第16話 愛情表現
どたどたどた
「あ、ギルマス、ここにいた!」
「また、美奈子様…霧雨さんのところで、詩集読んでるし」
「覆水盆に返らず。悔いのないよう準備すべき」
文化祭の準備が続くある日の放課後、今度はタガログ語版を読んで難しい顔をしていた前島さんのところに、いつもの三人娘がやってくる。クラスが違うとなかなか会えないのはわかるけど…。
「もしかして、『新緑の騎士団』のメンバーで何かやるの?」
「よくぞ聞いてくれました! 私達は体育館でリアル剣舞! 『現界』スキルに頼らず、やりとげてみせます!」
「ちょ、ちょっと、『現界』のことはあまり大きな声では…」
「大丈夫だよ、霧雨さん。知らない人が聞いてもわからないと思うから!」
「むしろ重要なのは、『コナミ・サキ』としての霧雨さんが、ミリアナ・レインフォールと懇意にしていること。これは絶対に隠匿…広めないようにしないと」
いや、同一人物であることさえ気づかれなければ、それは別にいいんだけどね? なんか、優先順位が違う気がするよ? まあ、私もユリシーズさんの言に乗って開き直っているところはあるけど。
「キミ達、ボクはミナとだね…」
「それが一番の問題なの! ほら、優希様、ちゃっちゃと来る!」
「このタガログ語版はこちらに戻して…。はい、こっち!」
「木の匂い、土の香り、空の輝き。いつか見た光と影が、私達を優しく包み込む」
「アンタは何しれっと読んでるのよ! 一緒にギルマスを引きずって!」
「ていうか、読み上げないでー!」
ずるずるずる
「カオス、ってこのことかな…」
でも、あの三人、前島さんと本当に仲いいよね。よく家を訪ねているみたいだし。それこそ、家族と顔なじみになるほどに。そういえば、市内でも前島邸がある地区に三人とも住んでいるみたいだし、もしかして、幼なじみなんだろうか?
『ファラウェイ・ワールド・オンライン』内で結成したギルド『新緑の騎士団』のギルマスとギルメン…という名を借りた前島さんファンクラブ…と思ったら実は…ということだったんだけど、あの三人に限っては、前島さんファンクラブ、というのがあながち間違いじゃないのかもしれない。昔なじみといつでもどこでも楽しく…ということなのかな。愛情表現がなんかおかしいだけで。
愛情表現、かあ。私は…どうなんだろう。
「(ひそひそ)霧雨さんが物憂げな表情だよ。様になってるわねえ」
「(ひそひそ)ミステリアスでいいよな。まあ、最近はその理由がわかるようになったけど」
「(ひそひそ)え、あの噂本当なの!? わー、文化祭が楽しみ! 私、去年見れなかったから」
「(ひそひそ)あなたは同じ市の出身じゃないからね。えっとね、弟くんってね…」
…あの、割と聞こえてるんですけど。
◇
自宅で夕食。今日はお父さんが当番だ。カレーライスがおいしい。
「ねえ、拓也。週末の文化祭…やっぱり来るの?」
「もちろん。姉さんだって俺んとこの来たじゃねえか。いつものふたりと並木の4人で行くぜ」
「あー、リナちゃんかー。うーん」
「なんだ? 並木はまずいのか?」
「ああいや、ウチの弓道部も弓道場でやるのよ、体験コーナー」
「おうふ」
また無双するのかなー。ははは。
「あ、今回は私達も行くからね。2日目だけだけど」
「え、お母さんとお父さんも? お休みとれたんだ!」
「シフトがちょうどふたりとも外れてな。楽しみにしてるぞ」
「私は、教室で本を売ってるだけだから…」
楽でいいけどねって言ったら、クラスメートに怒られちゃうかな。でも、実際他にすることないし。
「じゃあ、一緒に回れる時間がとれるな。2日とも行くから」
「2日とも、4人で?」
「ああ。でもまあ…見るところが違ったりするかもだけど」
「そ、そうなんだ」
拓也…私とふたりだけで回りたい、ってことかな? 去年は、詩集の急な印刷対応とかでうまく会えなかったんだけど。でも、今年は…。
うふふふ。
「…私達は、お邪魔なのかな」
「かもしれないわねえ…」




