第13話 観光
ふおんっ
「ここは…路地裏?」
「人が少ない郊外にしようと思ったんだけど、移動が大変そうだったから」
「見られて…ないよな」
「ああ、大丈夫そうだ」
みんなで路地裏を出て、街に繰り出す。
「おおお、すげー!」
「マジかよ、言われた通りだ!」
「「通行人の言葉が全部わかる! 看板の文字も読める!」」
「あ、ホントだ」
うんうん、これほんっと便利だよねえ。美しい街並を差し置いてどうかとは思うけど。でも、気分は言語チートを携えた異世界転移。
「ああいや、もちろん、街並もいいなあ。あれ、おなじみのファーストフードの看板が」
「一応、街の色彩に合わせた改変はされているけど、あのマークはやっぱり目立つな」
「俺たちの町では考える必要がないかもだけど、ゲーム全体の広告が入ることもあるよな」
「中央広場のパブリックビューイングも、攻略・討伐中継を映して盛り上げるために運営が設置しているしな。なんかカムフラージュ考えた方がいいかね」
「ギルマスに相談か」
予定の視察も真面目にやってるね。
「コナミはどう思う? 今、ふたりが言っていたこと」
「え? うーん、ケースバイケースかなあ。居心地をよくしても、ユーザが不便と感じたら本末転倒だろうし」
「コナミ個人としてはどうなの?」
「あー、私は多少不便でも、街並がキレイな方がいいかな。生産スキルを充実させてると、結構自分でできちゃうから」
ジンジャーエールも、自分で飲みたかったから作りまくってバーに卸している。だからね、マスター、私はいくらでも飲んでいいんじゃない?
「と、いうことだそうだよ」
「おっけー、街並優先な」
「屋台も最低限にして、オープンテラスのレストランがいいかな」
「え? ヘラルドに相談するんじゃないの?」
「「ヘラルドはお姉さんの好みを優先するから」」
「うぇ!?」
「まあ、彼ならそうだよね」
え、や、そ、そんな…そうなの?
「天空城だって、お姉さんのために必死で戦闘メイド達と戦ってたもんな」
「これでギルドホームが充実して、頻繁にお姉さんを呼べるってな。一国一城の主だもんな」
「実際、頻繁に来てくれるようになって良かったよ。一時期、メイドさんのことでどうなるかと思ったけど」
…今の私、鏡を見れないかも。
どうしよう、すっごくうれしい…。
「まあ、それでもボクはあきらめてないけどね。こうなったら、ヘラルドくん共々…」
「ユーマさん、ギルメンの目が届かないからって発言が過激デスね」
「気持ちはわかるけど。最初は、アバターも中身も女性率が高いギルドと知り合えたって喜んだものだが…」
「今じゃあ、変なのに巻き込まれないよう必死に逃げるだけでせいいっぱいというか。なんだかなあ」
あれ、話がなんか変な方向に。
◇
きいっ
「いらっしゃいませ。4名ですか?」
「はい」
「では、こちらへ。メニューです」
「ありがとうございます」
とりあえず、手近なレストランに入ってみた。オープンテラスではないけど、道の方に向かった壁が一面窓ガラスで、開放的で明るいところだ。
「店員さん、そっけないな」
「そうか? あんなものだと思うけど」
「まあ、店によるか」
「そっかな。メニュー決めるか」
ぴらっ
「…あまりバラエティはないな」
「これも店に寄るのか、それとも土地柄か…」
「他のところにも行ってみるしかないな」
「あ、ジンジャーエールがある! 私はとりあえずこれかな」
ジンジャーエールにもいろいろあるからね。ここの出来を見極めるよ!
「飲み物だけでもいいみたいだね。ボクはコーヒーで」
「あ、俺は紅茶で。レナード、お前は?」
「俺も紅茶だなあ。コーラがないし」
「紅茶は、拓也…ヘラルドの影響?」
「ですね。あいつ、家でも?」
「まあね。ブランドにこだわっているとかではないんだけど」
「決まったね。すみませーん」
すたすた
「御注文ですか?」
「ええ。ジンジャーエールにコーヒー、それと、紅茶ふたつ」
「はい。他には?」
「とりあえず、それだけで」
「かしこまりましな」
たったったっ
「でも、本当に飲むだけになりそうだね。向こうはもう夜中だし」
「ユーマは…前島さんは、相変わらず夜が苦手?」
「まあね。睡眠不足は辛いよ」
「あ、そっか、時差か」
「こっちに来た時は、既に夜ゴハン食ってだいぶ後だもんな」
「ボクの家は昔から、文字通りの晩御飯を食べてしばらくしたら寝てしまうのが普通なんだ。世間的に珍しいのはわかっているけどね」
「市内でも有名な爽やかイケメンか。これでなぜモテないのか…ああいや、人気はあるのか」
「そうだな。モテ要素が別の人に流れ出ているだけだし」
また話があさっての彼方に…。
「お待たせしました。伝票はこちらです」
「あ、お会計、今ここでできますか? 現金しかなくて」
「かまいませんよ。…はい、確かに。ありがとうございました」
かちゃかちゃ
「現金、ひさしぶりに見たな…。しかも、外国のコインっていう」
「お店側がお釣りが出せないことが多いけどね。でも、オンライン支払いはまずいでしょ?」
「こっちの決済端末がどんな反応するか興味あるけど、変な通信記録が残るかもしれないしね」
「『現界』そのものを見られるよりも、不正支払いを疑われる方が面倒っていうのは皮肉かな」
というわけで、アイテムボックスにはこの国の硬貨をたくさん入れてきたわけてある。日本円で100円相当と300円相当のを何十枚か。あ、ちゃんと運営経由で手に入れた本物だよ? ゲーム内で偽造して『現界』させたわけじゃないよ!
◇
飲む物を飲んで店を出た私達は、再度街をぶらつく。見て回るのはあと1時間くらいかなあ。
「あ、歴史博物館があるね。小さくてすぐ回れるだろうから、入ってみようか」
「でもあそこ、お金は取らないみたいけど、IDチェックはしてるぞ」
「ID…身分証か。どうする? コナミさんが言ってた通りになったけど」
「ああ、ちゃんと用意してあるよ」
ぶんっ
「え、『ファラウェイ・ワールド・オンライン』の会員証? こんなんでいいの?」
「隣の国に『フォークロア・コーポレーション』の拠点があってね。個人認証システムにも対応しているICカード型なのよ」
「ああ、キーフレーズでログイン認証しなくてもいいってことだね」
「いやだからユーマ…前島さん、アレは要らないんだって」
「なんのことっすか?」
「なんでもないよー」
ふたりは本社に直接行ったことないしね。今思ったんだけど、本社受付でログイン認証時のキーフレーズ『受諾せよ、遥かなる世界への旅路を』を言ってもらおうとか言い出したの、リナちゃんかも。彼女もノリノリな性格だし。
「とにかく、街中で必要な本人確認はこれで大丈夫。観光でこの国に立ち寄っただけって言えばいいかな。本当のことだし」
「しかし、生年月日と顔写真はリアルと同じだけど、氏名はアバター名か…」
「ボクなんて、顔写真もアバターのだよ」
「ま、まあ、運営がうまくやってくれたってことで」
運営会社が関係当局との連携で保証しているとはいえ、公式に偽造したIDと言えなくもない。公式な偽造? まあ、そこは深くは考えないことにしよう。ある意味、バレても問題ないし。
その後、問題なく博物館に入れた私達は、この国に残っていた遺物やら何やらを見ることができた。
「ああ、それっぽい町の歴史をでっち上げるのもいいかもしれないな」
「クエストにもあるもんな。何千年も昔に封印された古代遺物とか」
「ていうか、俺達ユーザで独自のクエストを作れないか? 領地限定でいろいろ仕掛ければユーザも集まるぜ!」
「面白いな、それ! 運営にかけ合うか?」
「いや、生産職ユーザに頼んで遺物アイテムを作ってもらったり、狩った魔物を魔石に封印してラスボスにしたりとかすれば、ユーザだけでもいけるぜ!」
「でも、そこまでの生産スキル持ってるのって…」
ちらっ
「ええと、時間があって、それなりのポイントを頂ければ…」
「よっしゃ!」
「コナミさんを巻き込めるなら、ヘラルドも喜ぶな!」
えええ…。ああいやその、嫌じゃないけどね?
それにしても、ふたりともヘラルド…拓也のこと、好きだよね。拓也が喜ぶことを積極的にやってるって感じで。わ、私が絡んでいるし、あ、あやしい関係ではないと思うけど…。
「コナミ…彼らに興味があるの?」
「うえ!? な、なんのことかな?」
「なんというかね、ウチのあの三人に通じるものを感じたというか…気のせいかな」
えっ、あの三人娘と同類!? いーやー。




