうするんですか? 倒しちゃうんですか?」
「可愛そうだから倒さないよ。捕獲して、『ファラウェイ・ワールド・オンライン』に転移させてデータ化だね」
「ファンタジー色半端ねえな。怪獣の方も、姉さんの方も」
「既にVRMMOやってる感覚じゃないよね。やってることは同じなのに」
「はー、まだまだ修行が足りない…。奢るのもまだ十分できてないのに」
「ねえ、その奢るってなんの話なの?」
ついでとばかりに、ライナ…リナちゃんが『お金の動き』を語り始める。私も初めて聞く話だけど、まあ、どうでもいいよね。
「ちょっと待った! それ、ウチも出資した研究活動だよ!?」
「なるほど、だからアンタも責任を取るため出動させられたと」
「いや、それは母さんの担当で…」
「ほう、つまり、アンタが黒幕のネタもあると」
「そ、それは…」
「身代金目的でよく誘拐されかけるけど、自業自得じゃねえかよ」
「否定は、できない…」
「私は違うよ!? ウチの資産はちゃんと美奈子さんに還元するから!」
「そういう問題なのか、それ?」
あれ、なんか盛り上がってる。中高生の話題じゃないと思うんだけどなあ。
「そんなことより、そろそろ目的地に到着するよ?」
「姉さん、そんなことって…ああいや、確かにそうだな。ファースト、外の様子をスクリーンに出してくれ」
「はい、御主人様」
ぶんっ
「うおう…質量保存の法則はどうした」
「ヘラルド、キミさっきファンタジー色がどうとか言ってたじゃないか」
「そうだけどよう。これじゃ、本当に怪獣じゃねえか」
樹木の間をずんずんと進んでいく、その生物。見た目はドラゴンに似てるかも。翼はないけど。むしろアレかな、昔の映画のなんとかパークのそれ。1匹だけなのが悲しい。
「じゃあまあ、作戦通りにいきますか。ファースト、オキシジェ…違った、煙幕剤投下」
「はい、御主人様」
「ヘラルドくん、キミもなかなか渋いね」
「そういうアンタほどじゃねえよ」
「「??」」
よくわからない会話の後、天空城に事前に積み込んだ煙幕剤の投下を指示するヘラルド。今回の研究活動の主催団体から手に入れたものだ。なるべく傷つけずに済ませるための対応である。その代わり、天空城を一度『現界』して、積み込んだ後に現実世界で移動する必要があったわけだが。城の顕現準備の手間やクールタイムを考えると、こちらの方がやりやすかったということで。
ひゅるるるるる…
ぼふっ
ばふっ、ぼっ
くぎゃー!
「あれ、怪獣がもがいてる。何かを破壊してるわけじゃないんだけどなあ」
「まだそのネタを…。でも、想定通り、動きが鈍ったね。じゃあ、行ってくる」
「『聖盾アイスフィールド』が足蹴にされる日が来るとは…」
「足蹴じゃないよ! こういう使い方は運営も承知の上だよ」
スノーボードもしくはサーフボードのように、聖盾アイスフィールドの上に乗るユーマ。付与されているパッシブスキルのおかげで、空中を波乗りのように移動できるそうだ。既にそういう使い方をして誘拐犯を撃退したことがあるらしい。何してるの、前島さん。
そして、アイスフィールドには私が『現界』スキルを付与してある。つまり。
ピッピッ
【現実世界の『密林地帯・上空XXZ地点』に転移します。よろしいですか? 〔はい/いいえ〕】
ピッ
ひゅんっ
「…お、ずいぶんと慣れた感じで動いてるじゃないか」
「それ、ユーマに直接言ってあげたら?」
「いや、別に褒めてないから」
「そ、そう…」
スムーズに空中を駆けていくユーマ。徐々に怪獣に近づいていき…。
バラバラッ
アイテムボックスから取り出したいくつもの魔石をばら撒く。もちろん、全て私謹製である。
ぽんっ
ぽぽんっ
ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽんっ
魔石が次々と発動していき、怪獣の周りにいくつもの風船が現れる。風船といっても、膜の強度は高く、そして、対象にひたすらまとわりつく。元は、領地防衛戦でパーティやギルドのアバター集団を足止めするために作ったものだ。その目的なら、ここに暴発エンチャントの魔石を放り込めば終了なのだが。
「うん、怪獣の動きが止まった。いくよ、ライナちゃん」
「はい!」
ピッピッ
【現実世界の『天空城ミストライブラ・見張り塔』に転移します。よろしいですか? 〔はい/いいえ〕】
現界アバター『ライナ・アセトアルカナ』に触れながら、〔はい〕を押す。
ひゅんっ
「ライナちゃん!」
「任せて下さい! 顕現せよ、アセトアルカナ!」
ぶんっ
嵐弓アセトアルカナが現れ、ライナが弦を引く。今回は『シューティングスター』ではない。現れるのは魔力の矢ではなく、実体を伴った鉄の矢。うん、そのままだと痛そうだ。なにしろ、地面をえぐるくらいだからね!
「付与『強度変換』『束縛展開』『範囲結合』」
その鉄の矢に、いくつかの鍛冶スキルを付与する私。やっぱり、一度に3つが限界のようだ。
「付与完了。いつでもいいよ!」
「掃討せよ、アセトアルカナ! 『メテオバースト』!!」
びゅっ
ばばばばばばばばばっ
…ヒュウウウウウウウウウウウウッ
最初に『ライナ・アセトアルカナ』から宣戦布告された直後に飛んできた、無数の矢。それが、今度は怪獣に向かって放たれる。ただし、『強度変換』で当たっても痛くないようにしたものだ。
カッカッカッ
ひゅっ
ひゅひゅっ
グガーッ!!
「痛がって…ないよね? 束縛スキルにびっくりしているだけだよね」
「本当に、全く傷の一つもつけずに、捕獲しましたね…」
「それはもう、みんなのおかげだよ!」
怪獣はとにかく動き回っていたから、いきなり大規模な束縛スキルを展開しても捕獲できない。かといって、攻撃しまくって動きを止めるのは可愛そうである。そういうわけで、煙幕で混乱させ、魔石で動きを止め、ようやく束縛したのである。
「それじゃあ、怪獣の上に転移して、『ファラウェイ・ワールド・オンライン』に連れて行くね」
「どこに連れていくんですか?」
「もちろん、エリア23のミリアナの領地だよ。湖で泳いでもらうんだ!」
「それって、ネ…なんでもないです」
クジラみたいに、観光資源になるかな? 楽しみ楽しみ。




