第15話 文化祭の季節
文化祭の季節となった。拓也の学校も私の学校と同じ時期だが、拓也の方が1週間ほど早かった。
「クラスの出し物が立派なものになったよ。ふたりが受けた緊急クエストの報酬をこっちに注ぎ込んでくれたおかげでな」
「ふ、ふーん、そんなことが、あったんだ」
「…ちなみに、ふたりはゲロった」
「ひー」
いや別に、拓也に怒られたとかそういうことはなかったんだけどね? でもね、すっっっごく寂しそうな目をするんだよ! だから、今度『現界』スキル付与の魔石を手に入れたら、一緒にどこか遠くの外国に行こうって約束した。拓也が要求したんじゃないよ? 私が提案したんだよ!
「あのふたりはともかく、前島の野郎はいつかシメる。調子のいいことぶっこいて、美奈子姉さんとどこか遊びに行きたかっただけじゃねえか」
「あ、あの、前島さんのことも、そっとしておいてもらえると…」
「なんだよ。姉さん、あいつのことかばうのか?」
「そうじゃないよ! そうじゃなくて、むしろ拓也の身の安全を考えて…」
「そういえば、あのふたりも似たようなこと言ってたな。なんなんだ…?」
「いやあ、私もよくわからないけど、『新緑の騎士団』の伝統らしいというか…」
「…変態の発想ってことだけはわかった」
ふ、深くは考えない。うん。
ということで、拓也の中学の文化祭に行ったよ! なんか、食べ物を扱う屋台の類は出せないとかで、展示や演劇、演武とかだけだった。
拓也のクラスは『天空城ミストライブラ』の1/500スケールのミニチュア展示。美術活動の一環という名目だったけど、ミニチュアどころじゃなかったよ! すごかった! あとで前島さんをとっつかまえて本物の天空城に持ち込むとかなんとか。聖盾アイスフィールドに付与した『現界』スキルがいいように使われている模様。
もうひとつすごかったのが、リナちゃん。弓道部の体験コーナーに飛び入りした彼女がとんでもない命中率で矢を射まくったのは、ゲーム内のライナちゃんを知っている者なら、ある意味納得である。さすが、アバター同期率が拓也や前島さんより高いだけのことはある。ちなみに、当然のように入部を迫られたリナちゃんだが、『ゲームやる時間が少なくなるから』と大変正直に答えて断っていた。
拓也のところの文化祭はこんなものだったかな。他の学校と比べても規模が小さいからしょうがないところだ。どちらかというと、運動会の方がすごかったかも。
◇
そういうわけで、いよいよ始まるウチの高校の文化祭。2日日程だけど、毎年すごいんだよねー。グラウンドにひしめく屋台、体育館を使った本格的なライブ演奏、そして、全ての教室を使って整然とジャンル分けされた即売会の数々。何の即売会って? 文化的な即売会だよ! え、高校でそんなことしていいのかって? やだなあ、R18どころかR15ですらないシロモノですよ? 少なくとも、裏表紙は。
「…(ぺらっ)」
「…(ぺらぺらっ)」
「………」
ぱたんっ
「「「「「「ほう…」」」」」」
「ど、どうだった?」
「「「「「「すんごく良かった! 今年も!」」」」」」
それは重畳。
去年、私も何か出した方がいいかなあということで、簡単な詩集を作ってみたのですよ。他の冊子がインパクトありまくりで目立たなかったんだけど、ある人が手にとってぱらぱらっとしたら固まって、その後即買いしてほくほく顔で帰っていった。それを見た他のお客さんとか、売り子していたクラスメート達がぱらぱらっと見て以下略。大して印刷してなかったからすぐに完売して、初日の夜は翌日に向けてたくさん印刷するハメになった。クラスメート達が手伝ってくれたから助かったけど。
「霧雨さん、今回は面白いことしてみたのね。各言語翻案版も書くなんて。理解できないからよくわからないけど」
「韻を踏むとか、私もちゃんと理解していないかも。でも、ゲームで多言語モジュール使っていたら、ちょっと書いてみたくなって」
「ああ、あれ、便利よね。『ファラウェイ・ワールド・オンライン』も日本語圏以外でユーザが増えていて、たまに日本サーバに直接アクセスしてくるんだよね」
「みんなミリアナ目当てだけどな。こないだの防衛戦の観客の中にも、結構いたみたいだぜ」
外国から直接接続すると、通信回線の都合上、どうしても接続速度が下がってしまい、戦ったりするのが困難になる。なので、『フォークロア・コーポレーション』は世界中に拠点を作り、国や地域ごとにサーバを設けて運用している。
その際に各サーバで主要言語を設定するのだが、場所によっては複数言語対応とせざるを得ず、結果、多言語モジュールに翻訳機能が導入されている。日本サーバにも逆輸入され、外国からの直接接続なとで活用されている。
「でも、あまりにすぐ決着がつくから、たいがいがっかりして帰っていくけどな」
「高画質版リプレイ映像の販売数、未だに第一期最終クエストの『闇の王』討伐シーンが断トツだってな。対ライナ防衛戦も、冒頭だけは見応えあるけど…」
ごめんねー、暴発エンチャントの魔石投げて決着つけちゃってー。そういえば、最近は魔剣レインフォールの最終スキル『シャイニー・レイン』もおおっぴらには使ってないな。
これはあれかな、『ファラウェイ・ワールド・オンライン』の人気を保つためにも、拓也の天空城戦闘メイド集団と打合せしてそれっぽい戦闘を繰り広げて…八百長じゃないの、それ。ダメか。
「とにかく、霧雨さんの詩集は最初から全部並べるからね。この教室の目玉よ!」
「「「「「「おー!」」」」」」
いやあ、どうかなあ。去年作ったのがたまたま当たっただけかもだし。みんなの評価は悪くなくて嬉しいんだけど。
「…(ぱらっ)」
「あれ? 前島さん、まだ読んでたの?」
「…素晴らしい。特に、このケルト語版のこの節が…!」
それは、あの時行った都市国家で話者が多いというので、それにちなんで書いてみたんだけど、前島さん、わかるのか。書いた私が言うのもなんだけど、すごいな。
そんなこんなで、準備が進んでいく文化祭。今週末の土日開催まで、いろいろと慌ただしくなりそうだ。




