第14話 緊急クエストの仕組み
ぽーん
ああ、もはやお約束だなあ。はいはい、ユリシーズさんからの緊急クエストね。でも、今の私はコナミ…あれ? 今の着信音、私宛じゃない?
「あ、ユリシーズさんからボク宛に『緊急クエスト』だ」
「それ、俺にも届いてる」
「俺にもだよ。初めて見たぜ!」
おや?
「コナミにも手伝ってほしいそうだよ。とりあえず、郊外に向かおう!」
「えっと、クエスト受けるの? 私はいいけど」
「俺は受けるぜ! 人の命がかかってるってよ!」
「しかもこれ、急がねーと! 俺たちなら間に合うと踏んで依頼を送ってきたのか!」
「そうだね。じゃあ、急ごう。転移を使わなくても、走っていけば良さそうだ」
そう言って、みんなに送られてきたメッセージに書かれている地点に向かう私達。それにしても…。
◇
この国は内陸にあり、中心となる街は大渓谷の狭間に位置している。街を出入りする道路は、崖スレスレに走っている箇所がいくつもあるわけだが。
「うわ! マジで落ちる数秒前!」
「えっと、ええっと…何をすればいい!?」
今にも崖から転落しそうな、路肩の破損したガードレールにひっかかっている長距離バス。
周囲には、なんとか脱出した人々や救助隊がいるが、まだ取り残されている乗客がいる。下手に動くとバスが更に傾き、そのはずみで真っ逆さまに転げ落ちてしまうかもしれない。
「ふたりとも、落ち着いて。ボクは崖下に転移して万が一に備えるから、キミ達はバスに『飛翔』を!」
「あ、ああ、わかった…いや、この場合はそれじゃなくて…」
「だな! 重ねがけでいくぜ!」
「おう! 『浮遊』!!」
レナードくんとランスくんが魔法を発動すると、バスが光に包まれ、空中にふわっと浮き上がる。
「よーしよーし、ゆっくりと…」
「ああ、もう少し…!」
バスが道路の上に完全に戻ろうとしていた、その時。
「きゃーーー!!」
割れた窓から、乗客のひとりが滑り落ちた!
「しまった! 『浮遊』はバス本体にしかかかってなかったから…!」
「くっ」
ピッピッ
「待って、ユーマ! この魔石で一緒に転移するから!」
「え、なぜ…」
ユーマの言葉を最後まで聞かず、私はユーマの腕を掴み、魔石の転移スキルを発動する…フリをして、こっそりメニュー操作して崖下に転移する。
ひゅんっ
「ユーマ、聖盾をあの人に向けて!」
「あ、ああ! 顕現せよ、アイスフィールド!」
ぶおんっ
ふわっ…
聖盾アイスフィールドのパッシブスキルにより、乗客の落下スピードが緩やかになっていく。以前、前島さんがとっさに助けた女の子と同じ方法だ。ただ、今回の乗客は、落ちたショックで気を失ったようだ。地面にゆっくりと降りても、ぐったりと横たわったままだ。でもまあ、助けることはできた。
「…ふう」
「それじゃあ、今度は転移をお願いできるかな?」
「ああ…あ、そうか! アイスフィールドで転移すると、1回でMPがほとんどなくなるんだっけ。パッシブスキルが発動しなかったところだっんだ」
「そういうこと。MPポーションもあるけど、飲んでるヒマはなさそうだったし」
そういう意味では、私も緊急クエストに必要な人材だったわけだ。でも、それならなぜ私にはクエストのメッセージが届かなかったんだろ?
ところで、助けた人を転移させたら、さっさとログアウトするべきだよね。長いこと留まるとやはり面倒だ。まあ、当初の目的は果たしたし、撤退するにはちょうどいい時間だ。
「ふわあああ…眠くなっちゃった」
ユーマ…前島さんも限界みたいだし。
◇
『フォークロア・コーポレーション』本社にて、ユリシーズさんと定例ミーティング。
「おそらく、霧雨さんの素性が疑われないようにするためでしょう。3人は既に緊急クエストを経験していましたが、『コナミ・サキ』はそうではありませんでしたから」
「ああ、そういうこと…。でも、そうすると、レナードくんとランスくんも『アバター同期率』が?」
「ええ、平均をはるかに越えています。彼らの魔法スキル発動を想定した上で、『NPC制御システム』は作戦を立案したのでしょう」
え? NPC制御システム?
「NPCって、あの『ノン・プレイヤー・キャラクター』のことですか?」
「ああ、そういえばお話していませんでしたね。『緊急クエスト』は、各国当局からの要請をNPC制御システムが受けて、作戦案として生成したものなんです」
「VRゲームのシステムを、リアルの問題解決にも使ってたんですか?」
「膨大なNPCを効果的に配置してゲームを進行させるシステムなのですが、過去の実績から、現実世界の緊急案件の分析も担うようになったんです」
それは…すごいな。でも、過去の実績?
「最初は、イベント会場で起きた事故で、遠隔制御装置まで壊れてしまった安全装置の代わりに接続したのがきっかけでした。あまりの手際の良さに、それからも関係当局から分析を依頼されるようになって、現在に至ります」
はー、なるほど。いくら『フォークロア・コーポレーション』がVR業界大手といっても、政府や行政機関とあれやこれやとつながっているのは変だと思っていたんだけど。
「本当は、専用システムとして構築し直した方がいいのですが、『ファラウェイ・ワールド・オンライン』でのユーザ達との関わりも、作戦立案に不可欠な基礎データとなっているようなのです」
「あー、私が最初に対応した緊急クエストがその典型ですね。でも、あの時は『現界』能力が発動したばかりだったし…」
「そうなんですよ。一体、誰なのでしょうね。霧雨さんに『現界』能力を付与し、NPC制御システムにも組み込むようなことをしたのは」
あのワールドアナウンスの言葉や、天空城の『ファースト』を始めとしたNPCの自発的な発言などを思うと…。
「NPC制御システムが『現界』能力を生み出した…と考えるのは、突拍子もないですね」
「曲がりなりにも、このシステムを作り出したのは我々です。そんな仕組みが存在しないことは承知しています。もちろん、何らかの偶然で発現したと考えられなくもありませんが、それこそ…」
「神のみぞ知る、ですか」
「ええ」
この時の私が、『緊急クエスト』生成のきっかけとなった最初の事故の詳細を聞かなかったのは、幸運だったのかもしれない。それに気づいたのは、ずっと後のことだったのだが―――




