第20話 不可思議な日常
『ファラウェイ・ワールド・オンライン』内のマイホーム空間。運営アバターのユリシーズさんに、今回の騒動の詳細を聞く。
「つまり、前島さん目的の誘拐グループと結託したと…」
「しかも、前島さんの方は失敗しても問題ないと思っていたらしいですね。霧雨さんの誘拐さえ成功すれば、得られる利益を山分けするつもりだったようです」
「はあ」
「呑気ですね…。身代金目的の前島さん以上のターゲットとなりつつあるのを自覚した方がいいですよ。もちろん、ミリアナ・レインフォールとしてではなく、現実世界における生身のあなた自身です」
また、自覚がどうとかいう話に…。その辺りは、もうすっかり自信なくしているんだけど。拓也に慰めてもらおう、そうしよう。ぐっすん。
「そういう意味では、これまでこんなことがなかったことが不思議で…いや、市内では昔から有名とのことだから、今回に限った話では…そうすると、あのギルドのメンバーはずっと…」
また何かぶつぶつ言い始めるユリシーズさん。なんだろう、あの三人娘が『現界』スキルを付与した魔石を持っていたことを問い質せない雰囲気だ。いやまあ、今回はそれで助かったわけだけど。
「よくわからないけど、とにかく気をつけますよ。文化祭もまだ明日があるし」
「え、あれだけの騒ぎになったのに、中止されないんですか?」
「中止するって連絡がないんですよね。なら、あるのかなと」
「すごい学校ですね…」
そうなのかな? そうなのかも。
◇
文化祭2日目。驚くほどに通常運転。
「いらっしゃいませ」
「この本、見せてもらえる? 昨日、知り合いが即買いしたって聞いたから」
「は、はい…」
私の詩集だったことは言うまでもない。はあ…。
「美奈子、来たぞ」
「私達も見ていい?」
「う、うん…」
約束通り、2日目に両親が来てくれた。そして当然のように、私の名前が書かれている詩集を手に取る。ロシア語版とアラビア語版とはまた渋いな…。
「そういえば、昨日は大変だったみたいだな」
「そうね。また、前島さんの誘拐騒動に立ち会ったなんて」
「う、うん。でも、前の時と同じで、特に大きな騒ぎにはならなかったから」
「相変わらずすごいのね、前島さんって」
という感じに収まったので、文化祭が中止されることもなく、無事2日目を迎えたのだった。『現界』が絡むと説明できないことが増えるせいか、逆に、開き直って大嘘ついてもごまかせてしまうという。私を襲った男達も、前島さんの関係者とも言える三人娘が『いつも通り』対応したと証言したことで、犯人達の全員が前島さんをターゲットにしていたということにされたらしい。私に復讐したかった男達の心境やいかに。
「おや、霧雨さんですかな」
「あら、前島さん。昨日は大変だったそうで」
「申し訳ありません、またお嬢さんを巻き込んだみたいで」
「この娘も無事でしたし、お気になさらず。ね、美奈子」
「は、はい」
「でも、また機会があればウチを訪ねてね」
前島さんの御両親登場! 実際は、私が巻き込んだようなものだったので、ちょっと後ろめたい。
「美奈子さーん、詩集買いに来たよー!」
「娘と来ましたよ、霧雨さん」
「すみません、私もついてきてしまいました」
リナちゃんに、父親である『フォークロア・コーポレーション』の社長さん、そして、リアルのユリシーズさんだ。なんか、私の知り合いがウチの学校に勢揃いって感じだ。
「あ、霧雨さん、ちょっと…」
「なんですか?」
ユリシーズさんに教室の片隅に連れられていく。内緒話?
「確認しづらいことなのですが…霧雨さん、あなたは、あの御両親が本当の親御さんではないことを知っていますね?」
「まあ…」
「それは、なぜですか?」
「ミリアナとして会った拓也に聞いた話だからです。だから、拓也も知っていて、でも、三人とも、私には知らせたくないみたいで」
「…その理由も?」
「…はい」
「そうでしたか。失礼ですが、あなたの過去を調べていて、もしやと思いまして」
私は、誰なのか。
拓也と共に両親に引き取られるまで、その存在が人々の間で全くの未知であったという、オカルトめいた状況。それは、『現界』能力に勝るとも劣らない不可思議な現象だ。
もっとも、私の存在はきちんと記録があるし、社会生活を送る上で、何ひとつ問題はない。人の記憶や認識というものはあいまいであり、それがとても信じられないことであれば、誰がそのことを証明できるというのか―――
「…あれ? 似ている?」
「気がつきましたか。あなたのその問題と、あなたに発現した『現界』能力。私は、なんらかの関係があるような気がするんですよ。というか、こんな不可思議なことが、ひとりの人間に関連性なくバラバラに起こるとは思えません」
「でも、だとするとどんな関係が? 推測するにしても、似ているのは、不可思議なことくらいで」
それで関係があるなら、私はUFOにも古代怪獣にも異世界にも関係があることになる。なんてこったい。って、おちゃらけ過ぎかな。でも、そう考えないとやってられないという話もある。
「そうですね…。時系列的に考えれば、あなた達が御両親に引き取られるきっかけ、つまり、本当の御両親が亡くなられた事故の詳細がわかれば良いのですが、当時の事件の各種データベースを調べると、実は…」
「…また、存在そのものが?」
「そうなのです。御両親の記録も警察にあるのですが、家族旅行時の事故による死亡とだけあって、どこでどのように亡くなられたといったことがまるでないのです。同様に、マスコミのデータベースもですね。そういう意味では、拓也くんも不可思議な現象の関係者となるでしょう」
私…と、拓也かあ。ちょっと、ちょっとだけ安心したのは気のせいかな。
「まあ、私は困っていませんし、このままでもいいかなあとは思っているのですけどね。『現界』能力を含めて、神の気まぐれってことで」
「確かに、ここまでくると、明確にしようという気にはなれませんね。すみません、甚だプライベートな事柄を、あれこれと」
「偶然か何かでわかったことがありましたら教えて下さい。とりあえず、それでいいと思います」
「わかりました。ああ、このことは社長にも言っていません。社員の活動としてはいささか逸脱していますからね」
まあ、ユリシーズさんも心配してくれたということだろう。私が呑気すぎるのは確かだし。あ、自分で言っちゃったよ。
「そういえば、私の昔のことを調べて、結局確認できたのは、そのことだけだったのですか?」
「ええ、まあ。その…拓也くんを含めた御近所みなさん、優しくて良い方々ばかりですね。それこそ、町全体がファンクラブか何かのように…」
「ファンクラブ?」
「いえ、気にしないで下さい。霧雨さんが呑気なのは、決してあなた自身の問題だけではなかったようですし。お騒がせしました」
…? なんだろう、この、ちょっと的外れのような感じ。さっきの不可思議な話とはまた別のような、そうでもないような。うーん。
「美奈子さん! みんなで体育館にって話が出てますよ。『新緑の騎士団』を笑いに…いえ、活躍を見に行きましょう!」
またあの三色娘…じゃなかった、三人娘…これも通称だな、とにかくその三人が、前島さんを振り回しつつも見事な剣さばきを披露してくれるのだろうか。…剣が出てくるシーン、更に少なくなりそうだけど。トゲトゲ鉄球、出てくるかな。




